ロウニンアジは大きいものでは180cmにもなる貪欲な肉食魚で、飛んでいる鳥をもジャンプして捕えることが知られています。また、自分よりも大きな生物にも体当たりすることがあり、この魚による事故も発生しています。
この記事はロウニンアジの生態や人間に対する危険性などについて説明しています。
ロウニンアジとは

ロウニンアジはスズキ目アジ科ギンガメアジ属に属する海水魚の一種です。
和名は単独行動する大型個体を浪人武士に見立てたという説や、エラに線の入っている様子を切り傷跡のある浪人に見立てたという説があります。
スクーバダイビングや釣りの愛好家は英名でジャイアント・トレヴァリーと読んだりしますが、トレヴァリーとはギンガメアジ属の魚のことです。さらにこれの頭文字をとってGTと呼ぶことがあります。
ほかに地方名としてメッキ、ヒラアジ、エバなどがあります。
ロウニンアジの特徴

ロウニンアジはギンガメアジ属のなかで最も大きくなり、成魚は最大全長180cm、体重80kg以上に達します。また、1980年1月14日にハワイにて86.6kgの個体が捕獲された記録があります。
ロウニンアジの体は左右から押しつぶしたように平たく、体高が高くなります。また、小さい目と大きい顎を持つなど、アジというよりマダイなどに似た顔つきです。
この魚の口には強力な歯が並んでいます。
ロウニンアジの目には縞模様の部分があり、ここは光受容体細胞の密度が他の部分よりも著しく高くなっています。これにより、彼らの目にはパノラマのように周囲が写っており、目を常に動かさなくても獲物や捕食者を発見することが出来ます。
ロウニンアジの分布域
ロウニンアジはベンガル湾、インド洋、太平洋の熱帯および亜熱帯海域全体に広く分布しており、その生息域は3つの大陸の海岸沿いと数百の小さな島々や本島に広がっています。
日本では茨城県から九州の太平洋側、瀬戸内海、小笠原諸島、屋久島、琉球列島、南大東島に分布します。南九州、四国、太平洋側では成魚がよく獲れています。
ロウニンアジは沖合および沿岸の非常に広範囲の海洋に生息しており、河口にも耐えることで知られています。また、濁った水域から透明度の高い水域の両方に生息しますが、ほとんどの場合は濁った水域を好みます。若い魚は明らかにこのような濁った河口を積極的に探し、河口がない場合は濁った沿岸水域に棲み着きます。
これらの若い魚は成長するにつれて、最終的には沿岸のサンゴ礁、岩礁、ラグーンで生活を始めます。
ロウニンアジの生態

ロウニンアジの幼魚は通常群れを作りますが、性的に成熟すると単独で行動するようになり、繁殖目的でのみ群れを成し、エサを獲る時に群れることはほとんどありません。
彼らは生息するサンゴ礁において最も重要な頂点捕食者のひとつです。ハワイ諸島北西部の比較的手つかずの海域での観察では、ここに棲む頂点捕食者の71%がロウニンアジで、彼らがこの地域において支配的な頂点捕食者であることが示されました。
この種の食性はいくつかの国と生息地、年齢によってわずかに異なりますが、主にほかの魚を捕食し、残りのエサにはさまざまな甲殻類、頭足類、時には軟体動物が含まれます。
危険なハサミを持つロブスターは隙を見て素早く捕食しますが、より大胆で、大型の個体の中にははさみを振り上げて防御姿勢を取っているロブスターでさえ気にせずに頭から食べることもあります。さらに大型のロウニンアジの胃の内容物からは子どものウミガメやイルカが発見されたと報告されています。
また、BBCのドキュメンタリー「ブループラネット」でも、鳥を捕らえる姿が撮影されています。ここでは、ロウニンアジは水面に浮かんでいる鳥を一口で食べるだけでなく、空を飛んでいる鳥までアクロバティックにジャンプして捕まえたりもしています。
この種は、特に小さいときはサメの餌食になりますが、逆に大人のロウニンアジはサメに繰り返し体当たりして攻撃することが記録されています。
そして、まれに人間に対してこれと同じような行動をすることが記録されています。あるハワイの漁師はロウニンアジに体当たりされ、肋骨を骨折する怪我を負っています。
ロウニンアジの繁殖
ロウニンアジは体長54~61cm、年齢3~4歳で成熟に達します。彼らはほとんどの場所で暖かい季節に産卵しますが正確な時期は生息域によって異なり、アフリカ南部では7月から3月がピークとなります。また、フィリピンでは12月から1月にかけて発生します。
ロウニンアジは産卵のために集合する目的で、大規模な季節移動を行い、ハワイやソロモン諸島では特定の場所で百匹を超える非常に大きな群れが形成されます。産卵場所には珊瑚礁沿岸などが選ばれます。
人とのかかわり

ロウニンアジは先史時代から人間によって利用されており、最も古い記録としては、ハワイ人がこの魚を捕獲したという記録があります。ハワイでは古代からロウニンアジを立派な男性に例えた為、女性がこの魚を食べることは禁止されていました。
また、宗教儀式でもよく使用され、生贄が見つからない場合には、その代わりにロウニンアジが使われました。さらに、文化的に神とされていました。
ロウニンアジの消費

これまでロウニンアジははるかに多くの数が漁獲されており、1900年代初頭以来、重要な食料量となってきました。その生息域全体にわたって、現代の漁業にとって非常に重要です。
体重4から5kg程度の個体は美味され、刺身、唐揚げ、焼き魚などで食べられます。新鮮なロウニンアジを刺身で食べると、口の中の食感はねっとりとした甘みを感じる味わいです。
ロウニンアジは通年、比較的に脂の乗っている魚で、特に秋から冬にかけての旬の時期は脂の乗りが良いと言われています。
ただし、大型個体は生息地域によってシガテラ毒を持つこともあって、食糧にされず、ほとんどリリースされます。
そのため、ロウニンアジを食用に流通する場合、30cm以上の個体は販売中止の指導もなされています。
ロウニンアジの大型個体はスクーバダイビングの鑑賞対象とされたり、優れた強さスピード持久力を備えている為、インド太平洋地域で最高のゲームフィッシュのひとつとされています。この魚は50kg以上の個体が釣り上げられることも珍しくありません。日本でも体重50kgを超える大物を求め、南西諸島や小笠原諸島など熱帯の島嶼部に遠征する人がいます。
但し、ロウニンアジは乱獲により今世紀に入ってから水揚げ量が84%以上減少しています。このため、ハワイでは商業的摂取の禁止が提案されています。また、一部のレクリエーション漁業団体も、ロウニンアジのキャッチアンドリリースを推進しています。
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