人気急上昇の日本の柚子がアメリカで禁止されている理由

植物

日本ではユズは毎年およそ2万7000トンも生産されており、各地で広く栽培されている身近な柑橘です。一方でアメリカでは近年、その独特な香りと風味からユズの人気が高まり、レストランを中心に需要が増え続けています。しかし、これほど日本で多く生産され、アメリカで求められているにもかかわらず、生のユズは輸出されていません。いったいなぜこのような状況が生まれているのでしょうか。

  • 日本では年間2万7000トンものユズが生産され、アメリカでも需要が高まっているにもかかわらず、柑橘病害虫の侵入を防ぐためのアメリカ農務省の規制により、日本からの生ユズの輸出は禁止されている。
  • アメリカ国内でもカリフォルニアを中心にユズ栽培が始まっているが、棘による管理の難しさや成長の遅さ、気候条件への適応など課題が多く、商業生産はまだ初期段階で需要に追いついていない。
  • アメリカへの輸出が閉ざされている一方、欧州ではフランスを皮切りに日本産ユズの輸出が25カ国以上に拡大しており、「Kochi Yuzu」などのブランドが世界市場での存在感を高めている。

ユズとは

ユズはミカン科ミカン属に属する常緑小高木で、高さは4メートルほどに成長し、樹勢が強く直立した大木になります。葉のわきには鋭い棘があるのが特徴です。花期は初夏の5〜6月ごろで、葉のわきに直径1〜2センチメートルほどの白い5枚花びらの花を咲かせます。果実は9〜12月にかけて実り、秋には直径4〜8センチメートル、重さ約110グラムほどになります。表面はでこぼことした独特の果皮に覆われており、種が比較的多くできます。

ユズはミカン属の中でも特に耐寒性が高く、寒さに強いのが大きな特徴です。年間平均気温が12〜15度ほどの涼しい地域を好み、そのような環境で質の良い果実が育ちます。

ユズの原産は中国・長江の上流域といわれています。約1300年前の奈良時代までに朝鮮半島を経て日本に伝わり、西日本で薬用として栽培されてきました。近年では原産国の中国や韓国、オーストラリア、スペイン、イタリア、フランスでも栽培が進んでいますが、日本のユズは昼夜の寒暖差が大きい内陸の山間部に産地が集中していることから、海外産に比べて香りが高いのが特長です。

ユズは一年を通して流通していますが、出荷量は11月から年明け1月に集中します。夏から秋にかけて出回る皮が緑色のままのものを「青ゆず」、秋から出回る皮が黄色くなったものを「黄ゆず」と呼びます。果汁は青ゆずより黄ゆずのほうが豊富です。収穫したゆずは、冬場は常温でも数日間保存できます。


日本のユズ生産の現状

日本のユズ生産量は年間およそ2万7000トンとされています。産地別に見ると、日本最大の生産地は高知県であり、国内シェア約52%を誇り、ユズ全体の約半数以上を占めるとされています。高知県は1960年代初めごろから国内での需要に応じて生産を拡大してきました。2016年当時の栽培面積は860ヘクタールで、サッカーコート約1200個分の広さになります。2位は徳島県で13%、3位が愛媛県で11%と続きます。東北地方でも、岩手県陸前高田市や大船渡市で生産が盛んです。

見た目や品質が特に優れたユズは、贈答用として1個300円以上で取引されることもあります。しかしその一方で、傷があったり形が不揃いだったりする規格外のユズは評価が大きく下がり、加工用として数十円程度まで安くなることもあります。

このような価格差が生まれる背景には、日本の果物市場における強い「外観重視」の文化があります。日本では果物は味だけでなく、形の均一さや表面の美しさも重要な品質基準とされており、わずかな傷や変形であっても生果としての出荷基準を満たさない場合があります。そのため、本来であれば食用として問題のない果実であっても、見た目の基準によって市場価値が大きく下がってしまいます。

また、生産現場は深刻な構造課題を抱えています。ユズ栽培は中山間地域に多く、急斜面での作業が中心となるため機械化が難しく、収穫や選別の多くが手作業に依存しています。農家の高齢化が進んでおり、収穫できない果実が増えるなど、労働力不足が生産維持の大きな課題となっています。この結果として、日本ではユズが一定量生産されているにもかかわらず、そのすべてを効率的に活用できているわけではありません。加工需要は安定している一方で、生果としての流通量は限られ、産地内でも収穫できるが出荷できない果実が発生する構造が存在しています。


アメリカでのユズ人気

一方、アメリカでは近年、ユズの人気が着実に高まっています。実際にアメリカのレストランメニューではユズの使用が増加しており、2016年から2021年の間に約30%程度の伸びが見られるとされています。

プロのシェフたちが生柚子を求め続ける理由はいくつかあります。ユズの魅力の核心は、その唯一無二の風味です。柑橘類の仲間でありながら、グレープフルーツやオレンジ、ライムの要素に独特の花のような草のような風味が加わった複雑な味わいを持ち、これは他のどの柑橘類も真似できません。この独特の個性により、シェフはごく少量の果実で料理を引き立てることができ、より一般的な柑橘類では到底再現できないフレーバーのアクセントを加えられます。

風味だけでなく、ユズはキッチンでの汎用性も際立っています。皮・果汁・種のすべてに料理への活用方法があります。強く芳香を放つ皮には強力な精油が含まれており、ほんの少量で料理に香りを移すことができます。果汁はオレンジより酸っぱいがレモンほど酸度が高くなく、他の風味を圧倒することなく料理に爽やかさを与えます。種と白い部分さえも、苦みを加えたり一部の調理でとろみをつけたりと、伝統的な日本料理に活用されます。

多くのシェフはまた、日本料理にインスパイアされた料理を作る際のユズの文化的な本物らしさも評価しています。本格的な和食が世界的に認知される中、本物の食材へのアクセスは、料理の本物志向を大切にするシェフにとってますます重要になっています。

さらに、ポン酢などのアジア料理に限らず、非伝統的なメニューにも応用されるようになり、その用途は広がり続けています。例えば、カクテルや紅茶などの飲料だけでなく、デザートやソース、マリネなど幅広い料理に取り入れられています。

こうした流れの中で、フランス発のフレーバー企業モナンはユズを2025年のフレーバー・オブ・ザ・イヤーに選定しました。モナンはユズが持つ多用途性や鮮やかな風味、そして視覚的な魅力に注目し、今後さらに需要が高まると予測しています。同社はまた、ユズを「レモンやライムの代替となるプレミアムな柑橘」と位置づけ、カクテルやティー、料理全般において新しい表現を可能にする素材として評価しています。

さらに消費者の嗜好としても、SNSの影響やグローバル化の進展により、ユニークで写真映えするフレーバーへの関心が高まっています。ユズはその香りと鮮やかな見た目の特徴から、こうしたニーズに合致しており、エキゾチックな果物としての存在感を強めています。

アメリカにおけるユズの人気は単なる一時的なブームではなく、アジア料理の普及や消費者の嗜好変化、そして業界によるトレンド予測が重なった結果として拡大しており、今後もさらに多様な分野での利用が進むと考えられています。

このように、アメリカ料理の中でユズの人気は高まり続けていますが、生のユズは依然として最も高価な柑橘類のひとつとされています。その希少性と需要の増加から価格は上昇しており、1ポンドあたりおよそ14〜23ドル程度で取引されることもあります。ユズ1個の重さが約100〜150グラムであることを考えると、1個あたり約3〜8ドル(約450〜1,200円)となり、その価格はプロのシェフでさえ使用をためらうほど高い水準になっています。


輸出できない理由

日本側では供給がありながらも国内加工需要が中心となっている一方で、アメリカ側では強い需要が存在するという需給のズレが生じています。では、なぜ日本からアメリカへ生のユズが輸出されないのでしょうか。

その理由は、アメリカの厳格な農業規制にあります。アメリカ農務省は、日本・韓国をはじめとするアジア諸国からの生柑橘類の輸入を禁止しています。この措置は、特にカリフォルニアとフロリダの国内柑橘産業に壊滅的な打撃を与えかねない柑橘病害虫の持ち込みを防ぐために設けられています。

アメリカの柑橘産業では、カンキツグリーニング病が2005年に初めて検出されました。この病気は柑橘の木に感染して果実を劣化させ、ゆっくりと木を枯死させます。2005年以降、カンキツグリーニング病はフロリダ全土に広がり、多くの木が枯れ、農園は壊滅的な被害を受けました。その結果、柑橘の生産量は約75%も減少し、生産コストは2倍以上に跳ね上がりました。現在もルイジアナ州、テキサス州、カリフォルニア州へと西へ拡大し続けています。

カンキツグリーニング病は、病原菌を持った小さな虫であるキジラミが木の汁を吸うことで広がる病気です。キジラミは吸汁しながら病気を伝染させ、一度感染が確立されると、その木に回復の見込みはありません。こうした壊滅的な被害の経験から、アメリカは生鮮柑橘類の輸入規制を特に厳格に運用しているのです。

この輸入制限が大きな供給不足を引き起こしています。果汁やゆずこしょうなどの加工品は合法的に輸入できます。これは、加工によって生の果実が持つ病原体や害虫のリスクが除去されるためであり、その結果、加工品のみが例外として認められています。一方で、生の果実はアジアの産地からアメリカの国境を越えることができません。


アメリカでのユズ生産

つまりアメリカで手に入る生柚子はすべて国内産でなければならないのですが、国内生産はまだ非常に限られています。カリフォルニアの農家が柚子の栽培を始めていますが、商業生産はまだ初期段階にあります。

ユズの枝には非常に鋭い棘があり、風などで実が傷つきやすく、管理が難しいとされており、多くの商業用柑橘品種に比べて収量が少なくなります。東海岸はユズ栽培に適した気候ではないため、温室での栽培が中心となるなど、特定の気候条件への適応性や特定の病気への罹患しやすさも大規模生産をさらに困難にしており、棘の多い木の性質上、収穫作業は機械化できず労働集約的にならざるを得ません。また、ユズは成長が遅いことで知られ、種から育てる実生栽培では実をつけるまで15〜20年の年月がかかります。アメリカの農家は、気難しい柑橘類の栽培技術をまだ十分に確立できていません。

限られた国内供給は、レストランや消費者の高まる需要に応えられず、高値という典型的な経済状況を生み出しています。


風味の比較

興味深いことに、ユズの風味は産地によって大きく異なる場合があります。最高品質とされる日本産は芳香の複雑さと酸度のバランスが絶妙です。高知県など日本の伝統的な産地の気候と土壌条件は、特に強い芳香を持つ果実を生み出します。

アメリカ産のユズも印象的ですが、風味に微妙な違いが出ることがあり、日本産と比べてやや芳香が弱く、酸度が高いと指摘するシェフもいます。しかしアメリカの農家が経験を積み、最適な微気候での栽培を選択するにつれ、これらの差は小さくなりつつあります。


欧州で販路を広げる日本産ユズ

アメリカへの生ユズ輸出が規制されている一方、欧州連合などの市場は厳しい条件のもとで日本からの生ユズの輸入を認めており、日本産ユズの販路拡大が進んでいます。ユズはフレンチのソースやドレッシング、マカロン、デザートなどに使用されるなど、欧州を中心に生果実および加工品の両面で販路を広げています。

かつて日本一のゆず産地であった高知県北川村が新たな販売ターゲットとして目をつけたのは、食文化の発信地フランスでした。2011年にフランスで「高知県産ゆず賞味会」を開催し、地元シェフらから高い評価を得ると、翌年秋にはフランスで開かれた食品見本市に生ゆずを出品しています。わずか3トンの生ゆずに約20カ国から引き合いがあり、その年は村の生産量の3割を海外に輸出するまでになりました。数年後には、輸出先をシンガポールなど25カ国以上に拡大しています。2013年からは高知県大豊町も欧州輸出に乗り出し、県を挙げて「Kochi Yuzu」ブランドを世界で広めようと、輸出拡大に力を入れています。あるドイツの寿司レストランは、日本産ユズ12個入り1ケースを1個7ユーロで購入したと報告しており、高い価格水準ながらも需要が成立しています。

また、シェア2位の徳島県も、那賀町や上勝町、三好市を中心に欧州・オーストラリアへの生ユズ輸出をしています。那賀町木頭の「木頭ゆず」は、地域の農林水産物などの名称を知的財産として保護する地理的表示保護制度(GI制度)にも登録されているブランドゆずで、フランスの食品卸からも絶賛されるなど、品質の高さが評価されています。また、同地のメーカーは多様なゆず加工品の製造にも取り組んでおり、ポン酢や缶チューハイ、ゼリー、鯖缶などの新商品を開発しました。日本国内外での知名度の向上に力を入れています。


ユズの文化的意義と今後

ゆずは古くは薬として使われるほど、風邪予防に効果があるといわれてきました。柑橘類の中でも皮のビタミンC含有率が高く、可食部100グラムあたりのビタミンCは、果汁内40ミリグラムに対し、皮には150ミリグラムも含まれています。ペクチンをはじめとする食物繊維も豊富で、可食部100グラムあたり皮に6900ミリグラム、果汁に400ミリグラムが含まれ、胃腸を正常化させるほか、コレステロールや血糖値を抑える作用があります。ほかにも、クエン酸やアロマオイルに使われる香り成分が含まれています。酸性度が低く保存性が良いことも特長で、果汁は非加熱であれば冷蔵保存が必要ですが、加熱殺菌すれば常温で長期保存することができます。

冬至の風物詩になっているゆず湯は、銭湯ができた江戸時代に始まったといわれています。ゆずの成分がお湯に溶け出し、血行を促進することから、冬至にゆず湯に入ると風邪を引かないといわれてきました。ゆずは、ガーゼの袋に入れて適度にもんだ後、湯船に浮かべます。肌の保湿やリラクゼーション効果もあるとされています。

このような日本に根付いた文化的意義はまだアメリカには浸透していませんが、世界的なユズへの関心は着実に高まっています。将来的には西海岸のシェフにもより新鮮なユズを届けることが期待されており、日本以外でのユズの普及にはまだ時間がかかるものの、それは時間の問題のようです。

このような豊かな文化的背景を持つユズですが、日本の生産現場から見れば、アメリカ市場の状況は非常にもったいない状況です。今後、規制の見直しや新たな輸出の仕組みが進めば、日本のユズがアメリカでさらに活躍する日が来るかもしれません。


参考:

https://arida.tn/why-fresh-yuzu-is-so-expensive-in-the-us-so-expensive#:~:text=Despite%20this%20growing%20popularity%2C%20the%20U.S.%20currently%20does,disease%2C%20which%20has%20devastated%20the%20U.S.%20citrus%20industry

https://www.kudamononavi.com/graph/category/ca=11/ku=100

https://www.jetro.go.jp/agriportal/pickup/yuzu.html

https://www.foodbusinessnews.net/articles/27481-monin-names-yuzu-as-2025-flavor-of-the-year

https://www.kudamononavi.com/graph/category/ca=11/ku=100

https://www.jetro.go.jp/agriportal/pickup/yuzu.html

https://www.foodbusinessnews.net/articles/27481-monin-names-yuzu-as-2025-flavor-of-the-year

https://www.gardenista.com/products/yuzu-1-pound/

https://gemtaste.com/food/fresh-yuzu-citrus-so-expensive/

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