日本ではヨモギは春の味覚として古くから親しまれており、草餅や和え物などに使われる身近な食材です。一方で北米では、ヨモギの仲間は外来種として広く定着し、各地で繁殖しているにもかかわらず、ほとんど食用として利用されていません。同じ植物でありながら、なぜこれほど扱いに違いがあるのでしょうか。そこで今回は、日本と北米におけるヨモギの利用状況の違いに注目し、その背景にある理由について解説していきます。
この記事のポイント
- 北米に広く定着しているヨモギは、日本人移民が持ち込んだ可能性が高く、在来植物の多様性を脅かす外来種として管理の対象となっている
- 北米でヨモギが食用利用されない主な理由は、食文化の違いと安定した流通・栽培基盤の欠如にある
- 日本では「ネクスト抹茶」として2026年現在ヨモギが注目を集めているが、野生品を大量採取・流通させる仕組みの普及はすぐには難しい
ヨモギとは

ヨモギはキク科、ヨモギ属の多年草です。春になると茎が伸びて草丈は50から150センチメートルほどになり、茎は紫色を帯びて白色の短い毛が密生します。葉は互い違いにつき、羽状に深く裂けていて、葉裏にも短い毛が密生しています。
9月から10月に開花し、直径約1.5mmのとても小さな花が、枝先にたくさん集まってつきます。虫ではなく風で花粉を運ぶ風媒花で、キク科の植物としては珍しい特徴です。
日本では本州・四国・九州・小笠原に自然分布し、北海道には移入分布しています。山野の草地や道ばたに自生し、繁殖力が強く、空き地・河原・畑など日当たりの良い場所に普通に見られ、地下茎を伸ばして群生することが多いです。
侵入種としてのヨモギ

大航海時代以降、ヨーロッパ人が北米へ進出すると、ヨモギの近縁種であるオウシュウヨモギも海を渡りました。船の重しとして使われた土や農作物・苗木への混入、さらには薬用植物としての持ち込みなどによって北米へ侵入したと考えられており、早ければ16から17世紀には定着が始まっていたとみられています。その後、オウシュウヨモギは地下茎によって急速に分布を拡大しました。わずかな根の断片からでも再生できるため、一度入り込むと完全に取り除くことが難しく、開拓や道路建設、農業による土壌移動とともに広がっています。現在ではアメリカ合衆国のほぼ全域、カナダでは南部の広い地域に定着しています。南はフロリダ州の一部にも点在しています。また、オレゴン州やワシントン州の多くの郡でも大規模な個体群が報告されており、カナダ南部にかけても広く定着しています。
近年、DNA解析などの研究が進んだことで、長年オウシュウヨモギとして扱われてきた北米のヨモギ類の中に、日本原産のヨモギが含まれていたことが判明しました。2026年には、カナダのブリティッシュコロンビア州で広範囲に定着しているヨモギが、従来考えられていたオウシュウヨモギではなく、日本原産のヨモギに近い系統であることが報告されています。研究者たちは、このヨモギは日本から北米へ移住した移民によって持ち込まれた可能性が高いと考えています。ヨモギは日本では食用として利用されるだけでなく、お灸に使うもぐさや民間薬の原料としても親しまれてきたため、故郷でなじみのある植物を生活の中で使う目的で持ち込まれた可能性があります。実際に、日本人移民が多く暮らしていたブリティッシュコロンビア州周辺では古い採集記録が残されており、少なくとも20世紀前半には定着していたとみられています。そして長い年月のなかで野生化し、オウシュウヨモギに紛れて広がっていった結果、その存在は長らく見過ごされていました。
ヨモギは道路脇や空き地、牧草地などの環境で急速に広がり、密な群落を作ることで在来の植物の生育場所や光を奪ってしまうことがあります。その結果、地域の植物の多様性が低下する原因になるとされています。さらに、周囲の植物の成長を抑える物質を出す可能性も指摘されています。加えて、花粉が広範囲に飛散することで、アレルギーの原因となることもあり、人の健康面でも影響があると考えられています。
このようにヨモギは北米で広く増えて問題になっているため、食べて利用すれば数を減らせるのではないかと考えることもできます。しかし実際には、そのような取り組みはほとんど行われていません。
食べられていない理由 ① 文化

ヨモギが北米であまり食べられていない大きな理由のひとつは、文化の違いにあります。
日本ではヨモギは、春を代表する食材として親しまれてきました。早春に摘んだ新芽を塩茹でしてアク抜きしたあと、お浸しや和え物、汁物の具として食べるのが基本的な使い方です。なかでも最もなじみ深いのが草餅や草団子で、細かく刻んでもち米に混ぜ込むことで独特の香りと風味が加わります。そのほかにもよもぎご飯やよもぎうどん、天ぷらなど様々な料理に使われており、シュンギクに似た香味が楽しめる春の味覚として現在も広く親しまれています。
食べるだけでなく、ヨモギは薬草としても長い歴史を持っています。日本薬局方にも生薬「ガイヨウ」として収載されており、葉を日干しにしたガイヨウには体を温めて血行を整え、出血を抑える働きがあるとされ、漢方処方にも配合されています。民間では生の葉を切り傷や腹痛、水虫などに外用・内服する習慣が伝わっているほか、乾燥させた葉からつくるもぐさはお灸の材料として現在も広く使われています。
ヨモギへの親しみは日本だけにとどまりません。韓国では食用・薬用ともに日本と同様に深く生活に根付いています。春の収穫期には若葉をチヂミやキムチ、スープに使うほか、日本の草餅にあたるトックの材料としても広く使われています。近年ではアイスクリームやパン、ケーキ、ラテなど現代的なスイーツや飲み物にも取り入れられており、伝統と現代が融合した形で利用が広がっています。
中国でもヨモギは伝統的な薬草として用いられてきました。このように東アジアでヨモギは食卓にも医療にも欠かせない植物として、それぞれの文化に根ざした形で活用され続けています。
一方、欧米でもオウシュウヨモギは古くからハーブや薬草として利用されてきましたが、その用途は比較的限られていました。日本のヨモギが食用として広く親しまれているのに対し、オウシュウヨモギは苦味が強く、食材として積極的に利用されることはあまりなかったのです。オウシュウヨモギはバジルやローズマリーのような商業用ハーブとして大規模に栽培されているわけではなく、一部のハーブ農園や家庭菜園、園芸用途で扱われる程度にとどまっています。そのため、北米ではヨモギを日常的に食べる文化はほとんど根付いていません。
さらに近年になって、日本原産のヨモギも北米に定着していることが判明しましたが、その存在は長らくオウシュウヨモギに紛れて見過ごされてきました。結果として、日本では食材として親しまれてきたヨモギも、北米では利用する植物ではなく、増えすぎる雑草として扱われるようになっているのです。
食べられていない理由 ② 流通

ヨモギというと、河川敷や空き地に自生する野草を思い浮かべる人も多いかもしれません。しかし、日本で和菓子や加工食品などに使われる商業利用向けのヨモギは、現在では栽培されたものが中心です。これは野生のヨモギだけでは安定した量を確保できないためです。さらに、品質や香りを均一に保つ必要があるほか、異物混入や農薬・重金属などの管理もしやすくなるため、食品原料としては栽培品の方が適しています。
また、野生のヨモギは収穫時期が限られる一方で、栽培であれば計画的な生産が可能になります。ヨモギは食べられる植物であっても、そのへんに生えているものを採って売るだけでは現代の食品産業は成り立ちません。安定した品質と供給量が求められる大量生産・大量消費の社会では、野生のヨモギを採集して流通させるよりも、農作物として計画的に栽培する方がはるかに効率的なのです。
ヨモギブーム

近年、世界的な抹茶ブームによって需要が急増した結果、日本産抹茶の品薄や価格高騰が問題になっています。
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その影響で、業界関係者の間ではヨモギをネクスト抹茶として活用する動きも見られ、2026年には実際にそのような存在として注目されていると報じられています。ヨモギラテやヨモギスイーツを提供する専門店が登場したほか、需要拡大を見込んでヨモギ栽培へ参入する生産者も現れています。ヨモギは抹茶と同じような鮮やかな緑色を持ちながらカフェインを含まず、少量でも色や香りを出しやすいことから、新たな健康志向食品として期待されているのです。
しかし、このような栄養価や健康効果への注目によって、その価値が見直され、新たなブームが起きたとしても、大量生産への不向きさや安全性の問題がある以上、野生のヨモギを大量に採取して利用する仕組みがすぐに広がるとは考えにくいでしょう。
ヨモギの栄養

ヨモギは成分面でも特徴のある植物です。まず、葉にはポリフェノール類が豊富に含まれており、特にフラボノイド系の成分が知られています。これらは体内の酸化ストレスに関与するとされ、抗酸化作用を持つ植物成分として研究されています。日常的な食事の中で摂取することで、細胞の酸化ダメージを抑える働きが期待されています。また、ヨモギ特有の香りのもととなる精油成分にはシネオールなどの成分が含まれ、これが芳香や生理作用に関係しています。これらの成分は古くから「温める」「巡りをよくする」といった民間的な利用につながってきました。さらに食物繊維も含まれており、腸内環境の維持に関与する栄養素として働きます。加えて、クロロフィルも多く含まれ、植物由来の色素成分として知られています。これらは食品としての栄養価に加え、自然由来成分としての機能性にも関係しています。
北米におけるヨモギの現状とまとめ

現在、北米では積極的なヨモギの駆除活動が行われています。駆除の方法は大きく物理的防除と化学的防除に分かれます。物理的な手段としては、種子が成熟する前の初夏から9月上旬にかけて刈り取ることが有効とされています。地下茎が形成される前の春先に若い株を手で抜き取ることも拡大防止に効果的です。また、遮光性の高いマルチ資材で地表を覆って枯らす方法や、むき出しの裸地に草を植えて新たな定着を防ぐ方法も用いられています。
化学的防除としては、晩夏から初秋にかけてグリホサートなどの除草剤を散布する方法が一般的です。
このように、ヨモギは日本では食用や民間利用に親しまれてきた一方、北米では外来植物として定着し、管理の対象となっています。こうした事例は、人間によって運ばれた植物が新たな環境で異なる運命をたどることを示しています。
参考
Will Yomogi, the “Queen of Herbs,” Become the “Next Matcha”? | News On Japan


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