栄養豊富な野菜「シロザ」が日本で雑草扱いされている理由

植物

世界には栄養価が高く、古くから食用として利用されている植物が数多く存在します。しかしその一方で、同じように栄養価が高いにもかかわらず、日本では雑草として扱われ、ほとんど食用として利用されていない植物もあります。その代表的な例のひとつがシロザです。

ではなぜシロザは海外では食材として利用されるのに、日本では雑草として扱われているのでしょうか。今回はその理由について解説していきます。

なお、前半ではシロザの生態や世界における利用状況について詳しく説明します。これは後半の考察を正しく理解するための前提知識として重要であり、誤解を避けるためでもあります。


シロザの基本情報

Hugo.argCC BY-SA 4.0, via Wikimedia CommonsOLYMPUS DIGITAL CAMERA

シロザはヒユ科アカザ属に属する一年草です。一般的には1メートル前後の大きさにとどまりますが、まれに高さ2メートルほどまで成長することもあります。同属にアカザという植物があり、アカザの葉や茎が赤くなるのに対し、シロザは基本的に赤くなりません。

シロザの葉には灰のように見える白い粉が付いており、そのため遠くから見ると少しほこりっぽく見えます。この白い粉のおかげで葉の表面は強い撥水性を持ち、濡れると水が玉になってコロコロと転がり落ちるのが特徴です。葉の表側は淡い緑色、裏側は白みがかっており、縁には細かなギザギザがあります。形はガチョウの足に似ているといわれ、やや菱形で、最大で10cmほどまで成長します。

開花期は6月から8月で、緑色のとても小さな花が穂状にぎっしりと並んで咲きます。種子は丸みのあるやや扁平な形をしており、大きさは1〜1.5mmほどです。

シロザは小川・川のほとりや林内のひらけた場所、庭先、畑、荒地、そして土壌が乱れた環境などに普通に見られる雑草です。日当たりの良い場所を好み、非常に丈夫でさまざまな環境に適応して繁茂します。


原産地と外来種としての歴史

Enrico BlasuttoCC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

シロザの原産地は、古くから人間の生活圏で広く利用・拡散されてきたため、はっきりと特定することが難しいとされています。歴史的にはヨーロッパの大部分が原産域の中心と考えられており、この地域の標本に基づいて18世紀に記載されています。一方で、東アジアに見られる系統も同種に含まれますが、ヨーロッパ産とは形態的な違いが指摘されることがあります。

また、最近の考古学的研究により、16世紀にアメリカのブラックフット族がその種子を保存し使用していたことが示され、北米にも近縁種や在来型があった可能性があります。

その後、農耕や人為的な移動に伴って世界各地へと広がり、現在では極めて広い分布域を持つようになりました。現在、アフリカ、アメリカ、オセアニアなどに広く帰化しており、南極を除くほぼ全世界で見られます。特に、人間活動によって撹乱された土地や窒素分の多い土壌を好むため、荒地や畑地、道端などに普通に生育します。


強い繁殖力と農業上の問題

Harry Rose from South West Rocks, AustraliaCC BY 2.0, via Wikimedia Commons

シロザがこれほどまでに増える理由は、いくつかの生態的な特徴が組み合わさっているためです。

まず、種子の生産量が非常に多いことが挙げられます。1株で最大75,000個、1ヘクタールあたり最大5,000万個もの種子を作ることができるため、多少の環境ストレスや除草があっても、生き残る個体が必ず出てきます。

次に、種子の寿命が非常に長い点も重要です。土壌中で30〜40年も生存できるため、一度その土地に入り込むと「土壌シードバンク」として長期間残り続け、何年も後になってから発芽することがあります。

さらに、種子は光が当たると発芽しやすく、浅い場所から出芽します。そのため、耕起や土壌の撹乱によって地表に出てくると、一斉に発芽しやすくなります。荒地や畑で多く見られるのはこのためです。

休眠の仕組みも巧妙で、種皮が酸素を通しにくいため、条件が整うまで発芽を抑え、環境が良くなったときに一気に発芽できます。

加えて、表現型可塑性が高いことも大きな強みです。これは環境に応じて姿や成長の仕方を変えられる性質で、栄養が豊富なら大きく育ち、厳しい環境では小さくても種子を残すなど、状況に合わせて戦略を変えます。

このような特性から、ヨーロッパや北アメリカではジャガイモ畑などで繁茂する典型的な雑草とみなされており、農業上の問題植物とされることが多いです。オーストラリアでも全土に広がっており、一部の地域では在来生態系に影響を与える環境雑草として扱われています。日本でも、大豆畑に発生する代表的な雑草のひとつとして知られています。


世界での食用利用


Rajendra prabhuneCC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

このようにシロザは厄介な雑草として扱われる一方で、古くから食用植物としても広く利用されてきました。考古学的には、ヨーロッパの鉄器時代やローマ時代、ヴァイキング時代の遺跡から種子が見つかっており、人類が古くからこの植物を食料として利用していたことがわかっています。

現在でもアジアやアフリカの一部地域で、野菜や穀物の代替作物として栽培され、家畜の飼料としても利用されています。

シロザの利用できる部位は葉・若芽・花・種子です。若い葉や芽はやわらかく、味はホウレンソウに似ており、サラダ、スープ、炒め物などに使われます。また、スムージーやジュースに加えることも可能です。乾燥や冷凍保存もでき、保存食としての利用も行われています。花芽や花も調理して食べることができます。

なお、種子にはサポニンが含まれるため、過剰摂取は避ける必要があります。サポニンは植物に含まれる成分の一種で、水と混ざると泡立つ性質があります。少量であれば問題ないことが多いですが、大量に摂取すると腹痛や下痢などを起こす可能性があります。

インド(バトゥア)

インドではシロザは「バトゥア」と呼ばれ、特に冬の時期に豊富に見られる身近な野菜として、日常的に食卓にのぼる一般的な食材です。主に葉と若い芽が使われ、スープやカレーに入れたり、小麦粉の生地に練り込んで焼くパラタ(具入りパン)の具材として使われたりします。ヨーグルトと混ぜた「バトゥエ・カライタ」という料理もあり、特にハリヤーナー州で冬によく食べられています。種子もヒマーチャルプラデーシュ州ではおかゆ状の料理に使われるほか、軽くアルコール発酵させた飲料の原料にもなります。

また、伝統医学であるアーユルヴェーダでは、バトゥアはさまざまな病気に有用と考えられてきました。ただし、これらの効能については現代医学的に安全性や有効性が十分に証明されているわけではありません。食用以外の用途もあり、シロザの汁は壁の漆喰混合物に加えることで結合力を高める成分になるとされています。

バングラデシュ(ボトゥア)

バングラデシュでは「ボトゥア」と呼ばれ、畑で栽培もされており、市場で販売される身近な葉野菜です。代表的な食べ方としては、油で他の野菜と一緒に炒める野菜炒めのほか、茹でたシロザをすりつぶして小魚や野菜などと混ぜ合わせる「ボルタ」があります。また、スパイスを使って煮込む野菜カレーや、汁物である「ガティ」、小魚と一緒に煮込んだカレーなどにも使われ、地域の食文化の中に広く定着しています。

ネパール(ベテ)

ネパールではこの植物は「ベテ」と呼ばれ、日常的に利用される食材のひとつです。主に葉や若い部分が食用とされます。代表的な料理は「サーグ」で、葉をスパイスや唐辛子、刻んだニンニクと一緒に炒めて作り、ご飯とともに食べる一般的な家庭料理です。また、特徴的なのが発酵食品「マサウラ」で、シロザの葉をレンズマメの生地に混ぜ、スパイスを加えてから数日間天日干しして作ります。乾燥・発酵させたこの食品は保存性が高く、必要に応じてカレーとして調理され、米と一緒に食べられます。


日本におけるシロザの帰化と利用の変遷

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シロザの日本への帰化については、農耕の広がりと深く関係していると考えられています。この植物は「史前帰化植物」とされており、稲作や畑作などの農耕文化が日本に伝来した際に、人間の活動とともに入り込んだ可能性が高いです。そのため、日本にはかなり古い時代から定着している外来植物と考えられています。現在、シロザは北海道から南西諸島まで広く分布し、畑地、荒地、河原、海岸、人家の付近や空き地などに生育しています。

現在の日本では庭や畑の雑草という認識が一般的であり、どこに生えていても疎まれる存在として扱われ、栽培されることはありません。特に農業の現場では、大豆畑に発生する代表的な雑草のひとつとして知られており、作物の生育を妨げる存在とされています。このように、日本ではシロザが積極的に採取・利用されることはあまり多くありません。

飢饉が多発した江戸時代を中心に、第二次世界大戦期に至るまで救荒植物に関する記述は多数存在します。救荒植物とは米や麦などの主要な食料が不足した際に、代替的な食料として利用された野生植物や雑草のことであり、山野に自生する植物を採取して飢えをしのぐための重要な資源でした。これらは日常的に食べられていたわけではなく、あくまで非常時の食料として位置づけられていました。実際に記録に残っている救荒植物としては、ヨモギ、イタドリ、フキ、オオバコ、スベリヒユ、カラムシなどが挙げられます。さらに地域によっては、トチノミ、ドングリなども加工して食用に利用されていました。シロザと同属のアカザも食用記録があり、葉を茹でて食べたり、乾燥させて保存食とした例が知られています。そのため、アカザよりも味が良いといわれることがあるシロザについても、過去には食用とされていた可能性は十分にあります。しかし、シロザが救荒植物として利用されていたという明確な記述はほとんど見られません。シロザに関する研究は日本では生態に関する報告が中心であり、食用利用や生理機能に関する論文はほとんどないのが現状です。

秋田県は日本の中でも特に山菜利用が盛んな地域として知られており、現在でもゼンマイやセリをはじめ、多くの山菜が日常的に食卓にのぼり、春になると山菜採りが季節の行事として定着しているほど、山菜文化が生活に深く根づいています。しかし、そのように山菜への関心が高い秋田県であっても、シロザが食べられる植物であることはあまり知られていません。

ある調査では、シロザを食べられると認識していた人はわずか17.6%で、多くの人が食用になることを知らず、実際に食べた経験がある人はさらに少ないという結果が示されています。このことから、山菜利用が盛んな地域でさえ、シロザの食文化はほとんど失われており、身近に生えているにもかかわらず食材として認識されていない現状が明らかになっています。


なぜ日本では雑草扱いなのか

かつて日本では身近に生える野草としてシロザが食卓にのぼっていた可能性がありますが、飽食の時代を迎え、流通が発達し、味や扱いやすさの面で優れた栽培野菜が広く普及したことで、野草を食べる必要性は薄れていきました。市場では商品化しやすい野菜が優先され、シロザのように栽培しても利益になりにくい植物は次第に利用されなくなっていきました。

また、シロザは道ばたや畑の周辺に生えるため、雑草として扱われやすく、食べられる植物として認識されにくくなりました。そのため、若い世代では見たことがない、あるいは名前を知らないという人も多いです。救荒植物の多くが飢饉のなくなった現代では語られる機会が少なくなり、その価値が忘れられてしまっているのです。


栄養価と今後の可能性

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このようなシロザは非常に栄養価の高い野草です。生の状態では水分が約84%と多く、残りは主に炭水化物(約7%)、タンパク質(約4%)、脂肪(約1%)で構成されています。100gあたりのエネルギーは約43kcalと低カロリーです。

特に、ビタミンCやビタミンAが非常に多く含まれており、どちらも1日の推奨摂取量に対して高い割合を占めます。ビタミンB群のひとつであるリボフラビン(ビタミンB2)やビタミンB6も比較的多く含まれています。ミネラルではマンガンやカルシウムが豊富で、葉物としてはタンパク質量がやや多めである点も特徴的で、野菜の中では栄養密度が高い部類に入ります。

さらに、シロザは単なる栄養が豊富な野草というだけでなく、最近の研究では、体のさまざまな働きに関わる可能性があることが示されています。たとえば、腸内細菌のバランスや、体のエネルギー代謝に良い影響を与える可能性も研究されています。

特にシロザには、ポリフェノールやフラボノイドといった成分が多く含まれています。これらは植物に含まれる機能性成分で、体の細胞が酸化してダメージを受けるのを防ぐ「抗酸化作用」や体の炎症を抑える「抗炎症作用」があるとされ、さらに生活習慣病のひとつである糖尿病に関係する働きにも関与する可能性が注目されています。

シロザは人間の食用だけでなく、家畜のえさとしても利用できる可能性があります。動物にとっても栄養源となり、成長や健康、免疫機能を高める可能性があると考えられています。このように、シロザは食品としてだけでなく、畜産や将来的な医療・健康分野にも応用できる可能性を持つ植物であり、一般的なスーパーフードよりも幅広い分野での活用が期待されています。そのため現時点ではまだ広く知られた食品ではありませんが、含まれる成分の多様さや応用の広さから、今後の研究や産業利用によって新しい機能性食品として注目される可能性があります。


シロザの利用方法

ここまでの内容を踏まえると、一度食べてみたいと感じた方もいるかもしれません。ただ、シロザは日本では一般的な野菜として流通していないため、基本的には野外に自生しているものを山菜のように採取して利用する必要があります。

実際にシロザを採取する際にはいくつか注意点があります。まず、その中でも特に重要なのが採取する場所の選定です。シロザは畑地や道ばた、空き地など身近な場所にも広く生育していますが、道路沿いの排気ガスの影響を受ける場所や、農薬が使用される可能性のある畑周辺、工場地帯などで採取したものは、食用としては避けることが望ましいです。そのため、できるだけ人為的な影響が少ない清浄な環境で採取することが基本となります。

また、若葉はえぐみが少なく食べやすい一方で、成長すると食味が落ちるため、若いうちの採取が推奨されます。

シロザにはホウレンソウと同様にシュウ酸が含まれています。シュウ酸は体内でカルシウムと結合し、カルシウムの吸収を阻害するだけでなく、過剰に摂取するとシュウ酸カルシウムとして結晶化し、腎結石(尿路結石)の原因となる可能性があります。そのため、生のまま大量に摂取することは避け、蒸したり茹でたりする調理を行うことが望ましいです。これらの加熱処理によってシュウ酸は水中に溶け出し、含有量が減少するため、より安全に食べることができます。

シロザの食べ方としては、独特の青臭さがあるため、気になる場合は天ぷらにしたり、卵と一緒に炒め物にするなど、風味をやわらげる調理法が用いられます。一方で、その風味が気にならない場合は、おひたしや胡麻和えとしてシンプルに調理して食べることもできます。

そのほか、実際の食経験に関する調査では、カレーやネパール料理なども報告されています。特に野菜炒めやカレー、ネパール料理としての利用は、海外滞在経験のある中高年男性によるものであり、バングラデシュやネパールでの食文化の影響が見られます。


参考:https://www.naro.go.jp/laboratory/tarc/weed/wheatweeds/025417.html
https://www1.ous.ac.jp/garden/hada/plantsdic/angiospermae/dicotyledoneae/choripetalae/chenopodiaceae/siroza/siroza.htm
file:///C:/Users/yo963/Downloads/kbs75(1).pdf

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