未確認生物「マクファーレンズ・ベア」とは何者か?

生物

1864年、黄褐色の毛皮、目の周りの茶色の輪、長い爪、そして奇妙な形の頭蓋骨を持つミステリアスなクマが殺されました。通称、マクファーレンズ・ベアとして知られるこのクマは、それ以前にも以降にも見たり報告したりした人がないため、今日に至るまで動物学者を困惑させています。

このクマは一体何者なのでしょうか?

この記事はマクファーレンズ・ベアについて詳しく説明しています。

未知のクマ「マクファーレンズ・ベア」との遭遇

1864年、2人のイヌイット族の兄弟がカナダのフランクリン湾の海岸沿いで狩りをしていました。すると、彼らは前方に、これまで知っているホッキョクグマの特徴とは異なる、奇妙な外見のクマがいることに気づきました。

そこで2人は武器を持ち、十分に警戒して近づき、それからその奇妙なクマを狩ることにしました。

そして、巨大な流木の後ろに隠れ、兄は銃で、弟は1.8mの手製の槍でクマに狙いを定めました。彼らがしゃがんで待っていると、その奇妙なクマは兄弟をエサと認識し、探しているようで匂いを嗅ぎながらゆっくりと近づいてきました。

兄はクマが適切な距離まで来るのを待って発砲しました。銃弾はクマに命中し、負傷させましたが、殺すことはできませんでした。そのため、激高したクマは銃を持った男に突進してきました。

しかし、寸前のところを弟が槍で介入し、クマの脇腹を切りつけたのです。これにより、クマは完全に力尽きました。

兄弟はこの奇妙なクマをよく観察した後、皮を剥ぎ、首を切断しました。そして、その毛皮と頭蓋骨をハドソン湾会社で働いていたロデリック・R・マクファーレンに送りました。この兄弟はマクファーレンが北極探検家で、博物学者であることを知っていたのです。

マクファーレンズ・ベアは古代のクマの生き残りなのか?

ホッキョクグマによく精通していたマクファーレンはこの標本を奇妙に感じました。通常の白い毛皮をしたホッキョクグマとは異なり、この毛皮は色がついており、目の周りには茶色の輪があります。ただ、マクファーレンは奇妙な色以外は何の変哲もないハイイログマだと考え、毛皮と頭蓋骨をスミソニアン博物館に送りました。

1864年6月24日に毛皮と頭蓋骨が博物館に到着すると、すぐにマクファーレンの収集物1979番
頭蓋骨番号7149、毛皮番号8706としてカタログに登録されました。

ただ、この年は内戦の真っただ中にあったため、標本が保管されたあと、その存在はそのまま忘れ去られてしまいました。

それが1918年に、現代の動物学のゴッドファーザーと呼ばれている、クリントン・ハート・メリアム博士によって再発見されたのです。メリアム博士はこのクマが通常のヒグマの生息地よりもはるかに北部である、北極圏で射殺されたため、ハイイログマではないと判断しました。

また、標本を精査し、これがホッキョクグマとも一致しないと考えました。

当時、メリアム博士は北米においてクマの第一人者で、アメリカ大陸に生息するクマの、さまざまな種と亜種をすべて分類し、文書化することを個人的な使命としていました。

彼は北米だけでも、特定のクマの種の中に、様々なバリエーションがあることを知っていました。

現在、世界にはメガネグマ、ジャイアントパンダ、ナマケグマ、ツキノワグマ、アメリカグマ、マレーグマ、ホッキョクグマ、そしてヒグマの8種類のクマがおり、すべて同じクマ科に属しています。

1200万年前、メガネグマとジャイアントパンダがこの系統から分岐しました。次はナマケグマで、約700万年前に分岐しています。ツキノワグマとアメリカグマは約600万年前に現れました。その後、約500万年前にマレーグマが分岐しています。最後の大きな分岐は比較的最近の約40万年前のことで、ホッキョクグマがヒグマから分かれました。

これらのそれぞれの種に亜種があり、ヒグマには北アメリカ北西部に生息するハイイログマ、アラスカに生息するコディアックヒグマ、そして、絶滅したカリフォルニアハイイログマなどがいます。

メリアム博士はヒグマだけで96の異なる種類に名前を付けましたが、これらは後に9亜種にまで減らされています。しかし、これだけの知識を持ってしても、彼にはこの標本が何なのかわかりませんでした。

この標本はハイイログマとホッキョクグマの両方の特徴を断片的に持っているようでしたが、完全に中間という訳ではありませんでした。そして、彼を最も困惑させたのはこのクマの頭蓋骨でした。この標本は奇妙な形で吻部が短かったのです。

実際、メリアム博士がマクファーレンズ・ベアに最も似ていると考えたクマはショートフェイスベアです。ショートフェイスベアはメガネグマ亜科の総称で、現生するメガネグマを除くすべてが、最終氷期の終わりごろ、約1万年前までには絶滅したと考えられています。彼らはその名の通り、大半の現生のクマと比較して短い吻部を持っていました。

ショートフェイスベアの中でもアルクトドゥス属には、後ろ足で立ち上がると高さ3.4から3.7メートル
体重は900キロ以上にもなる種があり、史上最大級の捕食性哺乳類といわれています。

北極探検家と数千年にわたってこの地域に住んでいる原住民の両方から、アルクトドゥスのような巨大なクマを見たとする報告が続いています。

それでは、アルクトドゥスの子孫が交配して全く新しい種類のクマに進化したのが、マクファーレンズベアなのでしょうか?

ミリアム博士はマクファーレンズ・ベアが、かつて北アメリカを歩き回っていた巨獣の失われた子孫だと確信していました。彼は自信過剰だったため、マクファーレンズベアに独自の種を与えることにし、「古代の予期せぬクマ」と呼び、Vetularctos inopinatusと学名をつけました。

これまで、北アメリカ北部は人口がまばらで、荒野が果てしなく続くため、誰にも知られていない未発見の種が存在する可能性があると多くの人が考えていました。そして、マクファーレンズ・ベアがまさにそのような生物だったのです。

ただ、その後、この種の発見例が全くなかったため、多くの動物学者がこの奇妙な黄褐色のクマは1864年以降に絶滅したか、あるいはイヌイットの兄弟が、この種の最後の生き残りをうっかり殺してしまったのではないかと推測し始めました。

こうして、この謎はまたしても忘れ去られ、「古代の予期せぬクマ」について知る人はほとんどいなくなりました。

ホッキョクグマとハイイログマの雑種「ピズリー」

CorradoxCC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

それが、1918年と同じように、2006年に再び脚光を浴びることとなります。アメリカ人でハンターのジム・マーテルはバンクス島の南端にあるネルソン岬の近くでガイド付きの狩猟遠征に参加していました。そこでマーテルは奇妙なクマを見つけたのです。

彼がこのクマを仕留めると遠征隊の全員がこれまで一度も見たことのないものだということにすぐに気づきました。

マーテルが撃った生物は、野生では史上初とされるホッキョクグマとハイイログマの雑種だったのです。その毛皮は黄褐色で、目の周りには暗褐色の輪がありました。そして、ハイイログマの持つ特徴の長い爪とこぶのある背中を持っていました。

その後、DNA検査で雑種であることが確認され、世界中の動物学者に衝撃が走りました。メディアからピズリーと名付けられたこのクマは、地球温暖化の到来により、ホッキョクグマとハイイログマの生息地がいかに近づいたかを示すものとなったのです。

野生のピズリーの発見により、多くの研究者がマクファーレンズ・ベアの調査を再開し、すぐに驚くべき類似点を発見しました。最も注目すべきは、マーテルが撃ったクマとマクファーレンズベアの両方に共通する黄褐色の毛皮です。さらに、長い爪と目の周りの暗褐色も共通しています。

ミリアム博士がまったく新しいクマの種だと思っていたものが、実はホッキョクグマの雑種であるという結論に達するには、動物学者にとって難しいことではありませんでした。

現在のマクファーレンズ・ベア

それが、その後、アメリカ合衆国のテレビ番組で古生物学者のブレイン・W・シューベルト博士がマクファーレンズ・ベアの頭蓋骨の検査を許可されました。そして彼はこの頭蓋骨がホッキョクグマとハイイログマの雑種のものではなく、100%若いメスのハイイログマのものであると断定したのでした。

しかし、ほかの人々は彼の意見には懐疑的で、現在、マクファーレンズ・ベアに関する最も一般的な認識は、ホッキョクグマとハイイログマの雑種です。

ただ、確かに地球温暖化によりホッキョクグマは南へ進出しており、通常の生息範囲の10倍も離れたフォートユーコンで1頭が撃たれたことが知られていますが、未だハイイログマとホッキョクグマの生息地は遠く隔たれています。

そのため、コンニチでも動物学者は野生のホッキョクグマとハイイログマの雑種はほぼゼロと見なしており、マクファーレンズ・ベアが発見された160年前の1864年では、その可能性はさらに低くなります。

そのため、ミリアム博士が言った通り、マクファーレンズ・ベアは本当に古代のクマの生き残りなのかもしれません。

この記事はYouTubeの動画でも見ることができます。


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