食感と香りの良さから、日本では冬の味覚として大人気のカニですが、淡水に住むチュウゴクモクズガニ(上海ガニ)など、一部の種を除いてズワイガニ、ケガニ、タラバガニ(分類学上はヤドカリの仲間)などの養殖は難しいと言われています。
この記事は養殖が難しい理由や現在進行中の養殖の試みについて解説しています。
カニ養殖の難しさ

1. 縄張り意識と争い
カニは多くの種類が縄張り意識を強く持っています。特にオスは攻撃性が高く、狭い空間に複数を飼育すると喧嘩が発生しやすいです。その結果、体の一部を損傷したり、最悪の場合、共食いが起こることもあります。また、成長の遅い個体は競争に負けて捕食される可能性が高いです。このため、飼育密度を調整したり、個別のケースで育てるなどの工夫が必要となります。
2. 成長速度が遅い
ズワイガニやタラバガニの成長速度は非常に遅く、例えばズワイガニは成熟して食卓に並べられるサイズになるまでに20年もの時間がかかると言われています。これに対して、チュウゴクモクズガニのような一部の種類は比較的早熟で、2~3年で成熟しますが、それでも養殖としては時間がかかる方です。成長が遅いと、飼育コストが増大し、商業的な採算性が低下してしまいます。
3. 生息環境の再現が困難
多くのカニは、特定の環境でしか生息できません。例えば、タラバガニは水深350メートル付近の深海に住むため、浅海や人工水槽での養殖が難しいです。また、ズワイガニの幼生期はプランクトンとして水中を漂い、適正な水温や塩分濃度が求められます。このような条件を人工的に再現するには、高度な技術と多額のコストがかかります。
現在進行中の養殖の試み

大分県豊後高田市では現在、ミサキガザミの養殖が試みられています。この地域はワタリガニの好漁場として知られており、そこで水揚げされるワタリガニを地元では「ミサキガザミ」と呼んでいます。ミサキガザミは沿岸を回遊し、成長も早く、非常に美味しいカニとして評価されてきました。しかし近年では漁獲量が減少しており、安定して供給することが難しく、地元特産品としての存在が危ぶまれています。このため、ミサキガザミの養殖に向け、大分県と漁業者で組織される団体が養殖事業に取り組んでいます。
この研究では、カニ同士の縄張り争いを避けるため、個体を個別のケースに入れて育てる「分離養殖」という技術が開発されています。また、食いつきが良く成長を促進する餌の研究開発も進められており、育成コストの削減を目指しながら、養殖方法の確立に向けて取り組まれています。
さらに、国内初のタラバガニの養殖事業化に向け、室戸市内の四漁協が養殖協議会を設立しています。このプロジェクトでは、水産研究所が開発した陸上養殖技術を用いて、幼生の育成を進めています。陸上水槽でタラバガニの幼生を管理し、成長を促すことで漁獲に頼らない安定供給の実現を目指しています。
また、ケガニの陸上養殖を研究している東京理科大学長万部キャンパスでは、閉鎖循環式の養殖方法を用いて飼育を行っています。この方法では、濾過や冷却を行った海水を再利用することで、効率的な水槽管理を実現しています。ケガニは約1年以上生存させることに成功しており、今後の商業化が期待されています。
カニ漁獲量減少の現状と養殖の展望

カニの漁獲量は全体的に減少傾向にあります。1983年には10万トンを超える漁獲量があったものの、2012年には3万トンを切り、2020年にはわずか2700トンまで減少しています。漁獲量減少の原因としては、地球温暖化による海水温の上昇や生息環境の変化、さらに違法漁業が挙げられています。また、カニの餌となる生物の減少も影響しているようです。
もしカニ養殖の商業化が実現すれば、資源を保全しつつ、安定した供給が可能になります。これにより、高品質なカニをより安価で手に入れることができる未来が期待されています。
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