ネアンデルタール人が現代人よりも強かった理由

生物

ネアンデルタール人は現代人と比較するとより頑丈な体格を持ち、力も強かったと考えられています。

それでは実際、ネアンデルタール人はどれくらいの強さだったのでしょうか?そしてなぜネアンデルタール人は現代人よりも強いのでしょうか?

それは知性の差や、彼らが現代人よりも原始的で野蛮だったからではありませんでした。

ネアンデルタール人とは?

Neanderthal-Museum, MettmannCC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

ネアンデルタール人(ホモ・ネアンデルターレンシス”Homo neanderthalensisまたはホモ・サピエンス・ネアンデルターレンシスH. sapiens neanderthalensisは、約40万年から4万年前にヨーロッパとアジアに住んでいた人類の一種です。一般的には別種とみなされていますが、ホモサピエンスの亜種とみなす人もいます。

彼らは数千年にも渡って現代人と共存していました。

ネアンデルタール人は後方に向かって傾斜したひたい、彫が深い顔、大きな鼻などの特徴を持っていました。

体格はずんぐりとしており、平均身長は男性が165cm、女性が153cmで、これは産業革命以前の現生人類と同じくらいです。

ネアンデルタール人は熟練した狩猟者でした。彼らの獲物にはマンモス、バイソン、シカなどの大型の動物や、ウサギや鳥などの小動物が含まれます。

ネアンデルタール人はこのような獲物を狩るために、道具を作り使用していました。考古学者はネアンデルタール人が使用していた道具や武器を研究し、彼らの驚くべき強さの証拠を発見しています。

ネアンデルタール人はマンモスやバイソンなどの大型動物を狩るのに槍を使用していました。槍は通常、柄が木製で、先端は石でできています。マンモスやバイソンの硬い皮膚にこの石の槍を突き刺すには、上半身にかなりの力が必要だったでしょう。

さらに槍に加えて、ネアンデルタール人は貝殻も道具として使用していました。彼らは貝殻を使って皮を削ったり、肉を切ったりしていたのです。貝殻は繰り返し使用されて多くがすり減っていたため、ネアンデルタール人はこのとき、かなりの力を使っていたことがわかります。

これらの事実は、ネアンデルタール人が現代人よりも身体的に強かったことを示しています。

ネアンデルタール人はどのくらい強かったのか?

それでは実際に、どのくらいの強さだったのでしょうか?

すでに絶滅してしまったネアンデルタール人の強さを直接観察することはできませんが、骨格構造などの要素に基づいて推定を行うことができます。

そして、最も一般的な強さの尺度のひとつとして、ベンチに横たわった状態で重量を載せたバーベルを持ち上げるベンチプレスがあります。

ネアンデルタール人はベンチプレスでどれくらいの重量を持ち上げることができたのでしょうか?

彼らの骨格から、ネアンデルタール人が現代人よりもがっしりとした体格であったことがわかっています。特に腕と上半身に頑丈な骨と、厚い筋肉との付着部を持っていました。

Claire Houck from New York City, USACC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons

また、ネアンデルタール人は胸郭、胸部の骨格が広く、腕が短かったため、重い物を押す際には有利だったと考えられます。

彼らの幅が広い胸郭は鐘型に例えられています。ネアンデルタール人はこの鐘型の胸郭のため、大きな呼吸器系を持つことができ、より短時間でより激しいエネルギーを爆発させることができました。

さらに、ネアンデルタール人は現代人よりも大きな横隔膜を持っていた可能性があります。研究者はこの横隔膜の働きにより、酸素供給量が増加し、爆発的な力を発揮できたと考えています。

さらに、最近の科学の進歩により、ネアンデルタール人の強さについて、より深く理解できるようになりました。たとえば、研究者はネアンデルタール人の骨コラーゲンを分析して筋肉量を推定しています。これにより、平均的なネアンデルタール人の筋肉量は、現代人よりもかなり大きかったことがわかりました、また、爆発的な運動を生み出す、速筋繊維の割合も高いことがわかっています。

そして、研究者はコンピューターシミュレーションを使用して、ネアンデルタール人の動きの生体力学をモデル化しています。

これらの方法論に基づくと、ベンチプレスにおいて、平均的な男性のネアンデルタール人は約500ポンド(226.8kg)、平均的な女性のネアンデルタール人は約350ポンド(158.76kg)の重さを挙げることができたと推定されています。

現代人の男性のベンチプレス平均は約40kg、女性は約20kgといわれています。ネアンデルタール人の女性の平均的な筋力でも、現代の男性アスリート並みだったのです。

なぜネアンデルタール人は強かったのか?

それではなぜ、ネアンデルタール人はそんなにも強かったのでしょうか?

それは彼らの狩猟戦略にありました。

ネアンデルタール人のずんぐりとした体格は、特に先史時代の獲物を狩る場合に利点があります。彼らの爆発的な力は獲物を待ち伏せして打ち負かすのに適していました。

Trougnouf (Benoit Brummer)CC BY 4.0, via Wikimedia Commons

Quaternary Science Reviewsに掲載された新しい研究では、ネアンデルタール人がもつ瞬発的な力は
長距離走よりも全力疾走に適応していた可能性を示唆しています。

森林での狩猟には、一般的にスピードと加速、つまり全力疾走が必要だとこの研究で述べられています。これは、木の陰などで獲物に遭遇すると、突然の出来事になる可能性があり、素早く反応する必要があるためです。

対照的に、現代人はネアンデルタール人よりも力が弱い一方で、「持久走」という特性を持っています。

より華奢な現代人は一般的にネアンデルタール人のような鐘型ではなく、樽型に例えられる胸郭を持っています。この胸郭は、現代人の祖先が獲物を長距離にわたって追いかける際の呼吸に最適です。そして、この特性はひらけた草原やツンドラでの追跡狩猟に有効でした。

現代の一流アスリートの中で、長距離ランナーは痩せていて手足が長い傾向にあり、一方、短距離ランナーははるかに筋肉質で、体全体のサイズに比例して手足が短い傾向にあります。ネアンデルタール人の体型が長距離ランナーよりも短距離ランナーに似ていることは容易にわかります。

これに加え、ネアンデルタール人が現生の人類には存在しない、またはまだ研究されていない、運動に関連する遺伝子変異を持っていた可能性があります。

なぜネアンデルタール人は絶滅したのか?

このように、圧倒的に現代人よりも強かったネアンデルタール人でしたが、最終的には約4万年前に絶滅しています。

その理由はまだ完全には解明されていませんが、気候変動や現生人類との競争などのためだといわれています。

長い間、ネアンデルタール人は野蛮で知能の低い原始人と考えられてきました。しかし、最近では
高度な認知能力を持っていたことがわかっていました。また、死者を埋葬したり、芸術を創作したりするなどの文化的慣習がありました。

ただ、今回の研究によるネアンデルタール人と現代人の違いに関する新たな見解では、もはや知能の差ではなく、ジョギングとスプリント、持久力と全力疾走の違いであったことが示唆されました。

すべての種は生息する生態系に独自に適応しています。この研究で、ネアンデルタール人と現代人の体格の違いは、ネアンデルタール人が原始的であったということではなく、単に異なる狩猟戦略への適応を反映しているだけであることが判明しました。

つまり、ネアンデルタール人にとっては気の毒なことですが、カメがウサギに勝ったということです。

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