鶏より美味しいキジの家畜化を古代人がやめた理由

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最近の研究で、これまで最古のニワトリと考えられていた骨を詳しく解析したところ、実はキジの仲間のものだったことが分かりました。つまり、人間の生活圏の近くに最初に姿を見せていたのは、ニワトリではなくキジだった可能性が高いのです。

キジ肉は旨味が濃く香りも豊かで、だしにすると深いコクが出るため、「鶏より美味しい」と評価する人もいます。それにもかかわらず、現在一般的に流通しているのはニワトリで、キジはほとんど市場に出回りません。

ではなぜ古代の人々はキジの家畜化を進めず、途中でその試みをやめてしまったのでしょうか。本記事はその理由について詳しく解説しています。

この記事の要約

  • 最古の「ニワトリの骨」は実はキジだった – 中国の7,500年前の遺跡で発見された骨は、長年ニワトリと考えられていたが、DNA解析の結果コウライキジのものと判明。古代人は穀物の残りでキジを集落周辺におびき寄せ、肉として利用していた。
  • キジが家畜化されなかった理由は産卵性の低さ – キジは春から初夏だけしか繁殖せず、卵の数も少ないため年間を通した安定供給が困難。一方ニワトリは年間200個以上の卵を産め、肉と卵の両方を効率的に得られるため家畜として選ばれた。
  • キジは今も野生の魅力を保つ高級食材 – 現代でもキジは完全な家畜化には至らず、狩猟や限定的な飼育にとどまる。肉質はニワトリより締まりがあり旨味が強いが、一般市場にはほとんど流通せず専門店や高級料理店向けの食材として扱われている。

古代のニワトリは実はキジだった

中国北部の甘粛省にある大地湾遺跡は、約7,500年前の新石器時代の集落跡として知られています。住居跡や農具、家畜の骨などが多数発見されており、当時の人々の生活を知るうえで非常に重要な遺跡です。

ここでブタやイヌの骨と一緒に出土した鳥の骨は、長いあいだ「ニワトリが家畜化されたことを示す最古の証拠」だと考古学者たちに解釈されてきました。

しかし一方で、この解釈には以前から疑問を抱く研究者も少なくありませんでした。ニワトリの祖先とされているのはセキショクヤケイというキジ科の鳥です。セキショクヤケイは主にタイやミャンマー、ラオス、ベトナムなどを含む東南アジア一帯を原産地とし、温暖な森林や藪地に生息しています。

そのため、セキショクヤケイを祖先にもつニワトリが、本来の分布域からおよそ1600キロ以上も離れた大地湾遺跡周辺に、すでに7,500年前の時点で存在していたと考えるのは不自然ではないか、という指摘があったのです。

そこで、大地湾遺跡から出土した8個体分の鳥の骨について、2015年にオクラホマ大学の研究チームが本格的な再分析を行いました。研究者たちはまず、骨の形態学的特徴を詳しく調べ、さらに最新の遺伝学的手法を用いて、骨に残っていたミトコンドリアDNAを抽出し、完全な遺伝子配列を解読しました。

その結果、これらの骨はニワトリではなくキジ、正確にはコウライキジという種類のものだったことがわかりました。

コウライキジはユーラシア大陸を広く原産地とする代表的なキジで、亜種が多く、約30の亜種に分類されています。一方、日本列島に生息するキジは日本固有の種で、オスの体色が緑がかった金属光沢を帯びる点が特徴です。

コウライキジは全体的に褐色で、亜種によっては首に白い輪が入りますが、日本のキジにはこの白い首輪がありません。そのためコウライキジは「タイリクキジ」と呼ばれる他、「クビワキジ」と呼ばれることもあります。生態は日本のキジとよく似ていますが、よりひらけた環境を好む傾向があります。

研究者らはさらに安定同位体分析を行うことによって、これらのキジが主にアワなどの穀物を食べていたことが分かりました。アワは当時の人々が栽培していた作物であり、野生のキジが自然環境だけでこれほど多く摂取することは考えにくいため、これらの鳥は人間の生活圏のすぐそば、あるいは集落の内部で暮らしていたと推測されます。

つまり、キジたちは人間が撒いた穀物や農作物の残りを常に利用しており、年間を通して人間の近くで生活していた可能性が高いのです。

このプロセスは初期のニワトリの家畜化とほぼ同様のものだったと考えられます。野鳥が人間と密接に交流し始め、最終的には人間と永続的な相互依存関係を築くようになったのです。

研究チームはこの状態を「low-level bird production(低レベルの鳥類生産)」と呼んでいます。人々はキジを檻に入れて飼っていたわけではなく、農作業で出る余った穀物やそのクズを放置しておくことで、野生のキジを集落の周りにおびき寄せていたと考えられます。

キジは自分の利益のために人間の食べ物を食べに来て、人間はそのキジを肉として利用するという関係が成り立っていたのです。このやり方なら、わざわざ鳥を運んだり卵から育てたりしなくても、新しい場所に移住するたびに、その土地にいる野生のキジを簡単に利用できました。

ただし、この時期のキジはまだ完全な家畜ではありません。家畜化とは人間による選択交配が長期間続き、体の形質や遺伝子に変化が生じることを指します。しかし、古代のキジのDNAは現代のコウライキジとほぼ同じであり、遺伝的な変化は確認されていません。

つまり、人間の近くで生活し、人間の作物を食べていたものの、まだ野生動物の範囲にとどまっていたということです。

今日では多くの場所でキジが作物を食べてしまうのを防ぐために畑に網が張られています。それではなぜそのまま家畜化が進まなかったのでしょうか。

ニワトリが選ばれた理由

©Sephan Sprinz

研究者たちはキジが一年のうち限られた時期にしか卵を産まず、飼育下でも安定した産卵が期待しにくいことが、最終的にニワトリが家畜として選ばれた理由のひとつになったと考えています。

キジは春から初夏にかけてだけ繁殖し、一度に産む卵の数も多くはありません。そのため、年間を通して継続的に卵を得ることは難しく、生産性という点では家畜化に向いていませんでした。

一方で、ニワトリは一年を通して比較的規則的に産卵し、品種によっては年間に二百個以上の卵を産むことができます。繁殖の周期も短く、人間の管理下でも安定して卵を産むため、肉と卵の両方を効率よく得られる家畜として非常に優れていました。

こうした特性から、ニワトリは人々の移動や交易とともに各地へ広まり、キジに代わって人間社会に受け入れられていったと考えられています。

近代になってからの養殖と利用

キジの本格的な飼育が広がり始めたのは、比較的近い時代になってからです。中世ヨーロッパでは主に貴族の狩猟用としてキジが集められ、囲いの中で育てられるようになりました。

やがて17〜19世紀にかけて、狩猟文化が発展すると、野生個体だけでは数が足りなくなり、人が孵化から成鳥まで管理するゲームバード飼育が発達していきました。

現代でも、ヨーロッパや北米の一部では、狩猟や観賞、そして食肉用としてキジが飼育されています。しかし、こうしたキジの飼育は、あくまで補助的な生産にとどまり、ニワトリのような大規模畜産には発展しませんでした。

科学的な家畜化の基準に照らすと、狩猟用に飼育されるキジは家畜と野生動物の中間に位置すると言えます。これらのキジは、人間の提供する食料や管理に依存し、完全な野生の行動は見せません。しかし、ヒツジやニワトリなどの家畜と比べると、野生の祖先からの形質の変化は限定的です。

日本での養殖の歴史はさらに新しく、明治時代以降で、特に20世紀に入ってから広まりました。しかし、狩猟や食用として市場に流通するキジの多くは、コウライキジやその系統の個体が使われています。

これはコウライキジの方が繁殖しやすく、管理がしやすいためで、ニホンキジは野生個体が中心のまま、商業的な養殖にはほとんど使われていません。

キジの肉はニワトリよりもやや締まりがあり、旨味が強く、上品で淡い甘みを持つのが特徴だといわれます。脂は少なめでクセはほとんどなく、火を通しすぎると固くなりやすい一方、丁寧に調理すると、野趣と繊細さが同居した独特の味わいが楽しめます。

また、コウライキジは飼育下で育つため肉質がやや柔らかくクセが少ないのに対し、ニホンキジは筋が締まり、野趣あふれる濃い旨味とほのかな甘みが特徴で違いがあります。

古くから日本でも高級食材として扱われ、鍋物や焼き物、だしを取る料理などで珍重されてきました。

とはいえ、現在の日本でキジが広く出回るわけではありません。多くは狩猟による野生個体か、限られた地域で少量飼育されたものに限られ、出荷量も季節や年ごとにばらつきが大きいのが実情です。

食肉としては主に専門店や高級料理店向けに流通し、一般のスーパーに並ぶことはほとんどありません。

こうして見ると、キジは古代から人間の生活に関わりつつも、完全な家畜にはならず、野生の魅力を残したまま現代まで存在してきたことがわかります。だからこそ、キジの肉や存在には独特の価値があり、他の家畜にはない風味や歴史的な背景を味わうことができるのです。


参考:The earliest farmers of northwest China exploited grain-fed pheasants not chickens | Scientific Reports

Earliest ‘Chickens’ Were Actually Pheasants | Scientific American

Are pheasants domesticated? – Birdful

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