日本産の食用キノコ「タモギタケ」が外来種として北米の在来種を駆逐している!!

生物

タモギタケは日本を含む東アジア原産のキノコで、食用にもなる種類です。一般的な知名度はまだそれほど高くありませんが、香りがよく、コクのある味わいが特徴で、一部の料理好きやキノコ栽培を楽しむ人たちの間では、じわじわと人気が広がっています。

そんなタモギタケですが、実は近年、北米では侵略的外来種として問題視されています。最新の研究によると、野生化したタモギタケが在来のキノコを押しのけ、生態系に悪影響を及ぼしていることが明らかになりました。この研究は、外来のキノコが植物や動物と同様に、環境に深刻な影響を与える可能性があることを示した初めての事例とされています。

本記事はタモギタケが北米の生態系に対してどのような悪影響を及ぼしているのかを詳しくご紹介しています。

この記事の要約

  • タモギタケが北米で侵略的外来種として拡大: 東アジア原産の食用キノコであるタモギタケが、2000年代初頭に栽培キットなどを通じて北米に持ち込まれ、現在では25州以上とカナダの一部で野生化。家庭用栽培キットから放出された胞子や堆肥化された使用済みキットが原因で森林に広がった可能性がある
  • 在来菌類の多様性を大幅に減少させる: ウィスコンシン大学の研究により、タモギタケが侵入した木では菌類の種数が半分以下に減少し、ミダレアミタケやシロタモギタケなどの在来種が姿を消していることが判明。医薬品開発の可能性を持つネマニア・セルペンスなども排除され、未発見の有用な化学物質が失われるおそれがある
  • 外来菌類問題への新たな認識と対策の必要性: この研究は外来キノコが植物や動物と同様に生態系に深刻な影響を与えることを示した初の事例。北米では栽培キットの使用を控えることが推奨され、将来的には胞子を出さない品種の開発やウイルスを利用した個体数制御などの技術的アプローチも検討されている

生態系を支えるキノコの役割

在来のキノコや菌類は、多くの生態系の健全性を支える重要な存在です。枯れ木や植物の残骸を分解して土に還すことで、炭素や窒素といった栄養素の循環を担い、それらを土壌や大気、あるいは自らの体内に取り込んでいきます。また、土壌中に炭素を固定したり、土や木からの炭素放出を調整したりすることで、気候変動の緩和にも貢献しているとされています。

さらに、菌類は他の生物との共生関係を通じて、周囲の生物の生育も支えています。たとえば、植物の根に共生する菌根菌は、水分や栄養の吸収を助け、木材を分解する菌類は、鳥類や哺乳類、植物の幼苗にとっての重要な生息環境をつくり出しています。

こうした中、ウィスコンシン大学マディソン校の研究者、アイシュワリヤ・ヴィーラバフ氏らの研究チームは、外来のタモギタケが森林の菌類多様性をおびやかし、気候変動や生息地の破壊によってすでに脆弱になっている生態系に悪影響を与えていることを明らかにしました。

キノコ取引の暗黒面

タモギタケは鮮やかなレモンイエローの傘が特徴的なキノコで、日本では北海道や東北地方を中心に天然のものが夏から秋にかけて採取されるほか、近年では人工栽培も盛んになってきました。味わいはほんのりとした甘みと独特のコクがあり、炒め物や天ぷら、味噌汁の具材など、さまざまな料理に使われています。特にバター炒めや和風パスタとの相性がよく、料理好きの間で人気が高まっているキノコのひとつです。

また、家庭用のキノコ栽培キットとしても販売されており、ベランダや室内で育てられる手軽さから、キノコ栽培を趣味とする人々の間でも注目を集めています。

このタモギタケの栽培は日本国内だけでなく、世界的にもブームとなっています。2000年代初頭には北アメリカにも持ち込まれ、その鮮やかな見た目と食味の良さから英語では「Golden Oyster Mushroom(黄金ヒラタケ)」と呼ばれています。

グローバルな貿易の中で、キノコ類はたとえば家庭用の栽培キットなどの商品として意図的に、あるいは土壌や植物、木材、さらには輸送用パレットに付着した微生物として意図せず世界中に運ばれています。こうして新たな環境に持ち込まれた菌類は定着してしまうことがあります。

ただ、北アメリカでは何十年にもわたって多くのキノコが栽培されてきましたが、その多くは侵略的外来種として問題を引き起こすことはありませんでした。しかし、タモギタケは例外的な存在だったのです。

このキノコがどのようにして野生化したのか、正確な経緯はまだわかっていません。家庭用の栽培キットからなのか、商業用のキノコ農場からなのか、その詳細は不明のままです。しかし、栽培キットの人気が高まるにつれて、多くの人がタモギタケのキットを購入し、自宅の庭で鮮やかな黄色のキノコが育つ様子を楽しむようになりました。その際に放出された胞子や、使用後のキットを堆肥として処理したことなどが、近隣の森林にタモギタケを広げる原因になった可能性があります。

研究では、2010年代初頭から、アメリカの複数の州でタモギタケが野生化していたことが示されています。現在では中西部から東部を中心に25州以上とカナダの一部でも確認され、急速に拡大しています。

タモギタケが駆逐した在来のキノコたち

This image was created by user Kerry Givens (kgivens) at Mushroom Observer, a source for mycological images.You can contact this user here. English | español | français | italiano | македонски | മലയാളം | português | +/−CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

今回の研究でチームはウィスコンシン州マディソン周辺の森林に入り、枯れ木にドリルで穴を開けて木くずを採取しました。この木くずには、それぞれの木に自然に生息していた菌類のコミュニティが含まれています。調査対象の木の中には、すでにタモギタケが発生しているものもあれば、そうでないものもありました。

そして、研究チームは採取した木くずからDNAを抽出し、どのような菌類が、どれだけの種類存在していたのかを解析しました。その結果、タモギタケが侵入していた木では、そうでない木に比べて菌類の種数が半分以下にまで減少していることがわかりました。さらに、菌類の構成自体も大きく変化しており、タモギタケがいない木とはまったく異なる菌相が形成されていたのです。

たとえば、ミダレアミタケやシロタモギタケといった在来のキノコはタモギタケが侵入した木からは姿を消していました。さらに、ネマニア・セルペンス(Nemania serpens)という菌類も排除されていたことがわかりました。この菌は同じ種の中でも個体ごとに異なる多様な化学物質を生産することで知られており、菌類が秘めている医薬品としての可能性を示す象徴的な存在です。

実際、菌類はペニシリンのような抗生物質や、コレステロール低下薬、臓器移植の際に使われる免疫抑制剤など、画期的な医薬品の供給源となってきました。そのため、侵略的外来種によってこうした菌類が追いやられてしまうと、まだ発見されていない有用な化学物質の可能性までもが失われてしまうおそれがあるのです。

外来種問題に菌類を含めるべき時が来ている

Chatama, CC0, via Wikimedia Commons

今回の研究結果をふまえ、研究チームは外来種をめぐる世界的な議論に侵略的な菌類も加え、生物多様性の損失を引き起こす要因として見ていく時が来たと考えています。

それぞれの地域には独自の在来菌類のコミュニティが存在しており、それが外来種によって乱される可能性があります。在来の菌類コミュニティは、何千年もの間共に進化し、多様性を保ちながら共存してきたものです。今回の研究は外来種が在来種を圧倒することで菌類の構成を変え、その結果、地域の生態系を形づくってきた菌類の働きそのものが変化してしまうことを示しています。

実際、タモギタケ以外にも、世界各地で問題となっている外来菌類は数多く存在します。たとえば、猛毒で知られるタマゴテングタケは北アメリカで外来種とされています。その逆に、赤と白の傘で知られるベニテングタケは北アメリカでは在来種ですが、もともと分布していなかった南半球で外来種として定着しています。

こうした状況を踏まえ、研究者たちは北アメリカに侵入したタモギタケを、その鮮やかな黄色の姿が示すとおり、外来菌類も急速に広がりうることを警告する存在として受け止めるべきだと指摘しています。

現在、タモギタケはスイスでも外来種として認識されており、イタリア、ハンガリー、セルビア、ドイツの森林でも確認されています。また、トルコ、インド、エクアドル、ケニア、イタリア、ポルトガルなど、世界各地で栽培を試みる動きがあることも報告されています。もちろん、地域によってはタモギタケが野生化して定着できない可能性もありますが、今後も研究を続けることで、外来菌類が生態系に与える影響の全体像が明らかになっていくことが予想されています。

食べて減らすことはできるのか

一見すると、タモギタケを積極的に収穫して食べることで、野生化した個体数を減らせるのでは、と思うかもしれません。しかし、タモギタケは胞子で繁殖する菌類であり、キノコの子実体を収穫しても、木の中や土壌に残った菌糸が生きていれば再び発生してしまいます。つまり、食べるだけでは根本的な駆除にはつながりにくいのです。

さらに、食用として人気が高まると、「もっと育てたい」「広めたい」という動きが逆に野生化のリスクを高めてしまう可能性もあります。

推奨される取り組み

EvaK (Eva Kröcher). (GFDL 1.2 or FAL), via Wikimedia Commons

現在、世界中のキノコ栽培者や事業者、採取を楽しむ人々の間で、この問題にどう向き合うべきかが問われ始めています。

当面の対策としては、北米ではタモギタケの栽培キットの使用を控えることが推奨されています。また、タモギタケを販売している事業者に対しては、「この種は外来種であり、屋内での栽培に限定すべきであること、使用後は堆肥化せず適切に処理すること」といった注意書きを添えることが提案されています。また、家庭でキノコ栽培を楽しむ場合は、その地域に自生する安全な在来種を選んで育てることが望ましいとされています。

ただし、すべての地域や状況に共通する正解があるわけではありません。一部の地域では、タモギタケが貧困地域の食料源や収入源、農業廃棄物の処理と食料生産を兼ねた手段として活用されている例もあります。そのため、今後の管理方針や法整備を検討する際には、こうしたポジティブな側面と、生態系への悪影響の両方を慎重に考慮する必要があります。

将来的な対策としては、胞子を出さないタモギタケの品種を家庭用キットに用いることや、特定の菌類に感染するウイルスを利用して個体数を制御するといった技術的なアプローチも検討されています。

いずれにしても、責任ある栽培のあり方についての理解を広めていくことが重要です。なぜなら、外来種が入り込み、在来の菌類の多様性が損なわれてしまえば、私たち人間が森の中で出会う、あの美しくて不思議なキノコたちの姿も、やがて失われてしまうかもしれないからです。

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参考:The golden oyster mushroom craze unleashed an invasive species – and a worrying new study shows it’s harming native fungi

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