ホッキョクグマと並び、クマ科では最大の体長を誇るヒグマはいくつかの亜種にわけられており、それぞれに独自の特徴があります。中でも最も大きい亜種がアラスカ・コディアック島近辺の島々に生息するコディアックヒグマです。
それではなぜコディアックヒグマは他の亜種と比べて大きいのでしょうか?
この記事はコディアックヒグマと北アメリカ本土に生息するヒグマの亜種であるハイイログマとを比較し、コディアックヒグマがどうして大きくなる傾向にあるのかについて説明しています。
ヒグマとは?

ヒグマはヨーロッパからアジアにかけてのユーラシア大陸と北アメリカ大陸に幅広く生息しておりこれは現存するクマ属の中で最も広く分布する種です。
その生息地は温帯から北極海沿岸などのツンドラ気候の地域にまで及ぶため、明らかにそれぞれの場所では環境が大きく異なります。そのため、ヒグマは非常に順応性がある動物といえるでしょう。このような異なる環境には異なる適応が必要で、それらのヒグマはさらにいくつかの亜種に分類されます。
それでは、それぞれの亜種の大きさの違いについて見ていきましょう。
ハイイログマの大きさ

まずはハイイログマからです。ハイイログマの学名はUrsus arctos horribilisで、別名アメリカヒグマとも言いますが、英名では一般にグリズリーと呼ばれています。
ハイイログマは20万年から11万年前の間に、ベーリング陸橋を経由してアメリカ大陸に移住したユーラシアヒグマの子孫であり、最盛期にはアラスカからメキシコまで生息していました。ただし、現在では生息範囲が大幅に縮小しています。メキシコとカリフォルニアのハイイログマは完全に絶滅し、残りは主にアラスカ、カナダ西部、米国本土北西部に生息しています。
ハイイログマは人間の命を脅かす危険な動物としてあまりにも有名ですが、その大きさにはかなりの個体差があります。それは、彼らのサイズが場所や季節に大きく左右されるからです。例えば、沿岸に生息するハイイログマは内陸に生息する同種よりもかなり大きくなるほか、冬眠前の個体は冬眠後の個体よりもかなり重くなります。また、オスの体格はメスよりもはるかに大きくなり、体重は100kgから389kgの範囲です。体長は通常198cmから240cm、平均的な肩の高さは102cmで、後ろ足で立つと、最大2.7mの高さになります。沿岸に生息するオスのハイイログマは最も大きくなり、内陸に生息するメスが最小になります。
コディアックヒグマの大きさ

次に、北米に生息するもうひとつの有名なヒグマ、コディアックヒグマについてお話ししましょう。
コディアックヒグマは学名をUrsus arctos middendorffiといい、アラスカ半島沿岸部およびコディアック島近辺の島々にのみ生息します。そのため、このクマはアラスカヒグマとも呼ばれていますが、アラスカにいるハイイログマもそのように呼ばれているため、少々混乱を招きます。
ただし、このコディアック島に棲むヒグマは、極端に大きいことからほかと簡単に区別できます。コディアックヒグマの体重はメスが180から315kgで、オスが270から635kgです。また、冬眠前の肥大期のピーク時には最大680kgにまで増える個体もいます。
記録上最も重い個体は、飼育されていたクライドという名のオスの個体で、体重はなんと966kgもありました。また、後ろ足で立ち上がったときに最も背が高かった個体は、約3.3mあった、テディという名の別のオスの個体です。
そして、最も興味深いのはコディアックヒグマには北アメリカ本土のヒグマと生活様式や食生活において目立った違いがないということです。コディアックヒグマは草や果実、木の根、魚、そして肉など、ハイイログマと同じ雑食性の食生活を送っています。
それではなぜこんなにも大きさが異なるのでしょうか?
沿岸のヒグマは大きくなる

その理由を説明するもののひとつに、沿岸のクマが内陸のクマよりも大きくなるという、一般的な原則が挙げられます。島に棲むコディアックヒグマは基本的にすべて沿岸のクマです。つまり、彼らは一貫して魚介類を手に入れやすい環境にあります。魚介類はタンパク質が豊富で、これはコディアックヒグマの体を大きくするのに貢献しています。さらに、コディアックヒグマは魚介類をたっぷりと食べた繁殖相手と出会い、子孫を残すことが保証されています。こうして、さらに大きく成長する可能性を秘めた子熊を生み出すということを彼らは繰り返しているのです。
しかし、魚介類だけが大きくなる秘訣ではありません。
島嶼巨大化
彼らはまた、島嶼巨大化と呼ばれる現象の恩恵を受けています。島嶼巨大化は島に隔離された動物種のサイズが本土の同種に比べて劇的に大きくなる生物学的現象です。
コディアックヒグマの場合も、彼らは海域によって本土のヒグマから隔離されています。それでは、この分離によってコディアックヒグマはどのような成長する要因を得たのでしょうか?
コディアックヒグマの起源
まず、彼らがどれくらいの期間を隔離されていたのかを見てみましょう。
地質学的分析によると、コディアック諸島は最終氷期の終わりである、少なくとも12,000年前から北アメリカ大陸と物理的に分離されています。また、遺伝子検査によって、コディアックヒグマはアラスカ半島とカムチャッカ半島のヒグマに最も近縁であることが明らかになっています。これは、コディアックヒグマがアメリカ大陸のヒグマと同様に、ベーリング陸橋を渡ったユーラシアヒグマの子孫であることを示しています。
小さくなったアメリカ本土のヒグマ
言うまでもなく、広大な北アメリカ本土はハイイログマに十分な生息域を与え、個体群を増加させました。ただ、ハイイログマは今やアメリカで最も恐ろしい動物かもしれませんが、昔からそうだったわけではありません。先史時代、ハイイログマは今よりも恐ろしい捕食者たちと共存していたのです。
サーベルタイガーの代表的な種スミロドンや巨大なアメリカライオンなどの大型ネコ科動物は、この時代に生息するすべての生物にとって危険でした。体重が270kgを超え、集団で狩りをしていた可能性のあるこれらのネコ科動物は、より脆弱な子熊だけでなく、大人のクマにとっても、生存そのものを脅かす脅威となっていたでしょう。

さらに、オオカミや巨大なハイエナにも注意が必要でした。これらの群れで狩る動物は強靭な顎と、異常なほどの持久力を備えており、逃げるのは非常に困難でした。
また、当時いたほかのクマについても忘れてはいけません。ショートフェイスベアはヒグマよりも巨大で、彼らを捕食していた可能性があります。
もちろん、これらの絶滅した恐るべき動物たちはすべて、人間がもたらす脅威に比べれば大したことではありません。人間と人間活動の両方は、本土のクマに数え切れないほどの脅威を与え続けています。食料のためであれ、スポーツであれ、狩猟では多くの場合、大きなヒグマをターゲットとするため、そのような個体の遺伝子は淘汰されます。特にスポーツハンティングは何よりもサイズが重要となる世界です。大きい獲物を捕らえれば捕らえるほど、ハンターに与えられる栄光も大きくなります。
これに加え、農業、都市開発、鉱業などの人間活動は世界中に分布するクマの生息地の破壊の主な原因であり、ハイイログマも例外ではありません。生息環境が減少するということは、当然、その土地が大きなクマを維持できなくなることを意味するため、クマの平均的なサイズはどんどん小さくなります。
人間活動の影響を受けなかったコディアックヒグマ

一方のコディアック諸島では話は少し異なり、これらの島々はほとんど未開の地であるため、人間活動には制限がかかります。この土地のクマは本土の同類ほど迫害されておらず、平和に暮らし、繁栄してきました。今日、コディアック諸島は政府と非政府環境保護団体の両方によって厳重に保護されています。クマ狩りも厳しく制限されており、個体数が増えすぎたときなど、持続可能な場合にのみ狩猟が許可されています。また、これらの島々はアクセスしにくい場所に位置するため、密猟を物理的に困難にしています。
ただし、残念ながら、近年になり、アラスカと周辺の島々でも人間活動が活発になりつつあるため、衝突が避けられにくくなっています。クマが多くの魚を食べるため、漁師たちは漁獲量の減少に悩まされています。このように、クマとの生活に不満を抱く地元の人々や企業が増えるにつれて、政府に対してクマ狩りの制限を緩和するよう求める圧力も高まる可能性があります。
コディアックヒグマを捕食する肉食動物は存在せず、そのため、脅威となる人間以外の動物は同種のみです。オスのクマは島で最も多くの子熊を殺しており、自分の子ではない子熊を食い尽くすこともあります。この行動は残酷ですが、実際には健全なクマの個体数を維持するのに大いに役立っています。クマは主に単独で行動する生き物であるため、このような衝突は多くの場合、過密状態にあることの兆候だからです。
現在の所、コディアックヒグマはこの島々の王として君臨しています。コディアックヒグマは沿岸に生息し、何世代にもわたってハイイログマが直面してきた脅威のほとんどから離れて暮らすことが許されています。これらの要因が組み合わさって、コディアックヒグマは最も大きなヒグマとなっているのです。
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