近年、日本全国で人とクマの遭遇による被害が増加していますが、九州ではそのような事件は発生していません。その理由は、九州にクマが生息していないことに起因します。しかし、かつては九州にもクマが存在していました。本稿では、九州からクマがいなくなった理由を詳しく探っていきます。
現在のクマの分布と九州の状況

現在の日本には、ツキノワグマの日本産亜種であるニホンツキノワグマが主に本州と四国に生息しています。一方で、九州では2012年に環境省から絶滅が宣言されています。
記録に残る九州のツキノワグマの最後の目撃例は1941年に捕獲されたもので、大分県と宮崎県の県境付近の山中で見つかった子グマの腐乱死体が確認されています。この後、1987年には大分県豊後大野市の祖母・傾山山系で野生のオス個体が発見されました。このクマは当時すでに九州で野生のクマは絶滅したと考えられていたため、大きな注目を集めました。その後、詳細な調査により、この個体は北陸地方から移入された個体、もしくはその子孫であることが判明し、九州における固有のクマはその2年後に正式に絶滅と認定されました。
九州のツキノワグマが絶滅するまでの経緯

九州におけるツキノワグマの生息数は、江戸時代末期にはすでに減少していたとされています。その要因として、森林伐採や狩猟の圧力があげられます。特に江戸末期には、九州の一部地域で「熊塚」という風習が存在していました。クマが捕獲されるたびに慰霊碑を建て、捕獲数を制限する意識が現れていたことから、すでにその当時からクマの減少が深刻であったことがうかがえます。
昭和初期になると、九州全体でのクマの生息数は激減し、祖母・傾山山系など一部の地域に限定されるようになりました。これは、クマが必要とする餌資源や生息環境が失われたことに加え、広範な開発や狩猟活動が影響したものと考えられます。
クマの生息環境と森林資源の変化

ツキノワグマは冬眠前に大量の餌を確保する必要があります。その主なエネルギー源となるのが、ブナやナラの木の実(どんぐり)です。しかし、九州では人工林の割合が非常に高く、これらの自然植生が十分に育たない環境が広がっています。日本全体での人工林の平均割合は41%であるのに対し、九州では特に高い値を示しています。福岡県63%、佐賀県67%、熊本県61%、宮崎県57%と、いずれも全国平均を大幅に上回っており、これが九州のクマの絶滅に大きく寄与したと考えられます。
加えて、都市開発や土地利用の変化によって山々が孤立し、クマの移動範囲が狭められたことも、絶滅を加速させる要因となりました。クマは広い面積を必要とする動物であり、これらの環境変化に適応できなかったのです。
目撃情報とその真相について

九州にクマが絶滅したとされてからも、祖母・傾山山系を中心に目撃情報が寄せられることがあります。しかし、これらの証言の多くは物的証拠に乏しく、別の動物との見間違いである可能性が指摘されています。特にアナグマはクマと見間違えられることが多く、後ろ姿が似ている点が原因とされています。
九州に再びクマが現れる可能性は?

九州と本州を隔てる関門海峡付近では近年クマの目撃情報が増えています。しかし、九州にクマが自力で渡ってくる可能性は非常に低いとされています。関門海峡は潮流が速く、船の往来も多いため、泳ぎが得意なクマにとってもハードルが高いと考えられます。また、人工物であるトンネルや橋は動物にとって心理的な障害となることが多く、これらを利用して渡る可能性も低いとされています。
まとめ
九州でのクマの絶滅は、森林伐採や生息環境の変化、狩猟の圧力が主な要因とされ、その背景には人間活動の影響が大きく関わっています。一方で、祖母・傾山山系での目撃証言や、関門海峡を越える可能性についての議論が続いており、九州におけるクマの存在は今なお注目されています。
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