世界最大の淡水エイ「プラークラベーン(ヒマンチュラ・チャオプラヤ)」

生物

プラークラベーン(ヒマンチュラ・チャオプラヤ)と呼ばれる世界最大級の淡水エイは車並みの大きさがあり、毒針を持つため非常に危険です。本記事はこの巨大淡水エイについて解説しています。

プラークラベーンとは?

Barry RoggeCC BY 2.0, via Wikimedia Commons

プラークラベーンはアカエイ科に属する淡水のエイの仲間です。標準和名がないため、日本では以前に学名として使われていたヒマンチュラ・チャオプラヤなどとも呼ばれています。

日本を含む東アジアの沿岸域に広く分布するアカエイは体幅が60cmぐらいですが、これと同じアカエイ科に属するプラークラベーンは、メコンオオナマズやヨーロッパオオナマズ、ピラルクーと並び、世界最大の淡水魚のうちの一つと数えられています。

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2022年6月、メコン川で捕獲された個体の体重は300kg、体長3.98m、体幅2.2mあり、メコンオオナマズを越え、世界最重量の淡水魚として記録されました。オオチョウザメは体長最大6m、体重2700kgに達したという記録がありますが、この魚は遡河性です。

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遡河性とは、魚が産卵の時などに海から川へ登る性質を言います。プラークラベーンは遡河性ではなく、一生を淡水や汽水域で暮らします。また、プラークラベーンは長さ10m、幅5m、体重が2000kgまで成長することが可能だと考える研究者もいます。このように非常に巨大なプラークラベーンは、英語でも「Giant freshwater stingray(巨大淡水アカエイ)」と呼ばれています。

外見的特徴

彼らは他のエイと同じように円盤型の身体を持ち、小さな目と先端が突き出た鋭く尖った吻先をしています。尾部は胴体の1.8から2.5倍もの長さがあります。体色は背中が灰褐色、腹側が白くなっています。

生息地と分布

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プラークラベーンは、東南アジアやオセアニア、ボルネオ東部、ニューギニアの大きな河川や汽水域に生息し、メコン川からチャオプラヤー川、バーンパコン川流域に多く分布しています。意外なことに人口密度の高い都市部の近くでも見られ、2022年にミャンマーのカラダン川に存在することが確認されています。

かつてはインドネシアのジャワ島やインドのガンジス川、ベンガル湾など、南アジアや東南アジアに広く分布していた可能性がありますが、現在は多くの場所で絶滅しています。それぞれの河川で個体群が孤立しており、彼らは汽水域に生息できるものの、海を横断することはできないと考えられています。

食性と生態

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プラークラベーンは底生動物を好む肉食性で、小さな魚類や甲殻類、軟体動物などの無脊椎動物を捕食していますが、しばしば川の底に現れ魚などを食べます。彼らは他のエイ類と同様、頭部にロレンチーニ器官と呼ばれる微弱な電流を感知する電気受容感覚を持っており、これで獲物を感知し捕食します。

繁殖方法

プラークラベーンの繁殖は卵胎生であり、妊娠期間が長く、妊娠中のメスは河口で頻繁に見られます。発育中のエイは最初は卵黄によって養われますが、子宮の内壁からミルク状の液体(子宮ミルク)が分泌されるため、赤ちゃんはそれを飲んで成長します。こうして30cmぐらいにまで成長した赤ちゃんが一度に1から4匹ほど生まれます。

オスは直径約1.1mで性的に成熟しますが、メスが成熟する体長やその他の生活史の詳細はまだよくわかっていません。寿命は不明ですが、40年以上生きると推測されています。

危険性と毒針について

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プラークラベーンは攻撃的ではなく、人間を捕食するようなことはありませんが、尾の根元近くに毒のあるノコギリ状の鋭いとげがあるため注意が必要です。とげの毒は他のエイ類と同じもので、エイの中でも毒性が強くなります。この毒が体内に入ると細胞を破壊し始めるため、刺されると激痛に襲われます。その上、とげにはノコギリ状の返しがあり、一度刺さると抜きにくくなってしまいます。

痛みは数週間続き、場合によっては発熱、嘔吐、血圧低下などを発症することもあります。さらに、アレルギー体質の人はアナフィラキシーショックにより死亡することもあります。特にプラークラベーンのトゲは巨大で、最大で38cmもの長さになります。そのため、人間の骨をも簡単に突き刺してしまいます。また、生体が死んでも毒は残るので注意が必要です。彼らは川の浅瀬にも現れるため、現地の人々に恐れられています。

万が一刺されたら、まず毒を絞り出し、傷口を洗い流した後、すぐに病院で治療を受けるようにしてください。

漁獲と食用について

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プラークラベーンは延縄に偶然かかることがありますが、船に上げるのは難しく相当な時間がかかります。彼らは大量の泥の下に潜るため、持ち上げることがほとんど不可能となります。さらに、尾でかなりの距離を引っ張ってしまう上、水中に引きずり込むことすらあります。

プラークラベーンは肉や軟骨が食用にされることがあります。これらは一般的なエイなど、他の種類のエイに似た味がすると報告している人もいます。彼らの肉は固くて白く、鶏肉や豚肉に例えられることが多く、マイルドな味わいと言われています。ただし、彼らは国際自然保護連合において絶滅危惧種に指定されているため、勝手に捕まえたり食べたりすると違法になるので注意してください。

保全状況と問題点

プラークラベーンは巨大で引きも強いため、メコン川などではスポーツフィッシングの対象となっています。また、水族館で展示するために捕獲もされていますが、これらの活動は現在保全上の問題を引き起こしています。それは、スポーツフィッシングはキャッチアンドリリースが習慣的には行われておらず、リリースされた場合でもその後生存できているかが不明だからです。また、水族館では上手く生き残れていない場合があります。

このような乱獲以外にも、森林伐採、土地開発、ダム建設による生息地の減少が問題となっています。ダムの建設は個体群を分断し、遺伝的多様性を減少させているのです。

1990年代、タイ政府は飼育下での繁殖プログラムを開始し、生息地の改善問題が改善されるまで、このエイやその他の淡水エイ類の個体数を増やしてきましたが、1996年までにこの計画は中断されています。

2016年にはタイのメコン川にとある企業が産業排水を排出し、プラークラベーンを含む多くの魚類が大量死しました。この件を受けて、2019年にタイ当局が排水排出企業に損害賠償を請求しています。

彼らは繁殖率が低いため、一度減少するとその数を戻すのが困難です。タイやカンボジアでは過去20から30年間で個体数が30から50%減少し、一部の地域では95%も深刻な減少が見られました。さらに平均体重も大幅に減少しており、たとえばカンボジアで捕獲された個体の平均重量は、1980年の23.2kgから2006年には6.9kgにまで減少しています。

世界最大の淡水魚として知られるプラークラベーンの保全は、生物多様性の保全において重要な課題となっています。一人ひとりが環境問題に関心を持ち、このような素晴らしい生き物を守っていきましょう。

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