なぜイルカを家畜化できなかったのか?

生物

みなさんはイルカが頭のいい動物だということはご存知だと思います。水族館で芸を覚え、ブラジルでは人間の漁を手伝っているイルカの集団もいます。また、古来よりあなたたち人間はイルカを食用などで利用してきました。そして、近年では軍用にイルカが調教されてきました。それはなぜ人類にとって有用だったイルカは家畜化されなかったのでしょうか?

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家畜化とは

本題に入る前に家畜化とは何かについて理解しておく必要があります.

家畜化とは動物を人間の存在に慣らす単純な過程である調教や飼いならしとは異なり、人間がその動物の生殖を管理し、さらにその管理を強化して行く過程を言います。この過程において、人間にとって有益な特徴を多く備える個体を、その動物の群れの中から選択し続けるため、代を重ねることで遺伝子レベルでの好ましい変化が現れ、それが固定化することによって家畜化が成功します。

その為、ある動物を家畜と呼ぶには選択交配を行ない、野生種と遺伝的に異なっている必要があります。

家畜とは人間にとって好ましい特徴を出すため、人間が進化の過程に影響を与えた種いうことになります。どんなによく調教され、人間の指示に従うアジアゾウであっても、彼らは選択交配がされていないため家畜と呼べず、飼いならされた動物です。

イルカと人類の関係

イルカは賢い動物としてよく知られています。彼らは体重に占める脳の割合である脳化指数が人に次いで大きい動物です。また、イルカはコミュニケーション能力が高い動物です。

ブラジル南部のラグナではイルカと漁師が協力関係を結んでいます。漁の様子はまず、ハンドウイルカが魚の群れを海岸に追い込みます。この時、漁師たちは網を持って一列に並び、腰まで水につかって待ち構えています。彼らは水が濁っていて魚が見えないため、イルカの動きを注視しています。そして、イルカ達が頭を水面に打ちつけると、漁師たちはそれを合図に網を投げます。このよう漁師たちはイルカの合図によって、魚の居場所がわかるのです。一方のイルカは漁の網によって群れがバラバラになるため、群れから外れた魚を捕まえることができます。

先史時代の世界各地の貝塚から、イルカをはじめとするクジラ類の骨などが見つかっており、これらの骨は生活の道具として利用されてきました。日本でも約8000年前の縄文前期の遺跡、千葉県館山市のイ稲原貝塚において、イルカの骨に刺さった黒曜石の石器が出土していることや、約5000年前の縄文前期末から中期初頭には富山湾に面した石川県、真脇遺跡で大量に出土したイルカの骨の研究によって、積極的捕獲があったことが証明されています。現代でも南太平洋の島国や日本の一部、カナダのイヌイット地域などで肉が食用にされています。

なたmイングランドの宮廷では17世紀ごろまでイルカが食卓にならんでいました。

使役動物としてはアメリカ海軍において軍用イルカとして機雷の探知やダイバー救助などに使用されています。米海軍が和歌山県の太地漁港からハナゴンドウを購入した事例もあります。

このようにイルカは昔から現在にかけて人類に利用されてきました。では、なぜイルカはこれまで家畜化されることがなかったのでしょう。

狭すぎる飼育環境

イルカを家畜化できなかった理由のひとつに飼育する広さが挙げられます。

イルカは海に棲んでいるため、ウマやイヌのように人間の近くで管理することができません。野生のイルカの中には、一日に160キロもの距離を泳ぐものもいます。また、殆どの種は海の深い場所までもぐることが多く水面で過ごす時間はたったの2割ほどです。

水族館のプールや生簀では、このような海の広さや深さを再現することはできません。

イルカは狭いプールに閉じこめられるとイライラし、攻撃的になってしまいます。そして、他のイルカや時にはトレーナーを攻撃することもあります。

イルカの脳のサイズは大きいものの、グリア細胞の割合が多くニューロン自体の密度はそれほど高くありません。脳のサイズのみから知性のレベルを判断することはできないのです。イルカの脳は高性能ですが、イルカが人間と同様の知性を持つ、あるいは人間以上の知性を持った存在として描かれる作品は多数存在するものの、いずれも科学的根拠に乏しいフィクションです。

彼らの賢さは海で生活するのに適応したものに限定されています。

そのため、トレーナー達は芸を教えるときは彼らの特性を引き出すようにしています。例えば、水上にジャンプする行動も、移動の時明かりの時に普通に見られる行動です。また、自然界でイルカは子供も大人もよく遊ぶため、そういった行動をうまく引き出しているに過ぎないのです。

そのため、イルカはあなたたち人間とは違い、嫌なことを我慢することはほとんどありません。彼らは空腹な時にしか芸をしないのです。

イルカの選択交配は難しい

イルカを家畜化できなかったもうひとつの理由として、家畜動物として最も重要である選択交配がしにくいことが挙げられます。イルカは飼育下での繁殖率が非常に低く、流産や死産が多い動物です。

また、誕生から一年後の生存率は僅か20%程度と言われています。

そして、水族館で飼育されているイルカの多くはメスなので、自然繁殖させるにはオスのいる他の水族館にメスを移動させたり、逆にオスを連れてきたりする必要があります。

それらのマッチングや移動、繁殖用プールの整備などに多くのコストがかかります。それに加え、イルカ自身の身体的負担も大きくなります。

このような問題から、イルカは家畜化されることがなかったのです。

家畜化が難しい動物の特徴はジャレド・ダイアモンドによる1997年刊行の書籍『銃・病原菌・鉄』にて詳しく説明されています。

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