トラのように大きなイヌ科動物がいない理由

生物

ネコ科動物の中にはトラ、ライオン、ヒョウなどのように非常に大型になるものがあります。これに比べてイヌ科動物はどれも大型ネコ科動物ほど大きくなりません。いったいなぜでしょう?

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最大のネコ科動物

現存のネコ科で最大の野生種はアムールトラです。アムールトラはロシアと中国東北部の国境を流れるアムール川周辺に生息し、体長は250から330cm、体重は180から300kgになり、オスの個体では体重350kgを超えた例も報告されています。

ちなみに父がライオンでは母がトラの雑種動物であるライガーは400kg以上に及んだ個体もいることが確認されています。『ギネス世界記録 2014』には最大の個体が体長333cm、体高125cm、体重418.2kgと記録されています。

ただし、ライガーの全てが人工飼育下で生まれた個体です。

現在の野生下でライオンとトラの生息地は主にアフリカとアジアに分断されており、例外としてインドのギール野生生物保護区が両種が共生する地域として存在するが野生での交雑は現時点で確認されていません。また、ライガーは特に心臓や腎臓において先天的な疾患や後天的にも骨の発育不全などの病気を患うケースが多く、成獣となる6歳前後まで生存できる個体は多くありません。更にライガーのオスは全く繁殖力を持ちません。メスには繁殖力のある個体が発生し、ライオンやトラとの間に子をもうける場合がありますが、さらに生まれた子はオスメスともに生殖機能がないために以後の繁殖はできません。

これらのことから、ライガーは野生では生き残ることができないと考えられています。

イヌ科最大の動物

一方、現存するイヌ科の野生動物の中で最大の種はオオカミです。オオカミの大きさは種類や地域によっても変わってきますが、一般的には体高60から90cm、体長100から160cm、体重25から50キロほどです。1939年にアラスカで発見された79kgの個体が記録上の最大種とされていますが、2012年にはカナダのマニトバ州で89kgのオオカミが捕獲されています。

また、ギネスの記録において、世界一背の高い犬はグレートデンという犬種です。2012年にはミシガン州で飼われていた体高111.8cmで体重70.3 kgのゼウスという名前のオスがギネスに記載されています。

そして、世界で最も体重が重い犬はゾルバと名付けられたイングリッシュ・マスティフで体重155kgの記録を持ちます。ただし、これらの大型犬種は自然に存在するイヌ科動物から人間が作り出し、繁殖させたものです。

狩猟戦略の違いのため

トラやライオンなどのネコ科動物は独自に繁殖し、進化した種であるにもかかわらず、これらの犬種の大きさをはるかに超えています。

このネコ科動物がイヌ科動物より大きい理由はすべて狩猟戦略というひとつの点に集約されます。これらふたつの動物のグループは狩猟戦略がそれぞれ異なります。

ネコ科の狩猟方法

大型ネコ科動物は通常、単独で狩りをし、獲物を捕らえるために素早いスピードと爪に頼っています。彼らは他の哺乳類の捕食動物とは一線を画した独特の狩猟方法やスキルで知られています。その狩猟において最もよく使うテクニックは忍び寄ってとびかかるというものです。

ネコ科動物は獲物を見つけると地面に伏せた姿勢でそっと近づきます。次に、獲物を追いかける準備ができたら、後ろ脚でためを作って力強く飛び掛る準備をします。そして、かみそりのようになった爪で逃げる動物を引っ掛けて引きずり倒します。このように、獲物を単独でねじ伏せるために大きな体が必要となります。

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イヌ科動物の狩猟方法

これに対し、オオカミが狩りをする時の最も特徴的な行動は群れで獲物を追いかけることです。彼らはネコ科の動物とは異なり、協力的なチームワークで獲物を仕留めます。イヌ科動物は鋭い嗅覚、聴覚、または視覚によって獲物を発見し、そして獲物が疲れるまで長い距離を追いかけます。

この種の持久力走において体格が大きいことは非常に不利となります。体が大きいと動き回るのにより多くのエネルギーが必要で、獲物を仕留める可能性が低くなってしまうからです。イヌ科動物の爪はネコ科動物に比べると特に致命的ではありませんし、木を登ることもできません。また、彼らは大型ネコ科動物よりも小さく瞬発力に欠けますが、その代わり顎を使って獲物の脇腹に噛みつき、足の骨を折り、筋肉を傷つけ、最終的に動けなくなるまで苦しめます。

このような獲物を追跡する本能はネコ科の狩猟本能と同じようにイヌの精神にも根付いています。

ライオンはプライドという群れを持ちますが集団で狩りをするものの、その狩りの仕方はネコ科のもので獲物を追い回すことはしませんし、そもそも持久力が無い為できません。

このようにネコ科動物はパワーとスピードに頼っており、一方イヌ科動物は持久力が重要となります。これがこのふたつのグループの大きさの違いを生んでいるのです。

先史時代の巨大なイヌ科動物

Jarrod Amoore from Sydney, AustraliaCC BY 2.0, via Wikimedia Commons

ただし、先史時代にはもっと大きなイヌ科動物が存在していました。

エピキオンは前期中新世から後期中新世までの約1500万年の間、北米に生息していたイヌ科の属で、これまでに存在していた最大のイヌ科動物でした。

この属の中でもエピキオン・ヘイデニ(Epicyon haydeni)は体長が2.5m、体重が約100から125キロで、最大の個体は体重が170kgあったと考えられています。これはダイアウルフやジャガーよりも大きく、現代のアフリカライオンとほぼ同じ大きさです。

エピキオンは巨大な頭と骨を砕くのに適した強力な顎を持ち、頭蓋骨はオオカミではなく、むしろライオンのような形をしていました。

彼らの狩りの方法はまだよくわかっていませんが、単独でまたは群れで狩りをした可能性があり、北アメリカではクマの仲間のアグリオセリウムやサーベルタイガー、そして他のイヌ科動物と縄張りを共有していました。これらの動物はすべて潜在的な競争相手であり、エピキオンと食料や縄張りをめぐって衝突していたようです。エピキオンの獲物にはラクダの仲間やサイの仲間など大型の草食動物がありました。

しかしその後、エピキオンや他の大型捕食動物は獲物が減少したため絶滅したと考えられており、代わりに小型のイヌ科が繁栄するようになりました。

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