ヤブイヌが絶滅していたと思われていた理由

生物

ヤブイヌは南米大陸に広く分布しているにもかかわらず、化石が発見された当初、絶滅種だと考えられていました。それではなぜ人間はヤブイヌを見つけられなかったのでしょう?

この記事はこの非常に珍しい動物ヤブイヌについて説明しています。

絶滅種と思われていたヤブイヌ

1842年にデンマークの古生物学者ピーター・ウィルヘルム・ルンドによってブラジルの洞窟でヤブイヌの化石が発見されました。ただ、発見される前にはこの生物の生きている姿は目撃されていなかったため、当初は絶滅種だと考えられていました。

それがその数十年後に、生きている姿が発見されたため、科学者たちを驚かせたのです。

ヤブイヌはコスタリカからアルゼンチンの北端まで、南米大陸のほとんどの地域で繁栄しています。彼らは熱帯雨林、草原、沼地など、十分な隠れ場所と水場の近くならどこでも生息することができます。

それなのにヤブイヌはなぜ人間に発見されることがなかったのでしょうか?

それは、アマゾンがアクセスの困難な未開の地であるとともに、ヤブイヌの警戒心が非常に高いためです。彼らは非常に臆病な性質を持ちます。そのため、一般的に人間が近づけない場所を好み、人間を非常に恐れ、道路や小道を避けます。トラップカメラに現れることすらめったにありません。

それが、20世紀になってようやく彼らについての理解が少しずつ深まってきました。

ヤブイヌとはどんな動物か

ヤブイヌは食肉目イヌ科ヤブイヌ属に分類され、現生種では本種のみでヤブイヌ属を構成します。

彼らの体長は57~75cm、体重は4~7kgくらいです。四肢は短いのですが、体型は頑丈で全身が暗褐色の粗く短い体毛で被われています。また、鼻先も短く、耳が比較的小さいことから、全体的にかわいらしい印象があります。

ヤブイヌの脚が短いのは藪の中を移動したり、水中を泳いだりするのに適しているからだと考えられいます。さらに彼らのその短い脚には水かきがついており、このため泳ぎが得意です。

ヤブイヌはカワウソのように水中でも獲物を追いかけることができ、群れで獲物を追い、他のヤブイヌが待ち構えている水中に追い込むこともできます。この戦略はオセロットやジャガーの攻撃から逃れるために水に飛び込むことが多いカピバラなどのげっ歯類に対して特に効果的です。

もしあなたが巨大で恐ろしいジャガーに追われているとき、小さくてかわいいヤブイヌが待ち構えている水中に逃げる方を選ぶかもしれません。しかし、見た目に騙されないでください。ヤブイヌはビーグル犬よりも小さいですが、ペッカリーやレアなど、はるかに大きな獲物を仕留めることができ、6匹の群れが250kgのバクを狩ったという報告もあります。

バクは成獣の体長が1.7から2メートルにまでなるアマゾン最大の野生動物です。ヤブイヌはそのバクを狩るために、群れで追いかけて何度も足を噛み、失血して死ぬまでこれを続けます。

そのため、ヤブイヌから逃れられる動物はほとんどいません。

このようにヤブイヌは他の多くのイヌ科動物と同様に、非常に順応性が高く、最も豊富な獲物に狙いを定めます。ブラジルのパタノール地方ではアルマジロが彼らの食事の90%以上を占めています。また、パラグアイの山岳地帯の森林ではげっ歯類が彼らの好物です。そして、果物が豊富なブラジル南部の大西洋岸森林では、肉と同じくらい果物を食べるように適応しています。

ヤブイヌは南米のイヌ科動物の中で最も社会性を持ち、ペアもしくはその幼獣から構成される小規模な群れを形成し、生活します。彼らは頻繁に鳴き声を交わし合って、見通しの悪い藪の中でも連絡を取り合うことで群れを維持していると考えられています。また、尻尾を振ったり、キーキー鳴いたり、服従の意思を表すなど、犬にとても似た行動で社会的結束を維持しています。

ヤブイヌは昼も夜も活動し、よく尿や排泄物で縄張りをマーキングします。この時、逆立ちして放尿し、臭いをつけます。メスの方がマーキングの頻度が高く、ペアを形成したときに特に回数が増加することから、マーキングがペアの形成や維持に役立っていると考えられています。

妊娠期間は65から83日で、倒木の下などに1度に1から6匹を産みます
授乳期間は4から5か月ですが、
その間、オスも子育てに参加し、授乳中のメスに食物を運びます
また、群れの他の個体も従属的であり、子どもの育児や保護を手伝います
飼育下では13年4か月生きた例が知られています

ヤブイヌの系統

ヤブイヌはDNA解析の結果、タテガミオオカミと系統が近いことがわかりました。タテガミオオカミは南米の草原に生息する、シカのように長い脚が特徴的なイヌ科動物です。彼らはヤブイヌとは違い、単独で狩りをします。

この対照的な二種が親戚というのは非常に興味深いことですが、残念ながら、彼らの共通の祖先はまだわかっていません。これは熱帯雨林では動物は化石になりにくく、化石になったとしてもすぐに植物に覆われてしまい、後から見つけるのはほぼ不可能だからです。

ただ、DNA分析によると、この祖先はヤブイヌのような姿をしており、ジャングルから出て草原に適応したのがタテガミオオカミだと考えられています。

ヤブイヌの保全状況

現在、ヤブイヌの個体数は減少傾向にあります。

彼らは獲物を捕まえるため、行動範囲が非常に広いのですが、牧場経営や採掘による熱帯雨林の伐採が進む中、生息地が狭くなっているため必要な食料を捕まえることができなくなっています。そのため、ヤブイヌは狩りや生活の場を失いつつあり過去12年間で個体数は25%減少しています。

さらに、密猟、イヌがヤブイヌの獲物を捕食してしまうこと、イヌからの感染症の伝播なども生息数の減少の一因となっています。

そのため、ブラジルやペルーでは法的に保護の対象とされ、1977年に、ワシントン条約附属書一に掲載されています。ただ、ヤブイヌの生態について、世界の他のイヌ科動物に比べてほとんど知られていないため保護はまだ初期段階にあります。

また、高知県立のいち動物公園によれば飼育下での繁殖も難しく、国内のヤブイヌは2012年に29頭だったのが、2020年には15頭に減少したといわれています。

しかし、ヤブイヌにとって朗報なのは、つい最近の2020年に、コスタリカのタラマンカ山脈のカメラトラップにヤブイヌが捉えられたことです。これは、ヤブイヌがこれまで考えられていたよりも北上し、さらに標高の高い場所に生息域を拡大している可能性があることを示唆しています。そのため、人間が団結してヤブイヌの保護を行えばうまく環境に適応して安定した個体数を維持できる、あるいは数を増やすこともできるかもしれません。

この記事はYouTubeの動画でも見ることができます。

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