アメリカには非常に甘くておいしいのにも関わらず、ほとんどの店で売られていない果物があります。その果物の名前はアメリカガキ(Diospyros virginiana)といい、これはみなさんもよく知っている柿の仲間です。
それではなぜアメリカガキはお店で見ることができないのでしょうか?この記事はこの忘れ去られた果物アメリカガキについて説明しています。
アメリカガキとは?

アメリカガキはコネチカット州南部からフロリダ州、西はテキサス州、ルイジアナ州、オクラホマ州、カンザス州、アイオワ州など、米国南東部だけでなく、東部の多くの地域で広く見られます。
この木は開けた場所の、水はけのよい土壌で育ち、高さ20メートルくらいまで成長します。
アメリカガキの果実は通常、樹齢約6年で実り始めるといわれていますが、この種は雌雄異株であるため、果実を得るには雄株と雌株の両方が必要です。5月から6月ごろになると、アメリカガキは香りのよい、緑がかった黄色か乳白色の花を咲かせます。そして、花粉が昆虫と風によって運ばれ、受粉するのです。こうして秋になり、先に葉を落とした後、ゴルフボールほどの大きさのオレンジ色の果実を実らせます。
この木は原産地では特に珍しい種ではなく、車で走っているだけでも、道路脇でたくさんの実を見ることができます。
未熟な果実は非常に渋い

しかし、簡単に見つけられるからと言って、果実の状態を見ずにすぐ食べようとしないでください。
それは、アメリカガキの熟していない果実は、信じられないくらい渋いからです。ある専門家によると、どんぐりを地面からひろってそのままナマで食べるより、10倍くらい渋いと評価されています。これは、最も不快な経験のひとつといえるでしょう。
そのとても渋い苦みは、それに馴染みのない人たちには衝撃的だったため、南部の人は未熟な柿の果実を余所者にわざわざ味わわせ、その反応を楽しんでいたほどです。
この果実特有の渋みはタンニンを多く含んでいるからで、渋みは口腔内のタンパク質と結びつくことによって生じます。
熟すと甘くなるアメリカガキ

しかし、興味深いことに、この渋みは果実が完熟すると完全になくなるのです。しかも、非常に糖度が高く甘くなり、ある人はその味は熟した桃にシナモンとクローブを振りかけ、キャラメルで包んだような感じと表現しています。また、その食感は最も素晴らしいプリンのようだそうです。
アメリカガキの属名はギリシャ語で「神の果実(Diospyros)」という意味になり、まさにこの果実は天にも昇る味のため、ふさわしい名前といえるでしょう。
様々な動物や人に消費されてきたアメリカガキ

そのため、アメリカガキは多くの鳥やアライグマ、スカンク、オジロジカ、イノシシ、ムササビ、オポッサムなどの哺乳類の食料源となっています。
また、1万年前までは北米大陸を歩き回っていた、更新世の大型動物によっても消費されていました。2015年の研究では、柿の種子が現代のゾウの腸を通過すると、種子の発芽率が上がり、発芽までの時間が短縮されることが判明しています。そのため、絶滅する前の更新世のゾウ科の動物が、アメリカガキの種子散布を手伝っていた可能性があります。
そして、このアメリカガキを消費していたのは動物だけではありません。この木は先史時代からネイティブアメリカンによって、果実と木材を得るために栽培されてきました。そのため、いくつかの栽培品種が知られており、その多くが受粉なしで種のない果実をつけます。
アメリカガキの実が一般に流通していない理由

それなのに、今日において、一般に売られていないのはなぜでしょう?
それは、アメリカガキがちょっと気難しい果物で、ちょうどいい時期に収穫するのが困難なためです。
もし現代の農機具か何かを使って大量に収穫しようとすると、熟したものの中に未熟なものがたくさん混ざってしまうでしょう。そのため、おそらく大規模に収穫する方法はないと考えられます。
また、その見た目の悪さも問題となっています。アメリカガキは完熟すると、腐ったように見え、外側に黒っぽい斑点ができ、これはまるでカビが生えているようです。
そして、本当に醜い上に、非常に糖分が多いため、とてもねばねばしていてすぐに崩れてしまいます。ですから、たとえ小さな袋にアメリカガキを入れて持っていたとしても、家に帰る頃には全部溶けてひとつの塊になっているでしょう。
このように、アメリカガキはアジア産の柿よりも柔らかすぎて商業輸送に適さないため、商業用果物として受け入れられることはありませんでした。
そのため、アメリカガキは野生のものを収穫するか、自分で栽培するかでしか手に入らないのです。
日本や東アジアの渋柿もドロドロにまで熟すと甘くなりますが、同じ理由で流通が困難なため、未熟なものを様々な方法で渋抜きをして利用されています。
世界各地で栽培されている柿の品種の多くは甘柿

日本の柿も、もともとすべてが渋柿でしたが、ある時、突然変異によって甘柿が生まれました。この変異が起こったのは鎌倉時代といわれています。
現在、世界各地で栽培されている柿の品種の多くは甘柿です。アメリカでもFuyu(富有柿)などの品種が、店頭で並ぶことがあります。
これは、これらの品種が輸送しやすいことと、一部の品種は熟していないときでも味が良いためです。日本産の柿はアメリカでは特にカリフォルニアでより一般的に栽培・販売されています。
これまで、アジア産のカキは品種改良によって何世紀にもわたって改良されてきましたが、アメリカガキは品種改良にはほとんど注目されてきませんでした。そのため、名前の付けられている栽培品種はほとんどが偶然生まれたものです。
ただし、近年、渋みのない栽培品種を何人かのブリーダーが作り出しており、栽培品種によっては他の品種よりも早く甘くなり、柔らかくなる前に食べられる品種もいくつかあるそうです。そのため、今後、アメリカガキがより一般に流通されるかもしれません。
アメリカガキをどこででき入れることができるか?

そうは言っても、今すぐにでもアメリカガキを食べてみたいと思ったかたは多いでしょう。そんなかたは、アメリカのファーマーズマーケット、特に伝統的な果物を専門とする店舗をチェックしてみてください。このような店舗ではシーズンになると、庭で取れたものが売られている可能性があります。
アメリカガキの利用
アメリカガキは前述したように非常の糖度が高く、生で食べる以外にも、とても用途が広く、さまざまなレシピに使用できます。
例えば、パイやプリン、パン、ジャム、クッキー、キャンディー、ケーキなどがあげられます。ネイティブアメリカンもトウモロコシの粉を使って焼いたパン、コーンブレッドやプリンに使用していました。
また、果肉から糖蜜を作ったり、ホップやコーンミールと共に発酵させて、ビールのようなものにしたり、ブランデーにしたりもできます。
さらに、アメリカガキは果実以外の部分も利用され、葉からハーブティーを作ることができ、焙煎した種子はコーヒーの代用品として使われます。
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