大豆より高たんぱくな健康野菜「ミジンコウキクサ」が日本で雑草扱いされている理由

植物

ミジンコウキクサは東南アジアでは数百年にわたって食べられてきた歴史を持ち、近年、欧米の健康食品分野で注目され始めています。また、宇宙での長期ミッションに備えた食料として本格的な研究を始めており、ハーバード大学の食堂でも提供されました。

しかし日本では、この植物は農家にとって水田に繁茂する厄介な雑草であり、せいぜいメダカの餌として認識されているにすぎません。それではなぜ日本ではこれほどまでに扱いが違うのでしょうか。そして、この小さな植物のいったい何がそれほど優れているというのでしょうか。本記事はミジンコウキクサについて詳しく解説しています。

この記事の要約

  • ミジンコウキクサは世界最小の種子植物で、タンパク質を乾燥重量で最大45%含み、9種類すべての必須アミノ酸やビタミンB12も含む、栄養面で突出した水生植物である。
  • 東南アジアでは数百年にわたり食材として利用され、近年はイスラエル発のブランド「マンカイ」として科学的研究が進み、ハーバード大学の食堂提供や米国市場への進出を果たすなど世界的なスーパーフードとして成長している。
  • 欧州宇宙機関が月面ミッション向けの自動栽培システム開発を進めるほど宇宙食候補としても注目される一方、日本では水田の雑草やメダカの餌としか認識されておらず、自然採取は重金属汚染のリスクがあるため注意が必要。

ミジンコウキクサとは

Andrey Zharkikh from Salt Lake City, USACC BY 2.0, via Wikimedia Commons

ミジンコウキクサはオモダカ目・サトイモ科に属する小さなウキクサで、池や湖などの水面に浮かんで生育します。大きさは直径0.1から0.2mmほどで、ミジンコウキクサ属の中でも小型の種であり、世界最小の種子植物ともいわれています。見た目は水面に浮かぶ小さな葉のように見えますが、厳密には葉ではありません。

普通の植物は葉・茎・根という三つの器官がそれぞれ分かれていて、それぞれが別々の役割を担っています。しかしミジンコウキクサにはそのような分化がなく、植物体全体がひとつのまとまりになっています。葉の役割も茎の役割も、すべてこのひとつの塊が担っており、根すら持っていません。この「葉でも茎でもない」植物体のかたまりのことを、植物学ではフロンドと呼び、日本語では葉状体と訳されることが多いです。フロンドという言葉はシダ植物の葉を指すのにも使われますが、ウキクサの場合は葉・茎・根が一体化したもの全体を指すため、研究者によっては「フロンド」という呼び方も厳密には正しくないという意見もあります。また、根を持たない点は、同じウキクサの仲間の中でも特に進んだ退化の例です。

ミジンコウキクサはフロンドの内部にある「reproductive pocket(生殖ポケット)」と呼ばれる空洞から新しいフロンドが出芽することで増えていきます。この構造により、ミジンコウキクサは条件が整えば非常に速いスピードで数を増やすことができます。平均して約5日ごとに新しいフロンドが生まれ、増殖を繰り返していくといわれています。

花は雄しべひとつと雌しべひとつだけからなる極めてシンプルな構造で、被子植物としての最低限の要素しか持っていません。ミジンコウキクサは世界最小の花を咲かせる植物でもあり、あまりに小さいため、肉眼で花を確認することもできないほどです。


世界的な分布と外来種としての状況

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ミジンコウキクサの原産地は東南アジアで、インド・中国・タイなどの熱帯・亜熱帯地域に自生しています。しかし現在では、水生植物の取引などによって、北米・南米・アフリカ・オセアニアに分布が拡大しています。観賞用の水草やアクアリウム用の植物は国際的に流通しており、その過程でウキクサ類が他の水生植物に混ざって運ばれることがあります。こうして持ち込まれたウキクサは、観賞魚の飼育や水槽の水を捨てる際に自然の水域へ入り込み、そのまま定着してしまうケースがあるのです。

ミジンコウキクサは温暖で日当たりがよく、栄養分の豊富な水を好む植物で、その驚くべき適応能力により、さまざまな淡水環境で生育することができ、池や湖、流れの緩やかな川の水面を覆うほど密集した群落を形成することがよくあります。

このようにミジンコウキクサによって水面が覆われると、水中へ届く光の量が減り、水草などの水生植物が十分に光合成できなくなる可能性があります。その結果、水中の植物が減少し、水域の生態系に変化が生じることがあります。また、水面が広く覆われると空気と水の間のガス交換が妨げられ、水中の溶存酸素が低下する場合もあります。そのため、在来の水生植物と競合する外来種として生態的影響が懸念されている地域もあります。例えばアメリカのフロリダなどでは外来種として認識されており、在来の水生植物との競合や地域の生物多様性への影響が懸念されています。

日本では自生種とされることもありますが、多くの場合は帰化植物とみなされており、最初に報告されたのは1938年です。現在は関東・北陸以西の本州、四国、九州、沖縄に分布しています。日本でもミジンコウキクサは農業や在来の水生植物にとって厄介な存在とみなされており、国立環境研究所では注意が必要な侵入生物として紹介されています。

また、日本国内ではミジンコウキクサはメダカなど観賞魚の餌としても販売されています。植物性の生き餌として、浮かべておくだけでメダカがいつでも食べられるという手軽さから、メダカ愛好家の間では広く知られています。


タイなどでの利用の歴史

このように、ミジンコウキクサは日本では厄介な雑草、あるいはせいぜいメダカの餌程度の存在ですが、東南アジアでは全く異なる扱いを受けてきました。タイ、ミャンマー、ラオス、カンボジアでは数百年にわたって食材として日常的に使われてきたのです。

タイでの呼び名は地域によって異なり、「カイナム」や「プム」、「パン」などと呼ばれています。カイナムはタイ語で「水の卵」という意味で、砂粒ほどのウキクサが水面を覆う様子が卵を連想させたのかもしれません。収穫は年間9か月、11月から7月にかけてで、だいたい週2回行われます。自然の水路から採取されて家庭で消費されるのが一般的で、地方市場でも販売されています。

植物自体には味はなく、さまざまな料理に使いやすいとされています。たとえば「ゲーンパム」と呼ばれる料理では、ミジンコウキクサに豚ひき肉や鶏肉を合わせて煮込み、カレー風味のスープとして仕上げます。また、北部では「クアパム」と呼ばれる調理法があり、こちらはミジンコウキクサを香味野菜とともに炒め、おかずとして食べられています。さらにオムレツ、麺のスープ、焼き菓子、スムージーなど幅広い料理にまで使われています。ただし、生食の場合は消化吸収を妨げる物質である抗栄養素が含まれるため、加熱してから食べることが推奨されています。

食べ物としてだけでなく、タイの伝統医学では消化を助け、吐き気を抑える効果があるとされ、民間療法としても長く受け継がれてきました。ミジンコウキクサは増殖が非常に速く、自然に採れる量で十分だったため、もともとは自然の水路から採取するだけで、栽培はされていませんでした。しかし、食材としての認知が高まった現在では、タイを中心に養殖・栽培も行われるようになっています。特にタイ東北部のイサーン地方では栽培が盛んです。


栄養素

Andrey Zharkikh from Salt Lake City, USACC BY 2.0, via Wikimedia Commons

この小さな植物には、注目すべき栄養素が含まれていることが研究によって明らかになってきています。ミジンコウキクサの栄養価で最も注目されているのが、タンパク質の含有量です。栽培条件によって異なりますが、乾燥重量で最大45%に達することが報告されており、これは乾燥大豆の36%を上回る水準です。ミジンコウキクサのタンパク質は、ただ量が多いだけではありません。一般に植物性タンパク質は必須アミノ酸が不足しがちですが、ミジンコウキクサは国際的に推奨される基準を満たす、9種類すべての必須アミノ酸を含んでいます。このように、体づくりに必要なアミノ酸がバランスよくそろっているため、卵や牛乳と同じくらい質の良いタンパク質だと評価されています。

ミジンコウキクサにはタンパク質だけでなく、脂質も少量ながら含まれています。この脂質の特徴は、体に良いとされる多価不飽和脂肪酸が多いことです。特に、現代の食生活では摂りすぎになりがちなオメガ6よりも、健康維持に役立つオメガ3のほうが多く含まれています。オメガ3は血液をサラサラにしたり、炎症を抑えたり、心臓や血管の健康を守ることで知られている成分です。

また、食物繊維も豊富で、これは腸の調子を整えたり、血糖値の急な上昇を抑えたりする働きがあります。さらに、鉄やカルシウム、マグネシウム、亜鉛などのミネラルも含まれており、貧血予防や骨の健康、体の代謝を支えるうえで欠かせない成分です。抗酸化物質としては、ベータカロテンやポリフェノール、フラボノイドが含まれています。これらは体の中で発生する酸化ストレスを抑える働きがあり、細胞の老化を防いだり、生活習慣病のリスクを下げる効果が期待されています。

そして特に注目されているのがビタミンB12です。本来、植物にはほとんど含まれない栄養素ですが、ミジンコウキクサにはB12が含まれている可能性があることが研究で報告されています。これは、植物体に共生する細菌が関係していると考えられています。ビタミンB12は神経の健康や赤血球の生成に必要な成分で、欠乏すると疲れやすくなったり、集中力が落ちたりすることがあります。

こうした優れた栄養プロフィールを背景に、タイではミジンコウキクサをスーパーフードとして開発・推進する動きが進んでおり、乾燥粉末をスムージーやスープ・菓子に加えるものや、プロテインパウダー、カプセルサプリメントなどさまざまな加工食品への応用が進められています。このように、砂粒ほどの小さな植物が、食の未来を担う可能性のある食材として注目されるようになったのです。


マンカイの世界進出

Andrey Zharkikh from Salt Lake City, USACC BY 2.0, via Wikimedia Commons

ミジンコウキクサが世界的なスーパーフードとして注目されるようになった背景には、イスラエルで行われた研究と産業化の動きが大きく関わっています。イスラエルのフードテック企業ヒノマン社は、9年をかけて独自の水耕栽培システムを開発し、わずか3日でミジンコウキクサを収穫できる効率的な生産方法を確立しました。この管理された環境で育てた特定の栽培系統には「マンカイ」というブランド名が与えられました。同社の閉鎖型の栽培システムは環境負荷が小さく、持続可能な食料生産としても注目されています。

このマンカイの価値をさらに高めたのが、イスラエルのベングリオン大学による臨床研究です。研究チームはマンカイを使ったシェイクとヨーグルトシェイクを比較し、カロリーや栄養素が同じ条件にもかかわらず、マンカイを摂取したグループは食後の血糖値の上昇が緩やかで、ピークに達するまでの時間も遅く、基準値に戻るのも早いことを明らかにしました。また、満腹感もやや高い傾向が見られました。これらの結果は米国糖尿病学会の公式誌『Diabetes Care』に掲載され、マンカイは血糖値の管理を意識する人々に適した食材として注目を集めるようになりました。

こうした科学的な裏付けを背景に、ハーバード大学公衆衛生大学院のカフェテリアでもマンカイのスムージーが提供され、アメリカ市場では2019年以降、マンカイパウダーが食品原料として流通し始めました。植物性ミートの代替品やシェイク、焼き菓子など幅広い食品に利用され、市場は今後も成長が続くと予測されています。

日本でも2017年に味の素株式会社がヒノマン社へ出資し、マンカイの国内独占販売権を取得しました。2021年にはマンカイを主成分とした粉末ドリンクが通販限定で発売されましたが、現在は販売が終了しているようで、国内での入手は難しい状況です。それでも世界的には流通が広がり続けているため、今後再び日本市場に戻ってくる可能性は十分にあります。


宇宙機関による実験

こうした栄養価の高さに注目したのは、食品業界だけではありませんでした。宇宙機関の研究者たちもミジンコウキクサに目を向けています。宇宙での長期ミッションにおいて、食料の確保は深刻な課題です。地球から食料を運び続けるには限界があり、宇宙船や月面・火星基地の中で自給できる食料システムが求められています。そのような中でミジンコウキクサは有力な候補として浮上しました。

ミジンコウキクサは宇宙ミッションにおける食料生産システムの候補として研究されています。研究では、単位面積あたりのCO₂の吸収や酸素生成の効率が高い可能性が指摘されていること、小さなスペースでタンパク質を供給できること、そして再利用水を使った閉鎖環境でも栽培できる可能性があることなどが注目されています。

イタリア国立研究評議会の研究チームは、ミジンコウキクサが宇宙での食料生産に向いているかどうかを調べるため、通常の重力、宇宙空間を想定した微小重力、そして打ち上げ時のような強い重力という三つの環境で育てる実験を行いました。細かな数値には違いが見られたものの、どの環境でもミジンコウキクサは生育を続け、栄養価も大きく損なわれませんでした。研究者たちは光や栄養条件を調整すれば微小重力下でも十分に最適化できると指摘しており、ミジンコウキクサは宇宙での食料生産にも十分使える可能性があることが分かってきました。

成人が1日に必要とするタンパク質量は、生のミジンコウキクサならおよそ600グラムでまかなえると推定されており、しかもわずか10グラムの株から栽培を始めても、約20日で毎日600グラムを収穫できるほど増殖が速いのが特徴です。種をまいて育てる一般的な作物とは違い、短期間で安定した収穫量に達する点は宇宙農業にとって大きな利点となります。こうした特性から、現在は欧州宇宙機関の支援のもと、将来の月面ミッションに向けた自動栽培システムの開発も進められています。日本では池や水路で雑草として扱われているこの小さな植物が、宇宙で人類を支える食料候補として本格的に研究されているのです。


注意点

ここまで読んで「それなら近くの池や水路で採ってきて食べてみよう」と思った方もいるかもしれません。しかし、これは避けたほうが賢明です。

まず心配されるのが重金属汚染の問題で、ミジンコウキクサは水中の重金属や毒素を非常に効率よく吸収する性質を持っています。実際にカドミウムを大量に蓄積できることが確認されており、水質浄化には役立つ一方、食べる側にとっては大きなリスクになります。池や水路、水田など富栄養化した水域に生育しているため、その水質がそのまま植物体に反映され、農薬や生活排水、工場排水が流れ込む環境で育ったものを口にすることは、それらを直接摂取するのと変わりません。

また、メダカ用として販売されているものも、あくまで観賞魚の餌として流通しているだけで、人間が食べることを前提とした衛生管理や品質管理のもとで生産されているわけではありません。

もし食用として安心して取り入れたいのであれば、食品として販売されている、管理された環境で栽培・加工された製品を選ぶのが安全です。


まとめ

ミジンコウキクサは日本では長らく水田の雑草として、あるいはメダカの餌として認識されてきました。しかし同じ植物が、東南アジアでは数百年にわたって食べられ、欧州宇宙機関が宇宙食の候補として研究し、ハーバード大学の食堂で提供され、世界の食品市場でスーパーフードとして成長しています。

こうした動きを背景に、これまで日本ではほとんど食材として意識されてこなかったミジンコウキクサも、今後は健康食品や新しい植物性タンパク源として、より身近に手に入るようになる可能性があります。


参考:

Frond architecture of the rootless duckweed Wolffia globosa | BMC Plant Biology | Springer Nature Link

ミジンコウキクサ / 国立環境研究所 侵入生物DB

Wolffia globosa (Roxb.) Hartog & Plas (Araceae) | Japan International Research Center for Agricultural Sciences | JIRCAS

Wolffia globosa–Mankai Plant-Based Protein Contains Bioactive Vitamin B12 and Is Well Absorbed in Humans – PMC

【味の素株式会社 新製品発表会 開催レポート】イスラエル発!次世代の食資源が日本初上陸 ベジタブルドリンク「Mankai®[マンカイ]」と新素材戦略 | 味の素株式会社のプレスリリース

The Effect of Wolffia globosa Mankai, a Green Aquatic Plant, on Postprandial Glycemic Response: A Randomized Crossover Controlled Trial – PubMed

Hinoman – Cultivating nature’s wonder

Effects of altered gravity on growth and morphology in Wolffia globosa implications for bioregenerative life support systems and space-based agriculture | Scientific Reports

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