海外で人気のスーパーフード「タイガーナッツ」が日本で雑草扱いされている理由

植物

タイガーナッツは、地下にできる小さな塊茎を食用とする植物で、古代から人々に利用されてきました。特に北アフリカや地中海地域では古くから栽培され、近年では豊富な食物繊維や良質な脂質を含むことから、健康志向の高まりとともにスーパーフードとして世界的に注目を集めています。

ところが、このタイガーナッツは日本ではほとんど栽培されておらず、むしろ農地に侵入する厄介な外来雑草として扱われることもあります。同じ植物でありながら、海外では食用作物として重宝され、日本では雑草として防除の対象になっているというのは、少し不思議に思えるかもしれません。

それではなぜこのような違いが生まれたのでしょうか。本記事はタイガーナッツの特徴や歴史、栄養や利用方法、そして日本に侵入した経緯や雑草として扱われる理由までをたどりながら、この植物の意外な立場について詳しく解説しています。

この記事の要約

  • タイガーナッツは古代エジプトから利用されてきた栄養豊富な植物で、食物繊維や良質な脂質を含むスーパーフードとして世界的に注目されている。
  • スペインのオルチャータや西アフリカのクンヌアヤなど各地で伝統的な食文化に根付いており、スナック・粉末・植物性ミルクなど用途も幅広い。
  • 日本には飼料に混入して侵入した外来種であり、強い繁殖力から農地の雑草として問題視されているが、沖縄での栽培など健康食材としての普及の動きも始まっている。

タイガーナッツとは

タイガーナッツは、植物学的にはショクヨウガヤツリと呼ばれるカヤツリグサ科の多年草です。名前にナッツと付いていますが、実際には木の実ではなく、地下に形成される小さな塊茎を食用とする植物です。英語ではtiger nutのほか、chufaやearth almondといった名称でも呼ばれています。

ショクヨウガヤツリは細長い葉を持ち、見た目はイネ科植物に似ています。また、茎の断面が三角形に近い形になるのが特徴です。成熟した株はおよそ20~90cmの高さに成長し、花は傘を広げたように放射状に集まって咲きます。地下では根と地下茎が広がり、その先端に直径数ミリ~1cmほどの丸い塊茎が多数形成されます。乾燥するとしわのある茶色い外皮を持つこの塊茎が、食品として流通するタイガーナッツです。

この植物は繁殖力が強く、種子だけでなく地下茎や塊茎によっても増殖します。特に塊茎による栄養繁殖が盛んで、耕作や土壌移動によって土中の塊茎が広がると、新しい個体が容易に発生します。


利用の歴史

PhotocapyCC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons

原産地については諸説ありますが、多くの研究では北東アフリカに起源を持つと考えられています。ワディ・クッバニヤ(アスワン北部のナイル渓谷)では約1万6000年前の野生の根が発見されており、北東アフリカが最も古い利用の証拠を持つ地域のひとつと見なされています。

タイガーナッツは古代エジプトで最も早くから栽培された植物のひとつであり、重要な食料でした。先王朝時代(紀元前3000年頃)の墓から乾燥した塊茎が発見されており、当時は塊茎をビールで煮たり、焙ったり、砕いた塊茎を蜂蜜と混ぜた菓子にして食べていたことが分かっています。薬用としても経口薬・軟膏・浣腸・燻煙など多岐にわたる用途があり、家や衣服の芳香にも使われていました。

紀元前15世紀の宰相レクミラの墓の壁画には、すり鉢でタイガーナッツを砕き、蜂蜜と混ぜて円錐形に成形する様子が描かれており、これは現存する最古のエジプトのレシピと見なされています。このタイガーナッツの菓子は神々への捧げ物として作られていました。現代のエジプトでもحبّ العزيزという名で知られており、水に浸して柔らかくしたものが屋台で街頭販売されています。

タイガーナッツはエジプトからアラブ人によって北アフリカ、シチリア、そしてスペインへと伝えられました。

今日ではナイジェリア、ニジェール、マリ、セネガル、コートジボワール、ガーナ、ブルキナファソ、トーゴなどで広く栽培されており、主に生のまま食べられています。ナイジェリア北部ではアヤと呼ばれ、生で食べることが多く、乾燥させて後から水で戻して食べることもあります。ハウサ族の子どもたちの間では砂糖がけにしたトースト菓子が人気で、タイガーナッツをナツメヤシとともに加工して冷やして提供する「クンヌアヤ」という飲み物も作られています。クンヌアヤはナイジェリアとガーナのハウサ族に起源を持つ西アフリカの飲み物で、ナッツのような風味とほんのりした甘みが特徴です。

モロッコでも古くから伝統的な食文化の一部となっており、生あるいは焙って食べるほか、粉に挽いてパンや菓子のベーキングに利用したり、オイルに加工してドレッシングやスキンケアに用いたりしています。

7世紀にはイスラム教徒がイベリア半島に進出したことで、タイガーナッツの栽培が現在のバレンシア地方に広まり、当初は呼吸器疾患や胃の不調への効能が注目され、チュファミルクとして飲まれるようになりました。11世紀頃にはヒスパニア全土に広がり、13世紀にはバレンシア近郊でタイガーナッツの飲み物の記録が残っています。

スペインでオルチャータ・デ・チュファとして知られるこの飲み物は、水に浸したタイガーナッツを砕いて砂糖を加えて作る、クリーミーなミルク状の飲み物です。風味を引き立てるためにシナモンやレモンの皮が加えられることもあります。冷やして飲むのが一般的で、バレンシアではファルトンと呼ばれる細長い甘い発酵パンと一緒に食べるのが定番の組み合わせです。

タイガーナッツは砂質で排水のよい土壌と温暖な気候を好むため、バレンシアの特産品として知られる理由のひとつになっています。現在、タイガーナッツはバレンシアのオルタ・ノルド地域の16の村で栽培されており、植付けは4から5月、収穫は11から1月に行われます。スペインのタイガーナッツの収穫のほとんどがオルチャータの製造に使われており、最大の産地はアルボラヤです。

1996年には原産地呼称制度規制評議会が設立され、バレンシア産オルチャータの品質と真正性を保護・推進する体制が整えられました。オルタ・ノルド地域では年間5,000トン以上のタイガーナッツが収穫されており、そのうち90%が原産地呼称のラベルを付けて出荷されています。


味と食感

タイガーナッツの味はほんのり甘く、ナッツのような香ばしさがあるとよく表現されます。また、アーモンドやココナッツに似た風味を感じるとされることもあります。乾燥した塊茎は非常に硬く、そのまま食べると歯ごたえが強いですが、水に数時間から一晩ほど浸すと柔らかくなり、自然な甘みがより感じられるようになります。こうした甘みは、塊茎に含まれる炭水化物や糖質によるものです。


豊富な栄養

タイガーナッツは栄養的に非常にバランスのとれた食品です。脂質含有量は乾燥重量の22から45%を占め、そのうち70から76%がオレイン酸などの一価不飽和脂肪酸です。オレイン酸はオリーブオイルにも豊富に含まれる「心臓に良い脂肪」として知られており、タイガーナッツがその主要な供給源となっています。

炭水化物は乾燥重量の23から48%、タンパク質は3から9%を占めており、タンパク質の含有量は中程度ですが、必須アミノ酸をバランスよく含んでいます。これは植物性食品としては非常に優れた特性です。

食物繊維も乾燥重量の8から15%を占め、カリウム、リン、マグネシウム、カルシウム、鉄分のほか、ビタミンCとE、さらに多種のポリフェノールやフラボノイドも含まれています。

消化・腸内環境への影響として、タイガーナッツの食物繊維とレジスタントスターチは消化されずに大腸まで届き、腸内細菌のエサになって腸内環境を整え、便秘の改善にも役立ちます。また、これらの成分は消化を緩やかにして満腹感を持続させることから、食欲抑制・体重管理をサポートする効果も期待されており、市販品の一食あたりのカロリーは70から150kcal程度です。

タイガーナッツは塊茎であるため、乳糖、グルテン、ナッツ類といった主要アレルゲンを含まず、多くのアレルギーや食事制限のある人に適しています。ただし、花粉食物アレルギー症候群を持つ人では、まれにアレルギー反応が報告されているため注意が必要です。

こうした成分の組み合わせから、近年では健康志向の食品として紹介されることもあり、海外ではいわゆるスーパーフードのひとつとして取り上げられることがあります。


調理方法

タイガーナッツの利用方法は地域によってさまざまですが、いくつか代表的な食べ方があります。最もよく知られているのがスペインのオルチャータ・デ・チュファですが、そのほかにも乾燥した塊茎をそのままスナックとして食べる方法があります。水で戻して柔らかくしてから食べることも多く、自然な甘みと歯ごたえを楽しむ食品として利用されます。

また、乾燥させて粉にすると小麦粉の代わりとしてパンやクッキー、ケーキなどの焼き菓子に使うことができ、グルテンフリー食品の材料としても利用されています。さらに、ペースト状にして料理に加えたり、植物性ミルクとして利用したりするなど、さまざまな加工方法があります。こうした用途の広さも、タイガーナッツが近年注目される理由のひとつといえます。


世界への分布拡大と外来雑草としての問題

このように、タイガーナッツは古くから食用・薬用として重宝されてきた有用植物であり、近年では優れた栄養価からスーパーフードとして世界的に注目を集めています。しかしその一方で、農業や土壌移動に伴って分布を広げた結果、現在では世界各地の温暖地域において厄介な外来種としても問題視されています。特に東南アジアや亜熱帯アメリカにおいては、作物の収量を大幅に減少させる侵略的な雑草として警戒されており、有用植物と侵略的雑草という二つの顔を併せ持つ、複雑な立場の植物となっています。


日本への侵入の経緯

Auckland MuseumCC BY 4.0, via Wikimedia Commons

このような世界的な広がりは日本にも及んでいます。日本でショクヨウガヤツリが確認されたのは比較的新しく、1980年頃に栃木県那須の酪農家の圃場で、除草剤に強いカヤツリグサ類として初めて発見されました。その後、1986年に石川県、1988年に京都府、1990年に熊本県でも生育が確認され、日本国内での分布が徐々に明らかになっていきました。現在では東北地方南部から四国・九州にかけて各地に分布が拡大しています。

ショクヨウガヤツリは食用作物として導入されたわけではなく、海外から輸入された乾草に種子や塊茎が混入していたことによって日本へ移入したと考えられており、酪農で使用される飼料の流通に伴って各地の農地へ広がっていった可能性が指摘されています。

ショクヨウガヤツリの繁殖力は非常に強く、地下の塊茎が土中に残ると翌年も発芽しやすいため、農地での管理が難しくなります。塊茎は耕起作業に伴って圃場内はもちろん、他の圃場にも拡散し、一度繁茂してしまうと十分に防除することが難しく、除草剤を用いた化学的防除が必要となります。特にトウモロコシ畑や水田に侵入すると地下に多数の塊茎を形成して増殖するため、作物の生育に悪影響を与えることがあります。

また、病害虫の観点からも問題視されており、さまざまな感染症を伝播させるほか、日本でも外来種として定着しているイネミズゾウムシが本種に好んで産卵することが報告されており、害虫の発生を助長する可能性が指摘されています。

こうした理由から、日本では外来生物法により要注意外来生物に指定されています。


雑草扱いされている理由

User:BlahedoCC BY-SA 2.5, via Wikimedia Commons

このように、タイガーナッツは有用な作物であるにもかかわらず、日本では多くの場合、雑草として扱われています。その背景にはいくつかの理由があります。まず、日本では古くから稲作が中心であり、畑作ではサツマイモや大豆などの収量が高く、栽培技術の確立した作物が広く普及していたため、新たにショクヨウガヤツリを導入する必要がほとんどありませんでした。

また、地下にできる塊茎は直径数ミリから1cmほどと小さく、土の中に多数散らばるため収穫に手間がかかり、大規模栽培には専用の機械が必要になるなど、効率の面でも他の作物に比べて不利です。加えて、塊茎が食べられるという知識が日本では広まっていなかったため、農地で見つかっても食材として利用されることはほとんどなく、単に取り除くべき植物として扱われてきたのです。


日本での入手方法

現在のところ、日本ではタイガーナッツを農業作物として大規模に栽培している例はほとんどなく、トウモロコシや大豆のように農家が一般的に栽培する作物にはなっていません。しかし、先駆的な取り組みも生まれています。

沖縄県国頭村では、ナイジェリア出身のオグベヒ・トーチさんがタイガーナッツ農家として栽培に取り組んでいます。2016年に日本ではタイガーナッツがほとんど知られていないことに気づいたトーチさんは、沖縄の土壌での栽培可能性を試験的に検証し始め、2017年から本格的な栽培を開始しました。試行錯誤の末、砂地の土壌が栽培に最も適していることを突き止め、約1500坪まで畑を拡大しています。年2回の収穫が可能で、収穫後は粉末などに加工され、タイガーナッツのパウダーを使ったグラノーラやちんすこうなども商品化されており、国頭村のふるさと納税の返礼品としても登録されています。

このように国内での栽培・商品化の先例は生まれつつありますが、全国的に普及した作物にはまだなっていないのが現状です。

そのため、タイガーナッツを入手するには健康食品や輸入食品として購入するのが最も現実的な方法です。近年、海外でスーパーフードとして注目された影響を受け、日本でも乾燥タイガーナッツや粉末がAmazonや楽天などの通販サイト、自然食品店やオーガニック食品店で販売されており、比較的容易に購入できます。多くの場合はスペインやアフリカなど海外で栽培されたものが輸入されています。

また、園芸用の塊茎を入手して家庭菜園として栽培する例もあります。ただし、農地で問題となる雑草として扱われる場合もあるため、栽培する際には周囲に広がらないよう注意が必要です。


まとめ

タイガーナッツは海外では栄養価の高いスーパーフードとして注目される一方、日本では雑草として扱われることもあるという、地域によって評価が大きく異なる少し独特な立場の植物です。同じ植物であっても、地域の歴史や食文化、導入の経緯によって評価が大きく変わることがあります。

ただし、近年では日本でも健康志向の高まりとともに海外の食材への関心が強まっており、アサイーやキヌアが広まったように、タイガーナッツが人気の健康食材として受け入れられていくかもしれません。


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