日本ではゴボウは古くから親しまれてきた野菜です。
きんぴらや煮物に使われる根菜として、日々の食卓に欠かせません。
しかしこのゴボウ、アメリカでは外来種として野原や道端に繁殖し、農地や生態系への影響が問題となっています。
ではなぜアメリカの人々はこのゴボウを食べて減らそうとしないのでしょうか。
本記事はこの理由について詳しく解説しています。
この記事の要約
- アメリカでのゴボウ問題の現状:日本では馴染み深い野菜のゴボウが、アメリカでは外来種として野生化し、在来植物の成長阻害や農業・畜産業への被害をもたらす深刻な環境問題となっている
- 文化的背景の違い:日本では縄文時代から食用として親しまれてきたゴボウだが、アメリカでは多くの人がゴボウを食べられる植物として認識しておらず、単なる雑草として扱われているため、食べて駆除するという発想が生まれにくい
- 実用的な問題点:野生のゴボウは収穫タイミングの見極めが困難で、汚染リスクや有毒植物との誤認の危険があるため、安全に大量消費して駆除に役立てることは現実的ではない
- 対策の現実:アメリカでは予防・早期発見・機械的除去など多面的な管理が行われており、興味深いことに食用文化のある日本でも北海道でゴボウの野生化が外来種問題となっている
ゴボウという植物について

英語でバーダック(Burdock)と呼ばれるゴボウはキク科ゴボウ属の二年生草本で、中国東北部からヒマラヤ、ヨーロッパにかけて広く分布しています。
葉は大きな三角形で、直径20センチほどにもなり、裏側が白っぽいのが特徴です。
背丈は高く、最大で3メートルに達することもあります。そして、普段食べられている部分である肉質の主根は、長さ1メートル、幅2センチメートルほどにまで成長します。
ゴボウは古くから中国やインド、ヨーロッパの医師たちによって血液を浄化する強壮剤として用いられてきました。
根は乾燥させてハーブティーのように飲まれ、種子は煎じて漢方薬として処方されるなど、地域ごとに異なる形で活用されてきたのです。
これは、ゴボウに体内の老廃物を排出し、血液の質を整える作用があると考えられていたためです。
また、便秘、咳、脱毛、痛風、関節炎、腎臓結石、排尿障害、呼吸器疾患、坐骨神経痛、腸の不調など、様々な病気の治療にも用いられました。
北米への伝来経路

こうした背景から、ゴボウは薬草として1600年代に初期の入植者によって北米へと伝えられたのです。
その後、栽培されていたゴボウが畑から周囲の自然環境へと広がり、野生化したほか、家畜用の干し草や荷物に紛れて新たな土地へ広がったと考えられています。
春、ゴボウの種子は20から25度ほどの気温のもとで発芽し、10日ほどかけて芽を出します。
まず一年目は、ロゼット状の葉を地面に広げ、光合成で栄養を蓄えることに集中します。
この時期、地上部はあまり大きくならない代わりに、根をまっすぐ下に伸ばして太く発達させ、50から100cmもの長さに育てていきます。
この段階で大切なのは、しっかりと根を太らせ、冬の寒さに耐える準備を整えることです。
栽培では、根がまだ柔らかく、栄養を豊富に蓄えている一年目のこの時期に収穫されます。
やがて冬の低温にさらされた後、二年目になると茎が一気に伸び上がり、5月から7月にかけて紫色の花を咲かせます。
花期が終わると硬い殻に包まれた種子が実り、その数は1株あたり6,000から16,000個にも達します。
種子には鉤状の突起があり、動物の毛や人の衣服、家畜の干し草などに絡みついて遠くへ運ばれ、数週間落ちないまま10km以上移動することもあります。
こうして拡散された種子の多くが早春に発芽するのです。
このような性質から、北米では移動経路や放牧地、農地の周辺などに容易に運ばれて広がっていきました。
ゴボウは道端や林縁、耕作地の周辺といった人間活動の影響を受けやすい開けた場所に強く、土壌を選ばずによく育ちます。
さらに根が深く張るため、乾燥にも比較的強く、他の植物と競合しながら定着しやすい特徴があります。
現在、ゴボウはアメリカ合衆国ではフロリダ州・テキサス州・ハワイ州を除くほぼ全域で確認されており、さらにカナダの一部にも分布しています。
外来種としての問題

こうして侵入したゴボウは生態系と経済の両面で問題を引き起こしています。
生態系への問題
まず生態系への影響として、大きな葉が周囲の植物への光を遮り、在来植物の成長を妨げ、生物多様性の低下を引き起こしています。
また、枯れ葉が分解する際にはアレロパシー作用を示し、化学物質によって在来植物の発芽や成長を抑制します。
そのため、ゴボウが繁茂すると周辺の植物群落が衰退してしまうのです。
さらに、棘のある種子に鳥やコウモリが絡まり命を落とす事例もあり、野生動物にとっても脅威となっています。
加えて、ゴボウが広がることで同じ地域に外来種であるアブラムシ類などが定着しやすくなるなど、他の侵略的外来種を呼び込む要因にもなります。
経済的な問題
一方、経済的な影響も無視できません。
ゴボウはうどんこ病や根腐れ病の宿主となり、農家の作物に病害を広げて収量を減らす危険性があります。
さらに、家畜がゴボウを大量に食べると乳製品に独特の風味がついてしまい、品質が落ちます。棘のついた種子は羊毛などに絡まって繊維を傷めるため、製品価値を低下させます。
また、牧草地ではゴボウが繁殖して飼料用の草を圧迫し、家畜の餌資源を減少させるという問題もあります。
このように、ゴボウは生態系の健全性を損なうだけでなく、農業や畜産業にも深刻な被害を与える外来種として懸念されているのです。
そのため、モンタナ州、コロラド州、サウスダコタ州、ワイオミング州で有害雑草に指定されているほど問題視されています。
そう聞くと、それなら食べて数を減らせばいいのでは、と思うかもしれません。
しかし、実際にはそれが簡単にはできない理由があります。
なぜ食べて解決できないのか
1. 文化的な理由

まず大きいのは文化的な理由です。
日本では古くからゴボウを食材として利用してきた歴史があり、調理法も確立していますが、アメリカでは日常的に食べる野菜としての認識がほとんどありません。
ゴボウは北方ルートを通って日本に渡来し、縄文時代前期にはすでに栽培されていた痕跡があります。
文献上の最古の記載は、平安時代中期の新撰字鏡に見られます。
この頃のゴボウはまだ野菜として栽培されるのではなく、薬用植物として利用されていたと考えられています。
平安末期になると、食物や野菜としての記述が見られるようになり、徐々に食用としての利用が広がっていきました。
さらに江戸時代に入ると、ゴボウは各地で栽培されるようになり、品種改良も進められました。
そして、明治以降は、収量が多く病気に強い品種も導入され、全国的に栽培が広がりました。
現在では、家庭菜園でも栽培されることが増え、地域ごとの工夫や品種改良によって、料理に使いやすく、美味しいゴボウが数多く生まれています。
また、東アジアでもゴボウは地域によって食用として利用されています。
中国では主に薬用が中心ですが、一部の地域では根を煮物にして食べるなど限定的に利用されています。
台湾では日本統治時代の影響で食用が広まり、屏東県の特定地域で栽培され、地元の名産品として親しまれています。
韓国でもゴボウは食用として利用されており、根を炒め物や和え物、煮物にするなど、伝統的な料理に欠かせない食材となっています。
一方、アメリカでも植民地時代には薬用以外にゴボウの根が「貧乏人のじゃがいも」として食べられることがありました。
また、ネイティブアメリカンが植物全体を薬効や栄養源として活用し、茎をメープルシロップで煮てお菓子のように食べることもありました。
ただし、これはあくまで当時の一部の人々による利用例で、現在のアメリカでは広く日常的に食べられているわけではありません。
そのため、多くのアメリカ人はゴボウが食べられることすら知らず、雑草として扱うことが一般的です。
東アジアのように日常的な食材として認識されておらず、実際に、アメリカのスーパーでゴボウが販売されることはほとんどなく、手に入るのはアジア系の食材店に限られます。
このことからも、一般の人々にとってゴボウは馴染みのない食材であることがわかります。
2. 実用上の問題

そんなゴボウですが、近年、アメリカでは健康志向の食品として注目を集めています。
特に、抗酸化作用や抗炎症作用、腸内環境の改善、血糖値の安定化など、健康への多様な効果が報告されており、これらの特性が消費者の関心を引いています。
そのため、健康食品やスーパーフードとしての認知度が高まり、スムージーやティー、サプリメントなどの形で取り入れられることが増えています。
また、アメリカ国内のアジア系マーケットや日本食レストランでは、ゴボウを使った料理が提供されることもあり、これらの店舗を通じてその存在が広まりつつあります。
例えば、ゴボウを使ったきんぴらやスープなどがメニューに登場することがあります。
このように、アメリカにおけるゴボウの人気は徐々に高まっており、今後さらに多くの人々にその健康効果が認知されることが期待されます。
しかし、提供されているものは日本やアジアで栽培されている品種が主で、野生のゴボウがそのまま消費されているわけではありません。
これは、収穫時期の管理が難しいことや、汚染されている可能性が高いためです。
野生のゴボウも基本的には食べることができ、特に若い根ほど柔らかく、味もよいとされています。
一方で、野生のゴボウを食べる際にはいくつか注意点があります。
まず、古くなった根は木質化して硬くなるため、食べにくくなります。そのため、収穫のタイミングを見極めるのが難しく、ちょうど食べ頃の根を大量に採るのは簡単ではありません。
また、野生の生育地が汚染されていたり、近くで農薬が使用されていた場合、根に残留物が含まれることがあります。
さらに、野生にはゴボウと似た見た目の有毒植物も存在するため、正確にゴボウを見分けられることが必須です。
このように、野生のゴボウを食べることはできても、量や安全性の面で制約が大きいため、食用として消費して駆除するという方法は現実的ではないのです。
現在の対策と今後の展望

アメリカではゴボウの拡散を防ぐために、地域ごとにさまざまな対策が取られています。
まず重要なのは予防であり、土地を定期的にモニタリングして侵入を早期に発見し、土や砂利の移動時に種子が混入していないか確認することが求められます。
また、健全な在来植物群落を維持して外来種が入り込みにくい環境をつくるとともに、衣服や靴、ペット、車両、作業用具についた種子や花を必ず取り除き、回収したものは密閉袋に入れて家庭ごみとして処分します。
この時、堆肥に混ぜると種子が生き残るため、堆肥化は避けるようにされています。
機械的な除去では、1年目のロゼット期に根を切断するのが有効とされますが、効果を確実にするには根全体を掘り出すのが望ましいとされています。
2年目の個体については、地上部を刈り取ることが一時的な抑制策になりますが、種子が形成された後に行うと逆に拡散を助長してしまうため、作業のタイミングが非常に重要です。
さらに、枯れ葉にも化学的阻害作用があるため、除去した葉は現場に残さず持ち出して処分し、種子も含めてすべて回収することが推奨されています。
これらの対策は、いずれもゴボウに種子を作らせないことと土壌に残る「種子バンク」を枯渇させることが目的です。
そのため、単発の作業ではなく、複数年にわたって継続的に種子を取り除く管理が不可欠とされています。
まとめ
アメリカで外来種となったゴボウを食べて減らすことができない理由は主に2つあります。
まず文化的な違いです。日本では古くから食材として親しまれてきたゴボウも、アメリカでは多くの人が食べられることすら知らず、単なる雑草として扱われています。
次に実用上の問題です。野生のゴボウは収穫時期の見極めが難しく、汚染リスクや有毒植物との誤認の危険もあるため、安全に大量消費することは現実的ではありません。
興味深いことに、日本でも北海道で野生化したゴボウが外来種問題となっており、食用の歴史があっても生態系への脅威となることがあります。
外来種対策においては、単純な消費だけでは十分とは言えず、予防や早期発見、継続的な管理といった多面的な取り組みが求められます。
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参考:History Of Edible Burdock Plants | Gardening Know How
Common Burdock | Invasive Plant in Teton County, WY
2017_June – MSU Extension Invasive Plants | Montana State University
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