現在、日本で飼育されているゴリラはすべてニシローランドゴリラという種類で、マウンテンゴリラを見ることはありません。それではなぜマウンテンゴリラは動物園にいないのでしょうか?マウンテンゴリラを飼育できない理由について詳しく解説していきたいと思います。
ゴリラの分類と分布

ゴリラは人間と同じヒト科に属する霊長類で、ゴリラ属に分類される類人猿の総称です。彼らはアフリカ大陸中央部の東西に分断して分布し、ウガンダやルワンダなど東側で見られるヒガシゴリラと、カメルーンやナイジェリアなど西側で見られるニシゴリラの2種に分類されます。さらに、ヒガシゴリラとニシゴリラはそれぞれ2つの亜種に分けられます。
日本の動物園で実際に目にするゴリラは、ニシゴリラの亜種であるニシローランドゴリラ1種のみです。愛知県の東山動植物園でイケメンゴリラとして有名なシャバーニも、このニシローランドゴリラです。
一方、ヒガシゴリラの亜種であるマウンテンゴリラは、ウガンダ、ルワンダ、コンゴ民主共和国の国境に位置するヴィルンガ山地、およびウガンダのブウィンディ国立公園という標高の高いところにのみ生息しています。
マウンテンゴリラの特徴

このような標高の高い寒冷な気候に適応するために、マウンテンゴリラは他のゴリラより長い毛を持つのが特徴です。マウンテンゴリラはニシゴリラより大型になりますが、ヒガシゴリラの別の亜種であるヒガシローランドゴリラよりは小型です。オスの身長は161~171cm、体重は120~191kgほどになります。また、マウンテンゴリラは他のゴリラより腕が短いのも特徴の一つです。
マウンテンゴリラは木に登ることもできますが、普段は地上で最大30頭ほどからなるコミュニティを形成して暮らしています。
ゴリラ発見の歴史

今ではゴリラと言えば誰でもその姿を思い浮かべることができる有名な動物ですが、昔は未確認動物でした。ゴリラが生息する地域で住んでいた現地の人々からは、巨大な毛むくじゃらの猿のような存在がいることは知られていたようですが、西洋人からはそんな生き物がいるわけがないと存在が否定されていました。これはゴリラが森林の奥深くに生息するためで、その結果、発見が非常に遅くなりました。
西洋においてゴリラが独立した種として初めて記載されたのは1846年で、2人のアメリカ人宣教師によって「ひどく凶暴で変わった習性を持つ猿に似た動物」という報告とともに、解剖学者のもとに頭骨が送られたのが最初です。
当時の西洋では、アフリカはすべての災いの源泉で「暗黒大陸」と呼ばれていた時代であり、ライオンやトラと違い、あまりに人間に似ていたゴリラの姿は、暗黒大陸の邪悪な人間の象徴とされてしまいました。こうして凶暴で残忍だと思われていたゴリラを狩ることは、ハンターの誇りとなり、ゴリラ狩りが始まることとなります。
最初の生きたゴリラは1880年代にヨーロッパに持ち込まれました。しかし、ヨーロッパに送られた初期のゴリラのほとんどは、肺疾患が原因で数年以内に命を落としています。
1929年にはアメリカの心理学者が、飼育下のゴリラについて「おとなしく平穏な状態を好む性格」と記したのをきっかけに、ようやく野生のゴリラについてもこの主張を裏付ける報告が出始めます。そして時間が経つにつれて、世界中のより多くの動物園でゴリラが飼育されるようになり、同時にゴリラが映画やシリーズ、漫画に取り入れられるようになり、ゴリラの人気や関心が高まりました。
1956年にはアメリカのコロンバス動物園において、飼育下での繁殖が初めて成功しました。現在、いくつかの人気の高い動物園では、ゴリラを1頭ではなく数頭飼育しており、飼育下繁殖プログラムも導入しています。
マウンテンゴリラの発見と保護

マウンテンゴリラの発見はニシローランドゴリラよりもさらに遅く、1902年のことでした。1925年にはアフリカ初の国立公園であるアルバート国立公園が創設されました。アルバート国立公園は現在のヴィルンガ国立公園で、ヴォルカン国立公園の国境を挟んだコンゴ側にあります。
その後、1960年代から1970年代にかけて、マウンテンゴリラを飼育する試みがいくつか行われました。しかし、飼育下で生き残った子ゴリラは1頭もおらず、すべて病気などで命を落としています。日本でも1961年にマウンテンゴリラが2頭輸入されていますが、2頭とも数日で命を落としています。この時、すでにニシローランドゴリラは飼育することができていたため、動物園の関係者はこの事実に困惑しました。
マウンテンゴリラが飼育できない理由
1. 極めて特殊な食性

マウンテンゴリラは山岳地帯の限られた地域にのみ生息しているため、餌とする食性が非常に特殊です。彼らの食料は142種類にも及ぶ大量の植物で構成されています。その割合は、新芽・葉が85.8%、樹皮が6.9%、植物の根が3.3%を占めています。その他、果物が1.7%、花が2.3%で、わずか0.1%にシロアリなどの無脊椎動物が含まれています。
さらに食べる量も膨大で、マウンテンゴリラは草食性で、その巨体を維持するために大量の食物を必要とし、メスは毎日約18kg、オスは最大30kgの植物を食べます。彼らは早朝に餌を探し、正午ごろに休憩した後、午後に再び餌を探してから夜に休むという、一日のほとんどを食事に費やす生活をしています。
マウンテンゴリラは、ヤエムグラ属の草が一年中見られる森で生活し、この草の葉、花、果実などすべての部分を消費します。また、タケノコが手に入る一年のうち数ヶ月の間は竹林に移動したり、高山帯に登って巨大なセネシオという木の柔らかい中心部を食べます。
この独特の食事要件を動物園で満たすのは困難で、さらに費用もかかります。興味深いことに、これらの植物のほとんどは生息地のみに自生しているため、栽培されたものを使用することはできません。このように動物園でマウンテンゴリラの複雑かつ特殊な食事ニーズを満たすのは困難でした。
2. ストレスに対する脆弱性

マウンテンゴリラを飼育できないもう一つの理由として、ストレスに対する弱さが考えられます。マウンテンゴリラを含め、ゴリラは基本的に群れをなして生活をする動物です。1頭のオスに対して複数のメスの群れや、複数のオスとメスが入り混じった群れなどが存在します。そしてゴリラの群れ同士での縄張り意識が強く、彼らは常に外敵を警戒して行動しています。
外敵からメスを守り、鋭い眼光であたりを警戒し、自慢の怪力で自然界のトップに君臨しているようなイメージを持ちますが、実はゴリラはメンタルが非常に脆弱なのです。人間と同様にゴリラは哺乳類の中でも知能が高いため、他の動物と比べて警戒心も強く、様々なことでストレスを感じます。
ストレスから神経性の下痢や心臓への負担から命を落とすケースも確認されています。そのため、動物園では飼育されているニシゴリラのために、飼育環境も高さのある場所や洞窟のような隠れ家など、さまざまな場所を準備しています。また、屋外と室内を自由に出入りできるようにして、ストレスを軽減させようともしています。さらに、雨にあたることもあまり好きではなく、体温低下の恐れもあるため、雨宿りができる場所はしっかりと確保する必要があります。
3. 特殊な生息環境

これに加えて、マウンテンゴリラは最も自然で汚染のない環境に住んでおり、彼らにとって快適な場所はジャングルだけです。マウンテンゴリラは高地の密林に生息しています。世界のどの動物園も、マウンテンゴリラが生息する自然生態系を特徴づける2つの条件、つまり山岳地帯と高地の森林を提供することはできません。
彼らの特有の生息環境と複雑な社会構造により、動物園で彼らをうまく維持することが困難になっています。自然環境を再現し、さらにマウンテンゴリラが成長するために必要な多様な植物ベースの食事を提供することは非常に困難なのです。
マウンテンゴリラの現在
ゴリラの生息数が減少し続けている昨今、マウンテンゴリラは唯一個体数が増えている種です。近年、マウンテンゴリラの個体数が1000頭を超えたと報告されました。2018年11月にはIUCN(国際自然保護連合)はこのマウンテンゴリラの生息数の増加を受け、この種を「絶滅寸前(CR)」から「絶滅危惧(EN)」へと引き上げました。
ただし、いまだ生息地の破壊や気候変動などの脅威に晒されており、安心できない状況にあることには変わりがありません。自然の生息地を保護し、保護活動を支援し続ける必要があります。
マウンテンゴリラに会うには

このため、残念ながら、あなたはこの先、マウンテンゴリラを動物園で見ることはできないでしょう。ただし、この雄大な生き物を遠くから観察することはできます。
コンゴ民主共和国でマウンテンゴリラを見たい訪問者は、約210頭が生息する国の東部にあるヴィルンガ国立公園を訪れるとよいでしょう。そこでは、野生のゴリラの家族を観察するために、一日当たり限られた数の訪問者がトレッキングを行っています。そのほか、ウガンダやルワンダでも同様のトレッキングツアーが開催されています。
もし、どうしても実物のマウンテンゴリラを見たい方は、アフリカを訪れてみてはいかがでしょうか。彼らの自然な姿を見ることで、なぜ動物園での飼育が困難なのか、より深く理解できるかもしれません。
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