コチニールカイガラムシはペルーやメキシコなどで色素を抽出するために養殖されてます。この色素の市場規模は2023年に433億米ドル(約6兆2785億円)と評価され、2032年までに908億米ドル(約12兆4908億円)に達すると予測されています。
それではこの虫はどのように養殖され、抽出された色素は具体的に何に使われているのでしょうか?
コチニールカイガラムシとは?

コチニールカイガラムシは熱帯および亜熱帯の南米から北米に生息する、主に付着性の寄生虫です。
メスは長さ約5mmで、平らな楕円形の柔らかい体を持ち、羽はありません。一方、成虫のオスには羽があり、大きさはメスの約半分です。メスはメキシコに自生する、ウチワサボテン属のサボテンの上に群れ、これを食べます。
コチニールカイガラムシの養殖とコチニール色素の生産方法

コチニールカイガラムシを養殖するメキシコの農家は、挿し木でこのサボテンを増やしています。こうして育てられたサボテンは水洗いされ、ワイヤーで逆さに吊るされます。これらはカイガラムシのための、快適な住みかとなるのです。
カイガラムシは嘴のような口器をサボテンの皮に突き刺し、水分と栄養素を吸い出します。ウチワサボテンにはカイガラムシが生きていくのに必要な水分と栄養素がすべて含まれています。一度サボテンに吸いついたカイガラムシは身の危険を感じない限り、ほとんど動きません。
カイガラムシは体全体にワックス状の白い物質を分泌しますが、これはサボテンにくっつくのを助ける接着剤として機能します。また、水分の喪失と過度の日光から身を守る役割も果たしています。
この物質により、コチニールカイガラムシは外側から見ると白または灰色に見えますが、体内では赤い色素を生成しています。この色素は体重のほぼ4分の1を占めますが、これは血ではなく、実際にはカルミン酸と呼ばれ、アリなどの他の虫による捕食を阻止する役割があります。
しかし、様々なチョウやガの幼虫、その他多くの鳥類、げっし類、爬虫類がカイガラムシをエサとするため、農家はカイガラムシがこれらの捕食者に食べられないよう、常にチェックする必要があります。
さらにその他、寒さ、雨からも保護する必要があり、サボテンは常に27℃に保たれています。
3から4か月すると収穫の準備ができます。まず農家はカイガラムシをふるいにかけ、粉砕します。そして、この粉末をアルコール溶液に入れてろ過することで、鮮やかな赤い染料ができるのです。
これがコチニール色素で、染料1ポンド(約453.592g)を作るのに、だいたい70,000匹のカイガラムシが必要といわれています。
コチニール色素は何に使われているのか?

それでは、この染料はどういった目的で使用されるのでしょうか?
おそらくあなたはこの虫を一度は食べたことがあります。ただ、コチニール自体に味はありません。コチニール色素はいちごオレやお菓子など、あらゆる製品の着色料として使用されているのです。
コチニール色素は時間の経過とともに劣化しない、数少ない水溶性着色料のひとつです。これは、天然有機着色料の中で最も光や熱に対して安定し、酸化に強いもののひとつであり、多くの合成食品着色料よりも優れています。
そのため、ソーセージ、すり身、アルコール飲料、クッキー、デザート、ジャム、ジュース、チェダーチーズやその他の乳製品、ソースなど、多くの食品に使用されています。
また、コチニール色素は化粧品業界でも頻繁に使われています。これは目の周りに使用する化粧品として、十分安全であると考えられており、ヘアケア製品やスキンケア製品、口紅、フェイスパウダー、ルージュ、チークなどに使用されています。
2005年にペルーは年間200t、カナリア諸島は年間20tのコチニール色素を生産しました。また、フランスは世界最大の輸入国であると考えられており、日本とイタリアもこの虫を輸入しています。
さらにこれらの輸入品の多くは加工され、他の先進国に再輸出されています。2005年のコチニール色素の市場価格は1kgあたり50~80米ドル(およそ7,500~12,000円)です。
コチニール色素の歴史

ただ、コチニール色素の使用は決して新しいものではなく、伝統的にコチニールは布地の着色に使用されてきました。
紀元前2世紀には北米と中米のアステカ人やマヤ人によって既に生産されていたと考えられています。この染料は植物繊維よりも動物繊維によく結合し、アルパカやその他のラクダ科の毛、ウサギの毛皮、羽毛を染めるのに最も効果的でした。
これらは儀式用の織物や支配者が着用する織物によく使用されていました。さらに、ピラミッドの壁にも貴重な絵画がコチニールで描かれています。
コチニール色素は貢物としても重要で、15世紀にモクテスマ2世が征服した11の都市は、毎年、装飾された綿毛布2000枚とコチニール色素40袋を貢物として納めていました。
現在もコチニール色のウールや綿は、メキシコの民芸品や工芸品にとって重要な素材であり続けています。メキシコのオアハカ州の一部の町では、手作りの織物を作る際にコチニールを生産し、使用する伝統的な慣習が今も続いています。
16世紀にはスペインがアステカ帝国を征服したことで、ヨーロッパにもコチニールがもたらされました。スペイン人はコチニールの鮮やかで濃い色をすぐに利用して、新しい貿易の機会をつかみました。こうして、コチニールはヨーロッパで大きな地位と価値を獲得していったのです。
植民地時代にはラテンアメリカに羊が導入されたため、コチニールの使用がさらに増加しました。コチニール色素はウールの衣服にしっかりと着色し、最も濃い色を出すことができたのです。こうして17世紀には銀に次ぐメキシコで2番目に価値のある輸出品となり、インドまで取引される、世界的な商品となりました。これらは王、貴族、聖職者などの衣服の染色に使用される高級品でした。
しかし、19世紀半ばになると人工染料の出現により、需要は急激に減少しました。そのため、スペインでは主要産業がほぼ消滅し、大きな経済的ショックが発生しました。カイガラムシの飼育に必要な繊細な手作業は、新しい産業の近代的な方法には太刀打ちできなかったのです。
こうして、コチニールの取引は20世紀中にほぼ完全に消滅しました。
コチニール色素の現在
それが、近年になって再び商業的に価値のあるものとなっています。
コチニールのような天然染料への関心が高まっている理由のひとつは、市販の化学染料の一部に発がん性がある可能性があるという消費者の懸念です。1976年には米国において発がん性を疑う試験結果が得られたため、合成着色料であるアマランス(通称赤色2号)の使用禁止措置が取られました(ただし、FAO/WHO合同食品添加物専門家会議は、欧州において追加実施された長期投与による動物試験成績を基に最終評価し、発がん性は認められないと結論付けています。)
天然であることが安全を保証するものではありませんが、研究によるとコチニールにはごく一部の人にアレルギー症状を起こす可能性があるものの、発がん性も毒性もありません。
それでも、動物の権利活動家からの圧力により、一部のメキシコの農場は生産を完全に放棄するように追い込まれています。これは、コチニールはベジタリアンやビーガンの消費者に受け入れられない製品になる可能性があるためです。そのため、カンパリとスターバックスはベジタリアンの顧客からの圧力のため、コチニールの使用を停止しています。
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