力強さ、知性、そして持久力を併せ持つオオカミは地球のほぼすべての場所を征服するほど成功した捕食動物のひとつです。しかし、オオカミの名で呼ばれている動物の中には、オオカミではないものがいることをご存知でしたか?
たとえば、南アメリカのタテガミオオカミはオオカミのような姿をし、オオカミの名を持ちます。しかし、実際にこの動物は進化系統的にはオオカミではありません。
甲殻類の多くではカニに似た形態に進化するという、収斂進化の一例、カーシニゼーションまたはカニ化が起きますが、これと同じことが、オオカミに似た動物でも起きています。
この記事は多くの動物がオオカミ化していることについて説明しています。
オオカミとその分布

ハイイロオオカミ、タイリクオオカミとも呼ばれるオオカミは世界で最も広く分布する陸上捕食動物のひとつで30以上の亜種が認識されています。これらの亜種はカナダ北部に生息するホッキョクオオカミや中東の砂漠に生息するアラビアオオカミのように、生息地でカモフラージュするために、それぞれが大きく異なる色をしています。
オオカミは歴史的に見ると、イギリスや日本などの島国にも生息していました。また、東南アジアにはオオカミとやや近縁のドールが生息しています。ドールはイヌ科ドール属に分類されるオオカミと似た生態学的地位にある動物です。
アフリカでは西アフリカとエチオピア南部からエジプトにかけてアフリカンゴールデンウルフ、またはアフリカキンイロオオカミと呼ばれるイヌ属の種が生息しています。この種は従来、キンイロジャッカルに分類されていましたが、1880年にインドのオオカミと頭蓋骨が類似していることが指摘されるなど
タイリクオオカミと形態学的に類似点がみられるとの研究報告が複数あり、タイリクオオカミの亜種だとする意見もありました。そして、2011年、2012年にミトコンドリアDNAを解析した論文も、他のキンイロジャッカルよりタイリクオオカミに近いと報告しています。
また、別名、エチオピアオオカミとも呼ばれるエチオピアの一部の山地にのみ住むアビシニアジャッカルは形状からジャッカルに近いと思われていましたが、最新のDNA検査でオオカミに近いことが分かっています。
このように、オオカミは北米、ヨーロッパ、アジア、そしてその近縁種がアフリカで見られますが、南米、オセアニアには到達していません。
ただ、オオカミがいないこれらの地域の捕食動物は、収斂進化と呼ばれるプロセスで、非常によく似た形態を持つ動物に進化しました。収斂進化は共通の祖先を持たない無関係のシュが類似した形質を独立に獲得する驚くべき現象です。収斂進化を経験する動物は通常、地理的に互いに離れていますが、同様の環境を共有しています。
ミユビナマケモノとフタユビナマケモノは両種ともよく似た姿で、動きの遅い特徴を持っています。しかし、彼らは見た目ほど密接には関連しておらず、ミユビナマケモノはミユビナマケモノ科、フタユビナマケモノはフタユビナマケモノ科に属しそれぞれが絶滅した大型ナマケモノの異なるグループから進化しました。
収斂進化はコウモリと鳥の翼、ムササビとヒヨケザルの飛膜、アルマジロとセンザンコウの鎧など、しばしば驚くべき類似性を生み出します。
そして、多くの動物がオオカミに似た特徴を持っています。
オーストラリアのフクロオオカミ

フクロオオカミはかつてニューギニア、オーストラリア、タスマニアに生息していたオオカミのような有袋類です。彼らはオオカミに似た体、頭蓋骨、行動特性を持っていましたが、オオカミとの共通の祖先は1億6千万年前にまで遡ります。
オーストラリアの孤立した環境で、フクロオオカミは鋭い歯や強力な顎、踵を浮かせた状態で歩行する趾行性 (しこうせい)や基本的な体の構造など、オオカミと似た特徴を進化させています。彼らの体型はオオカミとほぼ同じで、どちらも流線型で、狩猟に最適化されていました。
このフクロオオカミの最も近い親戚は、歯を持たず、細く長い舌でアリを食べるアリクイのような進化をしたフクロアリクイで、これは本当に信じがたいことです。
フクロオオカミは収斂進化の最も優れた例のひとつでした。しかし、オーストラリア大陸のフクロオオカミは3000年前までに侵入してきたディンゴとの戦いに敗れました。こうして、人類の到達が遅く、ディンゴの生息していなかったタスマニア島のみに生き残ることになりましたが、これも家畜を襲うとして懸賞金がかけられ、1930年代には絶滅しています。
こうして、ひとつの種だけでなく、収斂進化の最も優れた例をも失われてしまったのです。
アフリカのハイエナ

オーストラリアでは有袋類でしたが、アフリカではハイエナがオオカミのような進化をしました。この動物は今日ではアフリカ、西アジア、インドに分布しています。
ハイエナは一見するとオオカミなどのイヌ科に近いように見えますが、むしろネコ科の方がずっと近く、もともとマングースやジャコウネコと同じ系統に属していました。
ハイエナは2200万年前のユーラシアの密林に起源を持ちます。これらの初期のハイエナはジャコウネコに似ており、樹上に住んでいましたが、生息地を森林からサバンナに分散させるにつれて、より早く走るための長い足を進化させました。
そして約1500万年前にハイエナ亜科とアードウルフ亜科の2つのグループに分かれました。
前者の中には恐ろしく巨大なショートフェイスハイエナも含まれています。これは、最大200キログラムにもなる巨大なハイエナで象の骨をも砕くことができました。
時が経つにつれて、アードウルフ亜科の系統は減少し、昆虫食のアードウルフだけが生き残りました。そのため、今日では、ハイエナ亜科の方がはるかに成功しているといえ、ユーラシアとアフリカ全体で支配的な腐肉食動物になっています。
彼らは食べ物をあさることが多いですが、熟練したハンターでもあります。一般的にハイエナはオオカミよりも強くて筋肉質の体を持ち、これはオオカミほど多くの持久力を必要としないためです。また、ハイエナの尾がずっと短いのも同じ理由で、長距離を走るときにバランスを取るための長い尾を必要としません。
しかし、ハイエナが成功している理由は、肉体的な強さだけでなく、数の強さにあります。オオカミとハイエナはどちらも複雑な社会構造で生活しており、より大きな捕食者から身を守り、1匹では大きすぎる動物を狩ることができます。彼らは何千年にもわたって洗練された戦略を好み、各メンバーが特定の役割を完璧に果たして、精度の高い狩りをすることができます。
そして、どちらの動物も縄張り意識が強く、ライバルから身を守り、洗練されたコミュニケーション能力を持っています。ハイエナは笑い声のような鳴き声で、オオカミは遠吠えや吠え声でコミュニケーションを取ります。
先史時代のダイアウルフ

先史時代にもオオカミに似た生物が生息していました。昔、北米は今よりはるかに寒く、多くの巨大な草食動物が生息していました。
ダイアウルフはこのようなより大きな獲物に対処するために、大型化したオオカミのような動物です。彼らの骨の形態はオオカミと似ていましたが、2021年1月に発表されたゲノムを解析した論文では、タイリクオオカミとはそれほど近くなく、むしろセグロジャッカルやヨコスジジャッカルに近いとされました。
ダイアウルフはオオカミよりもはるかに強力な動物に進化し、マンモス、メガテリウム、バイソンなどの大型動物を狩りました。ただし、彼らはオオカミと同様に群れで生活していました。そして、オオカミのように彼らもまた川や崖を利用して獲物を追い詰めるなど、厳しい進化の選択圧の下で問題解決能力を磨いていました。
しかし、ダイアウルフは最終氷期後には絶滅しました。ダイアウルフの最も年代が新しい化石は、ミズーリ州で発見された約9440年前のものです。絶滅の要因として大型草食獣の絶滅、気候変動、ヒトを含む他種との競合などが考えられていいますが、はっきりしていません。
南米のタテガミオオカミ

南米にはタテガミオオカミがいます。
ただ、その名前や外見が示唆するにもかかわらず、タテガミオオカミはオオカミではありません。彼らは南米最大のイヌ科動物で、2009年に、DNA配列の分岐分析によって、タテガミオオカミの最も近縁な種はフォークランドオオカミだとわかりました。
フォークランドオオカミはフォークランド諸島に固有で、同地で唯一の在来のイヌ科動物でしたが、開拓移民による島の開発と狩猟などによって生息数を減らし、1876年に絶滅に追い込まれています。彼らの体長は約90cm、体重は約15kg程で、中型犬並みの体躯でした。フォークランドオオカミもまた、オオカミと名がついていますが、これもまたオオカミではなく、タテガミオオカミとおよそ670万年前に分岐しています。
また、現生する動物ではヤブイヌがタテガミオオカミの最も近縁な種となります。この両種は近縁であるにもかかわらず、イヌ科ではヤブイヌの脚が最も短く、タテガミオオカミの脚が最も長いということになります。
DNA分析によると、両種の祖先はヤブイヌのような姿をしており、その短い脚は藪の中を移動するのに適していました。それが、ジャングルから出て草原に適応したのがタテガミオオカミだと考えられています。
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タテガミオオカミはオオカミと多くの点で共通する適応を持っているものの、違いもあります。彼らはオオカミとは違い、単独で行動します。また、食性は雑食で、その獲物は多岐にわたり、178種の鳥、小型哺乳類、爬虫類、魚類、昆虫、果実などですが、そのうち果実が食性の多くを占めまています。
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