木のように巨大なキノコが存在しない理由

生物

ゲームや映像作品では、木よりも大きな巨大キノコが登場することがありますが、現実の世界ではそのようなキノコは存在しません。ではなぜキノコには木のように背を高くして巨大化するものが存在しないのでしょうか。本記事はその理由を生物学的な構造と進化の観点から解説しています。

この記事の要約

  • キノコが巨大化できない構造的理由: キノコの細胞壁は主にキチンでできており、木材のセルロースやリグニンと比べて剛性が低く、自重を支えられない。また水輸送システムもないため、構造的に高く成長することが困難である。
  • そもそも高くなる必要がない: キノコは光合成をせず、土壌や倒木から栄養を吸収するため、光を求めて高く伸びる必要がない。むしろ地下で菌糸ネットワークを横に広げる戦略の方が、栄養獲得の効率が良い。
  • 過去の巨大菌類説の否定: かつて8メートルの高さがあったプロトタキシテスは巨大な菌類と考えられていたが、2025年の最新研究で菌類ではなく、既存のどの生物分類群にも当てはまらない独自の真核生物である可能性が示された。

現存する世界最大級のキノコ

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一般に森や公園で見かける傘と柄をもったキノコは、菌類が繁殖のために胞子を飛ばす目的でつくる子実体と呼ばれる構造です。子実体を形成するのは菌類の中でも限られたグループだけで、菌類の本体は地中や木の内部に広がる菌糸にあります。

現存する最も大きな子実体として知られているのは、中国・海南島で発見されたフェリヌス・エリプソイデウス(Fomitiporia ellipsoidea)です。この種はサルノコシカケ類の仲間で、倒木に沿って板状の子実体を長く伸ばす性質があります。発見された標本では、その子実体が途切れることなく連続しており、全体の長さは10.85メートルに達していました。また、推定重量は450から760キログラムに及んだとされています。ただし、これは横方向に広がった結果であり、巨大な木のように立ち上がっていたわけではありません。

一方で、あなたたちが一般にキノコと聞いて思い浮かべる、一本の柄と傘を持つタイプで現生最大級のものとして知られているのがターミトマイセス・ティタニクス(Termitomyces titanicus)、通称チ・ングル=ングルです。現地では食用としてよく利用され、地元の市場でも見かける一般的なキノコです。このキノコはアフリカ西部やザンビア、コンゴ民主共和国のカタンガ州で見られ、柄の長さは最大57センチメートル、傘の直径は最大で1メートルに達します。チ・ングル=ングルはシロアリの一種と共生しており、シロアリはチ・ングル=ングルを育てて大きくする代わりに、チ・ングル=ングルを食べて栄養にしています。このように、チ・ングル=ングルはシロアリが溜め込んだ膨大な栄養を独占して一気に使うため、これほどまで巨大化できるのです。チ・ングル=ングルは傘が非常に大きく、柄も太くてしっかりしているため見た目には迫力がありますが、それでも何メートルもそびえ立つ巨大な木とは比べものになりません。結局のところ、自然界にはファンタジー作品に登場するような、空へ向かってそびえ立つ巨大キノコは見られないのです。

では、ここでひとつ疑問が生まれます。同じように地面から生える生物でありながら、いったいなぜキノコには木のように背を高くして大きくなるものが存在しないのでしょうか。

キノコが高くなれない理由

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キノコが木のように高く成長できない理由のひとつは、その構造そのものにあります。キノコの細胞壁は主にキチンという物質でできており、これは強度こそあるものの、木材のような高い剛性や圧力に耐える力はありません。一方で、木が高く成長できるのには明確な理由があります。植物の細胞壁はセルロースとリグニンを主な成分としており、これらは軽量でありながら非常に強く、圧縮にも引張にも耐えられる構造を作り出します。

さらに、子実体は水分を多く含む柔らかい組織でできているため、自重に対して強くなく、高く伸びると自らの重さで倒れやすくなってしまいます。加えて、キノコには植物が持つ維管束のような長距離の水輸送システムがありません。植物は根から吸い上げた水を幹を通して何十メートルも運ぶことができますが、キノコにはそのような仕組みがないため、構造的にも高さを維持することが難しいのです。

そもそも高くなる必要がない

Jerzy Opioła, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

キノコが木のように高く成長しない最大の理由は、そもそも高くなる必要がないという点にあります。キノコは植物と違って光合成を行わず、栄養は土壌や倒木などの有機物から吸収します。そのため、周囲より高い位置を確保して光を奪い合う必要がなく、高さを競うこと自体が生存上の利益になりません。植物の場合は、光合成のためにより多くの光を得ることがそのまま成長と繁殖の利益につながるため、高く伸びる方向へ進化してきました。しかし、キノコにはその必要がなかったのです。

さらに、地上で目にするキノコは、菌類が胞子を飛ばすために一時的に作る子実体にすぎず、本体は地中や木の内部に広がる菌糸のネットワークです。菌類が巨大化するときは、木のように上へ伸びるのではなく、この菌糸が横方向へ広がる形で起こります。実際、地下の菌糸体が数平方キロメートルに及ぶ例もあり、アメリカ・オレゴン州で確認されているオニナラタケは、地球上で最大級の生物のひとつとして知られています。

過去に巨大な菌類がいたと考えられていた例

Віщун, CC BY 3.0, via Wikimedia Commons

これまで、この地球には木のようにそびえ立つ巨大な菌類が存在していたと考えられていました。それがプロトタキシテスです。今からおよそ4億年前、シルル紀末からデボン紀初期の地上に生息していたこの巨大生物は、高さが最大で8メートルに達したと推定されています。当時の植物はまだ数センチから数十センチほどで、地面を這うように小さく生い茂っているだけでした。そんな中、プロトタキシテスだけがビルやタワーのように突き抜けてそびえ立っており、当時の地球で最も背の高い生き物だったと考えられています。

プロトタキシテスが最初に発見されたのは19世紀半ばで、カナダの地質学者ジョン・ウィリアム・ドーソンが化石を初期の針葉樹として記録しました。しかしその後、形態や内部構造を詳しく調べるうちに、植物ではない可能性が浮上しました。2001年には古生物学者フランシス・ヒューバーが、管状の構造などからプロトタキシテスは巨大な菌類ではないかと提案しました。さらに2017年には、化石内に子実体らしき構造も確認され、現生の子嚢菌(カビや酵母の多くが所属するグループ)に似ているかもしれないと考えられました。

しかし、これまでの仮説は部分的な証拠や推測に基づくものであり、プロトタキシテスの正体は完全には明らかになっていませんでした。そこで、2025年3月、スコットランドの岩石に保存されていたプロトタキシテスの化石を対象に、エディンバラ大学などの研究チームが最新の解析手法を用いて再調査を行いました。その結果、従来の菌類に必須とされるキチンやキトサン、ペルレンなどの化学成分は検出されず、現存するどの菌類とも一致しないことが明らかになりました。また、葉緑体や維管束も存在せず、植物や動物の特徴も見られませんでした。これにより、真菌・植物・動物・細菌のいずれとも一致せず、従来の巨大菌類説は大きく見直され、プロトタキシテスは既存のどの生物分類群にも当てはまらない、独自の真核生物の系統である可能性が高いことが示されました。

この研究は、プロトタキシテスが単なる巨大なキノコではなく、地球上でかつて存在した、進化の失われた実験の象徴であったことを示しています。

またその他、過去の化石記録を見ても、高さが数メートルに達するような子実体を持つ菌類は確認されていません。古生代から中生代にかけての菌類化石のほとんどは、子実体の大きさが数十センチ以下の小型にとどまっており、木のようにそびえ立つ巨大な形態は存在しなかったことがわかります。

結論

結局のところ、キノコが木のように背の高い巨大な形にならないのは、能力の問題ではなく、進化の必要がなかったからです。キノコは光合成をせず、栄養は土壌や倒木から吸収します。そのため、周囲の光を奪い合う必要がなく、高さを競うメリットがありません。代わりに、地下や基質の中で菌糸ネットワークを広げる方が、栄養の獲得や生存の効率という点で圧倒的に合理的なのです。つまり、キノコは上に伸びるよりも横に広がる戦略で進化してきた生物であり、見かけの子実体の小ささは、自然界で最も適した形で生き抜くための結果だと言えます。

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