近年の研究により、新しく発見されたシャチの群れが海洋の生態系を変えている可能性があることが分かりました。彼らの積極的な行動は、これまでに見たことのないレベルの海洋支配を示しています。本記事ではこのシャチの群れがどのようなもので、どのような行動をしているのかについて、詳しく解説しています。

- 科学者たちは、カリフォルニアとオレゴンの海岸沿いに生息するシャチの個体群を構成する、3つの異なる生態型(沖合型、回遊型、定住型)を認識しています。
- しかし、25年以上にわたって収集されたデータに基づく新たな研究によれば、外洋に潜む第4のグループが存在し、これまで知られていなかった身体的特徴、食性、狩猟戦略を示している可能性があることが示唆されています。
- 科学者たちは、これらのシャチに関する今後の音声録音の分析とさらなるDNA解析を通じて、このシャチの群れが新しい生態型であるかどうかを確実に判別できることを期待しています。
カリフォルニアとオレゴンのシャチ:3つの生態型の概要

これまで、カリフォルニアとオレゴンの海岸沿いに生息するシャチの個体群は、3つの生態型に分類されていました。海岸付近に住み、サケなどの魚を食べる「定住型」。また、沖合に住み、同じく魚を食べる「沖合型」。そして、哺乳類を食べる「回遊型」です。このようにシャチは、生息地や食べる餌の違いにより行動が異なるだけでなく、丸いヒレや尖ったヒレを持つなど、身体的な特徴もそれぞれ異なります。
新たに発見された外洋型シャチ:第4のグループの可能性

1997年から2021年までの間に、ブリティッシュコロンビア大学の科学者たちは、49頭のシャチの群れに29回遭遇しました。この25年以上にわたるデータ収集に基づいた研究により、異なる身体的特徴や食事パターン、行動戦略を示す第4のグループがカリフォルニアとオレゴンの沖合に存在している可能性が明らかになりました。この研究結果は学術誌に2024年3月14日付で掲載されました。「外洋型」と名付けられたこの集団は、大陸棚よりもはるか沖合で生息しています。
科学者たちは、この新しいグループが外洋で形成された可能性があると仮説を立てています。少なくとも北太平洋では、これまで外洋のシャチを対象とした本格的な研究が行われた例はありませんでした。外洋というのは、大量の捕食者が存在する場所というよりも、広大な砂漠によくたとえられる環境です。そのため、科学者たちはこれほど多くのシャチを見ることになるとは予想していませんでした。今後、彼らはこれらのシャチの音声録音とさらなるDNA分析によって、この群れが新しい生態型を表しているかどうかを確実に識別できるようになることを期待しています。
外洋型の特徴

シャチは地球上で最も魅力的な海洋生物のひとつです。この生物は社会性の強い群れを持ち、世界中のさまざまな環境で異なる行動を取ることで知られています。
彼らは、家族ごとに独自の「方言」とも呼ばれるコールを使用し、それによって情報を交換し合っています。この方言は親から子へと代々受け継がれていきます。また、群れ内でのじゃれ合いに加え、異なる群れ同士が交わり、特に若い個体間での揉み合いや激しいコールの交換も観察されています。このため、今回の発見により、シャチの世界に新しい方言が加わる可能性が示唆されています。
研究対象となった49頭の個体について、シャチ特有の背びれや背中の灰色や白色の模様である「サドルパッチ」に基づく比較が行われましたが、既存の個体群と一致するものはひとつも見つかりませんでした。このことは、外洋型と既存の生態型との外見的違いが偶然ではなく、これらのシャチが海洋型のサブグループであるか、あるいは完全に独自の集団である可能性を示しています。
シャチの群れが他のものと異なると認識されるには、写真や観察データの集積が必要であり、非常に長い時間がかかると言われています。そのため、新しい個体群が発見されることは非常に珍しいことです。
外洋型シャチの驚くべき狩猟戦略と生態

こうした第4のグループ「外洋型」の中で、研究者たちを最も驚かせたのは彼らの狩猟パターンでした。研究者らがこの群れと初めて遭遇した際、シャチの群れは成熟したメスのマッコウクジラが率いる群れを攻撃し、最終的に個体を群れから引き離して捕食することに成功した様子が観察されました。西海岸でマッコウクジラを攻撃するシャチが報告されたのはこれが初めてです。
その他の遭遇例には、マッコウクジラへの攻撃、キタゾウアザラシやハナゴンドウの捕食、オサガメの死体を食べた後に休息する姿などが含まれます。このデータは、この群れが他の群れよりも特に攻撃的なハンターであることを示唆しています。
この新しい群れは、外洋での豊富な獲物に引き寄せられた結果、形成されたのかもしれません。捕鯨や捕獲が規制されて以降、アザラシや他のクジラ類の数が回復していることで、哺乳類を食べるシャチの数も増加しています。
全体として、餌の競争が少ない外洋の深海域は、沿岸にいる定住型の大規模な群れと競合するよりも、シャチにとって魅力的な環境であると考えられます。
ダルマザメの攻撃跡から探るシャチの行動範囲

さらに研究者たちは、この49頭のシャチのほぼ全ての個体に、共通点があることに注目しました。それは、体に噛まれた傷跡が見られるという点です。この傷跡はダルマザメによるものであり、この独特なシャチの個体群が通常どこに生息しているのかを推測するための重要な手がかりとなります。
体長30〜50cmほどのこの小型のサメは、非常にユニークな生態を持っています。ダルマザメは自分よりはるかに大きな動物を攻撃し、生きている獲物の肉を削り取って食べる習性があります。このとき、ダルマザメは強力な吸引力と鋭い、のこぎり状の歯を駆使し、獲物の体に噛みついて体を回転させながら肉を削り取ります。このため、まるでクッキー型でくり抜いたような綺麗な半球状の傷跡が残ります。この特徴から、ダルマザメは英語で「クッキー・カッター・シャーク」と呼ばれています。
ダルマザメは主に外洋に生息する傾向があるため、これらのシャチは海岸から遠く離れた外洋の海域を好む可能性が高いことが示唆されます。
外洋型の研究が示すシャチの未来

気候変動は一部のシャチの群れに影響を与えています。例えば、急速に減少している氷の上で暮らすアザラシを捕食する南極のシャチが、その一例です。また、アメリカ西海岸ではサケの減少により、ワシントン州ピュージェット湾のシャチの個体数が減少しています。しかし、世界的に見ると、シャチの個体数はむしろ繁栄しているとも言えます。
ただし、外洋型のシャチを取り巻く状況については、まだほとんど明らかになっていません。この群れが本当に新しい個体群であるのか、それとも一過性の存在であるのかを判断するためには、科学者たちはDNAサンプルを収集し、これらのシャチと他の生態型の間に遺伝的な違いがあるかどうかを分析する必要があります。また、シャチの鳴き声の録音を収集し、それを詳細に分析することも計画されています。
参考:49 Baffling and Unstoppable Killer Whales Are Reshaping Marine Biology
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