ヒメコンドルはコンドル科ヒメコンドル属に分類される鳥で、北アメリカ大陸、南アメリカ大陸、フォークランド諸島まで幅広く生息しています。このように、ヒメコンドルはアメリカ大陸でよく見られる鳥ですが、不用意に近づいてはいけません。それは、強力な胃酸を含んだゲロを吐く可能性があるからです。それではこの鳥の生態は一体どのようなものなのでしょうか?
ヒメコンドルの生態

ヒメコンドルはその名に反し、大型になる鳥で、翼を広げると160~183cmあり、体重は0.8~2.41kgあります。また、この種の分布域の北限に生息する個体は、平均して熱帯に生息する個体よりも体が大きくなります。フロリダの124羽の平均体重は2kgであったのに対し、ベネズエラの65羽と130羽の平均体重はそれぞれ1.22kgと1.45kgでした。
ヒメコンドルは鳥の卵や雛、爬虫類など、さまざまな動物の、小さくて弱い個体や病気の個体を狩ることがあるものの、自分で獲物を殺すことはほとんどありません。彼らは主にネズミやトガリネズミなど小型哺乳類からユウタイ類など大型草食動物まで幅広い死肉を見つけて食べます。特に道路沿いで轢かれた動物を食べたり、水辺で打ち上げられた魚を食べたりしている姿がよく観察されています。
ただ動物の死肉には炭疽菌、結核、狂犬病など、あらゆる種類の毒素や病気が保有されている可能性があります。
ヒメコンドルが死肉を食べることができる理由

それではなぜヒメコンドルは死体を食べることができるのでしょうか?
実は、ヒメコンドルの体には死体を食べるのに適した、様々な能力が備わっています。
まず、彼らの成鳥の頭は赤く、羽毛がほとんどないか、まったくありません。この羽のない頭は死肉の中に頭を突っ込んで食べても細菌だらけの肉のかけらが羽毛に付かないため、彼らの体を清潔な状態に保つことができます。
また、ヒメコンドルの鼻孔は隔壁で分割されていないため、横からくちばしを通して向こう側を見ることができますが、これも同様の理由で、鼻の穴に死肉のかけらが詰まりにくくなっています。
そして、ヒメコンドルは太陽の下で翼を広げているのがよく見られますがこれは翼を乾燥させるだけでなく、羽についた細菌を殺すのにも役立っていると考えられています。
さらに彼らは酸性度の高い強力な胃酸を持っています。人間の胃酸はだいたいpH1から2あたりですが、ヒメコンドルの胃酸はpH0.2と異常な強酸性となっています。これにより、炭疽菌や結核菌、サルモネラ菌、狂犬病ウイルスなど、非常に有害な病原体を殺すことができるのです。
ヒメコンドルのユニークな防御方法

ヒメコンドルには天敵がほとんどいないものの、キツネやイヌが彼らの脅威となることがあります。また、卵や雛がアライグマやオポッサムなどに捕食される可能性もあります。
ヒメコンドルは長さ9.5から14cm、幅8.2から10.2cmの大きな足を持ちますが、平らで比較的弱く、物を掴むのにはあまり適していません。爪も比較的鈍く、そのため、ヒメコンドルの攻撃力はそれほど高くはありません。
そこで、ヒメコンドルは主な防御方法として、強力な胃酸を含んだ未消化の肉を相手に吐きつけます。これは悪臭を放つ物質で、巣を襲おうとするほとんどの生き物を阻止することができます。ヒメコンドルはこの嘔吐物を最大3mの距離まで飛ばすことができるうえ、捕食者が至近距離の場合は、目に直接かけることもできます。また、重い未消化物を吐き出すことにより、捕食者から素早く逃げることができます。
ちなみに、糞尿にも強酸が混ざっているため、ヒメコンドルはそれを自分の足にかけることで消毒をする習性も持っています。これには糞尿に含まれる水分の蒸発を利用して体を冷やす役割もあります。
ヒメコンドルの生態系における重要な役割

このようなことから、ヒメコンドルのことを汚い鳥だと思われるかもしれませんが、実は彼らは病気の温床となる死肉を処分することで、生態系や人間の健康にとって非常に重要な役割を果たしているのです。
ヒメコンドルは群れでねぐらにつき、その数は数百羽にもなることがありますが、日中は群れを離れて単独で餌を探します。彼らは新鮮な死肉を好むものの、死んだばかりという共通点を除けば、まったく好き嫌いがありません。テネシー州だけでもアルマジロ、スカンク、牛、鹿などの死体に集まる姿が確認されています。
ヒメコンドルには獲物を尾行して殺すという誤解がよくありますが。実際には彼らが到着するのは獲物が死んでからです。それではヒメコンドルはどのようにして獲物を見つけているのでしょうか?
ヒメコンドルは鳥類界で最も強力な嗅覚を持っており、これによってすでに死んでいる獲物を見つけることができるのです。
死んだ動物の腐敗が始まったとき、エチルメルカプタンと呼ばれるガスが発生しますが、この匂いを嗅ぎ分けるために、ヒメコンドルは地面近くを飛ぶことがよくあります。彼らは数km離れた死体をも見つけることができ、実際、ほかの多くのハゲタカはヒメコンドルが先に死肉を見つけるのを頼りにしています。
死体にはヒメコンドルが真っ先に到着し、死肉の匂いを嗅ぐ能力のないオオハゲワシやコンドルはヒメコンドルのあとを追います。そして、このようなより大きな猛禽類が来ることにより、大型動物の硬い皮を自力で引き裂くことができないヒメコンドルは餌にありつくことができます。これは種間の相互依存の素晴らしい例となっています。
これまで見てきた通り、ヒメコンドルの胃酸は炭疽菌、結核、狂犬病、ボツリヌス中毒、コレラ、サルモネラを殺すのに十分な強さがあります。いち早く獲物にたどり着いたヒメコンドルは、その驚くべき適応により、他のほとんどの動物が重病になるようなものを食べることができ、ほかの野生動物、家畜、人間への病気の拡散を防いでいるのです。
たとえば、インドでは家畜の抗炎症薬の使用により、地元のハゲワシの個体数が95%減少し、そのため、狂犬病の発生率が増加してしまいました。これにより、周辺のコミュニティに年間約210億ドルもの損害をもたらしています。
ヒメコンドルの分布域は非常に広く、推定で全世界で28,000,000km2といわれています。彼らはカナダ南部から南米最南端まで分布し、亜熱帯の森林、低木林、牧草地、砂漠など、さまざまな場所に生息しています。ヒメコンドルはアメリカ大陸で最も広く分布する鳥であるとともに、世界で最も生息数の多い猛禽類で、全世界の個体数は18,000,000羽と推定されています。
ヒメコンドルがいなければ、アメリカでもインドと同様の壊滅的な影響が見られる可能性があります。
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