「世界の果て」ティエラ・デル・フエゴで急速に進化する野犬が住民を脅かしている!!

生物

南アメリカ大陸の最南端、アンデス山脈と海が出会う場所にティエラ・デル・フエゴがあります。きわめて寒冷な気候のこの島々では現在、野生化したイヌが問題となっています。これらのイヌはこの過酷な環境に適応し、独自の生活様式を持つようになりました。

それではこの土地のイヌはほかの場所のイヌとはどう違うのでしょうか?この記事ではティエラ・デル・フエゴの野犬について解説しています。

ティエラ・デル・フエゴの気候と自然

mapping data: OpenStreetMap contributors; mosaicked by: EnyavarCC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

ティエラ・デル・フエゴは面積の大半を占める主島のフエゴ島と残りの小さな島々から成り、アルゼンチンとチリの両国によって分割・統治されています。

スペイン語でティエラは陸地、フエゴは火を意味し、これは1520年にフェルディナンド・マゼランが世界一周の航海の途中でマゼラン海峡を通過した際に島で多数の焚き火を見たことからこう名づけられました。焚き火は先住民族のヤーガン族のもので半裸の生活を送っていたヤーガン族が暖をとるために熾していた火とも、マゼランの艦隊を見て出した警報の火とも言われています。

ティエラ・デル・フエゴの南、ドレーク海峡を渡った先は南極大陸が広がっており、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスからの距離は約3,200kmある一方で、南極大陸とは1,000kmほどしか離れていません。そのため、この土地は「End of the world(世界の果ての地)」と呼ぶにふさわしい場所といえるでしょう。

ティエラ・デル・フエゴは亜寒帯海洋性気候に属し、気温は年間を通じて安定しており、夏でも9℃を超えることはほとんどなく、冬でも平均0℃です。そのため、夏に雪が降ることもあります。

面積のわずか30%がごく限られた針葉樹およびナンキョクブナ科の森林で構成されており、これは世界最南端の森林です。この土地は風が非常に強いため、これらの木々はねじれた形に成長しています。一方、北東部はステップと荒涼とした半砂漠で構成され、南部のウォラストン諸島は大部分がツンドラで覆われています。

このような手つかずの自然が残されているティエラ・デル・フエゴにはラマの祖先である野生のグアナコの大群が見られます。そのほかにもインコ、カモメ、スジオイヌ属のイヌ科動物、カワセミ、アンデスコンドル、キングペンギン、フクロウなどがいます。また、フエゴ島には世界最南端に分布するトカゲ、マゼランツリーイグアナも生息しています。

ティエラ・デル・フエゴを侵略する外来生物たち

ただし、このティエラ・デル・フエゴの生態系のバランスは人間によって持ち込まれた外来種によって脅かされています。この地域に最初に移住した白人は宣教師で、19世紀には羊飼いが続きました。こうして持ち込まれたヒツジの数は、1915年までに100万頭以上にも膨れ上がり、現在でも島の「文化的象徴」となっています。

また、1940年代には北米のビーバーが導入され、増殖したものが島の森林に多大な被害を与えました。そのため、政府はビーバーを捕獲し、殺すための広範囲にわたるプログラムを立ち上げています。

ただし、最も問題となっているのはこの土地の頂点捕食者となった凶暴な野犬です。

ティエラ・デル・フエゴを支配する頂点捕食者

1972年、産業振興法が可決され、アルゼンチン人の国内移住が奨励されたことで、景観と経済は劇的に変化し、特にリオグランデの小さな町は大都市に変わりました。この時、島々にやってきたアルゼンチン人は、多様な飼い犬を持ち込みました。これらのイヌにはペットのほか、多くの牧羊犬が含まれています。この牧羊犬はしきょうを越えて羊の牧場まで自由に歩き回ることが許されていました。それが、牧場を越えてさまよい始め、グアナコや鳥などの在来の野生動物を襲うようになり、広大な荒野で制御不能になっていったのです。また、ペットとして飼われていたイヌが捨てられたり、逃げ出したりして野生化したものもいました。

グランデ島は台湾よりも大きいのですが、人口が非常にまばらで、150,000人と推定されています。一方、台湾の人口は2,300万人を超えています。そのため、野犬がエサを探し、繁殖するのに十分なスペースがありました。

人間が定住する以前はこのグランデ島にはスジオイヌ属が在来していたものの、生態系の頂点に立つようなイヌ科動物は見られず、野犬がこの場所の最初の頂点捕食者となったのです。

彼らは自然淘汰を通じて、この厳しい環境で生き残るために適応し、群れを形成し始め、繁栄するための狩猟戦略を開発しました。現在、ティエラ・デル・フエゴの野犬は推定600から1000匹が生息していると考えられています。

これらのイヌは世界の反対側、シベリアやスカンジナビア、北極圏などに生息するオオカミと非常によく似た生態を示しています。世界の他の場所でオオカミの仲間が占めている生態学的ニッチを、もともと人間に飼われていたイヌが埋めることは非常に驚きです。ただし、オオカミとは違い、野犬の毛色、大きさ、気質は様々で、これは彼らの祖先が多様だったことを反映しています。

地元住民への被害

アルゼンチンのドキュメンタリー映画「ファイアランド・ドッグス」では地元住民へのインタビューを通じて、ティエラ・デル・フエゴの息をのむような景観の美しさと頂点捕食者としてのイヌの不気味な存在が対比して描かれています。

インタビューで農家は人間の親友である犬の群れが在来の動物や羊を襲っていると語っています。これらの飼い犬は繁殖を続け、群れを作り、1つの群れで年間1000匹もの羊を殺しているといいます。さらにイヌは動物を襲うだけでなく、住民に噛み付いたりして人々を恐怖に陥れています。また、排泄物で公衆衛生上の危険を引き起こしたりしていると、イヌが迷惑な存在から危険な存在へと変わった経緯を語っています。

羊飼いたちは罠猟を含むいくつかの解決策を試みてきました。それでも、多くの牧場が倒産し、牛の飼育に切り替えた農家もいます。また、この問題に正面から立ち向かわざるを得なくなった農家の中には、自分の敷地内で野犬を撃つために狙撃手を雇うようになった人もいました。このように、今や人々が武器を取って犬を狩らざるを得なくなるという終末後のようなシナリオが描かれています。

これに対し、動物保護施設の職員は暴力をやめるよう、嘆願しました。保護施設の職員や獣医は去勢、教育、譲渡を提唱し、農家が恐れている捕食者に思いやりを示しています。また、彼らは最も望ましい選択肢として、羊と一緒に番犬としてより大型の犬を飼育することを推奨しています。ただし、一部の農家はこの戦術を試しているものの、この方法がどれほど効果的かがわかるにはまだ時間がかかるようです。

まとめ

このように、自分たち自身ですら繁栄することを意図していなかったこの土地で現在も野生の犬の群れは貪欲に生き残りティエラ・デル・フエゴの荒野を支配しています。これらのイヌの存在に脅かされているこの土地の住民は文字通り「End of the world(世界の終わり)」にいるようです。

この記事はYouTubeの動画でも見ることができます。

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