地球上の歴史の中でこれまでに、サーベル状の犬歯(剣歯)を持った肉食動物のさまざまなグループが存在していました。しかし、これらのグループは約10,000年前にはすべて絶滅してしまっています。剣歯を持つ猛獣はゲームや漫画などにもよく登場し、非常に強そうなイメージがありますが、どうして現在にそのような捕食動物がいないのでしょうか?
この記事は剣歯を持つ肉食動物が現代にいない理由について説明しています。
サーベル状の歯を持った動物たち(剣歯類)

インドから東アジアに分布するウンピョウは長大な犬歯を持つことで知られており、これは体に対する大きさとしてはネコ科一です。しかし、過去には口から突き出すほどの大きなサーベル状の歯を持った
哺乳類が存在していました。
これらの動物の歯はほかとは異なる特徴を持っています。それは、非常に長く鋭い歯で、丸みを帯びているのではなく、わずかに平らで湾曲している傾向があることです。
サーベル状の歯を持つ最も有名な動物に、剣歯虎(サーベルタイガー)が挙げられます。剣歯は漸新世後期から更新世にかけて栄えたネコ科のグループで、様々な種が存在しました。彼らは虎と名がつくものの、トラが属するヒョウ属とは全く異なるマカイロドゥス亜科として分類されます。
しかし、剣歯虎以外にもサーベル状の歯を持つ動物のグループは多く存在し、少なくとも5回独立して進化しており、南北アメリカ、ヨーロッパ、アジアの各地で化石が発見されています。
サーベル状の歯と表現できる最も古い動物にゴルゴノプス類が知られています。ゴルゴノプスは約2億7000万年前から2億5200万年前のペルム紀中期から後期に生息していた獣弓類のグループです。獣弓類には現代の哺乳類の祖先やゴルゴノプスなど、現在は絶滅した非哺乳類の動物群が含まれます。

ゴルゴノプスのサーベル状の歯は非常に殺傷能力が高く鎧を持つ大型爬虫類のパレイアサウルス類や
大型で危険なディキノドン類を仕留めるのに役立ちました。また、他者へのアピールに使われた可能性も高いといわれています。
別の例としては、中新世後期から鮮新世後期(約700万年前~300万年前)の南アメリカに生息していたティラコスミルスがあります。ティラコスミルスはさいしもくに分類され、有袋類により近縁でした。

ティラコスミルスは剣歯虎に酷似し、同様に長大な剣歯を持ちます。彼らは全長約1.2から1.7メートル、体重は80から120kgとジャガーに近い重さがあったとされますが、これまで発見された化石の最大では、推定150kgと小型のライオンやトラに匹敵しましたこれらのケンシを持つ哺乳類は収斂進化の例として見ることができます。
収斂進化は異なる生物群が似たような環境に適応するために似た形態や機能を持つように進化する現象を指します。つまり、共通の祖先を持たない生物が、同じような選択圧にさらされることで似たような特徴を独立に進化させるのです。
この収斂は細長い犬歯の発達だけでなく、広い口や獲物を押さえるための強力な前肢など、ほかの一連の特徴によっても顕著であり一貫性が非常に高いため、彼らはまとめて剣歯類と呼ばれています。
ティラコスミルスは南北アメリカ大陸がパナマ陸橋を介して300万年前に陸続きとなったときに、剣歯虎の一種であるスミロドンなど、ネコ科の肉食獣の南下と前後して絶滅することになります。
このように、剣歯類は同じ生態的ニッチを巡って入れ替わりを繰り返してきました。
しかし、スミロドンを最後に、約1万年前以降、剣歯類は見られなくなります。それではこの剣歯類たちに何が起こったのでしょうか?
剣歯の弱点

英国ブリストル大学のタリア・ポロックと研究チームは剣歯虎が進化し続けた理由を調べるために、サーベル状の歯を持つ25種を含む、95種の肉食哺乳類の犬歯を調べました。
まず、研究者たちはそれぞれの歯の形状を測定して分類し3Dプリントでそれらのレプリカを作りました。そして、歯をゼラチンブロックに突き刺して、その性能をテストしました。これにより、剣歯が他の歯よりも最大50%少ない力でブロックに穴を開けることができたことがわかったのです。
ただし、この歯には弱点があります。肉食動物の歯は獲物の肉を突き刺すのに十分なほど鋭く細くなければなりませんが、その一方で、噛んでいる間に折れてしまわないように、鈍く頑丈でなければなりません。スミロドンのような動物の歯は穴を開けることに関しては非常に優れていますが、それはまた、少し壊れやすいことも意味します。たとえば、カリフォルニアのラ・ブレア・タールピットにはスミロドンの化石がたくさんあり、中には歯が折れているものもありました。こうしたことはトレードオフの関係にあります。あることを得意とする形状の特徴は、他のことを苦手とする形状の特徴でもあるのです。
スミロドンが絶滅した理由

このようなことから、スミロドンが絶滅した理由のひとつとして、生態系が変化しマンモスなど彼らが狙っていた、巨大な獲物が姿を消したことが考えられます。
スミロドン属には三種が知られており、最小のスミロドン・グラシリスの体重は最大100kgで、最大のスミロドン・ポピュレーターの体高は1.2メートル、体重が最大430kgもありました。
彼らは待ち伏せ型の捕食者でその筋肉質の前肢は獲物にしがみつくのに使われ、24cmにも及ぶ長い剣歯で、背中や後頭部に致命的な噛みつきを与えました。
スミロドン・グラシリスは北アメリカの開けたステップに生息し、そこにはケナガマンモス、オオナマケモノ、マストドン、バイソンなどの獲物が豊富に存在していました。しかし、最終氷期とその終了後、約7万年前から1万年前にこれら大型の獲物が大量に絶滅してしまいました。
今回の研究が示している通り、剣歯虎の巨大な歯はウサギほどの大きさの獲物を捕らえるのにそれほど効果的ではなかっただろうし、それどころか、歯が折れるリスクが高まった可能性があります
そのため、スミロドンはより小さな歯を持つネコ科動物のような効果的により小さな獲物を狩る捕食動物との競争に負けただろうと考えられます。
剣歯類のニッチは現在の種によって埋め尽くされている

このように、生態学的または環境的条件が変化するとすぐに高度に特殊化した剣歯類はすぐに適応できず絶滅したのです。
剣歯虎と同時代に生きていた捕食動物の中には上手く環境の変化に適応して生き残り現在も存在するものもいます。南米のジャガーは密林に適応するためにサイズが小さくなり、北米のオオカミは群れを作り、多くの獲物を倒せるようになりました。クマは肉が手に入りにくいときにはベリー類や植物を食べるなど、幅広く多様な食事で生き残れるように適応しました。このように、剣歯類がかつて到達したニッチは今ではより成功した種によって埋め尽くされています。
今日の世界は剣歯類が棲んでいた世界とは大きく異なり、獲物はより小さく、より少なくなっています
このような、大型動物そうが大量に絶滅した現在、剣歯類が再び現れることはないでしょう。
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