ラフレシア – 世界最大の花はなぜ日本で見られないのか

植物
Bunga Rafflesia Di Akar Gantung

ラフレシアは世界最大の花としてよく知られ、その巨大さや独特の姿から、一度は本物を見てみたいと思われる方も多いかもしれません。しかし、日本の植物園ではラフレシアの実物を見ることはできず、展示されているのはすべて標本かレプリカに限られています。

実は長いあいだ、本物のラフレシアは日本はもちろん、世界中の植物園でもまったく開花させることができませんでした。ラフレシアを見たい場合は、現地のジャングルに入り、開花のわずかなタイミングを狙うしかなかったのです。

こうした完全に不可能とされてきた状況に、近年、ようやくひとつだけ例外が生まれました。インドネシアのボゴール植物園が長年の研究の末、世界で初めて人工環境でラフレシアの開花に成功したのです。

それではなぜ、ラフレシアの栽培はそこまで難しかったのでしょうか。この記事はラフレシアの生態とともに、その理由を詳しく説明しています。

ラフレシアの基本情報

SofianRafflesiaCC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

ラフレシアは植物界に属する被子植物の中でも特異な存在で、分類上はキントラノオ目ラフレシア科ラフレシア属に含まれます。ラフレシア属には現在、およそ28種前後が知られており、その多くは東南アジアの熱帯雨林に分布しています。

インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ南部、ボルネオ島などで見られますが、とくにインドネシアに多く、同国だけで14種が確認され、そのうち11種はスマトラ島の固有種とされています。

ラフレシア属の花の大きさは種によってさまざまですが、直径15センチほどの小型のものから、ラフレシア・アーノルディイのように100センチを超える巨大なものまで幅広く存在します。アーノルディイは世界最大の花として広く知られ、日本語でラフレシアと言う場合もたいていこの種を指します。

しかし、2020年にはインドネシア・西スマトラ州で、ラフレシア・トゥアンムダエの個体が直径111センチに達して開花したことが報告されました。これはアーノルディイの最大記録(約105センチ)を上回るサイズであり、個体としてはトゥアンムダエが世界最大の花を咲かせた例とされています。

一方、実際にギネスブックで「世界最大の花」として公認されているのは、直径1.5メートルに達するショクダイオオコンニャクです。ただし、この植物が展開するのは、無数の小さな花が集まった花序と、それを包む仏炎苞と呼ばれるものの複合体であり、ひとつの独立した花とは言えません。そのため、単一の花として世界最大なのは、現在もラフレシア属の花とみなすことができます。

ラフレシア属の植物は見た目にも非常にインパクトのある花を咲かせることで知られています。花全体は赤橙色から赤褐色の色合いをしており、肉厚で多肉質な花弁が放射状に広がります。多くの種では花弁の表面に黄色や白のいぼ状の斑点が散らばっており、独特の質感を持っています。

花の中央には深く落ち込んだ壺状の構造があり、その内部にはツノ状の突起が並ぶ、平たい円盤状の器官が見られます。この構造が花の中心に向かって吸い込まれるような感覚を生み出し、見る者に強烈な印象を残します。

このような特徴的な花は科学者はもちろん、一般の人々のあいだでも関心が高く、実物を見てみたいと思う人も少なくありません。それなのになぜ、ラフレシアの花を日本の植物園や世界中の多くの植物園で見ることができないのでしょうか。

日本の植物園で見られない理由

Maizal, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

その理由はラフレシアの極めて特殊な生態にあります。ラフレシアは葉も茎も根も持たず、光合成を行うこともできません。そのため、自分で栄養を作ることができず、必ず特定の宿主植物に寄生して生活する必要があります。

ラフレシアの宿主となるのは、ブドウ科のつる植物であるミツバカズラ属です。ラフレシアの花はこの宿主のツルの内部で成長し、外からは花が咲く直前までほとんど姿を見ることができません。

ラフレシアのライフサイクルは非常に特殊です。まず種子が宿主のツルに付着すると、そこから内部に侵入し、ツルの組織の中で芽を伸ばし始めます。ただし、種子が発芽する条件は非常に限られており、宿主の健康状態や微生物環境、湿度、温度などが適切に整っていなければ成功しません。

種子が寄生に成功すると、次に花芽を形成しますが、これもまた数年かかることがあります。ラフレシアの多くの種では、花が咲くまでに3年から10年ほどかかることもあるとされています。

花芽が成熟すると、宿主のツルの表面に膨らみとして現れ、やがて独特の大きな花を咲かせます。しかし、開花期間はわずか数日から1週間程度しかなく、花が咲くタイミングも自然界では予測が難しいため、人工的に再現することは非常に困難です。

また、ラフレシアは雄花と雌花が別々に咲くため、受粉には花が同時に咲き、さらに昆虫などの送粉者が必要になります。そのうえ、これらの花は送粉者が移動できる範囲、つまりおよそ1マイル(約1.6キロ)以内に咲いていなければなりません。

ラフレシアの花は昆虫を引き寄せる独特の戦略を持っています。それが、強烈な臭いを放つことです。ラフレシアの花は熟した腐肉のような匂いを発します。この匂いによってハエや甲虫などの昆虫を引き寄せるのです。

匂いは非常に強烈で、花から数メートル離れていても感じられるほどで、我々人間にとってはとても不快なレベルです。現地の研究者や見学者の中には、「近くに寄ると吐き気をもよおす」と表現する人もいるほどです。

しかし、この腐肉のような匂いはラフレシアの生態にとって欠かせないものです。開花した花に昆虫が集まることで、雄花と雌花の間で効率的に花粉が運ばれ、受粉が成立するのです。

ラフレシアが自らの個体数をあまり増やさないのは、宿主植物を枯らしてしまわないように、あえてその生育を抑え、宿主を圧倒しない範囲で個体数を制限しているためだと考えられています。

このように、ラフレシアのライフサイクルは宿主植物との関係に深く依存しているうえ、発芽から開花、受粉まで、すべての段階で条件が極めて厳しいことから、栽培が長年不可能とされてきました。

栽培の試みと成功への道のり

Mursidawati S., CC BY 4.0, via Wikimedia Commons

ところが、近年になって、インドネシアのボゴール植物園で、人工的な環境下での開花に成功したのです。ボゴール植物園はジャワ島にある歴史ある植物園で、熱帯植物の研究と保存に長年取り組んできました。

ただでさえ繁殖が難しいラフレシアの中には、生息地の破壊や、怪しげな薬効を期待した違法採取によって絶滅の危機にさらされている種が少なくありません。そのため、ラフレシアの栽培技術の確立は、この属の保全にとって重要な前進となっています。

しかし、1930年代から約70年ものあいだ、多くの植物学者たちが栽培に挑戦してきましたが、いずれも失敗に終わっています。こうした長年の失敗の積み重ねにより、2004年頃には誰もこの困難なプロジェクトに積極的に関わろうとしない状況になっていました。

そんな中、海外での大学院課程を終えてボゴール植物園に戻った植物学者、ソフィー・ムルシダワティ氏が、ラフレシアの栽培プロジェクトに取り組み始めたのです。周囲からは不可能だと言われ続けていましたが、彼女は諦めませんでした。

ムルシダワティ氏はボゴールから車で8時間、そこからさらに3時間の山歩きを要するパンガンダラン自然保護区からラフレシア・パトマのサンプルを採取しました。ジャワ島の固有種であるラフレシア・パトマは花の大きさがおよそ30から60センチほどで、ラフレシア属の中では中型に分類されます。

彼女はラフレシア・パトマに寄生されたミツバカズラの組織を持ち帰り、園内で育てていた株に接ぎ木する手法を開発しました。しかし、初期の試みは失敗の連続でした。持ち帰ったミツバカズラに付着していた元々のラフレシアの蕾は、いずれも開花に至らず枯れてしまったのです。

2006年にはようやく新たな蕾が現れましたが、その直後に暴風雨が発生し、樹冠に穴があいて直射日光が差し込むようになったことで、蕾は2か月後に枯れてしまいました。

それでも研究は粘り強く続けられ、2010年、ついにラフレシア・パトマの雄花がひとつ開花したのです。さらにその1年後には2つの雌花が咲きました。その後の10年間で、ムルシダワティ氏は数百回におよぶ試行錯誤を重ねながら、ラフレシア・パトマを蕾から開花まで、16株育て上げることに成功しています。

そして2022年9月、さらなる快挙が達成されました。2006年にスマトラ島から持ち帰ったラフレシア・アーノルディイの種子が、16年の歳月を経てついに開花したのです。直径は60センチメートルほどでしたが、これは間違いなくラフレシア・アーノルディイであり、世界最大級のラフレシアが、自生地であるスマトラ島以外で初めて開花した歴史的瞬間でした。

こうして、ムルシダワティ氏の長年の努力により、世界で初めてラフレシアを熱帯雨林から離れた環境で栽培する技術が確立されたのです。

ただし、蕾の死亡率は依然として90パーセントと非常に高く、開花期間もごくわずかで、開花の瞬間を予測することができません。このため、一般の来園者が満開の花を目にするのは極めて困難です。

さらに、人工環境下で開花した花は、自然状態のように受粉することができず、いまだに種子を採ることに成功していません。このことから、人工栽培による次世代の育成、すなわち繁殖は未だ不可能な状態にあります。

このような繁殖の難しさに加え、ラフレシアが宿主植物の内部に潜む、完全寄生植物であるため、宿主ごと輸入する際に日本の植物防疫法による厳格な検疫をクリアできず、生きた株を日本の植物園が入手することは極めて難しいのが現状です。こうした事情から、日本の植物園で本物のラフレシアを見ることはできないのです。

実物を見るためには

Visions of Domino, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons

そのため、本物のラフレシアを見たい方は、やはり現地の熱帯雨林に足を運ぶしかありません。例えば、スマトラ島北部のブキットラワンから出発するラフレシアツアーは、開花中のラフレシアを探しに行く特別な1日体験として知られています。

ブキットラワンから北東に約1時間の場所にある、バーカイル川沿いの小さな村、バトゥカタックに到着すると、現地ガイドと合流し、ラフレシアやその周辺の自然についての説明を受けます。その後、ゴム農園を抜けて川沿いを歩き、グヌンルセル国立公園の方向へと進みます。道中は湿って苔むした岩場が多く、足元に注意しながらのトレッキングになります。

ただし、このツアーには重要な注意点があります。ラフレシアの開花時期を事前に予測することができないため、開花中の時期にのみ催行されます。そのため、事前に予約することはできず、現地に着いてからツアーが実施されるかどうかを確認する必要があります。

服装や持ち物についても準備が必要です。足場の悪い道を歩くため、履き慣れたハイキングシューズや運動靴が望ましく、明るい色の長ズボンとTシャツ、長めの靴下を着用するとよいでしょう。また、虫除けスプレーや日焼け止め、タオル、トイレットペーパーなども用意する必要があります。天候の変化に備えてレインコートもあると安心です。

ラフレシアの開花に立ち会える機会は限られており、自然の気まぐれに左右されるため、必ずしも花が見られるとは限りません。それでも、熱帯雨林の奥深くを歩き、世界最大の花を探すこの旅は、困難であるからこそ、かけがえのない体験となるはずです。


参考:Biggest bloom: ‘World’s largest’ flower spotted in Indonesia | Philstar.com

Cultivating the world’s largest, stinkiest flower is no small task | National Geographic

Rare corpse flower blooms ex-situ in Bogor Botanical Garden – ANTARA News

Sumatra Travel – Rafflesia Tour – 1-Day Tour – Sumatra EcoTravel

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