ダチョウが他人の子どもを育てる進化を遂げた理由

生物

ダチョウは共同の巣を持ち、自分の子どもではない卵も一緒に守ります。なぜそのような行動をするように進化したのでしょうか?

ダチョウの産卵様式

ダチョウは鳥の中でも非常に独特な繁殖様式を持ちます。

彼らは繁殖期になると1羽のオスと複数羽のメスからなる小規模な群れを形成します。そして、オスは地面に穴を掘り、深さ30から60cm、幅3メートルの巣を作ります。ここにグループで一番優位なメスが卵を産み付けます。

ただし、これで終わりではなく、グループのすべてのメスが次々にやってきて、同じ場所に産卵するのです。別のメスが近づいてくると、巣を守る優位なメスは立ち上がって脇に寄り、自分の卵の横に産卵させます。そして、劣位のメスは一度卵を産むと巣を離れていきます。これを繰り返し、卵の数は最大60個にも及ぶことがあります。

その後、グループの中で最も優位なメスと一羽のオスだけが卵を守ります。この時、昼間はメスが、夜間はオスが抱卵します。これは、オスとメスがそれぞれの色を利用して外敵による巣の発見を逃れるためで、茶色のメスは砂の色に溶け込み、黒いオスはやみ夜にまぎれることができます。

このように、ダチョウのメスはほかのメスの卵も育てる共同営巣をします。自分の子ではないものを育てることは自然界では不自然のように感じられます。

1979年にダチョウの共同営巣について初めて述べた生物学者ブライアン・バートラムによると、巣を守るメスにはあまり選択肢がないのだと言います。訪れたメスを拒めば争いが起き、捕食者を引き寄せかねないからです。せっかく生んだ自分の卵が割れるおそれもあるし、割れた卵の臭いをかぎつけてハイエナやジャッカルがやって来る可能性があります。

だからといって、優位なメスがしぶしぶ子育てを押し付けられているという訳でもありません。ダチョウのオスは成鳥になると体高2.3m、体重135kgを超え、現生する鳥類では最大種となります。卵も大きく、平均して長さ15cm、幅13cm、重さ1.4kgで、鶏の卵の20倍以上の重さがあり、これは全ての卵の中で最大です。

それにもかかわらず、ダチョウの卵は成鳥の大きさに対する比率としては最も小さく、メスのわずか1~4%の大きさしかありません。そのため、メスは1シーズンに平均7個卵を産みますが、体の大きなダチョウは最大20個まで抱卵することができます。このことから、実際、ほかのメスの卵を守ることは、彼女にとってほとんど負担になっていません。

むしろ、共同営巣はオスと優位のメスにとっていつもアドバンテージをもたらします。

一帯の多くのメスと関係をもつオスにとっては、近隣のメスたちが巣に産みに来る卵のおそらく3分の1ほどは自分が受精させたものです。

また、ダチョウのメスは共同の巣にある他の卵と自分の卵を区別することができます。そのため、彼女は自分の卵を巣の中央に置き、自分の卵が捕食者に狙われるリスクを減らしています。そして、抱卵できない余分な卵は押し出され、放棄されます

卵は35から45日でふ化し、すぐにヒナは歩き始め、自分でエサを食べることができます。そのため、親はヒナのために餌を探す必要がなく、あまり負担がかかりません。この性質は、自分の子以外のたくさんのヒナを育てることを可能とします。

また、ヒナは成長するにつれて親の後を追いかけます。親の体はアフリカの厳しい日差しを遮ると共に、天敵から襲われるリスクを減らしてくれるからです。

さらに、近くのグループのヒナが集まり、ルーズコロニーと呼ばれる緩い集団を形成することもあります。

このように、孵化してからも、より多くのヒナが一緒にいれば、自分の子が捕食者に殺される確率を低くすることができます。

ダチョウの営巣様式の進化

ダチョウの共同営巣はオスが抱卵していた祖先から進化した可能性が高いと考えられています。系統学の分析から、歴史的に見て多くの鳥類のオスが抱卵してきたことがわかっています。これは、オスが抱卵することによりヒナの生存確率が高まるので、抱卵するオスがメスにとって魅力的だったためです。

南アメリカに生息するダチョウの親戚であるレアはオスが自身の巣を持ち抱卵します。一方、メスは繁殖期に動き回り、オスと交尾して巣に卵を産み付けてから、巣を離れて別のオスと交尾します。こうして、メスは最大10羽のオスの卵を産みます。

最近の研究によると、オスの中には下位の他のオスを利用して自分の卵を抱卵させる者がいることがわかりました。これにより、優位なオスは第2のハーレムを見つけて、さらに新しい巣を作ります。

オーストラリア大陸全域の草原や砂地などの拓けた土地に分布するエミューはオスが約2ヶ月間、飲まず食わずで抱卵します。

これに対し、ダチョウはオスとメスの両方が抱卵する必要があります。これは、おそらく天敵の多さや乾燥した環境で餌がまばらにしかないためで、両親の世話が必要となるからです。

そして、先述した理由などから、優位なメスは下位のメスが巣に侵入するのを防ぐことができませんでした。このことが、ダチョウの体が大きいことと相まって、共同営巣の進化にも有利に働いた可能性があります。

ニュージーランドにかつて生息していたモアは6属9種以上に進化して独自の繁栄を遂げ、最大の種では3メートル近い体高にまで成長しました。

ほとんどの絶滅種と同様に、モアの巣作りや、抱卵の習性についてはほとんどわかっていません。

ただ、2010年の研究で、モアの卵は殻の厚さがわずか1mm程度と非常に脆いことがわかりました。これは、知られている限り、測定された鳥類の卵の中で最も壊れやすいものとなっています。

モアはメスの方が大きく、そのため、これらの非常に薄い卵は、より軽いオスによって抱卵された可能性が高いことが示唆されています。

アフリカのマダガスカル島に17世紀頃まで生息していたと考えられている地上性の鳥類、エピオルニスは史上最も体重の重い鳥であったと言われています。頭頂までの高さは3から3.4メートル、体重は推定400から500kgあり、ダチョウを大きく上回っていました。

また、卵も巨大で、現在知られている最大の卵の化石は長さ約33cm、直径約24cmで、ダチョウの卵の2倍近くもあります。そして、卵の殻の厚さは3~4mmあり、両親が抱卵しても重さに耐えることができたと考えられています。そのため、エピオルニスはオスとメスの両方が抱卵していた可能性があります。

かつてニュージーランドの南島にはハーストイーグルと呼ばれる巨大なワシが生息していました。このワシは翼を広げた長さが3メートルに達したとも言われる史上最大級の猛禽類です。ハーストイーグルは一説にはモアを捕食していたとも考えられています。

John MegahanCC BY 2.5, via Wikimedia Commons

これと同じように、かつてマダガスカルにも大型の猛禽類が生息しておりエピオルニスを捕食していた可能性があります。さらに、ニュージーランドとは違い、マダガスカルには陸生の捕食者がいました。この天敵の多さから、エピオルニスはダチョウのように共同営巣をしていた可能性があります。

ダチョウが産卵と抱卵をする9週間の間に、生き延びることができる卵は10%未満で、さらに生き延びたヒナのうち1歳まで生きることができるのはわずか15%です。しかし、ダチョウは飼育下で62年7ヶ月まで生きたことが知られており、ひとたび成鳥まで生き残ることができた場合、最も長生きする鳥類のひとつとなります。

ダチョウは自分自身が産むよりもより多くの卵をふ化させることによりグループが力を合わせ、一部の優位な個体を生きのびさせてきました。彼らは共同営巣という独特の繁殖様式を持つことで、アフリカという過酷な環境において繁栄することができたのです。

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