1.2万トンのオレンジの皮を国立公園に捨てた衝撃の結果!16年後に起きた奇跡とは?

生物

1990年代のコスタリカで、ある驚くべき光景が目撃されました。オレンジジュース製造会社のデル・オロ社は、トラック約1000台分に相当する12,000トンものオレンジの皮と果肉を国立公園内に投棄していたのです。

この行為はすぐに訴訟の対象となり、投棄は中止されました。ではなぜ、デル・オロ社はこんな大胆な行動に出たのでしょうか?この奇妙な出来事は、やがて科学者たちを驚愕させる予想外の結果をもたらすことになります。

コスタリカの生物多様性と環境問題

中央アメリカに位置するコスタリカは、世界で最も生物多様性に富んだ国のひとつです。国土の広さは九州より少し大きい程度で、世界の陸地に占める割合はわずか0.03%しかありませんが、驚くことに、地球上の生物多様性のおよそ6%が集中しています。コスタリカ人は世界で最も環境意識の高い「グリーンな国」としての評判を誇りに思っています。

しかし、この美しい国でも環境破壊は深刻な問題となっています。特に北西部のグアナカステ州は牛の放牧の中心地で、東京都の半分ほどの面積である約1,200平方キロメートルの土地のうち、3分の1以上がすでに森林伐採されていました。長年にわたる放牧によって土地は疲弊し、放牧が止められた後も自然の熱帯林に戻ることはありませんでした。

Forest & Kim StarrCC BY 3.0, via Wikimedia Commons

最も深刻な問題は、アフリカ原産の外来種、ジャラグアグラス(Hyparrhenia rufa)です。この草は在来植物を押しのけて勢力を広げ、乾季には火災の燃料にもなります。火災が発生すると、他の植物は焼き尽くされてしまいますが、多年草であるジャラグアグラスだけが生き残ることができます。このように、放牧によって疲弊した土地では、この草だけが繁栄できたのです。

革新的な提案

NTNU – Norwegian University of Science and TechnologyCC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons

プリンストン大学のダニエル・ヤンゼンとウィニー・ハルワックスの夫妻は、グアナカステ保護区で長年、研究者や技術顧問として経験を積んだ生態学者です。彼らは1997年にデル・オロ社に対して、双方にメリットのある画期的な提案を行いました。

その内容は、デル・オロ社が保護区に隣接する森林の一部を寄付し、その見返りとしてオレンジジュース製造で発生する廃棄物を無料で処分できるようにするというものです。この取引によって、国立公園はより多くの土地を確保できる一方で、デル・オロ社は適切に管理された廃棄物処理場を無料で利用できるようになりました。

廃棄物投棄の実行とその後の状況

投棄場所として選ばれたのは、国立公園内でも特に荒廃した約2.8ヘクタールの元牧草地です。この場所は動物も放牧できないほど劣化し、発育不良の木が点在するだけの、不毛な土地でした。

この場所に約半年間で12,000トンのオレンジ廃棄物が投棄されました。プリンストン大学がオレンジ廃棄物の投棄を提案・支援したのは、生態系回復の実験という科学的な目的があったためです。

しかし、実験開始当初の状況は決して美しいものではありませんでした。腐敗したオレンジの山からは強烈な悪臭が立ちこめ、大量のハエや虫が発生し、ウジがうごめくその光景は、誰が見ても不快そのものだったのです。しかし、時間が経つにつれて、廃棄物は黒くて肥沃な土壌に変化していきました。

競合他社からの法的圧力

しかし、幸先の良いスタートを切ったにも関わらず、この保全実験は長続きしませんでした。1998年、競合他社のティコ・フルーツがデル・オロ社を「国立公園を汚した」として法的に訴えたのです。

ティコ・フルーツの主張は幅広く、不適切な廃棄物処理を正当化するだけのものに過ぎないと非難した他、廃棄物が土壌や川を汚染し、害虫や柑橘類の病気を広めるリスクを指摘しました。さらに、廃棄物から放出されるクエン酸や油は発がん性物質であり、破壊的な侵入種であるチチュウカイミバエを拡散させる可能性があるとも述べました。

ただし、実際のところ、ティコ・フルーツの怒りには経済的な理由もありました。彼らはこの実験が行われる前に、自社の廃棄物処理施設を改良し、性能を向上させるために多額の投資をおこなっていたのです。それにもかかわらず、競合他社がただ森林に廃棄物を投げ捨てるだけで済ませている。その状況に、当然ながら不満を抱いていたのです。

国民の反対と計画の中止

ティコフルーツの巧妙なメディア戦略により、国民は実験に反対するようになりました。そして、熱帯雨林同盟などの環境団体が実験の環境安全性を支持したにもかかわらず、コスタリカ最高裁判所は計画の中止を命じたのです。

デルオロ社は裁判や広報活動に10万ドル以上を費やしましたが、その努力も結果には結びつきませんでした。この実験は本来、20年間の契約でしたが、予定よりも早く打ち切られることになり、デルオロ社と交渉していた地域環境庁の担当者は職を失いました。

この状況は、善意の環境努力であっても予期せぬリスクを伴う可能性があることを示す鮮明な例といえます。こうして、実験計画は放棄され、やがて人々の記憶からも忘れ去られていきました。廃棄物が投棄された場所に注意を払う者もいなくなり、その状態が15年ものあいだ続いたのです。

16年後の驚くべき発見

2013年、廃棄物が投棄されてから16年後、プリンストン大学の研究チームが、別の目的で現地を調査したところ、驚くべき事実が明らかになりました。

ティコフルーツの弁護士たちの警告にもかかわらず、科学者たちは調査対象の区域で地上バイオマスが176%も増加していたことを発見したのです。地上バイオマスとは、木や草、葉っぱなど、地表に生えているすべての植物の重さの合計のことです。そして、それが176%増加したということは、全体的な生物量がおよそ3倍近くにまで増加したという、驚くべき変化を意味します。

かつてオレンジの皮が山のように積まれていた場所が、いまや生い茂るジャングルへと姿を変えていたのです。

研究者たちが最も驚いたのは、あの荒れ果てていた土地が、どこだったのかすら見分けがつかなくなっていたことでした。彼らは現地を何度か訪れるうちに、最終的に道路のすぐ隣に立つ高さ約2メートルの標識を発見し、それによってようやく場所を特定することができたのです。かつて砂利が散らばり枯れ草が生えていた場所は、ツタが絡み合う密生した森林に変貌しており、その森を通り抜けるには相当な努力が必要でした。

科学的調査結果の詳細

研究者たちはオレンジ廃棄物で覆われた区域と、そうでない区域の間に顕著な違いを発見しました。オレンジ区域にはより肥沃な土壌、より大型の樹木、より多様な樹種、そしてより密度の高い樹冠という特徴が見られたのです。両区域は土の道路で分離されていたため、比較は容易でした。

そして、最も印象的だったのは、3人で手を回しても届かないほど巨大なイチジクの木の発見でした。

さらに驚くべき発見は、侵入種のジャラグアグラスが完全に消失していたことでした。オレンジの果肉と皮がこの草の成長を妨げ、在来植物がその場所を占めるようになったようです。

炭素吸収の副次的効果

より密生した森林は大気からより多くの炭素を吸収します。人々が法廷で争っている間、農業廃棄物は森林を復元するだけでなく、無償で大量の炭素を吸収していたのです。

成功の謎:なぜこのような結果が生まれたのか

16年間の隔離とオレンジ廃棄物がなぜこのような結果をもたらしたのか、完全に理解している人はいません。研究者たちはこれを「百万ドルの問題」として表現し、完全に確実な答えを出すのが困難であると感じています。

最も有力な理論は、侵入植物の抑制と著しく劣化した土壌の若返りとの間に、何らかの相乗効果が働いた可能性があるというものです。大量のオレンジの皮を一度に配置することで土壌に栄養分が供給され、同時に樹木の成長を阻害していた侵入植物が抑制された可能性があります。

しかし、これはあくまで理論に過ぎません。16年間、誰もこの場所に立ち入らず、追跡調査や記録を取る人もいなかったため、正確なメカニズムは永遠に不明のままでしょう。

コーヒー廃棄物での類似実験

それでも、研究者たちは16年前に放置されたオレンジの皮の成功が、ほかの類似した自然保護プロジェクトのインスピレーションとなることを期待しています。

実際に、2021年3月に発表された最新の研究で、コーヒー生産の副産物が同様の効果を持つ可能性が示されました。ハワイ大学マノア校の研究者たちは、コーヒー廃棄物が森林破壊された土地にどのような影響を与えるかをテストしました。

コーヒー豆を作る過程で取り除かれる果肉、コーヒーパルプを厚さ約51センチ敷いた区域と、何も処理しなかった区域を比較した結果、2年後にはコーヒーパルプを敷いた区域で劇的な改善が見られたのです。この区域では面積の80%が若い樹冠で覆われており、一部の木は既に約4.6メートルの高さに達していました。また、平均して木の高さが4倍高く、土壌サンプルの栄養分がより豊富で、侵入植物が消失していました。

コーヒーパルプの仕組みは以下の通りです。牧草で覆われた区域にコーヒーパルプの層を敷くと、下の葉が枯死・分解します。そして、これが栄養豊富なコーヒー層と混ざり合うことで、肥沃な土壌を作り出します。これにより昆虫が集まり、昆虫は鳥を引き寄せ、最終的に鳥が種子を肥沃な土地に落とすのです。

実験成功の条件と制約

これらの実験の成功には特定の条件が必要でした。まず、立地条件として、廃棄物投棄場所が河川や小川から離れていたことが、腐敗するオレンジによる水質汚染を防ぐ上で重要でした。

また、気候条件も成功の鍵となりました。コスタリカの亜赤道気候は、年間を通じて気温変動が比較的小さく、冬でも夏でも平均気温が約25から30度程度です。それに加えて、乾季と高湿度の季節が存在します。これらの条件が皮をまず堆肥に変え、その後土壌を肥沃にし、環境の復元と植物の成長を促進したのです。専門家たちは異なる気候の場所では同じ効果は期待できず、むしろ負の結果を招く可能性があるとの見解で一致しています。

また、廃棄物の前処理も重要でした。オレンジの廃棄物は単純に投棄されたのではなく、油分と酸を抽出する処理を経ていました。この重要な工程なしには、奇跡は起こらなかったでしょう。これらの油分と酸は家庭用清掃製品で商業的価値があるため、それらを抽出することによって、デルオロ社は確実に利益を上げていました。

さらに、農薬を使用していないことも、このプロジェクトには欠かせない重要な条件でした。デルオロ社はプロジェクトで投棄するものに関してはすべて、オレンジ栽培時に農薬や殺虫剤を使用していなかったのです。これにより廃棄物に化学物質が含まれず、国立公園の土壌を汚染することはありませんでした。化学物質で汚染された土壌では、密生した森林は成長しなかったでしょう。

結論:偶然の発見から学ぶ教訓

コスタリカでのオレンジ廃棄物実験は、予期しない環境成功事例の貴重な例となりました。当初は競合他社の法的圧力により中止された失敗プロジェクトが、16年後には環境科学の分野に新たな可能性を示す画期的な発見となったのです。

この事例は、環境問題に対する革新的なアプローチの重要性を示しています。従来の廃棄物処理方法に代わる持続可能な解決策を見つけることで、環境保護と経済効率の両立が可能であることを実証しました。

ただし、この成功は特定の条件下でのみ可能であったことを忘れてはなりません。気候、立地、廃棄物の前処理、農薬不使用など、複数の要因が組み合わさって初めて実現した結果です。そのため、将来行われる類似プロジェクトは生物学者、生態学者、その他の自然保護専門家の承認と厳密な科学的監督のもとでのみ実施されるべきです。

このオレンジの奇跡は、人間の創意工夫と自然の回復力が組み合わさったとき、どれほど素晴らしい結果を生み出すことができるかを示す希望に満ちた事例として、今後の環境保護活動に長く記憶されることでしょう。

この記事はYouTubeの動画でも見ることができます。

参考記事(写真あり):https://www.sciencealert.com/how-12-000-tonnes-of-dumped-orange-peel-produced-something-nobody-imagined

元論文 :https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/rec.12565?msockid=3bed234f2bd96faa228036ba2a236ee9

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