マングースがオーストラリアで定着できなかった理由

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外来種問題が深刻なオーストラリアでは、これまでに多くの動物が持ち込まれ、生態系に大きな影響を与えてきました。ところがその一方で、持ち込まれたのに定着できなかった意外な例も存在します。マングースはその代表で、なぜかオーストラリアでは根付くことができませんでした。

マングースは日本の奄美大島では長年にわたって在来種に甚大な影響を与え、2024年9月にようやく根絶が宣言されるほど爆発的に増えていた例が知られています。奄美ではわずか数十頭ほどの導入から約1万頭にまで増加し、アマミノクロウサギなどの固有種の存続を脅かす深刻な影響を与えました。

それほどまでに強力な繁殖力と適応力を持つマングースが、なぜオーストラリアでは定着しなかったのでしょうか。

この記事の要約

  • マングースは日本やジャマイカでは爆発的に繁殖して生態系に深刻な被害をもたらしたが、オーストラリアでは1000頭以上が導入されたにもかかわらず定着に失敗した
  • 定着失敗の主な理由は種の取り違えで、ジャマイカで成功したフイリマングースではなく、ウサギ駆除に適すると考えられたハイイロマングースが導入されたが、この種はオーストラリアの半乾燥気候に適応できなかった
  • この導入失敗は結果的にオーストラリアの生態系にとって幸運で、もし定着していれば在来の有袋類や鳥類に壊滅的な影響を与えていた可能性が高い

マングースと外来種問題

フイリマングース/環境省ホームページ, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons

マングースとはネコ目、マングース科(Herpestidae)に属する動物の総称です。アフリカからアジアにかけて約30種類以上が存在し、その多くが細長い体と短い脚、そして尖った顔という、ネズミなどの獲物を追いかけて狭い隙間に潜り込むのに適した体型をしています。

マングース科の動物は一般にマングースと呼ばれますが、ミーアキャットもこの科に含まれます。

マングース科の中で特にフイリマングース(Herpestes auropunctatus)は、世界各地で導入された際に大きな影響を及ぼしてきたことで知られ、世界で4番目に問題の大きい侵略的哺乳類と評価されています。

フイリマングースはイラクからイラン南東部、アフガニスタン、パキスタン、インド、ネパール、ブータン、バングラデシュ、ミャンマーといったアジアの広い地域に分布し、頭から胴までの長さが25から37センチほどで、体重は0.3から1キログラムと比較的小型のマングースです。体には縞模様が入ることがあり、これがフイリという名前の由来になっています。

フイリマングースが1872年にジャマイカへ導入された例では、わずか4頭のオスと5頭のメスから島全体に定着し、サトウキビを食い荒らして農業に深刻な被害をもたらしていたネズミを駆除するほど繁殖に成功したことが報告されています。しかし、現在では外来種として生態系に深刻な影響を与えており、個体数は天敵の少なさと高い繁殖力によって増え続け、ジャマイカツチイグアナの幼体や地上営巣の鳥の卵・ヒナが捕食され、在来の捕食者とも競合が起きています。これに対し、重要地域での捕獲や保護区の整備、巣を守るフェンス設置などの対策が進められていますが、マングースは適応力が高く、完全な根絶には至っていません。

日本においても、フイリマングースは極めて深刻な影響を及ぼした侵略的外来種です。1910年、東京帝国大学の渡瀬庄三郎博士によって、沖縄本島と奄美大島にそれぞれ数十頭が放されました。当時の沖縄や奄美大島ではジャマイカの事例と同様、サトウキビに害をなすクマネズミの駆除と、人命を奪う猛毒のハブを退治する必要がありました。

しかし、この善意の移入は、日本の生態系にとって取り返しのつかない悲劇の幕開けとなります。昼行性のマングースと夜行性のハブはほとんど出会わず、期待された効果は得られませんでした。その一方で、島には動きの遅い固有種が多く、マングースはそれらを容易に捕食して急速に増え、アマミノクロウサギやヤンバルクイナなどの貴重な生き物が絶滅の危機に追い込まれました。

天敵のいない環境で爆発的に繁殖したマングースは、奄美大島では1990年代に約1万頭、沖縄でも数万頭にまで膨れ上がったと推定されています。

この状況を受けて国は2000年度から本格的な防除を進め、専門チームによる捕獲や探索犬の導入など徹底した対策が行われました。その結果、奄美大島では2018年以降捕獲例がなくなり、2024年には根絶が正式に宣言されました。これは大規模な島での根絶として世界初の成果です。現在は沖縄本島北部でも根絶を目指した取り組みが続いており、日本の自然を守るための努力は今も続いています。

また、このフイリマングースに加えてハイイロマングースやエジプトマングースなど、他のマングース類も本来の分布域から遠く離れた地域で定着に成功してきました。

このように、一度定着すると駆除に莫大な労力と時間、そして多額の費用を要するマングースですが、不思議なことにオーストラリアでの導入の試みは、残された記録のどれを見てもすべて失敗に終わっています。

オーストラリアはこれまで、ウサギやキツネ、ネコ、ラクダ、ヤギ、さらには外来の雑草類まで、数多くの外来種によって深刻な被害を受けてきました。オーストラリアの生態系が外来種に大きく影響されやすいのは、その独特な進化の歴史に理由があります。大陸が長い間ほかの地域から隔離されていたため固有種が非常に多く、外来種が入り込むと生態系のバランスが崩れやすいという特徴があるのです。

マングースという侵略性の高い動物がこのオーストラリアに放たれると、深刻な事態になりそうに思われます。しかし実際には、そのような事態にはなりませんでした。

西オーストラリア大学の研究者たちは、この特異な状況を明らかにするために、科学論文だけでなく、当時の新聞、議会記録、政府公報、地域史、博物館資料など、19世紀から20世紀半ばにかけての膨大な歴史資料を徹底的に調査しました。マングースに関するあらゆる記録を洗い出し、放たれた地点を地図化するとともに、博物館標本や気候解析も組み合わせることで、導入の実態を多角的に検証しています。

マングースが持ち込まれた経緯

CSIRO, CC BY 3.0, via Wikimedia Commons

歴史資料を詳しく調べた結果、オーストラリアに持ち込まれたマングースには、いくつかの異なる目的があったことが分かっています。

最初にマングースが持ち込まれたのは、1850年代から1880年代にかけて、ヘビを相手にした見世物的な闘いや、ヘビの駆除を目的としたものでした。当時の新聞や記録には、ヘビ退治の能力を売りにした興行や、家庭内の害獣対策として飼われた例、さらには動物園や移動式の見世物小屋で展示された例が数多く残されています。

しかしその後、オーストラリアでは19世紀半ばに持ち込まれたヨーロッパアナウサギが急速に増え、農地を荒らす深刻な害獣となりました。もともと狩猟用として導入されたこのウサギは、天敵がほとんどいない環境で爆発的に繁殖し、各地で大きな被害を引き起こしていたのです。

こうした状況を受けて、マングースはウサギの増加を抑えるための生物的防除手段として期待され、1883から1884年にはニューサウスウェールズ、ビクトリア、南オーストラリアで本格的な導入が進められました。これは、1882年にジャマイカで「マングースがサトウキビ畑のネズミを駆除して大成功した」という報告が世界に広まり、それがオーストラリアでも導入の決定打になったからだと考えられています。

これらの地域では少なくとも1000頭のマングースが14地点で放され、なかには1回の試験で700頭が放たれた例もあったと記録されています。これは、定着に失敗した外来哺乳類としては異例の数が投入されていたといえます。

こうした記録から分かるのは、オーストラリアにおけるマングース導入が「放した数が少なすぎたために定着しなかった」という単純な理由では説明できないという点です。むしろ十分な数が放されていたにもかかわらず定着に至らなかったことから、別の要因が決定的に働いていた可能性が示唆されます。

マングースが定着できなかった理由

ハイイロマングース/J.M.Garg, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

マングースがオーストラリアに定着できなかった理由として当時挙げられていたのは、「ウサギ猟師たちによってマングースが殺されてしまった」というものでした。彼らは誤ってマングースを罠にかけてしまうこともあれば、自分たちの仕事が奪われることを恐れて意図的に排除したとも言われています。

しかし、記録を精査していくと、当時オーストラリアに持ち込まれたマングースの種は一貫しておらず、複数の種類が混在していたことが分かりました。ジャマイカでネズミ駆除に成功したのはフイリマングースでしたが、オーストラリアで実際に大量に輸入されていたのは、より大型のハイイロマングース(H. edwardsii)であった可能性が高かったのです。

この見解は、オーストラリアの博物館に保存されている標本調査によって裏付けられています。確認されたマングース標本のうち、ハイイロマングースは11点と圧倒的に多く、他の種を大きく上回っていました。さらに輸入記録を見ても、マングースの原産地として記載されているのは、ほぼすべてがインドとスリランカであり、特にコルカタやコロンボからの輸入が多数を占めていました。ハイイロマングースはまさにこれらの地域に自然分布する種です。

ではなぜ当時の人々はジャマイカで成功したフイリマングースを導入しなかったのでしょうか。研究者たちはその理由として体の大きさに注目しています。オーストラリアで問題となっていたのは、ジャマイカの小型のネズミではなく、より大型のウサギでした。そのため、体が大きく、主に脊椎動物を捕食し、腐肉も利用するハイイロマングースの方が、当時はより有効な防除手段になると考えられた可能性があります。

この種の取り違えはマングースが定着できなかった理由のひとつになったと考えられています。調査の結果、ハイイロマングースが放された地域の気候は、この種が本来生息している環境とは大きく異なっており、長期的に生き延びるには適していないことが分かりました。

ハイイロマングースは昼間に活動し、単独で行動することが多く、本来は森林を主な生活の場とする動物です。しかし、オーストラリアで放された地域の多くは、半乾燥地帯が広がる内陸部であり、こうした生態的な特徴とは合致していませんでした。

もしマングースがオーストラリアで定着していたなら、生物多様性に壊滅的な影響を与えていた可能性が高いと、研究者らは結論づけています。実際には、ジャマイカや日本で起きたのと同様の事態が、オーストラリアでも繰り返されていたと考えられます。

その場合、在来の有袋類、爬虫類、カエル、地上営巣性の鳥類の多くが、すでに深刻な被害をもたらしているキツネやネコによる影響をさらに上回る規模で、絶滅や個体数の激減に追い込まれていたでしょう。

つまり、マングースの導入は当初の目的を達成することはありませんでしたが、その失敗が結果的に、現在のオーストラリアの生態系にとっては幸運な結末となったのです。

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