海の巨大な危険生物:キタユウレイクラゲの生態と脅威

生物

キタユウレイクラゲはクラゲの中で最大となる種の1つで、その触手の長さはシロナガスクジラを超えるといわれています。また、ほかのクラゲと同様、触手には毒が含まれているので、刺されると危険です。本記事ではキタユウレイクラゲの生態について詳しく解説しています。

分類と生息域

Arnstein RønningCC BY 3.0, via Wikimedia Commons

キタユウレイクラゲは刺胞動物門鉢虫綱旗口クラゲ目ユウレイクラゲ科ユウレイクラゲ属に属しているクラゲの仲間です。その生息域は北極圏、北大西洋、北太平洋の冷たい海域に限定されており、英国アイルランド周辺やスカンジナビア西部の海域でよく見られます。日本でも北海道沖などで確認されることがあります。

キタユウレイクラゲは発光能力があり、暗闇で光を発することが知られています。その名の通り北方の海域をゆらゆらと幽霊のように漂っています。また、似たようなクラゲはオーストラリアとニュージーランドの近海に生息することも知られていますが、これは同種である可能性もあります。

体のサイズと特徴

MPFCC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

一般的に生息する個体のクラゲの傘の大きさは約50cm程度ですが、極北近くに行くほど大きくなり、2m以上にまで成長することができます。そして重さは平均的なもので100kg、大きいもので200kgになります。

この巨体に加え、キタユウレイクラゲは非常に長い触手を持つことで知られています。記録された最大のものは1865年マサチューセッツ州沖で測定された個体で、直径210cmの傘と長さ約36.6mの触手を持っていました。現存する哺乳動物の中で最も大きいシロナガスクジラでも全長が30m程度なので、それよりも長い触手を持つこのクラゲは、世界で最も長い動物の一つとして知られています。この長さは11階建てのビルに相当します。

キタユウレイクラゲとは別に、世界最大級のクラゲに数えられるエチゼンクラゲがいますが、最大のもので傘の直径が2m、重量は最大で200kgに達するものの、触手の長さはキタユウレイクラゲほど長く伸びず、2から4m程度です。

生活環

キタユウレイクラゲは他のクラゲと同様に、複雑な異なる段階を経て成長します。彼らの寿命はたったの一年と非常に短く、その間に幼生、ポリプ、エフィラ、メデューサの四つの発達段階を経ます。

まず、メスのクラゲは触手に受精卵を運び、そこで卵が幼生に成長します。幼生が十分に大きくなると、メスは岩などに着底させ、そこで幼生はすぐにポリプに成長します。するとポリプは無性生殖を開始し、エフィラとなります。そして最終的に成熟したメデューサ生体となるのです。このようにキタユウレイクラゲはメデューサ時の有性生殖とポリプ時の無性生殖の両方ができます。

彼らは小さい時はほとんどの個体が深さ20mまでの水面付近に留まっています。キタユウレイクラゲの動きは非常にゆっくりとしており、泳ぐ力が弱いため、海流に頼って長距離を移動します。彼らは夏の終わりから秋にかけて最もよく見られますが、大きく成長すると海流がクラゲを岸に押し流し、浅瀬に住むようになります。

若い個体は明るいオレンジまたは黄褐色で、触手は無色ですが、大きくなるにつれて傘は暗くなり始めます。ほとんどの浮遊性クラゲとは異なり、彼らは完全に単独行動を行い、群れで移動することは滅多にありません。

触手と捕食行動

Ryan HodnettCC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

キタユウレイクラゲはライオンの鬣のようなふさふさとした赤銅色の触手を持つことから、英語では「Lion’s Mane Jellyfish」と呼ばれています。この触手の総数は約1200本にものぼり、非常に粘着性があります。

また、ほかのクラゲと同様、この触手には毒があります。クラゲの触手には、刺胞細胞と呼ばれる刺すための細胞が何千個も並んでいます。刺胞細胞には蓋の付いたカプセル状の刺胞と呼ばれる器官が存在し、獲物などによる刺激が与えられると刺胞が開きます。そして毒を含んだ微小な管が放出され、その鋭い先端が獲物を突き刺して毒を注入するのです。

キタユウレイクラゲはこの刺胞のある触手を使って、魚、甲殻類、プランクトン、海棲生物、小さなクラゲなどの獲物を網にかけるようにして捉え、毒で気絶させます。傘の下側に位置する口の周りには口腕と呼ばれる腕があり、この口腕にも多数の刺胞細胞が含まれています。彼らはこの口腕を器用に使って獲物をつかみ、食べるのです。

人間への危険性

Derek Keats from Johannesburg, South AfricaCC BY 2.0, via Wikimedia Commons

もし人間がキタユウレイクラゲの触手に触れると、最初は痛みというよりあたたかく奇妙な感覚を覚えるでしょう。ですが、その後すぐに赤い腫れや痛みが続きます。通常、健康な人間の場合、このクラゲに刺されても致命的になることはありません。

ただ、キタユウレイクラゲは巨大なため、体の大部分を刺される可能性があり、その時は非常に危険です。もしそのような場合は、医師の診察を受けることをお勧めします。また、水中でひどく刺されるとパニックを引き起こし、溺死する危険性もあります。

2010年7月、アメリカ・ニューハンプシャー州ライ地区のモリス・サンズ・ステート・ビーチでは約150人もの海水浴客がキタユウレイクラゲの触手に刺されました。驚くべき事に、この事件はたった一匹の巨大な個体によって引き起こされたと考えられています。このようにキタユウレイクラゲは非常に危険なので、見かけても絶対に触らないようにしましょう。

天敵と環境への影響

キタユウレイクラゲを餌とする生物も存在します。キタユウレイクラゲの天敵は海鳥、マンボウなどの大型魚、その他のクラゲ類、ウミガメなどで、幼体または小型の個体が捕食されます。中でもオサガメはカナダ東部において夏の間、ほぼ独占的に大量にこのクラゲを食べることが観察されています。

ですが、キタユウレイクラゲが完全に成長してしまうと、その巨大なサイズと刺胞のある触手のため、これらの生物に狙われることはなくなります。ただし、成体でもイソギンチャクに食べられた事が観察されています。

また、エチゼンクラゲ同様、網に大量に入る場合があり、そのときは漁獲物を傷めたり、作業に支障をきたしたりと大変です。

水族館での観察

Per Harald Olsen / NTNU, Faculty of Natural Sciences and TechnologyCC BY 2.0, via Wikimedia Commons

そんなキタユウレイクラゲの実物を見てみたいという方は、水族館を訪れてみるとよいでしょう。キタユウレイクラゲは飼育可能なようです。

例えば、山形の鶴岡市立加茂水族館では、クラゲドリームシアターという展示があり、キタユウレイクラゲをはじめとする多くの種類のクラゲを観察できるそうです。また、神奈川県の新江ノ島水族館では、同じユウレイクラゲ科のユウレイクラゲを展示しています。ユウレイクラゲはキタユウレイクラゲよりも小さいですが、それでも傘の直径は50cm、触手の長さは10mを超える大きさにまで成長します。

キタユウレイクラゲは、その巨大な体と長い触手を持ち、海の中でゆったりと漂う姿は神秘的で美しいですが、同時に注意が必要な生き物です。もし海でこの生き物を見かけたら、安全な距離を保って観察することをお勧めします。

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