最新の研究で、80万から90万年前に、人類の98.7%が減少するという出来事が起きたことがわかりました。この時、いったい何が起きたのでしょうか?
この記事では人類を絶滅寸前に追い込んだ原因について説明しています。
過去に議論されていた人口減少イベントの仮説について

35,000年から65,000年前の間に、何らかの原因で人類の人口が大幅に減少したということが1972年のDNA研究によって示されています。当時はこの減少の原因について、誰もよくわかっていませんでした。
しかし、1990年代に科学者たちは、74,000年前に噴火したインドネシアの巨大なトバ火山に、その原因を結び付け始めました。この噴火は非常に激しく、爆発力はセントヘレンズ山の噴火の1万倍と推定され、人類に壊滅的な影響を及ぼしたというものでした。
1980年に発生したアメリカ・ワシントン州にあるセントヘレンズ山の噴火では、大規模な山体崩壊によって直径1.5kmにわたるカルデラが山頂部分に出現し、山の標高は2,950mから2,550mに減少しました。崩壊した土砂は岩屑なだれとなり、200軒の建物と47本の橋を消失させ、57人の命を奪い、また、鉄道は24km、高速道路は300kmにわたって破壊されています。
トバ火山の噴火は周辺の人々を根絶やしにし、気候に深刻な変化をもたらしたとされています。そして、最終的には人類を絶滅の危機に追い込み、生き残ったのはおよそ3000人から1万人程度というものでした。
長い間、この仮説は有力であり、遺伝的多様性の低下を引き起こした原因とされてきました。
しかし最近では、トバ火山の噴火は人類に大きな影響を与えていなかったという意見の一致が広まりつつあります。これは、一部の集団は間違いなく影響を受けたものの、実際には火山に非常に近い他のグループが存続しているようだったからです。
さらに、気候への影響はおそらく当初考えられていたほど劇的ではないことが示され、また、人口の減少した時期ともうまく一致していませんでした。1970年代のDNA研究は完璧からは程遠く、今日の基準では古いと考えられており、そのため、最近までこの議論をされることはほとんどなくなっていました。
最新の研究による人口減少の事実
それが、2023年後半に行われたはるかに高度な研究によって、80万から90万年前の間に発生したと思われる深刻な個体数の減少があったことが示唆されました。これは30万年より前のことなので、この影響を受けたのはホモ・サピエンスではなく、人類はまだ進化の途中でした。
この研究では3000人以上の現代人のゲノムが分析され、その結果、この大量死で生き残った人口はわずか1280人ほどだったことが明らかになっています。つまり、これは人類の全人口の98.7%が失われたということになります。
それがどれほど異常なことかを理解するために言うならば、現代の地球に隕石が衝突し、およそ79億人が死亡するようなものです。そのため、人類の祖先は絶滅の危機に瀕していたとみなされ、一時期人類は非常に希少な存在となっていました。これは、人間がいない場所を探す方が難しい現代とは大違いです。
そして生き残った人々にとって気の毒なことに、人口の減少後、状況はすぐに好転したわけではなく、研究者たちはこの非常に低い人口の状態が11万7000年以上にわたって続いたと推定しています。
科学者たちはこの証拠として、95万年から65万年前の人類の骨が不足していることを理由に挙げています。この時代の標本はわずかしかなく、分類が不可能で、そのため、どのホモ属がこの危機的状況に陥ったのかわかっていません。
ただ、この骨格はネアンデルタール人とホモサピエンスの最後の共通祖先と考えられている、ハイデルベルク人(ホモ・ハイデルベルゲンシス)により類似していることがわかっています。そのため、研究者たちはこの危機の生存者が実際にハイデルベルク人に進化したのではないかと推測しています。

そして、この考えはある程度、信憑性があります。このような進化では生物集団の個体数が大幅に減少すると、遺伝的変異の喪失により、その子孫が繁殖することで元の状態と遺伝的多様性の低い集団が形成される現象「ボトルネック効果」が生じますが、これは他の哺乳類でも時々発生することがわかっています。
一般的に絶滅イベントは進化に大きな役割を果たすことが多く、生存者は適応するか死ぬかのどちらかになります。そのため、この出来事は最終的にホモ・サピエンスを生み出す原因となった可能性があります
人類を減少させた原因
では、この人類の減少は何が原因だったのでしょうか?
それは、地球の歴史において何度も起こっている、気候の劇的な変化が原因のようです。
具体的には、中期更新世の移行(Mid-Pleistocene Transition, MPT)が最も有力だと考えられています。この期間は人類の祖先だけでなく、地球全体にも大きな影響を与えました。
MPTは約120万年前から約80万年前の期間で、地球の気候の氷期・間氷期の周期が約4万年周期から約10万年周期に変化し、氷期の寒冷化が強化されました。一般的に二酸化炭素の減少と増加がこの移行を引き起こすと考えられています。

さらに現在の所、MPTのうちでも最も寒かった時期は、0.9MA期だといわれています。この時期はアフリカとユーラシア全体でより乾燥した状態が形成されたため、科学者はこの時期が初期の人類の多くを具体的に絶滅させた原因であると確信を持っています。
0.9MA期は地形を劇的に変化させ、人類の祖先と共に暮らしていた多くの動物に影響を与えたため、狩猟を困難にしていたはずです。
歯の同位体レベルを調べることにより、当時の先史時代の有蹄類の多くの食生活が、短期間で変わったことがわかっています。これは、初期の人類だけが苦労していたのではなく、ほとんどの種も過酷な状況にあったことを意味します。
この背景にある理由のひとつに、火を使用できなかったことにあると考えられています。今のところ、0.9MA期に人類が火を使用していた痕跡はほとんど知られていません。これは、おそらく人類の祖先が寒さに耐えるための、火の技術的な使用が進歩していなかったためです。
この火がなかったことは、初期の人類が長い間苦しんだ主な理由であると考えられています。
また、衣服などの他の技術の欠如も人類の減少に影響を与えていた可能性があります。
それが、火の使用が普及することによって、生存率を劇的に回復することができました。火の習得による人類の復活は、まさに灰の中から現れた電光石火の速さのようで、83,000年前までに、古代人の人口は2000%以上も増加したと推定されています。

こうして、人類はなんとか絶滅の危機を耐えることができましたが、さまざまな種類のピューマの仲間や剣歯虎(サーベルタイガー)、イヌ科動物のゼノサイオンなど、多くの動物が完全に絶滅するという不運に見舞われました。
一方、海域でも状況は良くありませんでした。別の研究では、この時期に100種以上の海洋生物が絶滅したことが判明しており、相対的に言えば、陸上の方がまだましだったといえます。
当然、この考えには多くの論争があり、仮説全体を否定する人もいれば、気候変動が原因なのは合っているが、時期が間違っていると反対する人もいます。
また、絶滅イベントの期間はなかったとさえ考えている人もいます。
別の研究では、実際に0.9MA期が正しかったとされているものの、寒さだけが原因であるという意見には同意していません。この研究では気候がきっかけではあったものの、本当の人口減少の原因は
人類のアフリカからの大規模な移動にあると提唱されています。
気温が急激に低下し、アフリカがより乾燥するにつれて、サバンナが大陸の大部分に広がり、初期の人類を故郷から追い出したというものです。

これは皮肉なことに、氷床が成長し、陸路が出現したおかげで、人類はうまくアフリカを出ることができました。しかし、一方では真水の深刻な不足など、過酷な状況のために、この旅で生き延びた人はほとんどいなかったと研究で示唆されています。
このように、様々な仮説が提唱されているため、近い将来、これらの謎が説かれることが期待されます。
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