ヨーロッパハタリス – 空港で繁栄する絶滅危惧種

生物

ヨーロッパハタリスはヨーロッパ中部からトルコにかけて生息するリスの一種で、絶滅が危惧されていますが、スロバキアのブラティスラバ空港には最大15,000匹と推定される国内最大の個体群が生息しています。一見、野生動物の生息地とは関係のない場所に思える空港に、なぜこれほど多くのヨーロッパハタリスが暮らしているのでしょうか?この記事は空港で絶滅危惧種のリスが繁栄している理由について説明しています。

空港で繁栄するリス

これらのリスはターミナル内に生息しているわけではなく、実際の生息地は滑走路のすぐそばの草原です。この場所はとてもかわいらしく、そして生態系にとっても非常に重要なヨーロッパハタリスの大切な避難所となっています。

騒音や混雑ぶりを考えると、空港は小さくて脆弱なリスが生息するには意外な場所に思えるかもしれません。しかし、ヨーロッパの他の地域ではこの種の生息数が減少しているにもかかわらず、ここでは繁栄しているという興味深い事実があります。これはこの場所がヨーロッパハタリスにとって、生存し、繁栄するための環境条件が揃っているからです。

ヨーロッパハタリスとは

ではまず、このヨーロッパハタリスがどのような動物なのかをご紹介しましょう。ヨーロッパハタリスは、リス科ジリス属に分類されるジリスの仲間で、体長は約20センチメートル、体重は約300グラムです。彼らはむき出しの土壌を必要とし、その環境で巣穴を掘って、群れで暮らしています。

巣穴は深さ約2メートルにも及び、複数の入り口を持つ分岐したトンネル網を形成します。さらに、危険が迫った際には身を隠せるよう、簡易的な巣穴も掘っています。

このリスの存在は他の生物にも恩恵をもたらします。例えば、トカゲが彼らの掘った巣穴に隠れたり、マルハナバチが使われなくなった巣穴を利用して巣を作ったりします。このように、ヨーロッパハタリスは比較的少ない生物量でありながらも、生態系に大きな影響を与えるキーストーン種として重要な役割を果たしているのです。

ヨーロッパハタリスは昼行性の動物で、主に種子、植物の芽や根、無脊椎動物を食べます。また、彼らを捕食する動物としてイタチ、キツネ、飼い猫、猛禽類などが挙げられます。ヨーロッパハタリスのコロニーには見張り役がいて、ミーアキャットのように後ろ足で立ち、これらの捕食動物に警戒しながら安全を確保します。そして、捕食動物を見つけると甲高い警戒音で群れに危険を知らせ、この音を聞いた仲間たちはすぐに身を潜めて隠れるのです。

生息環境の変化と減少

このような行動から、ヨーロッパハタリスにとって開けた草原は不可欠な生息環境です。かつて、ヨーロッパの草原はバイソンなどの大きな草食動物の群れによって形成されていました。しかし、人間が景観を変えるにつれ、ヨーロッパハタリスは農地の端に生息するようになります。人間が作った耕作地や放牧地などは彼らにとって都合の良い環境だったのです。

その結果、1960年代までは個体数が非常に多く、一部の地域では害獣と見なされることもありました。しかし、農業の変化により状況は一変します。単一作物の栽培が広がったことや、農地が林に変えられたこと、放牧地が放棄されて背の高いイネ科の草原が見られる環境に逆戻りしたことから、リスの生息地は急速に減少したのです。

その結果、ヨーロッパハタリスはドイツ、ポーランド、クロアチアでは絶滅し、ほかの国々でも個体数が激減しました。例えばスロバキアでは、わずか50年で個体数が99%減少しています。これにより、この種はIUCNレッドリストの絶滅危惧種に指定されるまでになりました。

空港という最後の避難所

flightlogCC BY 2.0, via Wikimedia Commons

こうして、彼らが最後の避難場所として見つけたのが空港です。空港には滑走路や誘導路の周りに広い草地があり、ヨーロッパハタリスが好む自然の生息地によく似ています。また、空港は航空機や自動車などで混雑していますが、滑走路の外側のエリアは通常、一般の立ち入りが禁止されており、人間の干渉を最小限に抑えています。

そして、空港は一般的にキツネや大型の鳥などの捕食動物を遠ざけるように努めており、リスなどの小型種にとって安全な環境を意図せずに作り出しているのです。

保全活動とリスの移動計画

現在、スロバキア国内にはヨーロッパハタリスの3つの主要なメタ個体群が存在します。メタ個体群とは、生態学における概念で、複数の個体群が地理的に分散しながらも互いに遺伝的・生態的な交流を持つような構造を指します。

西スロバキア、中央スロバキア、そしてチェロヴァー高地の3つのメタ個体群は小さな孤立したコロニーで構成されており、多くは遺伝的多様性を高めるために新たな個体の導入を必要としています。幸い、それぞれのメタ個体群には少なくともひとつの健全なコロニーがあり、そこから新たなコロニーを形成することが可能です。

そして、ヨーロッパハタリスの個体数を増やすプロジェクトの一環として、まず西スロバキアに焦点が当てられ、繁栄しているブラチスラヴァ空港の個体群が活用されることとなりました。

このプロジェクトを推進するため、2027年までに54,000ユーロが投資され、スロバキアの専門家は協力し合い、効果的で適切な方法でリスを移動させる計画を立てています。そして、ブラチスラヴァ空港の個体群からリスを捕獲し、5つの新しいコロニーを設立するとともに既存の10のコロニーを強化する予定となりました。

このリスの捕獲には特別な生け捕り用の罠を使用して行われます。これは、リスが罠の中の新鮮なリンゴに引き寄せられ、罠が作動して扉が閉まるという仕組みです。そして、捕獲したリスは特別に設計された輸送箱に入れられ、ストレスを最小限に抑えながら移動させます。

こうして、新しい生息地では、リスがコロニーと既存の巣穴を見つけやすいよう慎重に放します。また、研究者はリスが安全に適応できるよう、彼らの行動を監視しながら環境を整えていきます。

今後の課題と展望

今後の課題としては、新たな生息地での定着率を高めることが挙げられます。リスが移動後に適応しやすい環境を整えるため、草原の管理や捕食者からの保護策も重要なポイントとなるでしょう。また、長期的なモニタリングを行い、遺伝的多様性の維持にも努める必要があります。研究者たちはこうした課題に取り組みながら、ヨーロッパハタリスの未来を守るための最善策を模索しています。

このプロジェクトは、ヨーロッパハタリスの保護だけにとどまらず、前述したように、このリスを通じて恩恵を受けるさまざまな種を含む、生態系の回復にも貢献するものです。このような活動の中では失敗が生じることもありますが、どうか皆さまも研究者の方々への敬意を忘れることないようよろしくお願いいたします。

この記事はYouTubeの動画でも見ることができます。

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