ロバがイヌ科動物より強い理由

生物

テキサスの農家は捕食者であるイヌ科動物から家畜を守るためにロバを飼育しています。しかしなぜ、捕食対象である草食性で、おとなしそうなロバが農場の護衛になるというのでしょうか?

この記事はロバがイヌ科動物より強い理由について説明しています。

テキサスで護衛用に飼育されるロバ


1988年にテキサスの農家が捕食動物のために損失した金額は、900万ドル(約13億3,263万円)にも上っています。そのため、農家は牧草地に高い柵を作り、銃を購入し、凶暴な犬を飼うなどさまざまな防御方法を考え出しました。

これらすべての試みは失敗に終わりましたが、ただ、彼らの中でロバを飼育し始めた農家だけは賢明でした。事実、この1年後のテキサスの牧場は1800頭のロバに守られることとなっています。

一般に、牧羊犬とはまったく違い、ロバは頑固であまり賢くないと考えられています。しかし、テキサスの農家はそうは思っていません。

一見、無害に見えるこの動物はイヌ科に対して生来の憎しみを持っています。イヌ科動物を発見した場合、ロバは農家の注意を引く大きな叫び声を上げ、追いまわし、場合によっては力強く蹴るなどの措置を講じます。彼らはキツネ、コヨーテ、野良犬、さらにはオオカミですらお構いなしに攻撃するのです。

この嫌悪感の主な理由のひとつは、ロバの本能と社会構造にあります。ロバは捕食の対象になる動物であるため、自分が脅威と認識するものに対して警戒します。そして、この本能は捕食動物であるイヌ科に対して特に強くなります。このように、ロバのイヌ科に対する嫌悪感は、安全を確保するための防御メカニズムと見ることができます。

また、ロバがイヌ科を嫌うもうひとつの要因として、過去の経験やトラウマ的な遭遇があげられます。ロバが過去にイヌ科に追いかけられたり、襲われたりなど嫌な経験をした場合、その行動に永続的な影響が残る可能性があります。結果、すべてのイヌ科動物に対して恐怖や不信感を持つようになります。

さらに、ロバは縄張り意識が強く、イヌ科の動物を自分のテリトリーへの侵入者と見なすことがあります。野生のウマは序列のはっきりしたハレム社会を構成し、群れを作って生活しますが、主に食料の乏しい地域に生息するロバは恒常的な群れを作らず、オスは縄張りを渡り歩き単独で生活します。この縄張り意識がイヌ科動物を縄張りから遠ざけようとして、攻撃的な反応を示すことにつながります。

これらのことから、ロバは羊、ヤギ、子牛の護衛として適しています。多くの場合、羊やヤギは脅威を感じると大きなロバの近くに集まり、守られようとします。そのため、平均して、1頭のロバは最大200頭の羊やヤギを守ることができるともいわれています。

ただし、小型ロバを野良犬やコヨーテに対する護衛として使うのは適切ではありません。護衛ロバとして選ばれるロバは、標準サイズかそれ以上のサイズである必要があります。標準サイズのロバは、肩の高さが約90から120cmあり、アメリカン・マンモス・ジャックストックなどの大型ロバは、馬ほどの大きさにもなります

また、農場にロバを初めて導入する際には、メスロバや去勢済みのオスロバが適しています。これは、普通のオスは、必要のないときに攻撃的になりすぎることがあるからです。

家畜の群れに導入したばかりのオスロバの場合、例えば、生まれたばかりの子羊を、縄張りの侵入者と間違えることがあります。また、護衛犬ではない普通の飼い犬がうっかり近づくと激高して踏み殺してしまう事もあるため、護衛ロバを育成する際には農場主にロバの生態や本能に対する正しい知識が必要となります。

ただし、家畜の群れの中で生まれ育ち、周囲の家畜を友とする縄張り意識を獲得したオスロバは最高の護衛ロバとなります。

ロバの優れた能力

でもなぜロバはそんなにすごいのでしょうか?

ロバは視力が優れているうえ、遠くの物音を誰よりも早く聞き取ることができます。そして、力強いひづめの蹴りと強力な歯による噛みつきという武器があります。さらに、ロバは状況を素早く適切に判断する知性を持っているため、即座に捕食者を追い払うことができます。

ウマは好奇心が強く、社会性があり、繊細であると言われ、反してロバは新しい物事を嫌い、唐突で駆け引き下手で、図太い性格と言われています。実際、ロバのコミュニケーションはウマと比較して淡白であり、ロバが少なくとも5000年前に家畜化されたという事実にもかかわらず、多頭引きの馬車を引いたり、馬術のように乗り手と呼吸を合わせるような作業は苦手とされます。

しかし、これは先述した通り、単独で生活する習性があるためで、ロバが単に頭が悪い動物という訳ではありません。彼らは人間にあまり執着しないので、やりたくないことや危険だと思うことを進んでしないだけです。

実際、2013年の研究では、ロバはイルカや犬と同じくらい速く学習して問題を解決できることがわかりました。テキサスA&M大学のノラ・マシューズ氏はロバは馬よりも賢いとはっきり述べています。

これらの優れた能力を持つため、特に一対一ならばロバがイヌ科動物に負けることはありません。

牧羊犬よりもロバを護衛にする理由

ただ、護衛ロバは護衛犬と比較して集団で襲ってくるオオカミや、ピューマやクマなど自分より大きな捕食者には対抗出来なくなります。

また、前述したように、ロバにははっきりと周りが見渡せる場所が必要です。起伏のある地形、密集した茂みや木々がある牧草地は明らかにロバには適していません。これらは簡単に捕食者が隠れることができるためです。

そして、ロバは護衛犬のように家畜の回りをパトロールする習性は持たず、捕食者が侵入するまでは家畜と共に牧草を食べています。

これらのことから牧羊犬の方が有用に思えるでしょう。

事実、彼らは家畜を捕食者から守るうえ、家畜をある場所から別の場所に移動させるのを手伝い、途中で迷子になった家畜を群れに戻すなど、その他多くの有用なことを行います。牧羊犬のこれらのスキルは何百年にもわたって磨き上げられたものです。

それではなぜ、犬の方が優れているのに、なぜテキサスの農家はロバを必要とするのでしょうか?

その理由は、ロバには平均してより多くのメリットがあるためです。

彼らはイヌよりも長生きで、飼育環境によっては30年以上生きることがあります。

また、ロバの購入と維持にかかる費用はイヌよりもはるかに少なくなります。ロバは平均して500ドル(約74,035円)、非常に良い品種でも800ドル程度(約118,456円)ですが、純血種の牧羊犬の価格は最も安くても1,000ドル(約148,070円)からです。

ロバの維持費は年間150~200ドル(約22,211円~約29,614円)で、これには餌やトリミング、その他の細かい費用が含まれます。一般的にロバは家畜が食べているのと同じ草を食べることができ、さらに比較的少ない餌で維持できます。それに、彼らは非常に強健で管理が楽です。

一方のイヌは定期検診、予防接種、臨床検査、歯科治療を含む定期的な獣医の診察だけで年間700~1,500ドル(約103,649円~約222,105円)の費用がかかります。これに加え、年間120ドル(約17,768円)のエサが必要となります。また、さまざまなおもちゃ、おやつ、首輪、リード、その他のものも必要になる場合があります。

犬はかわいいですが、価格差を考えるとロバの方が農場には適しています。

もちろん、捕食動物に対する別の防衛方法に銃がありますが、これは危険を伴うため、多くの法規制があるうえ、牧草地の近くで一日中銃を持って見張ったり、群れを追いかけたりすることは現実的ではありません。また、銃を使うと希少な野生動物をむやみに殺害することとなります。

その点、ロバは捕食動物を怖がらせることはありますが、殺すことはないため、野生動物の保護の観点からも適しているといえます。

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