北アメリカ東部ではコイウルフと呼ばれるコヨーテとオオカミのハイブリッドが数を増やしており、現在では数百万匹にのぼるといわれています。コイウルフはどういった特徴を持ち、なぜ交雑が増えているのでしょうか?
この記事はコイウルフについて説明しています。
コイウルフとは?

コイウルフはここ1世紀ほどの間に出現したばかりで、それ以来、北米東部の多くの地域に適応しています。この雑種化はオオカミの衰退に乗じ、分布を広げつつあるコヨーテがアメリカ西部から東に移動した際に、五大湖地域で最初に発生したと考えられています。
初めて確認されたのは1930年代初頭から1940年代後半で、おそらくオンタリオ州南東部、ラブラドール、ケベックでオオカミが絶滅した影響で、コヨーテがかつてのオオカミの生息地に定着し、残存するオオカミの個体群と混ざるようになったことが原因といわれています。
今日、オオカミのDNAは、はるか南のバージニア州までコヨーテの糞便から発見されており、哺乳類の中ではこれまで知られている最大の交雑地帯を形成しています。
オオカミとコヨーテは近縁で形態も似ますが、コヨーテのほうがより小型です。
コイウルフ、もしくはイースタンコヨーテと呼ばれるこの雑種は純粋なコヨーテより体格が大きく、長い脚、大きな顎、小さな耳、ふさふさした尻尾などの特徴を持っています。
エコノミスト誌によると、この雑種はシンリンオオカミ、アメリカアカオオカミ、コヨーテ、そしてドーベルマンピンシャーやジャーマンシェパードなどの大型犬も混血しています。今日のコイウルフは平均して4分の1がオオカミで10分の1が犬です。
この混血のおかげでコイウルフは大繁殖し、今では数百万匹にのぼると、ノースカロライナ州立大学のローランド・ケイズ氏は語っています。
コヨーテは森での狩りを嫌う一方、オオカミはその反対を好みます。そのため、交配によって開けた地形と密林の両方で獲物を捕まえる技術に長けた動物が生まれたとケイズ氏は言います。
コイウルフは日和見的な雑食動物で、バッタなどの昆虫類から、ウサギ、シカ、ヘラジカまで何でも捕食することが知られています。彼らは主に狩りをしますが、事故や自然死で死んだシカを食べることもしばしばあります。成体のシカのうち、コイウルフに確実に殺されるのはわずか8%ですが、残り92%は車に轢かれたり、怪我を負ったりした後にコイウルフに食べられていたことがわかっています。
また、鳴き声も先祖のものと混ざり合っています。遠吠えの最初の部分はオオカミの低い声に似ていますが、その後、コヨーテのような高い音のキャンキャンという鳴き声に変わります。
さらに、犬のDNAには都市の騒音に対する耐性も含まれているかもしれません。現在、ニューヨーク市には少なくとも20頭が生息しており、ワシントンDC、ボストン、フィラデルフィアでも目撃されていると報じられています。
コイウルフがオオカミやイヌと交配できるということは新種の定義に完全には当てはまらないと主張する人がいますが、今まさに起こっている進化の過程を我々は今、目撃しているのだと主張する人もいます。いつの日か、コイウルフは明らかに別の種になるかもしれませんが、今のところ、彼らは雑種強勢の利点を享受しているといえます。
なぜオオカミとコヨーテは交配してしまうのか?

モスクワ・アイダホ大学のジャスティン・ボーリングとリゼット・ウェイツはアメリカアカオオカミとコヨーテの交配の背後にある要因を知りたいと考えていました。
アメリカアカオオカミはかつてテキサス州から米国東海岸にかけて生息していましたが、狩猟や生息地の破壊、そしてコヨーテとの交配によってその範囲が徐々に狭められ、1980年には野生下での絶滅が宣言されました。
しかし、1987年、8頭の飼育個体をノースカロライナの野生に放つという画期的な実験が行われ、やがて100頭以上の個体群を形成するにいたりました。それにもかかわらず、密猟と、米国魚類野生生物局による管理方法の変更によって、その数は再び激減することとなっています。
交配によるコイウルフが生まれることはアメリカアカオオカミにとって大きな脅威とみなされています。そのため、米国魚類野生生物局は遭遇した雑種をすべて駆除しています。しかし、交配が起こる理由についてはほとんどわかっていないままでした。
ノースカロライナ州の野生動物は米国魚類野生生物局によって追跡されており、そのためオオカミとその子孫に関する広範な遺伝子データが残されています。
そこで、ボーリングとウェイツは2001年から2013年までに記録されたすべての子孫を集計しました。その結果、アメリカアカオオカミを両親に持つ子孫が126匹、アメリカアカオオカミとコヨーテを親に持つ子孫が30匹ということがわかりました。
交雑のほとんどはオスのコヨーテとメスのアカオオカミの間で発生しており、通常、若い個体が初めて交配するときに起こります。
2人は23件の交配について、オオカミの経歴を把握しており、そのうち18件の交配は、メスのオオカミがオスのオオカミのパートナーを失った後に発生していました。アメリカアカオオカミは通常、生涯にわたるつがいの絆を形成します。
オスのオオカミの死因の一部は自然死によるものですが、11件は人間がオオカミを撃ったり、毒殺したり、罠にかけたりしたことが原因で発生しています。ただし、オオカミとコヨーテは見た目が似ており、科学者でさえ外見だけでは区別がつかないことがあるため、この殺害は意図的ではなかった可能性があります。ある例では、2023年にニューヨーク州北部のハンターがオオカミをコヨーテと間違えて撃っています。
交配はアメリカアカオオカミとコヨーテの生息地が重なっているからというだけの理由ではありません。繁殖期につがいの片方が死んでしまうと、生殖活動が活発なアメリカアカオオカミはすぐに別の相手を見つけざるを得なくなると研究者らは述べています。そして、アカオオカミの個体数が少なく、反対にコヨーテが多いため、経験の浅いメスは間違ったオスの種を選ぶ可能性があるのだといいます。
オオカミの保護は可能か?

このようなことから、オオカミの今後の管理では、銃で命を落とすオオカミの数を減らすことに重点を置くべきだとボーリングとリゼットは結論付けています。
しかし、こうした取り組みに対する地元の支持は低いかもしれません。ノースカロライナ州は再導入プログラムは失敗し、オオカミが私有地を荒らしたと主張しています。
コヨーテと同様、コイウルフによる人間への攻撃は極めて稀です。ただし、2009年、19歳のカナダ人フォークシンガー、テイラー・ミッチェルがハイキング中にコイウルフに襲われて亡くなるという事件が起きています。
アメリカアカオオカミは今後、数を減らし、コイウルフは増え続けてしまうのでしょうか?
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