ヤシガニはヤシの実が好物というイメージが定着しています。しかし、実際は雑食性で、口に入るものなら何でも食べます。世界一周飛行中に消息を絶った伝説の女性飛行士アメリア・イアハートがヤシガニに食べられた可能性があるという説が最近の調査で浮上しました。この記事は誤解されがちなヤシガニの生態とともに、アメリア・イアハートに関するこの事件について説明しています。
ヤシガニの驚異的な生態と特長

ヤシガニはオカヤドカリ科に分類される甲殻類で、ヤドカリの仲間です。そのため、まだ若いヤシガニは貝殻やカタツムリの殻などを背負い、自分の身体を守ります。成長するにつれて、ヤシの実の殻なども宿として利用することがあります。
しかし、大きく成長した大人のヤシガニにとっては、身体に見合った大きな貝殻を見つけることが難しくなります。ただ、他のヤドカリとは異なり、ヤシガニの腹部はキチン質や石灰質で覆われるようになるため、身を守ることができます。
さらに、腹部にある「鰓室」と呼ばれる器官は水分をため込むのに適しており、これによりヤシガニは乾燥した環境でも空気中の水分を取り込んで十分に呼吸することが可能です。この特徴により、ヤシガニは陸上生活に特化した驚異的な適応を遂げています。
世界最大級の節足動物

ヤシガニは、陸上に生活する節足動物の中で最大級の存在です。オスはメスよりも大きく、その体長は40cmを超え、足を広げると1m以上にもなります。体重は4kgを超えることもあり、圧倒的なスケールで存在感を放ちます。
最強のハサミの威力
ヤシガニの最大の特長の一つが、その巨大なハサミです。このハサミは体重の約90倍の力で物を挟むことができるとされ、これは甲殻類の中で最強のパワーを誇ります。
誤解されている習性とその実態

日本ではその名前や言い伝えから、ヤシの木に登り、ヤシの実を岩の上に落として割り、それを食べるカニとしてのイメージが定着しています。確かに彼らがヤシの実を食べることは事実ですが、ヤシの実を落とすために木に登る行動は確認されておらず、そのような知性もないと考えられています。
また、ヤシガニは口に入るものなら何でも食べる雑食性で、必ずしも主食にヤシの実があるわけではありません。彼らは、果物や亀の卵なども食べます。生まれて間もないウミガメの子供のように足が遅いものも対象となり、2017年には生きたウミドリの寝込みを襲って食べる様子が報じられています。
それどころか、共食いも行い、脱皮中のヤシガニが他のヤシガニに攻撃されることがあります。さらには、腐肉も食べるため、動物の死骸や埋葬された人間の遺体を食べたという報告も存在します。
伝説の女性飛行士アメリア・イアハートの失踪

そしてアメリア・イアハートもヤシガニに食べられたかもしれません。アメリア・イアハートは1897年生まれのアメリカの飛行士で、女性として初めて大西洋単独横断飛行を達成しています。知的かつチャーミングな女性であり、自身の体験を通じて女性の地位向上のために熱心に活動を行っていたことから、当時絶大な人気を誇っていました。
そんなイアハートは1937年、赤道を辿る世界一周飛行に挑戦しました。一つ前の目的地であるニューギニアのラエに到着し、次にアメリカ領の無人島であるハウランド島を目指して離陸しましたが、目的地に到着することはありませんでした。当時の天候は時折雨が降る曇天で、雲が厚く、天体観測が困難な状況でした。また、出発に際し、ラジオ時報の受信ができず、飛行をスムーズに進められなかったのです。
オペレーターによれば、燃料が尽き、あと30分程度しか飛行できないとの通信がありましたが、これを最後にイアハートの消息は途絶えました。その後、アメリカ海軍と日本海軍が大規模な捜索を行いましたが、機体の残骸や遺体は発見されず、彼女の失踪は大きなミステリーとして語り継がれることになりました。
失踪から3年後の1940年、キリバスのフェニックス諸島に属するニクマロロ島で白人女性のものと思われる骨が見つかりました。しかし、当時の技術ではイアハート本人のものと特定することはできず、さらには第二次世界大戦中の混乱で骨を紛失してしまっています。そのため、現在になって調査隊による彼女の痕跡を探す調査を行うこととなったのです。
ニクマロロ島とそこに棲むヤシガニ

調査隊は、当時ガードナー島と呼ばれていたこのニクマロロ島に彼女が不時着したと考えています。ニクマロロ島は珊瑚礁に囲まれており、これが天然の滑走路になった可能性があるからです。こうして最終的に、彼女の飛行機は珊瑚礁に不時着し、死亡するまで一人でこの島で暮らしていたと推測されています。
ヤシガニはインド洋や太平洋の熱帯域の島々に分布しており、日本でも沖縄、宮古、八重山などの各諸島にも生息しています。彼らの生態として、水中で長時間生存できず、泳いで海を渡ることはできません。それではなぜこれらの島々にヤシガニが生息しているのでしょう?
それはヤシガニの産卵時に見られる習性によるものです。数ヶ月間、卵を抱えたまま生活しますが、10月か11月の満潮時に波打ち際で「ゾエア幼生」と呼ばれる幼生を一斉に放出します。この幼生は約28日間海中を漂い、その間に他の島々に辿り着いたのではないかと考えられています。また、ヤシガニの幼生や成体が漂流物に乗り、他の島に流れ着いた可能性も示唆されています。
ニクマロロ島にはたくさんのヤシガニが生息していますが、調査を行う昼間は、ヤシガニを避けるのは簡単です。ヤシガニは熱帯の強烈な暑さを避けるため、ヤシの木の木陰や安全な場所で過ごしているからです。しかし、夜になると状況は一変します。夜行性のヤシガニたちは、調査隊を取り囲んでしまうことがあります。懐中電灯で照らすと、その光の外側には1000匹ものヤシガニがいると言われています。そのため、調査隊は地面に寝ないように注意を払っています。
アメリア・イアハート失踪の謎とヤシガニが残した痕跡

当時見つかったイアハートとみられる骨は13個だけでした。人間の骨格には206個の骨がありますが、見つからなかった残りの193個の骨はどこに消えてしまったのでしょうか。ヤシガニには英語で「robber crab(強盗ガニ)」という別名があります。調査隊は、このヤシガニが残りの骨をバラバラにした可能性があると推測しました。
そこで彼らは、ヤシガニが骨をどのように扱うのかを観察するため、実験を行いました。豚の死骸を島に持ち込み撮影を開始すると、ヤシガニは暗がりの間にほとんどの肉を持ち去りました。中には、最長で18mも死骸を引きずった個体もいたほどです。
こうして調査隊は、イアハートが漂流後この島で死亡し、彼女の遺体がヤシガニにより処理されたのではないかと結論づけました。発見された13個の骨を除き、残りの骨はヤシガニたちによって引きずり込まれた可能性が高いと考えられています。
この記事はYouTubeの動画でも見ることができます。
参考:Amelia Earhart Mystery: Was the Lost Pilot Eaten by Giant Coconut Crabs? – Newsweek
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