ウシ科動物が北米にいるのに南米にはいない理由

生物

野生のウシ科動物はアフリカ、アジア、ヨーロッパ、北アメリカなど地球上の広大な地域に生息していますが、南アメリカにはいません。野生のウシが北アメリカと陸続きの南アメリカに生息していないのは驚きです。一体なぜでしょうか?

この記事では南アメリカにウシ科動物がいない理由について説明しています。

ウシ科とは

ウシ科とは鯨偶蹄目反芻亜目に属する科で多種多様な種が現生しています。彼らはみな草食動物で、4つに分割された胃とその中の微生物を使って消化しにくい植物質を分解します。ウシ科にはウシ、ヒツジ、ヤギ、バイソン、スイギュウ、レイヨウなどの種が含まれていますが、シカ、ヘラジカ、トナカイ、キリン、オカピ、プロングホーンなど、ほかの反芻動物は含まれません。

南米に持ち込まれた畜牛

現在、南アメリカには何百万頭もの畜牛がいます。これはスペインとアフリカの一部からスペイン人によって持ち込まれたものです。クリストファー・コロンブスはカリブ海の島々に少数の牛を放したと伝えられています。しかし、畜牛はイスパニョーラ島で非常によく栄えたため、到着後間もなく厄介ものとみなされました。

そして、1525年までにはこれらの牛は中央アメリカと南アメリカで飼育されるようになります。彼らはすべての伝統を排除し、新しい農法を切り開き、この地に全く異なる生活様式をもたらしました。こうして、ヨーロッパの入植者が大陸全体に広がるにつれて彼らは競合する野生のウシ科動物がないことに気づき始めたのでした。

北アメリカ原産のウシ科動物

バイソンのような広い意味で牛と呼ばれるウシ亜科の動物、ビッグホーンのような野生のヒツジ、そしてシロイワヤギ(シロイワヤギはシロイワヤギ属に分類され、家畜ヤギの由来である野生ヤギを含む真のヤギ属のメンバーではなく、むしろ日本や南アジア東部に棲むカモシカ属に近縁)は北米で繁栄していますが、南米大陸には生息していません。

北アメリカ原産のウシ科動物はどこから来たのか?

これらの種はそもそもどうやって北米に到達したのでしょうか?彼らは北米大陸で生まれたのでも入植者によって持ち込まれたのでもありません。

北米は常に南米ほど孤立していたわけではありませんでした。最終氷期の間、北米はベーリング陸橋を介してアジアとつながっていたのです。そしてこの陸橋を渡ることで、人間を含むアジアの動物が北米に移動することができました。ビッグホーンは75万年前、バイソンは19万5,000から13万5000年前に移動しています。

そして、約1万年前に氷期が終わると氷床と氷河が溶けて海面が下がりました。そして陸橋は海面下に消え、北アメリカに渡った種は閉じ込められたのです。ただ、これらの種は新しい生息地に適応し、大陸全体に広がり、繁栄しました。

彼らがこの新天地にたどり着いたときには、すでに北アメリカと南アメリカはつながっていました。ではなぜ北アメリカのウシ科動物は南アメリカにたどり着かなかったのでしょうか?

アメリカ大陸間大交差

WoudloperCC BY-SA 1.0, via Wikimedia Commons

約300万年前、パナマ陸橋の形成が完了し、多くの動物が2つの大陸間を移動することが可能になりました。この動物種の大規模な交換のことをアメリカ大陸間大交差といいます。

アメリカ大陸間大交差では北アメリカからウマ、ラクダ、クマなどの種が南へ移動しました。その一方でアルマジロやオポッサム、アメリカヤマアラシなどの南アメリカのシュは北へ移動しています。こうして、この出来事はその後、多くの種の絶滅と繁栄の両方を招いたのです。そして、ウシ科動物はその時はまだ、北アメリカに到達していなかったので、彼らが南アメリカに行く方法はありませんでした。

それでは、彼らが北アメリカに渡っで以降、何が南アメリカへの移動を止めたのでしょうか?

北南アメリカ間の地理的障壁

MilenioscuroCC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

今日、ウシ科動物やほかの多くの動物が南アメリカに渡るのを妨げる地理的障壁が存在しています。

バイソンは以前はメキシコ北部にまで分布していました。このメキシコのバイソンは過剰狩猟によって一度絶滅したのですが、現在では再導入されています。ただ、彼らがさらに南へ移動する可能性は低いでしょう。

それは主にダリエン地峡、もしくはダリエン・ギャップと呼ばれるもののためです。パナマとコロンビアは陸地でつながっているにも関わらず、ダリエン・ギャップは世界で最も住みにくい場所のひとつと考えられています。その密生したジャングル、危険な地形、そして過酷な環境はここを横断しようとするものにとって、非常に手ごわいものにしています。

北米の野生のウシ科動物の一部は南部の州に生息していますが、あえて密林に移り棲もうとするものはいません。バイソンは主に開けた草原で草を食べます。彼らはジャングルで生き残るのに苦労するでしょうから、そのような環境を求めて侵入することはありません。

また、ビッグホーンはメキシコ南西部の暑い砂漠で繁栄する亜種を除いてカナダと米国北部の寒い山岳地帯に生息しています。

そして、世界のシロイワヤギの個体数の半分はブリティッシュコロンビア州に集中しほかの種は北米の山岳地帯の高地に生息しています。

これらの種はいずれもダリエン・ギャップではうまくやっていけないだろうし南米に到達するまでに100kmの密林を抜けなければなりません。

北米のウシ科動物は通常、より寒く乾燥した環境に適応しています。ダリエン・ギャップの気候は熱帯雨林で、湿度が高く気温が35度に達する、世界で最も湿った地域のひとつと考えられています。

ダリエン・ギャップ以外の南米へ渡る方法

しかし、ダリエン・ギャップを完全に回避して南米に行く別の方法があります。それが外洋を渡る方法です。科学者たちはこの方法によって新世界ザルが南米に到達したと考えています。アフリカ本土の海岸を嵐が襲うと、広大な土地が植生とともに崩れ、切り離されます。それらの木や茂みにいた動物は、この植生のいかだに乗って海に流されました。こうして、いかだは大西洋を横断し、南アメリカの海岸に上陸したというのです。当時は大西洋が今ほど広くなかったのでこの移動が可能だったといわれています。この漂流ジマ現象はあなたが思っているよりも一般的で世界中の他の場所でも発生しています。

もちろん、現代ではバイソンやビッグホーンのような大型の動物がこのような外洋航行をすることはまずありません。

今後ウシ科動物がダリアン・ギャップを越えることはあるか?

しかし、現在では気候変動と、天然資源の破壊が進行しているため、北米のウシ科動物がより居住可能な場所に移動し始めないとは言えません。北米の気候が彼らにとって不適切になり、頼りにしている生息地が枯れあがってしまうと彼らは適切な場所を探すしかなくなるでしょう。

現在、ダリアン・ギャップは山がちで危険ですが、商業活動、例えば伐採によってジャングルの広大な地域が伐採され、破壊される可能性があります。もしダリアン・ギャップが完全に破壊されればウシ科動物の移動ルートが開かれる可能性があります。

事実、すでにダリアン・ギャップを利用して生息域を広げている種がいます。コヨーテは1980年代以前はパナマでは記録されていませんでした。しかし、新しい記録ではコヨーテはパナマ運河を渡っており
拡大を続けていることが示されています。

生態学的ニッチを占める種

ただ、北米のウシ科動物が南アメリカにたどり着いたとしても、そこで生き残れるかどうかはわかりません。その生態学的地位はすでにビクーニャグアナコアルパカラマを含む在来のラクダ科の動物が占めています。これらのうち、ビクーニャとグアナコだけが野生種です。アルパカとラマは何千年もの間家畜化されており、主に毛皮と肉のために使用されています。グアナコは厳しい環境、つまり南米の山岳地帯や非常に乾燥したアタカマ砂漠での生活に適応しています。また、ビクーニャはアンデス山脈の草原で非常に質の悪い草を食べることで生き延びています。

このように、ウシ科動物はこの過酷な環境でこれらの種と競争していく必要があるのです。

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