アケビは朝鮮半島、中国、日本の山野に自生する植物で、古くから食用として利用されてきました。実はこのアケビ、アメリカでは導入されたものが外来種として増えています。しかし、現地ではまったくといっていいほど食べられていません。これは一体なぜでしょう。本記事はアメリカで増加するアケビが食べられていない理由について説明しています。
アケビとは?

アケビはキンポウゲ目アケビ科に分類されるツル性植物で、学名を「 Akebia quinata (アケビア・キナタ)」といいます。アケビアは日本語のアケビがラテン語化されたものです。そして、キナタは5つの部分を持つという意味で、葉が5枚の小葉で構成され、手のひらのような形をしていることから名付けられました。
英語ではチョコレートヴァインとも呼ばれますが、これは果実がチョコレートの味がするからではなく、花がチョコレートのような香りを放つからです。
アケビは北海道を除いた日本全域に分布しており、国外では朝鮮半島や中国でも見られます。平地から山地にかけて、特に日当たりの良い山野に自生しつつ、河畔や道端、雑木林などの少し日陰がちな場所でも樹木に巻き付いて成長する特徴があります。
アケビは秋になると紫色または茶色の果実がなり、熟すと自然に割れて中から白い果肉と黒い種子が姿を現します。そのため、「開け実」という意味で名付けられたとされています。この果肉は甘く、秋の味覚を代表します。
それではなぜアメリカ人はアケビを食べないのでしょうか?
アメリカ人がアケビを食べない主な理由は文化的・経済的・流通上の障壁にあります。
理由①:そもそも観賞用として持ち込まれた

アケビがアメリカに持ち込まれたのは19世紀半ばのことです。1845年頃、イギリス人植物収集家のロバート・フォーチュンによって中国からイギリスに持ち帰られています。彼はアケビを花にチョコレートのような香りを持つ美しい蔓植物として紹介しました。その結果、庭園や生け垣用の装飾植物として広まっています。
アメリカにはその直後に渡り、20世紀初頭には東海岸を中心に広く栽培されるようになりました。ただ、当時書かれた多くの文献では、「アケビは食用の果実をつけるものの、実りが少なく、特に興味深い特徴もない」と述べられています。これはまるで、この侵略的植物がもたらすかもしれない利益を否定しているかのようです。
このように、当初から食用としてではなく、あくまで観賞用として導入されたため、アメリカに住む多くの人はアケビが食べられることさえ知らないのです。現在でもアケビは主に庭園植物として認識されており、食用としての文化や知識が根付いていません。
アケビはアメリカに導入されて以来、野生化して主に東部地域を中心に16州に広がっています。繁殖力が非常に強く、その急速な成長は1シーズンで約6から12メートルに達し、これが侵略性を高める一因にもなっています。
この成長の速い蔓植物は密集してマット状に生え、林床を蔽い尽くしてしまうため、在来種から日光や生息地を奪い、駆逐してしまいます。さらに、日陰や干ばつといった様々な環境下でも生育可能なため、防除が特に困難です。
アケビの種子は様々な鳥類や哺乳類に食べられ、拡散されていますが、長距離拡散の多くは人間の活動によるものです。そのため、駆除すべき雑草というネガティブな印象が強く、食用としての関心が持たれにくいのです。
理由②:味や見た目、食べやすさの問題

また、アケビの味や食感はアメリカ人の好みに必ずしも合わないという側面もあります。日本では秋に熟すアケビの果実は、昔から子供たちの山遊びでのおやつとして親しまれてきました。半透明の白い果肉は、黒い種子を包んでおり、とろりとした爽やかな甘みが特徴です。
ただ、バナナやマンゴーのような濃厚な果実に慣れているアメリカ人からすると、アケビのほのかな甘さは物足りなく感じられがちです。日本人ならアケビの繊細な甘さや独特の風味を楽しめますが、アメリカの果物市場では強い甘みや酸味のある果物が好まれる傾向があります。
また、アケビの種子は食べられるものの苦味があるため、果肉を口に含んで味わった後、種子を吐き出すのが一般的です。このような点もアメリカ人にとっては食べにくいと感じられる一因となっています。食べ方も知られていないため、需要もほぼゼロ。
日本でも品種改良が進められていますが、種の多さという課題は依然として解決が難しい状況です。これがアメリカでの普及を妨げる要因となっています。最近では野生の食べられる果物やエディブル・ランドスケープとして一部の自然派グループの間で注目されることもありますが、あくまでごく一部のニッチな動きにすぎません。
理由③:流通の難しさ

アケビは保存性が悪く、流通しにくい果物でもあります。収穫後すぐに傷みやすく、熟すと果実が自然に割れてしまう性質があるため、大量に運んでスーパーマーケットの棚に並べるのが困難です。
この問題は日本でも同様で、アケビは商業栽培されているものの(近縁種のミツバアケビの方が多く食用として栽培されています)、流通量は非常に限られており、一般的なスーパーでもあまり見かけることができません。
日本国内の生産量の90%以上は山形や秋田で占められていますが、シーズン中の短い期間に地方の市場や直売所、またはオンラインで販売されるのみです。
また、外来種として増加しているアメリカとは対照的に、日本では野生のアケビが近年減少しているとされています。原因としては自然環境の変化や動物による採食が挙げられ、山道沿いや山里で以前はよく見られたアケビも、実をつける数が減っている地域が増えているようです。
つまり、アケビは珍しいが保存が難しく、あまり市場に出てこない果物で、その性質が、日本でもアメリカでも流通の壁となっているのです。ましてや国土が広大なアメリカにおいて、保存期間が短く、輸送中に品質が低下しやすいという特性は流通システムに適していません。
これらの理由から、アメリカでアケビは市場にほとんど出回らず、さらに知られない果物という悪循環に陥っています。
アケビの魅力と活用法

このように、人気が低下しているアケビですが、実はあまり知られていない魅力がたくさんあります。特に栄養面での価値は見逃せません。
アケビの果肉にはビタミンCが豊富に含まれていています。また、アケビには貧血予防に役立つとされる葉酸も含まれています。さらに、果皮にもカリウムが豊富に含まれており、体内の水分バランスを整え、むくみ防止にも効果があるとされています。
日本ではアケビは単に果肉を生で食べるだけでなく、様々な方法で利用されてきました。種子を含む果肉はそのままホワイトリカーに漬けて、果実酒にできます。
また、厚く肉質の果皮はほろ苦さが特徴で、内部にひき肉や味噌、マイタケなどのキノコやナスを刻んで詰めたものを蒸し焼きにしたり、油で揚げたりして利用され、山菜料理として親しまれています。保存食として酢に漬けたり塩漬けにして利用する方法もあります。さらに果皮は短冊切りにして唐揚げや天ぷらにも使われます。
春には若芽も食用となり、暖地では3から4月、寒冷地では4から5月頃が採取の適期です。東北地方などでは春に伸び始めたつるや若い葉を山菜として摘み、軽く茹でて冷水にさらした後、おひたしや和え物、汁の実、バター炒め、混ぜご飯などに調理されます。
若芽も果皮もアクが強いので茹でて冷水にさらす必要がありますが、ほろ苦さと歯ごたえがアケビの美味しさの魅力でもあるので、さらしすぎないように調理するのがポイントです。そのほか、葉を乾燥させてアケビ茶として利用されることもあります。
秋田ではかつてアケビの種子を搾って食用油として利用していた地域がありました。アケビの種子は油分が豊富で、20リットルの種子から3リットルの油が搾れるほどです。これは一時期、食用油の王様と呼ばれるほど高級品でしたが、昭和初期に安価な食用油が普及したことで衰退しました。しかし、近年では、旧西木村(現仙北市)が中心となり復活が試みられ、2017年に再び商品化されるまで至っています。
まとめ

一方、アメリカではこれまで見てきたように、食用としての認識が広まっていない、味がアメリカ人の好みに合わない、種が多く食べにくい、保存性が悪く流通が難しいなどの複数の要因が重なり、アメリカではアケビが食用として認識されずに侵略的外来種として増え続けるという皮肉な状況が生まれています。
しかし、アメリカ人がアケビを食用として受け入れ、積極的に収穫して食べるようになれば、その広がりを抑制する一助となる可能性があります。日本の食文化の豊かさを考えると、未利用資源を有効活用する知恵を広めることで、食糧問題や外来種問題の解決に貢献することができるかもしれません。
この記事はYouTubeの動画でも見ることができます。
参考:https://www.eattheweeds.com/chocolate-vine-akebi/
https://jp.neft.asia/archives/35070

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