アカマンボウが水族館にいない理由とその驚きの生態

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アカマンボウはマンボウに似た大きくて丸みのある体に、鮮やかな赤い体色が特徴的な魚です。その見た目とは裏腹に味の評価も高く、地域によっては人気の食用魚として知られています。そんな珍しく魅力的な魚を、水族館で間近に見てみたいと思う人も多いかもしれません。

しかし実はアカマンボウは飼育することができない魚です。そこで今回は、アカマンボウがなぜ水族館で飼育できないのか、その理由とともに、この魚の知られざる生態について詳しくご紹介していきます。

この記事の要約

  • 飼育不可能な珍しい魚 – アカマンボウは美しい外見を持つ大型の外洋魚だが、深海を広く回遊する性質と生態の未解明さから、水族館での飼育が極めて困難で、生きた姿を見ることはほぼできない
  • 全身恒温性を持つ唯一の魚 – 2015年に魚類で初めて全身の体温を周囲より約5度高く保つ能力が発見され、胸鰭を動かして熱を生み出し、脂肪層と特殊な血管構造で冷たい深海でも活発に活動できる
  • 高評価だが希少な食材 – 日本、ハワイ、ヨーロッパなどで高級魚として扱われ、淡泊で旨味のある白身が刺身や様々な調理法で楽しまれているが、漁獲量が少なく安定供給が難しい

アカマンボウの基本情報

アカマンボウはアカマンボウ目、アカマンボウ科に属する大型の外洋魚です。かつては学名Lampris guttatusとされ、世界中に分布する単一種と考えられていました。しかし2018年の研究により、従来ひとつの種とされていたLampris guttatusは複数の種に分かれることが明らかになり、日本近海で漁獲される個体はLampris megalopsisに分類されることになりました。

名前にはマンボウとつきますが、分類学的にはフグ目のマンボウとは異なる別グループで、アカマンボウはむしろリュウグウノツカイに近い系統を持ちます。

アカマンボウの体は円盤状に平たく、厚みがあり筋肉質です。最大で全長2メートルほど、体重はおよそ90キログラムに達するとされています。なかには270キログラムに及ぶ個体がいたという報告もありますが、こうした記録については学術的な裏付けがなく、信頼性は定かではありません。

アカマンボウの体はタチウオのように銀色に輝き、小さくて剥がれやすい鱗で覆われています。鰭や口元、目の周りは鮮やかな赤色をしており、体全体には円形を中心とした不規則な斑点が散らばっています。胸鰭や背鰭の前端部、腹鰭は鎌のように長く発達し、これらの特徴が組み合わさることで、アカマンボウは独特で美しい外観を持つ魚として知られています。

なぜ水族館で飼育できないのか

Justin Joubert, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons

アカマンボウは全国どこの水族館に行っても生きた姿を見ることができない、非常に飼育の難しい魚です。

その理由のひとつに、捕獲されてから水族館に運ばれるまでの過程に大きな課題があることが挙げられます。アカマンボウは主に延縄漁などで混獲されるため、漁獲時点で既に体力を消耗していることが多く、水族館に到着する頃には衰弱しているケースがほとんどです。実際、のとじま水族館では搬入時にかろうじて生きていた個体がいたものの、すでに衰弱が激しく、展示には至りませんでした。こうした事例はアカマンボウの飼育がいかに困難かを物語っています。

加えて、アカマンボウが外洋の中層から深い海を広く回遊する大型の魚であることも、大きな要因のひとつです。この種は生涯を外洋で過ごすと推定され、中深層の水深50から500メートルに生息し、深海層へ進出することができます。このように、広大な海域を自由に泳ぎ回る性質を持つため、限られた水槽空間ではストレスがかかりやすく、健康を維持するのが難しくなります。

さらに、人目に触れない環境に生息しているため、彼らの生態や生理に関する情報はまだ十分に解明されておらず、適切な水温、水圧、光環境などを再現するための技術的な指針も不足しています。回遊の範囲や繁殖行動、餌の捕食パターンなど、細かい生態のデータが限られているため、水槽飼育に必要な条件を科学的に再現することが難しいのです。こうした背景から、アカマンボウは水族館での長期飼育や展示には極めて不向きな魚とされています。

美しい姿や興味深い生態を持ちながらも、その生きた姿を目にすることができないのは、こうした複雑な事情があるからなのです。

アカマンボウの生態

アカマンボウは世界の温帯から亜熱帯の外洋域に広く分布し、西大西洋ではグランドバンクスからアルゼンチンまで、東大西洋ではノルウェーからアンゴラまで、東太平洋ではアラスカ湾から南カリフォルニアまで、西太平洋においては日本の北海道以南からフィリピン周辺まで、そしてインド洋などで見られます。

彼らは昼と夜で泳ぐ深さを変える「日周垂直移動」を行うことが知られています。中央北太平洋での調査によると、夜間は水深50から100メートル、日中は100から400メートルに生息していることが判明しました。夜になると浅い層まで浮上してくるのは、主に餌をとるためです。こうした行動は深海性の魚に広く見られ、昼間は天敵から身を守るために光の届かない冷たい深海にとどまり、夜になるとプランクトンや小魚が集まる表層近くまで上がってくるという戦略に基づいています。

2015年5月、アカマンボウは全身の体温を周囲温度より高く保つことが示され、全身恒温性を持つことが知られる初めての魚となりました。この発見は魚類学において革命的なものでした。アカマンボウは胸鰭を絶えず動かすことで泳ぎながら体熱も生み出しています。この胸鰭の筋肉は厚さ1センチの脂肪で覆われており、熱が逃げにくい構造になっています。さらに、鰓の血管は逆流熱交換という仕組みで熱を効率よく保つように配置されています。このおかげで、アカマンボウは周囲の海水よりも約5度高い体温を常に保つことができ、冷たい深海でも活発に泳ぎ回り、効率的に餌を捕らえることが可能です。

ただ、アカマンボウの生活史や発達の過程については、いまだにはっきりとしたことが分かっておらず、多くの点で不明なままです。アカマンボウは群れで行動することは少なく、単独で泳ぐことが多いと考えられていますが、マグロや他のサバ科魚類と群れをなすことも知られています。

食性は肉食性で小魚やイカ、甲殻類などを捕食します。ハワイ沖で捕獲されたものによると、イカとオキアミが食餌の大部分を占めますが、小魚も捕食していることがわかりました。広大な外洋において、アカマンボウは重要な捕食者のひとつとして生態系に影響を与えているのです。

食材としてのアカマンボウ

アカマンボウはその大きさとしっかりした身質から、世界のいくつかの国で食材として利用され、濃厚でクリーミーな風味があると評されています。日本では地方の市場や料亭で高級魚として扱われることが多く、淡泊ながら旨味のある白身は、刺身や煮付け、焼き物として食べられます。また、唐揚げや鍋の具材としても利用され、身の柔らかさを生かした料理に適しています。沖縄ではマンダイなどと呼ばれ、マグロ漁の副産物として水揚げされ、比較的手頃な価格で流通し、刺身やソテーとして食べられています。

ハワイではアカマンボウはオパの名で知られ、高級魚として扱われることもある人気の食材です。マグロ延縄漁などで混獲されることが多く、ホノルル魚市場などでは定期的に水揚げされています。アカマンボウは白身魚ではあるものの、身には赤みがかった色合いがあり、特に腹部は脂がのっていて甘みが強いとされています。このように、身は部位によって味や食感が異なるため、刺身、グリル、ソテー、燻製、煮込み料理など多彩な調理法で楽しまれています。特に、脂の乗った腹身はハワイのマグロとも称されるほど人気があり、レストランのメニューにも登場します。

フランスなどヨーロッパの高級レストランでは、身のしっかりした白身を生かしてソテーやオーブン焼きにし、魚の旨味を引き立てるソースと組み合わせて提供されます。台湾や韓国などアジアの国々でも、蒸す・煮る・揚げるなど様々な方法で調理されています。

アカマンボウの魅力は深海魚でありながらクセが少なく、脂ののりも適度であることです。これにより幅広い調理法に対応でき、食材としての評価も高いのですが、漁獲量は多くないため、安定した供給が難しく、珍しい魚として扱われることがほとんどです。

また、その赤みがかった身の色合いから、かつてはマグロの代用品として紹介されたこともあります。特に回転寿司や一般の寿司店では、価格の高いマグロに比べて安価で入手できることから、赤身魚としてマグロの代用になるのではないかと言われてきました。しかし実際のところ、回転寿司チェーンや公式機関が「アカマンボウをマグロの代替として使用している」と明言した記録は確認できません。市場に出回る量も少なく、安定して供給される魚ではないため、仮に代用として使われたとしても、長期的な利用や大量提供には至らないのが現状です。話題としては興味深いものの、現実の流通や利用状況を見る限り、マグロ代替の座を本当に取ったことはほとんどないと言えます。

まとめ

loustejskal.com, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons

アカマンボウは全身恒温性を持つという驚異的な特性、美しい外見、そして独特の生態を持つ魅力的な魚です。しかしその生態の特殊性ゆえに、水族館での飼育は極めて困難であり、生きた姿を目にする機会はほとんどありません。食材としては高い評価を受けていますが、漁獲量が限られているため、まさに「幻の魚」と呼ぶにふさわしい存在と言えるでしょう。

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参考:https://www.notoaqua.jp/diary/41
https://www.sciencedaily.com/releases/2015/05/150514142944.htm

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