チンパンジーとゴリラの雑種?巨大類人猿「ビリエイプ」とは何者なのか?

生物

2003年、コンゴ民主共和国のビリ周辺でゴリラとチンパンジーの両方の特徴を持つ非常に攻撃的で巨大な類人猿が発見されたと報道されました。

ナショナルジオグラフィックの記事によると、ビリエイプまたはボンドエイプと呼ばれるこの類人猿はゴリラのように地面に巣を作りますが、チンパンジーに特徴的な食生活と外見を持っているとあります。

また、この類人猿は「チンパンジーとゴリラとの交雑種で、身長が1.8m以上になり、二本足で歩く怪物である」、「ライオンを殺すことができる」、「月に向かって吠える」、「毒矢の毒に対して免疫を持っている」などとも言われました。

これらの噂は本当なのでしょうか?この記事はビリエイプが何者なのかについて説明しています。

コンゴ民主共和国ビリに生息する謎の類人猿

ビリはコンゴ民主共和国の北の端に位置する都市で、ビリ川沿いにあります。この都市は湿地やサバンナに覆われた場所に位置し、川の南には密集した熱帯雨林が広がっています。2005年、タイム誌の記者は、この地域が内戦と放置のせいで非常に未開発であると発表しています。

1908年、このビリの近くでゴリラの頭蓋骨が初めて収集され、植民地国であったベルギーに送られました。この地域ではゴリラが生息していないことから、スイス出身の写真家で自然保護活動家のカール・アマン氏はゴリラを探しに、1996年に初めてビリを訪れました。

この時、彼はゴリラを見つけることができませんでしたが、その代わりに、ゴリラのような顕著な矢状稜(しじょうりょう)を持つ、チンパンジーほどの大きさの頭蓋骨を購入しました。

矢状稜とはは頭頂部の前後に走る、竜骨状の骨性隆起で、顎を動かす筋肉(側頭筋)がつき、矢状稜が発達しているほど側頭筋の量も多く、かみ砕く力が強くなります。

Muséum de Toulouse CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

アマン氏はまた、ハンターから巨大なチンパンジーのような類人猿の写真を購入しました。さらに、通常のチンパンジーの3倍の大きさの糞便と、ゴリラと同じかそれよりも大きい足跡の痕跡も見つけました。

2000年、再度、アマン氏は研究者のグループとともにこの地域に戻りました。この時もまた、彼らは類人猿を目撃できませんでしたが、チンパンジーではなく、ゴリラが持つ特徴である使い古された地上の巣をいくつか発見しました。

1998年8月から、コンゴ民主共和国ではツチ族とフツ族の民族対立や資源獲得競争が原因で、第二次コンゴ後戦争が行われていましたが、2003年7月に戦争が終わってからは、科学者がコンゴで現地調査を行うことが容易になりました。

シェリー・ウィリアムズ氏によるピりエイプの発見

こうして、アマン氏によって採用された実験心理学者シェリー・ウィリアムズ氏が、ビリエイプを始めてみた科学者となりました。

ウィリアムズ氏はビリエイプとの遭遇について、「約10m離れた霧の中で鳴き声が聞こえた。すると突然、4頭が藪から私に向かって突進してきた。彼らは威嚇するために叫んでいたのだろう」と述べました。そして「彼らは非常に巨大だったが、私の顔を見るとすぐに立ち止まって森に消えていった」と語りました。

コンゴで用いられる言語であるリンガラ語を学んだという彼女によると、地元住民は大型類人猿を2つの異なるグループに分類していたといいます。

まず、危険を避けて木の高いところに棲む「木を打つもの(tree beaters)」がおり、彼らは地元の狩猟者が使用する毒矢に簡単に屈します。

そして木に登ることはめったになく、より大きくて色が暗く、毒矢が効かない「ライオンを殺すもの(lion killers)」がいると言います。

ウィリアムズ氏は探索で新種を含む3種のチンパンジーを観察したと主張しました。メスにはチンパンジーのような生殖器の腫れが無いなど、この新種の持つ特徴は他の類人猿にはまったく当てはまらないと彼女は述べています。

ウィリアムズ氏はまたこの類人猿が身長が1.8mを超え、直立二足歩行し、巨大なチンパンジーのような外見で、平らな顔と大きく張り出した眼窩上隆起を持ち、絶滅したアウストラロピテクスやサヘラントロプスに似ていると主張していました。また、年齢や性別に関係なく、若い段階で均一な灰色の毛を発達させていると彼女は説明しています。

彼女は、この類人猿は科学的に知られていない新種もしくはチンパンジーの亜種、またはゴリラとチンパンジーのハイブリッドである可能性があると主張しました。

さらに、少なくともこれまで言及されてきたどのチンパンジーとも異なる独自の文化を持っているとも発言しました。ウィリアムズ氏によれば、この類人猿は月に向かって遠吠えをしていたと言います。

このセンセーショナルな発言は物議を醸し、その後、アマン氏はウィリアムズ氏と一緒に研究することを避けました。アマン氏は、2003年には専門外であるウィリアムズ氏が研究に関して発言することを非難する書簡を発表しています。

これに対しウィリアムズ氏は彼抜きで遠征を続けることを誓い、別の遠征の計画を立てました。

ビリエイプの正体

flowcommCC BY 2.0, via Wikimedia Commons

ところがすぐに巣で採取された毛からDNAが解析され、この類人猿がヒガシチンパンジーに属していることが判明し、遺伝的には亜種ですらないということが分かりました。

ヒガシチンパンジーはザイ―ル北東部からウガンダ、タンザニアにかけて7カ国に生息し、ケナガチンパンジーとも呼ばれ、その名の通り、ほかの亜種よりも毛が長くなります。ヒガシチンパンジーの生息数は7万6千から12万個体で、特別珍しい亜種でもありません。

つまり、このビリエイプのグループは、チンパンジーの奇妙な外見をした集団に過ぎなかったのです。

これに対しウィリアムズ氏は、これらの毛はチンパンジーか人間によって汚染された可能性があるなどと反論しています。

2004年5月、霊長類学者クリーブ・ヒックス氏はビリの北西約60kmにあるいくつかのチンパンジーのコミュニティを研究しました。この時、大人のオスを含む、彼らは人間を取り囲み、興味や好奇心を示しましたが、攻撃したり威嚇たりすることはありませんでした。

2005年、ウィリアムズ氏は事故で半身不随となり、彼女によるメディアに対する主張は途絶えました。その後、彼女は計画していた遠征に参加することは二度とありませんでした。

2006年までにヒックス氏らは更なる遠征を続け、その間に合計20時間にわたってこのチンパンジーを観察しました。この時、彼はメスにはチンパンジーらしい生殖器の腫れが見られ、その逆にゴリラらしさは全く見当たらなかったと話しています。

また、糞便から回収されたDNAサンプルでも、これらの類人猿がヒガシチンパンジーに分類されることが再確認されました。そして2019年、ビリエイプに関する包括的な論文を発表したことにより、巨大類人猿論争は完全に否定されました。

なぜビリエイプに関する誤解が生まれたのか?

これまでビリ周辺では20のチンパンジーのグループが12年間に渡って研究されています。

ヒックス氏によれば、確かにこの孤立したチンパンジーは少し変わっており、ある意味チンパンジーよりもゴリラに近い行動をするといいます。例えば、彼らはゴリラが行うように、枝や木を折り曲げて地面に巣を作ります。ただし、木にも巣を作ることがあります。

地上に営巣する類人猿が物理的に威圧的に見えるのは当然のことで、このことが身長1.8mを超えるなどといった噂に繋がったのだろうと考えられます。

確かにビリエイプは平均的なチンパンジーよりも大きい可能性がありますが野生動物である彼らを測定するのは簡単ではないため、はっきりとしたことはまだわかっていません。

また、ビリエイプがライオンを殺すというもうひとつの突飛な主張は、誤った翻訳の結果である可能性があります。ライオンはチンパンジーが生息する森よりもサバンナで多くの時間を過ごす傾向がある為、ライオンを殺すという主張のインスピレーションとしてはヒョウのほうが合理的かもしれません。

この話を裏付けるもののひとつに、ビリエイプの1頭がヒョウの死骸を食べていたという報告があります。ただし、ビリエイプによって殺されたかどうかは不明で、たまたま死んでいたヒョウを見つけただけかもしれません。

この目撃報告や翻訳ミスによって、ライオンを殺す類人猿の伝説が生まれた可能性があります。

ヒックス氏は2004年に道路や村から遠く離れたビリエイトを観察し、彼らが研究者たちの存在に気付くと、近づくだけでなく、実際に好奇心を持って人間を取り囲んだと述べています。このように、ビリエイプには噂のような攻撃性や人間に対する恐怖も見られませんでした。

アマン氏によれば、ゴリラのオスはハンターに遭遇すると必ず突撃をしますが、ビリエイプについてはそのような話はなかったとなっています。

そして、実際に矢状稜を持っていたのはただひとつの個体だけで、ビリエイプに典型的なものではないと分かりました。

ビリエイプがチンパンジーとゴリラの雑種であるという主張についてですが、そもそもチンパンジーとゴリラはどちらも類人猿ではありますが、属が大きく異なるため、交配は不可能です。ウマとロバは同じ属に属する為、交雑することがありますが、その子孫は不妊であり、遺伝子を伝えることはできません。

チンパンジーとゴリラは友達になれるし、お互いの行動を真似するなどが見られますが、これらの遠い関係にある動物が交雑する可能性はほぼゼロです。

この記事はYouTubeの動画でも見ることができます。

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