丈夫で栄養豊富な野菜スベリヒユが雑草扱いされている理由

植物

スベリヒユは乾燥や高温にも耐える強い生命力を持ち、栄養価にも非常に優れた植物です。オメガ3脂肪酸やビタミン、ミネラルを豊富に含み、古代から世界各地で食用や薬用として利用されてきました。

それにもかかわらず、現代の多くの地域では、スベリヒユは畑や庭に生える、ただの雑草として扱われています。なぜこれほど丈夫で価値のある植物が、食卓から姿を消し、雑草という位置づけになってしまったのでしょうか。

本記事はスベリヒユという植物の特徴やその利用の歴史、そして雑草として扱われるようになった背景について、順を追って詳しく説明しています。

この記事の要約

  • 栄養価の高い伝統食材: スベリヒユは古代ギリシャ・ローマ時代から薬用・食用として利用され、オメガ3脂肪酸、ビタミン、ミネラルを豊富に含む優れた植物だが、近代農業の発展とともに「厄介な雑草」として扱われるようになった。
  • 画期的な光合成システムの発見: 2022年のイェール大学の研究で、スベリヒユがC4光合成とCAM光合成を同じ葉の中で統合し、環境に応じて切り替える世界初のシステムを持つことが判明。水を節約しながら成長効率も維持できるこの仕組みは、気候変動時代の作物開発に応用できる可能性がある。
  • 再評価される食材としての価値: 地中海やアジアでは伝統的に料理に使われており、近年は健康志向の高まりから栄養補助食品やスキンケア製品として世界市場が拡大中。爽やかな酸味とシャキシャキ食感が特徴で、下ゆでしてアクを抜けば様々な料理に活用できる。

スベリヒユとは

ZooFari, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

スベリヒユはスベリヒユ科スベリヒユ属に属する一年草の被子植物で、世界中の温帯から熱帯にかけて広く分布しています。その多くは人の活動によって広まったとされ、日本でも畑や道端、庭先など、日当たりのよい場所でよく見かける身近な植物です。

スベリヒユの特徴として、茎や葉が多肉質である点が挙げられます。茎は地面を這うように放射状に伸びていき、葉はへら状から楕円形で、水分をたっぷり含んだ厚みのある姿をしており、表面にはつややかな光沢が見られます。こうした構造のおかげで、乾燥や高温といった厳しい環境でも生き延びることができます。

非常に小さい黄色の花を咲かせますが、晴れた日の昼間にだけ開くことが多いため、気づかれずに見過ごされがちです。果実は蓋が開くタイプで、中には非常に多くの細かい種子が詰まっています。この大量の種子によって、スベリヒユは短期間で一気に数を増やす力を持っています。

古代からの利用

スベリヒユはさまざまな文化や大陸にまたがって利用されてきた、長い歴史を持つ植物です。食用や薬用としての利用は数千年前にさかのぼり、植物学的にも文化的にも非常に興味深い存在といえます。その原産地や世界への広がり方については諸説ありますが、いずれにしても非常に古い時代から人々の暮らしや自然環境の中で広く見られてきました。

オンタリオ州の堆積物からは1350年から1539年頃のスベリヒユの痕跡が発見されており、コロンブス以前にはすでに北アメリカに存在していた可能性があります。ネイティブアメリカンはこの植物を食用として利用し、またその活動を通じて種を広げていたと考えられています。しかし、スベリヒユがどのような経路で北アメリカに到達したのかについては、現在も明らかになっていません。

古代ギリシャ・ローマでの利用

古代ギリシャおよびローマでは、スベリヒユは高い栄養価と薬効を持つ植物として重宝されており、壊血病を防ぐ(ビタミンC補給になる)働きや、利尿作用、下痢を止める働きがある食べ物・薬と考えられていました。また、体を冷やし、炎症を抑える作用があるとされ、胃酸過多、胃炎などに用いられてきました。

古代ローマ時代の医師ディオスコリデスはスベリヒユについて、目の炎症を抑える作用、頭痛を和らげる鎮痛作用、解熱作用、駆虫作用があることも記録しています。ディオスコリデスは1500年以上使われた薬学書を書いた医師で、このことからもスベリヒユが古代から重要な植物だったことがわかります。また、古代ローマの料理書にも、スベリヒユを用いた料理が記録されています。

中世から近世ヨーロッパでの利用

中世ヨーロッパではスベリヒユには魔除けとしての力があると信じられていました。つまり、悪霊や災いを遠ざける植物と考えられていたのです。このように、中世になると薬効だけでなく、象徴的・信仰的な価値も付与されていました。

17世紀、イングランド王チャールズ2世の宮廷では、スベリヒユはサラダ用の食材として使われていました。当時の料理人たちは若いスベリヒユの葉を刻み、レタスや香りの良いハーブ、食用のきれいな花びらと混ぜ、オイルとレモン汁で味付けして提供していました。スベリヒユの食用利用はフランス王ルイ14世の宮廷でも報告されています。この時代には王侯貴族の食卓にのぼる、洗練された食材のひとつとして扱われていました。

世界各地での利用

スベリヒユは生育環境をほとんど選ばず、肥料や水が乏しい場所でもよく育つため、痩せた土地や乾いた地面でも旺盛に繁茂します。このように、さまざまな気候や土壌条件に適応できる性質が、広い地域で栽培され、利用されてきた理由のひとつです。

地中海地域や中東、中国などの一部地域では、伝統的な料理に用いられたり、家庭菜園で栽培されたりする文化が受け継がれています。日本でも野生のスベリヒユは古くから利用され、江戸時代には飢饉に備える救荒植物として食用にされた記録があります。現在でも一部の地域では食用の習慣が残っており、山形県では「ひょう」と呼ばれて親しまれています。

雑草として扱われるようになった理由

しかし多くの地域では近代に入ると、スベリヒユは料理の世界から次第に姿を消し、農地では雑草として扱われるようになっていきました。特にアメリカ南部では、温暖な気候条件のもとでスベリヒユが生育しやすく、「最も厄介な雑草のひとつ」といわれるほど農作物の生産に深刻な影響を与える存在となっています。

その背景にはスベリヒユの高い生育力と繁殖力があります。スベリヒユは野菜畑に自然に侵入し、作物と水分、養分、光をめぐって競合します。茎は地表を這うように広がり、密集して生育するため、畑の一部に定着すると除去が難しくなります。また、スベリヒユは多数の種子を生産し、それらが土壌中で長期間発芽能力を保つため、翌年以降も繰り返し発生します。さらに畑だけでなく、乾燥した裸地や道路脇、舗装の隙間など、多様な環境で自生できる点も特徴です。

一方で、スベリヒユが食用として適するのは、草丈が12から15センチメートル程度までの若い段階に限られます。この時期を過ぎると、茎や葉は次第に繊維質が増し、食味が低下します。近代農業では、作物を一定の時期にまとめて収穫し、品質をそろえることが求められます。しかし、こうした人の管理下に置きにくいスベリヒユは発芽や生育のタイミングにばらつきがあるため、この生産体系には適しません。そのため、作物生産を目的とした農地では、スベリヒユは早期に除去すべき植物として扱われるようになったのです。

画期的な発見

Sam Thomas, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons

しかし近年、スベリヒユに対する見方を大きく変える研究成果が報告されています。特に注目されたのが、2022年にアメリカのイェール大学を中心とした研究チームによって明らかにされた、スベリヒユの光合成に関する画期的な発見です。この研究ではスベリヒユの葉の中で光合成がどのように行われているのかを、遺伝子の働きや物質の動きまで詳しく調べられました。

光合成のタイプ

植物が光合成を行う方法には、いくつかのタイプが存在します。多くの植物がおこなっている一般的な光合成は、条件が良ければ問題ありませんが、暑さや乾燥に弱く、水が不足すると効率が大きく下がってしまいます。そこで進化の過程で生まれたのが、C4光合成とCAM光合成です。

C4光合成は空気中の二酸化炭素を効率よく集めて無駄を減らす仕組みで、暑い環境でも成長しやすく、トウモロコシのように収量の高い植物が使っています。一方、CAM光合成は水を極限まで節約するための仕組みで、夜に二酸化炭素を取り込み、昼は気孔を閉じて水分を逃がさないようにします。これは、乾燥する地域に生息するサボテンなどが代表例です。

二つの光合成を統合する仕組み

これまでの常識では、C4は「よく育つが水を多く必要とする」、CAMは「乾燥に強いが成長が遅い」といった特徴を持つというように、性質が正反対であるため、ひとつの植物が両方を本格的に使うことはできないと考えられてきました。

ところが今回の研究で、スベリヒユはこの二つの光合成の仕組みを、同じ葉の中で統合して使っていることが明らかになりました。水が十分にあるときにはC4のように効率よく成長し、乾燥してくるとCAMの性質が強まり、水を無駄にしないモードへと自然に切り替わっていたのです。これは、単に二つの仕組みが並んで存在しているのではなく、環境に応じて切り替わるように設計された一体のシステムであることが、遺伝子や代謝の解析から示されました。

将来の農業への応用

この発見は将来の農業に重要になる可能性があります。これまでの作物改良では収量を上げると水の使用量が増え、水を節約すると収量が下がるという制限がありました。しかしスベリヒユは自然界ですでに「水を節約しながら、成長効率も極端には落とさない」というやり方を実現しています。

この仕組みを理解し応用できれば、気候変動によって水不足や高温が当たり前になる未来でも、安定して食料を生産できる作物を開発できる可能性が出てくるのです。

豊富な栄養価

光合成の驚くべき仕組みに加えて、スベリヒユは食べるうえでも注目すべき特性を持っています。

オメガ3脂肪酸

スベリヒユの葉は野菜の中でも珍しくオメガ3脂肪酸を豊富に含んでいます。オメガ3は体の健康に欠かせない脂肪酸で、心臓や血管の働きを守ったり、体の炎症を抑えたりする役割があります。魚が苦手な人や野菜中心の食生活でもオメガ3をとりやすい野菜のひとつです。

ビタミンと抗酸化物質

また、スベリヒユにはビタミン類や抗酸化物質が多く含まれていることが明らかになっています。具体的には、ビタミンEやビタミンC、β-カロテンなど、体の酸化ストレスを抑える栄養素が豊富に含まれていると報告されています。これらは細胞のダメージを防ぐ抗酸化作用を持つ成分であり、免疫や健康維持に寄与します。

ミネラル

ミネラル面でもスベリヒユはカリウム、マグネシウム、カルシウムなどの必須ミネラルを多く含んでいます。これらは体の調節機能や骨の健康、神経・筋肉の働きなどに関わる重要な栄養素です。

機能性化合物

さらに、総合的な化学分析のレビューでも、スベリヒユは幅広い栄養成分と機能性化合物(ポリフェノールやフラボノイドなど)を含む植物で、健康促進効果が期待できるとまとめられています。これらの化合物は抗酸化だけでなく、炎症や代謝機能への良い影響も示唆されています。

現在の食用利用と今後の可能性

Elekes Andor, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

世界各地での食用利用

スベリヒユは地中海の国々では、ギリシャのサラダやトマト・フェタチーズとの組み合わせ、トルコやイタリアの煮込み料理などの一部として食べられていると報告されています。また、アジアの一部地域でもスープや炒め物に使われるなど、多様な食文化の中でスベリヒユが料理素材として定着してきた歴史があります。

近年では、こうした伝統的な利用に加えて、栄養価の高さや機能性成分を評価して新しい食文化や商品化に向けた動きも進んでいます。

味と調理方法

スベリヒユは噛むと爽やかな酸味が感じられ、加熱することで独特のぬめりが現れます。このレモンのような酸っぱさはリンゴ酸などの成分によるもので、厚みのある茎のシャキシャキとした食感と合わさって、非常に清涼感のある味わいを楽しめます。

調理の際は、まずたっぷりの熱湯でサッと下ゆでし、冷水にさらしてアクを抜くのが基本です。この下準備を終えたスベリヒユは、お浸しにしてポン酢や辛子醤油で和えたり、ツナと一緒にマヨネーズで和えたりすると、酸味とコクが調和して非常に美味しくいただけます。また、油との相性も良いため、ニンニクを効かせたオリーブオイル炒めや、お肉と一緒に炒めるのもおすすめです。

健康面での注意点

健康面で注意が必要なのは、ほうれん草などと同様にシュウ酸を多く含んでいる点です。シュウ酸は過剰に摂取すると体内で結石を作る原因になりますが、水溶性であるため、前述のように「しっかり下ゆでして水にさらす」という工程を踏めば、その大部分を取り除くことができます。

市場の拡大

さらに、スベリヒユから抽出した成分も世界市場で拡大しています。スベリヒユ抽出物は栄養補助食品やスキンケア、機能性食品の原料として取引されており、北米、アジア太平洋、ヨーロッパなどで市場が形成され、2030年に向けて成長が予測されています。

こうした流れは、単に雑草を食べるという話ではなく、従来の主要な作物に加えて、新しい環境に強くて栄養価の高い植物を食生活に取り入れたいという、世界的なニーズの高まりが背景にあります。気候変動や健康志向の高まりといった社会的な理由から、スベリヒユのような伝統食材が再評価され、ファーマーズマーケットやサステナブルフードの文脈でも注目され始めています。

日本での入手

日本でもスベリヒユは入手可能ですが、まだ一般的なスーパーで常に販売されている野菜ではありません。ただ、ネット上では乾燥スベリヒユや粉末、抽出物といった形で健康食品やサプリメントとして販売されている例があります。たとえば栃本天海堂では、スベリヒユを「馬歯莧(ばしけん)」という生薬名で、乾燥させ刻んだ状態の商品として取り扱っています。

おわりに

スベリヒユはかつて雑草として見過ごされてきた植物でしたが、科学の進歩によってその真の価値が明らかになりつつあります。古代から人々に利用されてきた知恵と、現代の栄養学や植物生理学の知見が重なり合い、この小さな植物が持つ大きな可能性が再認識されています。

気候変動や食料問題が深刻化する現代において、スベリヒユのように環境に強く、栄養価が高く、しかも身近に存在する植物資源に目を向けることは、持続可能な未来への一歩となるかもしれません。足元に生える小さな緑の中に、見落とされてきた豊かさが潜んでいることを、スベリヒユは静かに教えてくれているのです。


参考:

Purslane: History and Uses – Free Source Library

ひょう干しの煮物/ひょう干し煮 山形県 | うちの郷土料理:農林水産省

Spatial resolution of an integrated C4+CAM photosynthetic metabolism | Science Advances

Nutritional values, bioactive compounds and health benefits of purslane (Portulaca oleracea L.): a comprehensive review – ScienceDirect

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