古代の主食だったスーパーフード『フォニオ』が忘れ去られた理由

植物

フォニオはアフリカの伝統穀物や古代穀物とも呼ばれ、西アフリカで最も古くから栽培されてきた穀物のひとつです。成長が早く、手間をかけずに育てられるうえ、乾燥した痩せた土壌にも強く、さまざまな環境に適応します。そのため、干ばつで深刻な作物被害が出た際にも、地域社会を支える重要な食糧源となってきました。さらに栄養価が非常に高いことでも知られ、西アフリカ全域で長く主食として食文化を支えてきました。

しかし16世紀以降、フォニオは多くの家庭の食卓から姿を消していったのです。では、これほど優れた穀物がなぜ日常の食生活から消えてしまったのでしょうか。本記事はアフリカの古代穀物フォニオについて、その特徴や歴史、そして衰退していった背景を詳しく解説しています。

  • フォニオは西アフリカ原産の古代穀物で、乾燥に強く6週間で収穫可能な世界最小の穀物。栄養価が高く、数千年にわたり西アフリカの主食として食文化を支えてきたが、16世紀以降、加工の手間がかかることや植民地化による外来作物の導入により衰退した。
  • 1990年代にセネガルのエンジニア、サヌシ・ディアキテ氏が脱殻機を発明し、従来数時間から数日かかっていた加工作業をわずか8分で完了できるようになった。これによりフォニオの供給量が増え、地域の食料安全保障に貢献する作物として復活しつつある。
  • 近年、欧米でも健康志向の高まりとともに注目されており、グルテンフリーで必須アミノ酸や食物繊維が豊富な栄養価の高さ、気候変動に強い持続可能性から「第二のキヌア」として期待されている。

フォニオとは

フォニオはイネ科、メヒシバ属に属する一年生植物で、米や小麦のように食べられる雑穀です。草丈は30から80センチほどに成長し、穂は細長い小さな束が2から5本集まって形成され、長さは最大で15センチほどになります。穀粒は非常に小さく、わずか1.5ミリほどしかありません。これは1グラムに約2,000粒も含まれるほどの細かさで、世界最小の穀物とも呼ばれています。

フォニオはサハラ以南アフリカの、赤道から北緯8から14度に広がる半乾燥地帯や亜熱帯地域に自生し、セネガル、ギニア、マリなどを原産地として、東はナイジェリアにまで広く分布しています。干ばつに強く、適応性にも優れた非常に丈夫な穀物で、病害虫にも比較的強いことから、肥料や農薬を必要としない、たくましい作物として知られています。その高い生態学的適応力により、フォニオは他の多くの穀物が育ちにくい独特の気候や地理条件の地域でも生育します。栄養分やタンパク質も豊富で、特に食糧不足の時期には人々の食生活を支える重要な役割を果たしてきました。

また、フォニオは世界で最も早く成熟する穀物のひとつとされ、種を蒔いてからわずか6週間で収穫できる品種もあります。そのため、栽培シーズンの中で最初に収穫される穀物となり、他の作物が収穫される前に貴重な食料を提供してきました。

フォニオはゲノム解析による研究から、その栽培が紀元1年頃にはすでに広がり始めていたことが示されています。これは、ナイジェリアで発見された最古のフォニオの考古学的遺物の年代とも一致します。ナイジェリアのヤンルワC遺跡では、西暦250から450年頃の地層からフォニオが見つかっており、この時代の人々の食生活においてフォニオが重要な位置を占めていたことがわかります。その後、フォニオは西暦1000年頃にかけて、ナイジェリアから西方へゆっくりと拡散していったと考えられています。

フォニオの栽培、収穫、加工、そして調理には、西アフリカからセネガルにかけて長い伝統があります。数千年にわたり、小さく脆い穀粒を扱うための高度な加工技術が、家族や地域社会の中で受け継がれてきました。フォニオはお粥などの料理に広く使われ、西アフリカの食生活に欠かせない存在となってきました。

さらにフォニオは多くの西アフリカ社会において深い文化的意味を持っています。儀式や祭礼、伝統的な集まりと密接に結びつき、ある文化では神聖な食べ物とされ、祖先や神々への供え物として用いられてきたのです。豊穣や繁栄、共同体の結束を象徴する食材として扱われ、結婚式や収穫祭など特別な場でも振る舞われることが多く、祝福や富の象徴としての役割も担ってきました。かつてマリ共和国の神話では「the seed of the universe(宇宙の種子)」として神聖視されていました。

また、フォニオを栽培する農家は、長い年月をかけてその利用方法を磨き上げてきました。もみ殻や藁は家畜の餌として使われ、藁は粘土と混ぜて壁材にするなど、植物のあらゆる部分が生活の中で活用されてきました。

しかし、このように食文化・生活文化の中心として重要な役割を果たしてきたにもかかわらず、フォニオの栽培規模は数世紀前から急激に縮小していったのです。

なぜフォニオは衰退したのか

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それには、社会的・農業的な変化、奴隷貿易の激化、そして労働集約度の低い新しい作物の導入など、複数の要因が重なった結果と考えられています。

最新の研究によれば、フォニオの歴史的な衰退は16世紀頃から始まったとされています。ヨーロッパによる植民地化が進む中で、トウモロコシや米といった、より収穫が容易で収量の多い外来作物が導入されました。植民地政府にとって最優先事項は植民地から利益を上げることであり、効率よく生産でき、税として徴収しやすい作物が重視されました。

一方で、フォニオは加工に非常に手間がかかるという大きな課題を抱えていました。数千年にわたって加工技術が受け継がれてきたとはいえ、穀粒が極めて小さく脆いため、脱穀や精製は依然として手作業が中心でした。収穫後には砂と混ぜて搗き、脱穀し、水で洗い流すという工程を経る必要があり、これには多大な労力と時間が必要です。この過酷な作業はフォニオの栽培を続ける大きな負担となり、衰退の一因となりました。さらに、奴隷貿易の激化によって労働力となる人口が流出し、手間のかかるフォニオの栽培はますます困難になりました。

20世紀に入り、グローバル化が進むと状況はさらに悪化します。伝統的なフォニオ栽培は重労働で収益が低いと見なされ、若い世代が継承を避けるようになっていったのです。加えて、調理が簡単で安価な米やパスタなどの輸入食品が主食として広まり、フォニオの需要は都市部を中心に急速に低下しました。

フォニオ復活のきっかけ

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しかし、忘れ去られつつあったこの古代穀物に、再び光が当たる転機が訪れます。1990年代、西アフリカでは干ばつの長期化や農業生産の低下により、多くの人々が栄養不足に直面していました。セネガル出身のエンジニアであり高校教師でもあったサヌシ・ディアキテ氏は、この状況を前に、フォニオを現代の主流な食料生産に復活させることができれば、多くの人々を救えるのではないかと考えました。

フォニオの最大の問題は加工の難しさでしたが、ディアキテ氏は自身の機械工学の知識を活かし、フォニオの加工を効率化する機械の開発を思いつきます。こうして、自身の余暇の時間を使い、生徒たちの協力を得ながら試作を重ね、1993年にフォニオ脱殻機を完成させたのです。彼が発明した機械は柔軟なプラスチックのプレートを回転させて、殻だけを取り除く仕組みになっています。粒の内部は非常に脆いため、従来の方法では少量を処理するだけでも数時間から数日かかっていましたが、この機械ではわずか8分で5キログラムものフォニオを処理でき、殻の99%以上を除去することが可能になりました。また、従来必要だった大量の水もほとんど使いません。こうして、効率的な加工手段が確立されたことで、フォニオの供給量や市場流通も増え、地域の食料安全保障や栄養改善に寄与する作物としての地位を取り戻しつつあります。

世界的な再評価への動き

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この動きは西アフリカにとどまらず、近年では欧米諸国にも広がっています。フォニオは健康志向の高い消費者や環境問題に関心を持つ人々の間で注目され、持続可能な穀物としての価値が見直され始めているのです。フォニオは小粒ながら非常に栄養価が高く、タンパク質や必須アミノ酸を豊富に含み、米やトウモロコシ、ソルガムなどでは不足しがちな栄養素を補うことができます。さらに、鉄分、亜鉛、マグネシウム、ビタミンB6、食物繊維も多く、血糖値のコントロールや消化機能の維持にも役立ちます。また、グルテンフリーであるため、グルテンに敏感な人でも安心して食べられる点も評価されています。こうした栄養バランスの良さから、健康的な食生活を支える理想的な雑穀として注目を集めているのです。

フォニオの調理方法は炊く、茹でる、蒸すなど他の穀物とほぼ同じで、スープの具材として使えるほか、パンやお菓子の材料にも適しています。粒が小さいため火が通りやすく、ふんわりと軽い食感に仕上がるのも特徴です。味は穏やかで、ほんのりナッツのような香ばしさがあり、クセが少ないため野菜、肉、魚などどんな食材とも相性が良いのも魅力です。サラダに混ぜたり、煮込み料理に加えたり、朝食としてミルクやヨーグルトと合わせて食べることもできます。日本ではまだ一般的とはいえませんが、健康志向の高まりとともに少しずつ注目され始めており、主にネット通販や一部の輸入食品店で購入できます。


かつて南米原産のキヌアが“スーパーフード”として世界的に広まったように、フォニオもまた、気候変動に強く持続可能な作物として「第二のキヌア」になりうる存在として期待されています。

参考:Finding Africa’s Future Crop in the Past

Independent domestication and cultivation histories of two West African indigenous fonio millet crops | Nature Communications

How the African Heritage Grain Crop became an Orphan Crop! – FARA Africa

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