巨大魚「オヒョウ」とは?大きさや危険性、死亡事故について。気になる味も

動物

オヒョウは体重が200キロを超えることもある巨大な魚です。その巨体にふさわしく、性格は極めて獰猛で、古くから世界各地で恐ろしい伝説の題材となってきました。実際、釣り上げようとした漁師がその怪力によって命を落とした事例も記録されているほど、人間にとっても危険な存在です。本記事は生態から現在の漁業管理、各地に残る伝説や伝承、さらには事件や逸話まで、オヒョウにまつわる多彩な情報をまとめた決定版として詳しく紹介しています。

分類と分布

オヒョウはカレイ目、カレイ科、オヒョウ属に属する海水魚で、形状や生態はヒラメに似ていますが、分類上はカレイの仲間です。

ヒラメとカレイは一般に「左ヒラメ、右カレイ」といわれ、目を上にしたとき左向きがヒラメ、右向きがカレイとされます。ただし一部に例外もあるため、顔の向きだけで正確に見分けることはできません。また、ヒラメは小魚を捕食するため口が大きく歯が発達しているのに対し、カレイはゴカイやエビなどを食べるため口が小さいという違いもあります。

オヒョウという名前の由来は「大きな鮃」という意味で、音読みの「オオヒョウ」が訛ったものとされています。これは、古くはヒラメとカレイが厳密に区別されずに呼ばれていたことによります。また、英語ではハリバットと呼ばれますが、これはカトリックの聖なる祝日に広く食べられていたことに由来し、「聖なる」と「平たい魚」を組み合わせた語です。

オヒョウ属はタイヘイヨウオヒョウ(Hippoglossus stenolepis)とタイセイヨウオヒョウ(Hippoglossus hippoglossus)の2種を中心とするグループとして扱われています。タイヘイヨウオヒョウは寒流と暖流が合流する海域に生息し、日本近海では北海道沿岸からオホーツク海、さらにベーリング海、アラスカ湾を経てカリフォルニア半島北部まで広く分布しています。とくにアラスカ湾中央部、なかでもコディアック島周辺で多く見られます。

一方、タイセイヨウオヒョウはラブラドル半島やグリーンランドからアイスランド、バレンツ海、ビスケー湾、さらにアメリカ東海岸のバージニア沖まで広い範囲に分布しています。

いずれの種も冷たい海の沖合にすみ、主に大陸棚から大陸斜面にかけて生息しています。水深はおよそ20から1,000メートルの範囲に見られ、特に50から500メートル前後の比較的深い海底で多く確認されています。

タイヘイヨウオヒョウとタイセイヨウオヒョウはいずれも体が平たく左右に広がった形をしており、海底に体を横向きにして生活する底生魚です。両目はともに体の上側に位置し、お腹側は白く、背中側は海底に溶け込むような保護色になっています。鱗は小さく皮膚に埋もれているため体表は滑らかに見え、海底生活に適応した構造を持っています。口は大きく、上あごの端は下側の眼の中央付近まで達します。歯もよく発達しており、強く尖っていて、多くが湾曲しています。

驚異的な大きさ

born1945 from Hillsboro, Oregon, USA, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons

タイヘイヨウオヒョウとタイセイヨウオヒョウはいずれも世界最大級のカレイ類であり、どちらがより大きく成長するかについては現在も議論があります。

タイヘイヨウオヒョウはアメリカ海洋大気庁の水産部門によると、全長2.4メートルを超える個体が確認されています。また、2014年にはアラスカ州グレーシャーベイで219キログラムの個体が捕獲されています。

一方、タイセイヨウオヒョウは最大で約4.7メートルに達すると記されています。実際の記録としては、マサチューセッツ州ケープアン沖で279キログラムの個体が報告されており、2013年にはノルウェー沖で234キログラム、全長2.62メートルの個体が釣り上げられています。

日本では釣り人の間で特に大きなカレイを「座布団ガレイ」と呼びますが、その名にふさわしいのはオヒョウをおいてほかにないでしょう。オヒョウに次いで大きくなるカレイとしてはカラスガレイが知られており、1メートル前後に達することもありますが、それでも2メートル級に成長するオヒョウの圧倒的な大きさには及びません。

また、アメリカではオヒョウの巨大な個体を「barn doors(納屋の扉)」と呼ぶことがあります。これは、体が非常に大きく平たく、まるで木製の扉のように見えるためです。

かつては体長2.4メートル以上、体重200キログラムを超えるような巨大なメスが比較的よく見られたとされています。現在でもそのような個体が捕獲されることはありますが、その頻度は徐々に減少しています。また、大きく成長するのはすべてメスであり、オスはメスの約3分の1程度の大きさにとどまります。

生活史

shankar s. from Dubai, united arab emirates, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons

タイヘイヨウオヒョウの産卵期は、アラスカ湾やベーリング海では11月から2月、北海道襟裳岬以東の太平洋や択捉島周辺では10月下旬から2月上旬です。この時期になるとオヒョウは水深200メートル以深の大陸棚縁辺部へ移動します。産卵数は200万から300万個に及び、メスは繁殖期の数日間にわたって複数回に分けて卵を放出すると考えられています。

タイセイヨウオヒョウでは、カナダ海域での産卵は冬の終わりから春にかけて行われ、ジョージズバンクからグランドバンクにかけては夏の終わりまで続くことがあります。

卵は水温によって異なりますが、12日から20日ほどで孵化します。孵化直後の仔魚は全長1センチほどで透明であり、腹部に大きな卵黄を持ちます。この時、親の姿とはまったく異なり、目は体の両側に1つずつあります。全長1.6センチほどで目の移動が始まり、2センチを超えるころには左目が右側へ移ります。孵化後3から5か月は水深100メートル付近で浮遊生活を送り、動物プランクトンといった微小な浮遊生物を食べて成長します。体長が3センチほどになるとほぼ成魚と同じ体形となって、沿岸での底生生活へ移行し、小型の甲殻類などを捕食するようになります。底生生活に完全に適応したオヒョウは砂の中で目を上に向けて横たわり、捕食者から身を隠しながら獲物を待ち伏せします。

その後は成長に伴って沖合へ移動し、20年かけて170センチほどに達します。成魚になると食性はさらに幅広くなり、タラ類やギンダラなどの魚類のほか、貝類や甲殻類も積極的に食べます。非常に貪欲で攻撃的な肉食者であり、その巨大な口に入るものであれば何でも食べてしまうことが知られています。移動力も高く、調査では放流地点から3,700キロメートル以上離れた場所で再捕された例があります。

天敵は海洋哺乳類やサメなどですが、成魚になると体が大きいため、他の魚類に捕食されることはまれです。

成熟年齢はメスが12年、オスが7から8年で半数が成熟します。メスはオスより成長が速く、寿命も長くなります。タイヘイヨウオヒョウは比較的長寿で、記録上の最高齢は55年ですが、30年を超える個体はまれです。なお、150年を超える寿命を持つという説もありますが、これは釣り上げた人物が大きさから推測したもので、学術的な検証は行われていません。

文化と伝承

巨大なオヒョウには、各地でさまざまな伝説や民話が残されています。日本では北海道のある海辺の村に「ロセトの伝説」と呼ばれる言い伝えがあります。村でいちばん美しいと評判だった娘ロセトが、津波とともに海の神に連れ去られたという話です。津波が来る前には、海の上で大きな魚が激しく暴れているのを村人が目撃したとされ、その魚は海の神が姿を変えたオヒョウだったと語られています。津波の前に大きな魚が暴れるという話は各地に残っていますが、これらが科学的に地震や津波を予知した行動として証明されているわけではありません。

一方、北米のアラスカやブリティッシュコロンビアの先住民族の間にも、オヒョウにまつわる多様な神話が伝えられています。クワキウトル族には大洪水のあとにオヒョウが自らの姿を脱ぎ捨てて最初の人間になったとする創世神話があり、動物から人間への変化を象徴する物語として語り継がれています。

また、太平洋北西部のツィムシアン族には、巨大なオヒョウが一艘のカヌーを丸ごと飲み込み、そこに乗っていた王子と二人の王女までも食べてしまったという物語があります。復讐に燃えた二人組がその怪物に立ち向かうためカヌーで漕ぎ出しましたが、彼らもまた飲み込まれてしまいます。しかし彼らは死ぬ前に魚の腹の中からその内臓を切り裂くことに成功し、結果として巨大なオヒョウも倒すことができました。

沿岸の先住民文化では巨大なオヒョウを捕るために、スギの樹皮繊維や動物の腸、海藻の茎などを用いた丈夫な漁具が発達しました。特にセイウチの牙や木を組み合わせた精巧なオヒョウ用の釣り針は高度な工芸品として知られ、現在では収集家が探し求める逸品となっています。また、先住民たちは冬に備えてオヒョウを燻製や乾燥にして保存するなど、生活の中でも深くこの魚と関わってきました。

過酷な漁

こうした文化や伝承の背景には、オヒョウ漁そのものが極めて過酷で危険な労働だったという現実があります。北太平洋沿岸の一部のコミュニティでは、オヒョウ漁に出る前に儀式として歌をうたい、これから大きな戦いが始まることを魚に知らせるという風習がありました。まるで「かかってこい」と挑発するような、海の戦いへの呼びかけだったとされています。

20世紀初頭になっても、オヒョウ漁はとても過酷な仕事でした。漁師は大きな母船から小さな手漕ぎボートを海に降ろし、そこで延縄やトロール網を使って巨大なオヒョウを相手に漁を行いました。捕獲し、銛を打ち、船に引き上げるまでには壮絶な格闘があり、漁師たちはまさに命がけの戦いをしていたのです。この時、オヒョウの力に翻弄されて船が転覆することも珍しくありませんでした。

カナダの作家F・W・ウォレスは自伝『Roving Fisherman』の中で、巨大なオヒョウとの格闘についてこう記しています。オヒョウは独楽のように激しく回転し、銛でとどめを刺すのが非常に難しくなる。1から2分ほどの間、海水のしぶきと漁師の怒号が飛び交うほどの激しい戦いになると述べています。

その平たく幅広い体が渾身の力で叩きつけるように暴れると、甲板は一瞬にして危険な場所になります。だからこそ、甲板に引き上げる前に仕留めることが鉄則です。この時、銛やハリバットハンマーと呼ばれる専用の棍棒で頭を強く叩くのですが、ここで厄介なのがオヒョウの脳の小ささと、その位置の特殊さです。目の真後ろを正確に打たなければ効かず、急所を外せば魚はまだ十分な力を持ったまま甲板に転がり込んでくることになります。たとえうまく打てたと思っても油断は禁物で、オヒョウはしばらく静止した後に突然激しく跳ね返ることがあり、その一撃は人間の骨を折るに足る力を持っています。経験豊富な漁師でも、この死後の暴れには常に警戒を怠りません。

漁師たちは魚から距離を取って様子を見て、完全に動かなくなったことを確認してからえらに手を入れて血抜きを行います。大型の個体では、通常は二人以上で作業するのが基本です。このように一人で作業するのは危険で、ジョセフ・T・キャッシュの事例が示すように、命に関わる事故につながることもあります。1973年8月、アラスカ州ジュノーの地元紙Juneau Empireは、アラスカの漁師が実際にオヒョウによって命を落としたと報じました。67歳のキャッシュは、クプリアノフ島付近で約68キログラムのオヒョウを釣り上げ、船上に引き上げることに成功しました。しかしその際、暴れる魚によって脚を骨折し、動脈を切断しました。さらに甲板に叩きつけられて肋骨を3本折る重傷を負ったとされています。致命傷を負いながらも、彼は海に落ちないよう自分の体をボートのウインチに縛りつけました。その後、ボートが岸に流れ着いた際にすでに息絶えた姿で見つかりましたが、そのときもなお、釣り上げた魚を手放していなかったと伝えられています。

現在の漁業管理

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現在、タイヘイヨウオヒョウは日本近海では北海道の太平洋側からオホーツク海にかけて、底引き網によってスケトウダラなどとともに混獲されます。一方、北米では商業漁業・レクリエーション漁業・自給的な漁業などで積極的に漁獲されています。

タイヘイヨウオヒョウの漁業はアメリカとカナダが協力して管理しています。1923年から続く国際タイヘイヨウオヒョウ委員会が毎年資源量を調べ、その年の漁獲上限を決めています。商業漁業では大きさの基準や産卵期の禁漁などの規則が設けられ、アラスカ沖やアメリカ西海岸では、この総量を漁師や漁船、地域ごとに割り当てる仕組みが整えられています。先住民族の生活に必要な分も別枠で配分されており、すべての利用者が決められた範囲内で漁を行うことで、資源を守りながら持続的に利用できるようになっています。

タイヘイヨウオヒョウは商業的に価値が高く、2024年には約9,000トンが水揚げされました。このうち約95%がアラスカで獲られています。

レクリエーションとしての釣りも盛んで、遊漁船や個人の船で多くの人がオヒョウ釣りを楽しんでいます。ここでも釣ってよい数や持ち帰れる量が決められています。

一方、タイセイヨウオヒョウは資源量が目標を大きく下回っており、2024年の評価では乱獲状態とされています。アメリカでは海洋大気庁の水産部門とニューイングランド漁業管理評議会が中心となって管理を行い、年間漁獲量の上限、最低サイズ規制、禁漁区域など厳しいルールが設けられています。商業漁業でも1航海につき1尾までという強い制限があり、資源回復のための長期的な再建計画が進められています。

味と料理

オヒョウは冷凍品が一年を通して出回っていますが、身の締まりや風味がもっとも良いのは冬とされています。日本では淡泊すぎるとして敬遠されることもありますが、アメリカでは大きな体としっかりした肉質が高く評価され、人気の高い魚です。

身は白く脂が少ないため、ムニエルやフライ、ステーキなど油を使う洋風料理と相性が良く、バターで焼いてレモンをかけるとさっぱりとした味わいになります。特にタイヘイヨウオヒョウは脂肪分が少なく身が締まっており、タイセイヨウオヒョウに比べてより穏やかな味わいといわれています。また、フライにするとタルタルソースがよく合います。イギリスを代表する庶民料理であるフィッシュアンドチップスに使われることもあります。

日本で流通するものの多くはアメリカやカナダからの輸入品であり、特にアラスカ産が中心となっています。新鮮なものは刺身や寿司としても食べられ、煮つけや味噌汁にしても淡泊な旨味が引き立ちます。また、塩漬けやフライ用の冷凍食品、かまぼこなどの練り製品にも加工されます。

オヒョウは回転寿司のエンガワとして使われることで知られています。エンガワとは寿司のネタのひとつで、魚のヒレの付け根にある筋肉の部分を指す言葉です。体を左右に動かす際によく使われる部位であるため、独特のコリコリとした歯ごたえがあり、噛むほどに脂の甘みが広がるのが特徴です。また、炙ることで香ばしさと旨味を引き出す食べ方もよく知られています。

もともとエンガワといえば、ヒラメやカレイのものを指します。これらの魚は海底で体をくねらせるように泳ぐため、ヒレ周辺の筋肉が発達しており、その結果としてエンガワ特有の食感と上品な脂のバランスが生まれます。高級な寿司店では、こうしたヒラメのエンガワが使われることが多く、繊細で上品な味わいが楽しまれています。

一方、回転寿司では安定した供給と価格が重視されるため、実際にはオヒョウなどが使われることが多いです。オヒョウは体が大きく、一尾から取れるエンガワの量が多いため加工に適しており、脂もよくのっています。そのため、回転寿司のエンガワは脂のコクが強く、食べ応えのある味わいになる傾向があります。

その他、オヒョウの肝臓にはビタミンAが多く含まれており、肝油として利用されることもあります。オヒョウは魚体が大きいため、店頭では切り身の状態で並ぶのが一般的です。

オヒョウは海産物の中でも特に健康的な食材として知られており、飽和脂肪やナトリウムが少なく、良質なたんぱく質・ビタミンD・セレンを豊富に含んでいます。そのため、栄養面でも非常に優れた選択肢といえます。


参考図書

小学館の図鑑Z 日本魚類館 〜精緻な写真と詳しい解説〜 中坊 徹次(著・監修)/松沢 陽士(編集)/2018年刊

日本を代表する海水魚・淡水魚を中心に約1,400種を収録した本格派の魚類図鑑です。撮り下ろしの精緻な標本写真と、第一線の研究者による解説文が充実しており、中高生から研究者まで幅広く使える内容になっています。「前から見たブリとヒラマサの違い」など、他の図鑑では見られないクローズアップ写真や部分写真も豊富で、魚の形態をより深く理解したい方に特におすすめです。釣りやダイビングが好きな方の手元にも置いておきたい一冊です。


参考:https://www.fisheries.noaa.gov/species/pacific-halibut
https://www.fisheries.noaa.gov/species/atlantic-halibut
https://www.zukan-bouz.com/syu/%E3%82%AA%E3%83%92%E3%83%A7%E3%82%A6
https://www.theworlds50best.com/stories/News/halibut-cooking-catching-eating.html
https://washingtoncitypaper.com/article/216504/straight-dope-can-a-halibut-kill-you/
https://www.connectsavannah.com/extras/dont-mess-with-halibut-2135972/

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