人間を捕食者と獲物に分けて実験をしたら衝撃の行動に!!

動物

これは映画のような話ですが、実際には人間を捕食者と獲物に分けて行われた、実在する科学実験です。この研究では狩られる立場に置かれた人間たちが、次第に想像を超える行動を見せ始めました。

この記事は人間が捕食者と獲物になりきったとき、一体何が起きるのか、その驚くべき結果をわかりやすく説明しています。

実験の狙い

生き物がほかの生き物を食べる、あるいは食べられるという関係は、生態学の中でもとても重要なテーマです。この関係は単なる個体の死にとどまらず、生き物全体の数や自然界のバランスを保つ仕組みにまで大きな影響を及ぼします。こうした背景から、研究者たちはこの関係をより深く理解するために、さまざまな手法を用いて調べてきました。

その代表的な方法のひとつが、数学モデルです。数学モデルでは頭の中で考えた理屈を数式にして、生態系の全体像をスッキリと理解できるという利点があります。しかし、計算を成立させるためにはどうしても、生き物の行動や環境を極端に単純化しなければなりません。その結果、数式の上では完璧でも、現実の複雑な生き物の動きからはかけ離れた、血の通わない理論になってしまうという欠点があります。

一方で野外調査は、実際のフィールドで本物の生き物を対象にするため、自然そのものの圧倒的なリアリティーを扱えるのが強みです。ところが、自然界には天候や地形など邪魔な要素があまりに多く、何が原因で獲物が減ったのかを特定することが極めて困難です。また、同じ状況を二度と再現できないため、科学的な証拠として結論を出すには限界があるという問題を抱えています。

その中間として、水槽や囲った環境で行う実験もありますが、扱える空間や生き物の種類が限られ、自然の複雑さを完全には再現できません。

このように、捕食者と獲物の関係は重要であるにもかかわらず、理論と現実の間には長年埋まらないギャップがありました。この行き詰まりを突破するために考え出されたのが、人間を捕食者と獲物に見立てて行う、この研究ゲームだったのです。

実験内容

2023年に行われたこの研究ゲームは、カナダ・ケベック州の広大な森林公園を舞台に、人間を食べる側と食べられる側に配役して、自然界の生存競争を再現したものです。

食物連鎖における生き物の位置づけにちなんで、この実験は「Trophic Interactions Experiment(栄養相互作用実験)」と名付けられ、略してTrophIE(トロフィー)と呼ばれています。この名称には、欧米で獲物の角や頭部を戦利品(トロフィー)として飾る狩猟文化、いわゆるトロフィーハンティングとの語呂合わせも込められています。

実験の舞台は約0.18平方キロメートルのエリアで、岩や小さな丘が点在する歩きやすい森の中に、複数のエサ場と隠れ場所がランダムに配置されていました。参加者はGPSを装着し、細かな動きを記録されながら、30分間のゲームを計9回行い、それぞれが生き残りをかけたミッションに挑みました。

プレイヤーは生態系のピラミッドを模した3つの役割に分かれます。まず、最も数が多い被食者は、森に散らばるエサ場を回って生き残るために必要な分のエサを集めることが目的です。さらに多くのエサを確保できれば繁殖も可能になりますが、彼らは走ることが禁止されており、天敵から逃げるには森に点在する隠れ場所をうまく使うしかありません。

次に、その被食者を狙うのが中型捕食者です。彼らもまた走ることは許されていませんが、被食者を捕食することで生き残りを目指します。ただし、自分自身も最強の天敵に狙われる立場であるため、隙を見て隠れ場所に逃げ込む必要があります。そして、生態系の頂点に立つ頂点捕食者は、被食者と中型捕食者の両方を狩る存在です。彼らだけは森を走ることが許されるという強力な特権を持っていますが、その代わり隠れ場所を利用することはできず、常に姿をさらしながら獲物を追い続けなければなりません。

森の中に設置された73箇所のエサ場は、棒に取り付けられた色付きの封筒で示されており、そこでの採食はランダムなくじ引きの形で行われました。封筒の中のカードを引くと、エサをたっぷり得られることもあれば、全く得られないこともあります。さらに、自然界のリアリティーを出すために、エサを探す時間や食べる時間といった待機時間が設けられており、その無防備な間に捕食者に襲われるリスクが常に付きまといます。

また、エサをめぐる競争の激しさもゲームごとに変動しました。誰かが使った後でもエサが復活する「競争が弱い」設定から、先に来た人が食べ尽くすと次の人の分がなくなる設定、さらには一度誰かが使ったらその場所が封鎖される「競争が強い」設定まで、環境の厳しさが操作されました。

各30分間のゲームは、捕食者が活動を始める2分前に被食者が先に森へ入ることで幕を開けます。捕食者が獲物を捕まえた際には、その場で30秒間とどまらなければならないというルールがあり、これによって「獲物を仕留めて食べる時間」が表現されました。このように、全9回の実験を通して人数やエサの量、競争の激しさを細かく変えることで、環境の変化が生き物の行動にどう影響するかを調査しました。

参加者全員の動きはGPSによって一秒ごとに記録され、誰がどこでエサを食べ、どのタイミングで捕食者と遭遇したのかが完全にデータ化されました。これにより、理論上の数式だけでは決して見えてこない「生き物のリアルな意思決定と行動パターン」の変化が克明に写し出されたのです。

実験の結果

このトロフィーゲームを通じて得られた最大の成果は、人間という「生きたプレイヤー」に単純なルールを与えて森に放つだけで、自然界の野生動物と驚くほど似た行動パターンが再現されたことです。プレイヤーたちはエサの豊富さや移動のしやすさ、そして何より「捕食される危険」のバランスを巧みに取りながら行動していました。狩られるかもしれないという恐怖が、人間を本能的で野生的な行動へと駆り立てていったのです。

移動の面ではすべての役割のプレイヤーが移動効率の良い「細い道」を好んで利用する一方で、食べられる側のプレイヤーは捕食者が頻繁に見回る大きな道を避けるという、リスクを強く意識した行動が確認されました。また、一度訪れた場所を好んで選ぶ「土地勘」のようなものも、わずか数回のゲーム体験で形成されていました。

さらに驚くべきは、研究者がルールとして一切指示していなかったにもかかわらず、プレイヤーたちが自発的に見せた行動です。被食者役のプレイヤーたちは安全な場所に身を隠しながら、声を出してパートナーや仲間を呼ぶといった行動を取り始めました。これは、危険を知らせたり仲間を探したりといった、自然界の生き物が生き残るために行う本能的な行動が、人間を通じても自然に現れたことを意味しています。

また、被食者役のエサを食べるスピードについても、自然界の法則が見事に再現されました。捕食者が近くにいたり、仲間同士のエサの奪い合いが激しくなったりすると、食べる効率は低下しました。特筆すべきは満腹度の影響です。繁殖に必要な量のエサが集まってくると、被食者はあえて危険を冒してまでエサ場へ行くことを控えるようになりました。このような心理的な判断の変化は、野外の動物では測ることが非常に難しいものですが、このゲームでは詳細なデータとして記録することに成功したのです。

実験の課題点

一方で、この手法には特有の課題もあります。人間を対象にしている以上、本物の野生動物のように「捕食されたら本当に死ぬ」という究極の恐怖までは再現できません。あくまでゲームの中のペナルティにとどまるため、リスクに対する緊張感が本物と全く同じとは言い切れない面があります。

また、人間を対象にした実験ならではの難しさも浮き彫りになりました。本物の生き物に近い複雑な動きを再現できる分、プレイヤーごとの性格や個別の判断によるばらつきが大きく、全く同じ結果を何度も再現することが難しいという側面があります。しかし、研究チームはこの不確実性こそが自然界の本質であると捉えています。数式では扱いきれないような個体差や偶然の要素を含んだ状態で、自然界の法則がどこまで通用するのかを確かめられること自体が、この手法の独自の強みでもあるからです。

今後の可能性について

このトロフィーという手法は複雑なコンピュータープログラムや数式を使わなくても、環境やルールを少し変えるだけで「もし天敵が増えたらどうなるか」「エサが減ったらどう動くか」といった様々な疑問を簡単にテストできる画期的なツールになります。人間はもともと生き残るために「効率よく食べ、危険を避ける」という判断を繰り返して進化してきた生き物であるため、動物の行動を理解するための優れたモデルになるのです。

また、研究だけでなく教育の場でも大きな力を発揮します。参加者が実際に「食うか食われるか」の立場を体験することで、教科書を読むだけでは分からない生態系のリアルな仕組みを、身をもって深く理解できるようになります。トロフィーは科学の新しい調べ方であると同時に、人間が自然のルールを体験して学ぶための大きな可能性を秘めているのです。

参考:Impersonating predators and prey to study trophic interactions through real-life simulations – OuluREPO

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