日本各地で人がクマに襲われる被害が相次いでいる中、イヌがクマを撃退したという事例がいくつも報告されています。ある動画では、イヌに吠えられたクマがびっくりして逃げ出しています。それでは何故、クマは自分よりも小さなイヌを恐れるのでしょうか?
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クマがイヌを怖れる理由
クマがイヌを怖がる理由は複数あると考えられています。
まずクマはイヌの鳴き声が嫌いです。イヌは本能に従って行動するため、クマに遭遇した場合、ヒステリックに吠えたり、噛み付いたり、飛びかかったり、追いかけたりすることがあります。
イヌの鳴き声は人間の80dBに対して約110dBと大きくなります。クマは優れた聴力を持っているため、この声は人間よりも耳障りです。したがって、突然、イヌの鳴き声のような騒々しい爆音を聞いた時、警戒心の高いクマは逃げ出すことがよくあります。
そのため、野生生物学者はクマが二度とその場所に戻ってこないようにする警報としてイヌの鳴き声を使用しています。
また、この声はオオカミと非常に似ています。クマの仲間は本能的にイヌ科の動物を恐れると、クマに詳しい生物学者のキャリー・ハント氏は言います。それはコヨーテの群れなどに子熊を奪われることがあるからです。
一対一の対決では体格差からクマが圧倒できますが、コヨーテやオオカミなどのイヌ科動物は群れで連携して狩りを行ないます。オオカミは高度なコミュニケーション能力と組織的な狩りの戦略を持っており、クマを圧倒したり、小熊を襲ったりするため、クマはオオカミを避ける傾向にあります。
そしてクマはイヌをオオカミと認識している可能性があります。イヌは人間と一緒にいる場合が多く、人間の移動速度はゆっくりです。そのため、忠実な本能を持つイヌは立ち止まってあなたたちを守ろうとします。クマにとって、これは決して後退しない勇敢なオオカミのように見えています。
さらにクマはイヌを見かけた時、人間が周りにいることを警戒します。彼らは人間とイヌをセットで認識するように進化しているのです。クマは人間に対して特別な恐怖心を抱いており、人間を見ると避けようとするのが一般的な反応です。これは人間が先史時代よりクマを狩ってきたためです。
クマ狩りのためにイヌを特別に繁殖させてきたケースさえあります。
このようにクマ狩りにイヌを使う伝統は歴史に深く根ざしており。人間とイヌとの長年にわたる協力関係を反映しています。
クマ狩りの犬種
それではここでクマ狩りの始まりとクマ狩りの犬種がどのように進化してきたかを詳しく見て行きましょう。
歴史的にイヌは狩猟において重要なパートナーであり、数千年前にさかのぼることを示す証拠があります。初期の人間はすぐにイヌが持つ野生動物の追跡能力に気づき、それが当然、クマ狩りにも利用されました。
古代の遺物や文献によると、ヨーロッパやアジアではイヌがクマ狩りに使われ、これらの初期の狩猟犬は長距離に渡って匂いを追跡し、荒れた地形に立ち向かう能力が高く評価されていました。そして、当初はより一般的な狩猟犬が使用されていましたが、時が立つにつれてクマ狩りに適した特性を持った犬種が改良されていきました。
クマ狩りの犬種①カレリアン・ベア・ドッグ
フィンランドのカレリア地方原産のカレリアン・ベア・ドッグは、恐れ知らずの性格と敏捷性で知られています。印象的な黒と白の毛皮を持つこのイヌは、もともとは毛色にかなりバリエーションがありましたが、夜間や雪の中でもしっかりと見分けることができるよう、現在の毛色に固定されました。
カレリアン・ベア・ドッグは筋肉質の引き締まった体付きで、足にもしっかりした筋肉がついている大型犬で、単にタフなだけでなく、非常に賢い犬でもあります。彼らはクマを追跡して対峙することに優れており、鋭い感覚により、人間が気づくよりずっと前にクマの存在を察知することができます。
クマ狩りの犬種②プロット・ハウンド
米国原産のプロット・ハウンドは、その勇敢さと粘り強さで知られています。ベースカラーに他の色が混ざり合う独特の模様の毛皮と筋肉質で引き締まった体、長い脚が特徴です。これらの特徴は、クマ狩りの厳しい地形に適しています。
ノースカロライナ州のプロット家によって代々飼育されてきたこのイヌは、大型の獲物を狩るために使われました。
彼らは強力な嗅覚能力を使ってクマを追跡し、追い詰めます。
クマ狩りの犬種③ブラック・アンド・タン・クーンハウンド
ブラック・アンド・タン・クーンハウンドは鋭い嗅覚を持つクマ狩りの犬種です。彼らはまた、追跡中に森中に響き渡る大きく歌声のような鳴き声が特徴です。
この猟犬は長距離や険しい地形での追跡に優れており、どんな障害物があってもクマの足跡を追うことができます。さらに粘り強いだけでなく、それに見合うスタミナも備えており、ハンターが追いつくまで逃げる獲物を追い続けます。
クマ狩りの訓練方法
これらの犬種をクマを狩る猟犬に育て上げる訓練は基本的なしつけから始まります。
「待て」は危険な状況において、イヌを安全な距離に保つために必要で、「来い」は人間の監視なしでクマを追いかけないよう呼び戻すのに必要です。
これらのしつけは予測不可能な地形では不可欠となります。
基本的な命令を覚えると、クマ狩りに特化したトレーニングが開始されます。まずクマの匂いを覚えさせることでクマを認識して追跡できるようにします。これは短いトレイルから始めて、徐々に複雑さと長さを増やして行きます。
そして恐怖心を失くし、落ち着いて行動できるよう、銃声や大きな音などの狩猟の音に慣れさせる訓練が行われます。
最後に安全な環境で管理された模擬授業を行う、実際の狩猟のシナリオをシミュレートします。これにより、イヌは自分の役割を理解し、実際の狩猟中に何が起こるかがわかるのです。
クマによる世界各地の被害
日本以外でも世界各地でクマによる被害が増加しています。
温暖化による流氷が減少したことで、ホッキョクグマにとって重要な生息地がうばわれています。ロシア北部のノヴァヤゼムリャ諸島に数十頭のホッキョクグマが押し寄せた時、誰もどうしたらよいか分かりませんでした。クマは家や公共の建物に侵入し、人々は外に出ることを恐れました。これはホッキョクグマはロシアでは絶滅危惧種であるため、連邦政府は射殺許可証の発行を拒否していたためです。
同様に、アメリカクロクマの生息域も拡大しており、石油やガスの開発はクマの生息地の近く、またはクマの生息地帯でますます増加しています。
通常ゴミ捨て場でエサを漁るクマを発見した場合、安楽死させるか、麻酔銃で撃って檻に入れて何マイルも離れた場所に連れて行くかのどちらかが行われます。ただ、どちらも被害の減少には繋がっていませんでした。
クマ狩りの犬種の活躍
そこで1996年、キャリー・ハント氏はイヌに特別な訓練を施しました。これには先述したカレリアン・ベア・ドッグが選ばれ、クマが人間の居住地に近づきすぎると吠えて追い払うように訓練したのです。
それ以来、米国とカナダの行政と野生生物保護機関ではイヌに頼る傾向が強まっています。現在カレリアン・ベア・ドッグは、ワシントン州とネバダ州、カナダのアルバータ州、さらには日本でも活躍しています。
この新しい方法により、何千頭ものクマが銃弾を免れることとなりました。
クマがゴミ捨て場など特定の場所に慣れてしまった場合、この猟犬は役立ちます。野生生物保護官はクマをその場で捕獲し、イヌを連れて来ます。するとイヌはクマに向かって吠えてひどく怖がらせます。これはここは本来いるべきではない場所で、二度とこの場所に戻ってはいけないことを知らせるためです。イヌがクマに向かってしばらく吠えた後、檻を開けるとクマはロケットのように飛び出し逃げていくと言います。その後、犬は放され、クマを追跡し足を噛み、飼い主に呼び戻されるまでこれを続けます。こうすることでクマは賢いため、学習して二度と戻ってこなくなります。
この方法には安全が充分に配慮され、この20年間で怪我をしたイヌはいないと言われています。
ただし、この訓練には大変な労力がかかり、誰もがその課題に取り組めるわけではありません。また、訓練を受けていないイヌにとってクマと対峙するのは非常に危険です。
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