シャチより怖い?海の捕食者オキゴンドウの生態

生物

オキゴンドウは「シャチもどき」や英語で「False Killer Whale(ニセシャチ)」と呼ばれるシャチのような巨体と鋭い牙を持った頂点捕食者です。本記事はこのオキゴンドウの生態について解説していきます。

オキゴンドウの分類と特徴

Stefan Thiesen BuntrabeCC BY 3.0, via Wikimedia Commons

オキゴンドウはクジラ目ハクジラ亜目マイルカ科オキゴンドウ属に分類され、この属には「オキゴンドウ」1種のみが含まれています。名前の由来は「沖合に生息するゴンドウクジラ」を意味します。ゴンドウクジラとはマイルカ科に含まれる小型のクジラの一群のことです。

イルカとクジラは同じクジラ目に属する動物で、一般的に体長4m以上のものをクジラ、4m以下のものをイルカと呼び分けています。オキゴンドウは「シャチもどき」と呼ばれるほか、英語でも「False Killer Whale」と呼ばれます。これは同じマイルカ科に属するシャチ、またはそのシャチに似た頭蓋骨を持っていることに由来しています。

オキゴンドウの特徴として:

  • 頭部が丸い
  • 全身が黒っぽい
  • 上顎に8〜14個、下顎に8〜14個の鋭い歯を持つ

この外見から、口先が尖った形をしている他のマイルカ科のイルカとは異なり、やや威圧的な印象を与えます。

サイズと体格

オキゴンドウは生息域によってサイズが異なりますが、最大でメスは体長5m、体重1,200kg、オスの体長は6m、体重2,300kgに達します。

一方のシャチは:

  • メスの体長:4.9〜5.8m、体重:1,361〜3,128kg
  • オスの体長:5.8〜6.7m、体重:2,628〜5,442kg

このため、オキゴンドウの方がシャチより一回り小さく、よりスリムな体型をしており、体重も軽いです。この細長い体型のため「キュウリゴンドウ」とも呼ばれることがあります。

生息域と社会構造

The original uploader was Pcb21 at English Wikipedia.CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

オキゴンドウは世界中の海に生息していますが、主に熱帯・亜熱帯地域で見られます。彼らはシャチと同じように母系制の家族構造を持っていると考えられています。そして世界中に生息するそれぞれの個体群は、他のイルカと同様に独自の発声法を持っています。

彼らは群れで移動し、通常は10〜20頭ほどの小さなグループで行動しますが、これらの小さなグループがより大きなグループに合流することがあります。オキゴンドウは非常に社会的な動物で、最大で500頭以上の群れで移動することもあるほどです。

このように大きな群れで行動するため、大量に座礁してしまう傾向があります。最大の座礁は1946年にアルゼンチンのマル・デル・プラタに漂着した800頭以上の事例でした。

他の海洋哺乳類との関係

オキゴンドウはバンドウイルカ、ハナゴンドウ、シワハイルカ、マダライルカなどの他のイルカと密接な関係を持つことが知られており、混合の群れを形成することもあります。彼らが他のイルカと混合群れを形成するのは、おそらく餌場を共有しているためです。

また、オキゴンドウは他のイルカの助けを呼ぶ声に応答し、シャチから彼らを守ることもあります。そして、他のイルカが出産した後に胎盤の一部を取り除くなどで助けることも知られています。さらにはバンドウイルカなどと交雑することさえあります。

捕食行動

オキゴンドウは海の頂点捕食者で、一般的に日中に様々なサイズのイカや魚を捕食します。彼らは通常、ヒラマサやカツオ、マグロなどの大型魚をターゲットにします。

彼らは餌を捕る時には、大きな群れから4〜6頭の小さなグループに分かれて狩りをします。そして他のハクジラ類と同様、オキゴンドウは額のメロン器官を使って反響定位音を発し、移動している獲物を見つけています。

運動能力

オキゴンドウは通常、時速15kmほどで泳いでいますが、飼育下で計測された最高速度は時速26〜28kmに達し、これはバンドウイルカと同程度でした。

潜水行動は十分に記録されていませんが、ハワイでは927.5mの深さまで潜水した個体が観察されています。また、最大潜水時間は18.5分と考えられています。このように、彼らは高い運動能力を持って餌を捕らえることができるのです。

驚くべき捕食の実態

Juan OrtegaCC BY 3.0, via Wikimedia Commons

オキゴンドウは魚類だけでなく、イルカやクジラなどの海洋哺乳類を捕食することも知られています。東太平洋では小型のイルカを狙うことが観察されており、マッコウクジラやザトウクジラの子供さえ襲っているとの報告があります。

また、2016年にシドニー湾で撮影されたビデオには、サメを狩るグループが記録されていました。彼らはその後、襲った獲物を群れのメンバーで共有して食べています。

ただし、オキゴンドウが人間を攻撃したという報告はこれまでにありません。むしろ彼らは人間と交流するのが好きで、時には漁を手伝うこともあるといいます。

もし一対一でシャチとオキゴンドウが対決した場合、体格差からシャチが勝つでしょう。ただ、シャチの群れは5〜30頭ほどなので、大きな群れとなったオキゴンドウを襲うのはシャチであっても難しいと思われます。実際にオキゴンドウがシャチや大型のサメに襲われる可能性がありますが、記録された事例は現在のところありません。

繁殖と寿命

彼らはおそらく多夫多妻制で、オスは複数のメスと交尾すると考えられています。

妊娠期間は15ヶ月かかり、出産は7年間隔で通常冬の終わりに行われます。新生児の体長は出産後から2.1mで、メスの親は9ヶ月から2年かけて授乳して育てます。飼育下での最大寿命はオスで57歳、メスで62歳です。

飼育と観察

Hideyuki KAMONCC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons

オキゴンドウは他のイルカよりも飼育下での適応性が高く、調教が容易で、他の個体との社交性が高いため、アメリカ、オランダ、香港、オーストラリアなど世界中の水族館で飼育されています。また、飼育下での繁殖にも成功しています。

日本では、茨城県の「アクアワールド大洗水族館」、和歌山県の「太地町立くじらの博物館」や「アドベンチャーワールド」などで見ることができます。彼らはイルカより大きいため、迫力のある姿が楽しめます。

人間との関わりと保全状況

オキゴンドウは、ダイビングをしている人やボートに乗っている人に捕まえた魚を与えることが知られています。ただ、漁船に近づいたためにロープに絡まったり、釣り針を飲み込んだりすることが問題となっています。

一方では、延縄漁業で釣れたマグロを盗み食いをする個体群もいます。彼らは釣り針にかかったマグロの頭部だけを器用に残して食べるそうです。このため、長崎県壱岐ではオキゴンドウが駆除の対象になったこともありました。

彼らは現在のところ絶滅の危険性はありませんが、生息地の変化などがあると将来的に絶滅危惧種に移行する可能性があるため、IUCNのレッドリストでは「準絶滅危惧(Near Threatened)」に指定されています。


オキゴンドウは見た目は怖そうですが、社会性が高く知能も優れた、独自の魅力と生態を持つ海の捕食者で、海洋生態系で重要な役割を果たしている生き物です。

この記事はYouTubeの動画でも見ることができます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました