ナイルパーチはアフリカに生息する巨大な淡水魚ですが、日本にも食糧として輸入されています。この種はもともとの生息地以外にも導入され、巨大で在来種を貪欲に捕食する事から生態系が破壊されるなど様々な問題が起きています。
この記事は巨大生物ナイルパーチについて説明しています。
ナイルパーチの生態

ナイルパーチは、スズキ目アカメ科に属する淡水魚の一種で、アフリカ大陸熱帯域の川、塩湖、汽水域に生息しています。
彼らの体は青みを帯びた銀色をしており、同属で日本産のアカメに近縁で外見もよく似ています。ただ、このアカメは最大でも全長100cmです。これに対し、ナイルパーチは最も大きくなる淡水魚の一つで、通常の体長は1.2m~1.3mの範囲で、最大のものは体長2m、体重200kgに達します。このように非常に巨大になることから、現地のハウサ語では「水の象」と呼ばれています。
ナイルパーチは充分な酸素濃度を持つ湖ならどこでも生息でき、獰猛な捕食者である彼らは、魚類、甲殻類、軟体動物、昆虫などを貪欲に食べます。口も巨大で、大きく広げた口で周りの水ごと吸い込んで魚を捕食するという特徴があります。
一方、幼魚は浅瀬または沿岸の環境に生息地が限定され、動物プランクトンを食べて成長します。そして、他の捕食者から身を守るために群れを作ります。
食用としてのナイルパーチ

ナイルパーチはあまりに巨大で獰猛なため、他の魚に襲われることはなく、淡水魚の生態系において頂点付近に位置しています。ただし、人間によって漁獲されており、ナイルパーチは東アフリカで水産資源としての価値が高く、非常に重要な魚です。彼らは肉質が癖のない白身であるため食用として需要が高く、全世界に輸出されています。
ナイルパーチはもともとコンゴ川、ナイル川、セネガル川、トゥルカナ湖、その他の河川流域にのみ生息していましたが、1950年代に当時の宗主国イギリスによって漁獲量向上のためにヴィクトリア湖へ導入されました。また、現在ではアフリカの他の湖にも定着しています。
これらの湖から漁獲されたナイルパーチは、特にヨーロッパと日本に輸出されています。日本ではレストランや学校の給食でフライ用の白身魚として提供され、「白スズキ」などの名で扱われていました。また、回転寿司の寿司ネタとして使われたり、小売店で販売されることもありました。しかし、2003年のJAS法改正以降は「スズキ」や「白スズキ」として販売することが禁じられています。(ただし、外食や加工品は例外とされています。)
ヴィクトリア湖では商業的に活用され、2003年にはEUへの販売額が1億6900万ユーロに達しました。また、ウガンダやタンザニアではスポーツフィッシングによる観光資源としても重要視されています。
外来種としてのナイルパーチ

ただ、ナイルパーチの導入により生態系が破壊され、数百の在来種が絶滅または絶滅寸前に追いやられれています。このため、世界自然保護連合はナイルパーチを「世界最悪の侵入種100種」の一つとしています。
オーストラリア・クイーンズランド州では、ナイルパーチが在来種のバラマンディと直接競合するため、ナイルパーチを飼育する人には重い罰金が科せられます。日本では現在、一部の水族館で鑑賞展示用として扱われているのみで、以前のように一般販売されることはありません。ナイルパーチは特定外来生物に指定されているため、商業的利用は規制されているのです。
ナイルパーチが特定外来生物に指定された理由の一つとして、その生態系への影響があります。特定外来生物とは、外来生物の中でも生態系や人の生命、農林水産業に被害を与える、またはその恐れがあるものを指します。日本では外来生物法に基づき、環境省が特定外来生物を指定し、飼育、保管、繁殖、輸入などの取り扱いを規制しています。また、これらの生物が生態系に与える影響を防ぐために駆除が行われる場合もあります。
ヴィクトリア湖でのナイルパーチ導入当初、在来種であるシクリッド類が主な餌となっていましたが、この魚が減少すると、現在は主に小さなエビや小魚を捕食するようになっています。この生態系の変化は湖周辺の経済にも大きな影響を与えました。ナイルパーチが導入される前、地元住民は伝統的な漁業を行っていました。しかし、ナイルパーチの巨大さに対応できる強度の網を現地で製造することが難しく、高額な網を輸入しなければならなくなりました。
また、ナイルパーチの特徴である高い脂肪分により、在来種のように天日干しすることが難しくなり、燻製による保存が必要になりました。これにより薪の需要が高まり、森林伐採が進み、さらに土壌侵食や砂漠化の原因にもなっています。
この問題を取り上げたドキュメンタリー映画『ダーウィンの悪夢』では、ヴィクトリア湖におけるナイルパーチ導入が引き起こした社会・環境問題が描かれています。映画では、ナイルパーチ加工品の輸出に関わる貧困問題や紛争、さらには環境破壊が取り上げられています。ただし、この映画の内容には批判もあり、いくつかの点で事実に基づいていないという指摘もされています。
その後もヴィクトリア湖の生態系は変化し続け、かつての状態に戻ることは難しいとされています。一方で、ナイルパーチ自体の個体数は減少傾向にあります。これは乱獲や違法漁具の使用、成長した個体がワニなどの捕食者に食べられることが原因とされています。この結果、漁獲されるナイルパーチのサイズも小型化し、その商業価値も低下しているといわれています。
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