オオカミはその知性と社会性により、恐ろしい捕食者として知られています。彼らはユーラシア大陸と北アメリカに広く分布し、ユーラシア大陸には約80,000頭、カナダには60,000頭、さらにアラスカと他の州には数千頭のオオカミがいます。また、アフリカにはタイリクオオカミの近縁種であるアフリカンゴールデンウルフが生息しています。
しかし、多くの場所で支配的であるこの頂点捕食者は、南米に生息したことがありません。一体なぜでしょうか?この記事はオオカミが南米にいない理由について説明しています。
生態学的ニッチ

オオカミが南米に生息しない理由はいくつかありますが、まず生態学的ニッチがあげられます。
オオカミは群れで狩りをする頂点捕食者です。しかし、南米ではその生態学的ニッチはすでに満たされています。実際、この大陸には世界で最も多様なイヌ科動物のグループが生息しており、10種が知られています。これらの祖先は約350万年前にパナマ地峡を越えて南米に渡り、大陸全土に広がり、多様化しました。進化の観点から言えば瞬きするほどの速さである、わずか200万年で10もの種が出現したのです。
これらの種のひとつにタテガミオオカミがいます。タテガミオオカミの体長は122.5~132cm、体重は20~23kgで、単独で狩りをします。彼らはアルゼンチン、ブラジル、ボリビア、ペルー、パラグアイに生息し、ウルグアイには数個体が残っているのみです。このイヌ科動物はオオカミと名がついているものの、実際にはオオカミではありません。また、見た目は赤みがかった茶色の毛皮を持つ長い脚のキツネのようですが、キツネでもありません。彼らはタテガミオオカミ属に属する唯一の種なのです。
その他の南米に生息するイヌ科動物にコミミイヌ、カニクイイヌ、ヤブイヌ、スジオイヌ、クルペオギツネ、セチュラギツネ、チコハイイロギツネ、パンパスギツネ、ダーウィンギツネが含まれます。これらの種もまた、多くにキツネの名がついていますが、日本に生息するアカギツネとは遠縁です。
コミミイヌはアマゾンの熱帯雨林に生息し、魚、昆虫、小型哺乳類、鳥、カエル、爬虫類、そして果物までさまざまな獲物を食べています。
一方、カニクイイヌは主にサバンナや森林地帯と亜熱帯林に生息し、雨季には泥だらけの氾濫ゲンでカニを狩り、乾季にはより多様な食性に戻ります。このように、南アメリカのイヌ科動物の生息域は時々重なるものの、食性の違いにより競争を避けることができます。こうして、彼らは同じ大陸を占有できましたが、オオカミは食性の点で柔軟性が低いため、同様のことができない可能性があります。
地理的障壁

生態学的地位がすでに他の多数のイヌ科動物によって占められていることに加え、オオカミが南米に生息していない理由はほかにもあります。
それが、南北アメリカ間の地理的障壁です。今日、パナマ地峡はふたつの大陸を結ぶ役割を果たしています。約270万年前、この地峡が海面まで上昇したとき、多くの種が北から南へ、またその逆方向に渡るアメリカ大陸間大交差が始まりました。
しかし、このアメリカ大陸間大交差は、オオカミがユーラシアから北アメリカに渡る、ずっと前の出来事でした。オオカミがユーラシアから北アメリカに渡ったのは、わずか2万から4万年前の更新世後期に起こったことです。
一方、タテガミオオカミなどの系統は、オオカミが出現するずっと前からパナマ地峡周辺を行き来し、繁栄してきました。
その後、最終氷期の中でも氷床が最も大きくなった最後の時期である、最終氷期極大期にベーリング地峡がユーラシアと北アメリカを結びました。こうして、北の寒くて厳しい環境に適応していた現代のオオカミは獲物が豊富だったベーリング地峡に引き寄せられたのです。
この時、若いマンモス、バイソンの大群、野生の馬、トナカイ、ジャコウウシはオオカミの群れにとって十分な食料となりました。こうして、オオカミは北アメリカで繁栄することができたのです。
そして、彼らは最終氷期の寒さに対応するように進化していたため、南に移動するにつれて、気候条件は彼らの生存に適さなくなっていました。
具体的な障壁としてパナマとコロンビア北部の間にある長さ100マイルのダリアンギャップがあります。ちろん、南米にも開けた草原があり、アルゼンチン、ウルグアイ、ブラジルにまたがる46万平方マイルを越えて広がっていますが、この草原へ移動するには、オオカミはかなりの距離の密生した植生がるダリアンギャップを越えなくてはいけません。この密林に適応するには彼らの狩猟技術を完全に変更する必要があるのです。
オオカミの進化の旅は長く複雑な道のりですが、そのおかげで彼らは北アメリカの気候に適応し、比較的開けた生息地で大きな獲物を狩ることに驚くほど適応するようになりました。
現在、オオカミの生息地の南限はメキシコです。この種はタイリクオオカミの亜種のひとつ、メキシコオオカミとして知られています。
メキシコオオカミはかつてはアリゾナ州の南端、ニューメキシコ州の南端、テキサス州の西部およびメキシコに分布していました。しかし、家畜を襲い経済的な被害があるとして駆除の対象となっていたため、個体数が激減していました。
その後、保護施設での繁殖と野生復帰にむけたプログラムが実行され、1998年から、アリゾナ州とニューメキシコ州の国有林に再導入されています。ただし、その個体数は非常に少なく、2010年時点で野生下でわずか50頭の生息が確認されているのみです。
食物の入手可能性

その他にも、オオカミが南米に移動しない理由として、食物の入手可能性についても考えられます。
オオカミは群れで狩りをし、主にバイソン、ヘラジカ、シカなどの大型の動物を倒すように適応してきました。オオカミは驚異的なスタミナを持っており、夜中に何キロも離れた獲物を追いかけることができます。通常、若いまたは弱っている獲物を群れから切り離そうとします。そして、時には噛みつき、次に後ろに下がったりして、獲物が疲れるのを十分に待ってから襲い掛かります。
しかし、オオカミの狩猟技術とグループでの協力は、南米の熱帯雨林には適していません。
南米には群れで狩りをする唯一のイヌ科動物であるヤブイヌがいますが、彼らはブッシュでの狩猟に適応するために、短く、水かきのついた脚などを進化させました。
このように、南米にはオオカミの居場所はありませんが、その代わりに他の非常に魅力的で多様なイヌ科動物がこの大陸を支配しているのです。
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