トラはアジア大陸に広く分布しています。一方、アフリカにはライオンやヒョウ、チーターなどの大型のネコ科動物が生息していますが、トラはいません。それではなぜトラはアフリカにいないのでしょうか?
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ヒョウ属の起源
トラがアフリカに生息していないのは、歴史的、地理的分断にあると考えられています。
ライオンとトラ、ヒョウはすべてヒョウ属に属し、共通の祖先思っています。
2010年、チベット高原でヒョウ属の最初期の所在を示す「Panthera blytheae」の化石が発掘されました。この種はおそらく595~410万年前に生息していたと考えられています。その後、頭蓋骨と下あごのすべての骨を現生のネコ科動物の骨と比べた結果、この種はユキヒョウの祖先であると判明しました。
ユキヒョウは中央アジアのアルタイ山脈やヒマラヤ山脈などの山岳地帯に生息しています。スウェーデン自然歴史博物館の学芸員で、ネコ科動物の化石を専門とするラ―シュ・ワーデリン氏はネコ科動物すべての共通祖先に近い種がユキヒョウの系統だと考えています。
この後の氷河期にユーラシア全体に広がった動物の多くがチベット高原が起源のようです。チベット高原は常に寒く、高地で進化した動物たちは氷河期の気候にも充分適応可能だったため、その勢力は拡大を続けることができました。
つまり、トラを含むヒョウやライオンなどの現存のヒョウ属はチベット高原から台頭した可能性があります。このヒョウ属の動物たちは更新世において陸上生態系の頂点を独占することになりました。
最古のトラ
そして、2004年に250万年前の岩の中からトラに似た動物の頭骨の化石が中国甘粛省で発見され、パンテーラ・ズダンスキー(Panthera zdanskyi)と名付けられました。この動物はジャガーと同じくらいの大きさですが、骨格上の特徴からすると、現在のトラの頭骨に最も近く、大きな違いはありませんでした。
この動物は255万から216万年前の中国を歩き回っていた可能性が高いと論文は述べています。
このようにアジアで進化したと考えられるトラは、歴史的に時間の経過とともにユーラシア大陸のさまざまな場所に広がり、それぞれの亜種が誕生しました。
トラは1900年時点ではユーラシア大陸の東部と中央アジアに広く分布していました。しかし、ミネソタ大学の保全生物学研究者シュージン・ロウ氏によると、インドに生息していたトラは1万6千年前までそれよりも西に生息域を拡大しなかったといいます。
このように、トラはアフリカにたどり着くことはありませんでした。
トラがアフリカにいない理由
ミネソタ大学のJ.L.デイビッド・スミス教授は、トラがアフリカに到達しなかった理由については様々な推測がされていますが、はっきりとしたことはまだ分かっていないと述べています。
ただ、おそらく更新世の氷河の変動と地理的境界により、トラがアフリカに行くことは困難になったと考えられています。
さらに大きな水域や山脈などの地理的境界の存在も障壁となりました。
また、トラが繁栄するには密林、草原、沼地などの特定の生息地が必要です。これらの生息地は、彼らに充分な獲物と狩猟のための隠れ場所を提供します。
アフリカにも同様の生息地はありますが、すでにライオンやヒョウなどの他の大型捕食動物に占拠されており、これらの動物はトラが占めるであろう生態的ニッチを埋めるために進化していました。
これに加え、森林伐採、生息地の破壊、狩猟などの人間の活動は、世界中のトラの個体数に大きな影響を与えています。1990年時点でトラは大きく生息域を狭め、いくつかの亜種が分断されて生息するに至っています。
これらの要因により、トラが自然に分散してアフリカを含む新しい地域に定着することをさらに困難にしています。
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